うーん、やっぱりかわいい。じわじわ侵食する「もふもふ」グッズ
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■「もふもふ」は、最初食パンを食べる擬音だった
気がつくといつの間にか当たり前に目にしたり、耳に馴染んでいたりする言葉やグッズがある。
「もふもふ」はその代表だろう。少なくとも30年前には会話のなかで「もふもふ」あるいは「モフモフ」という表現は使われていなかった。「もふもふ」は主に動物の柔らかい毛の感触を表現するオノマトペであり、特に猫や犬などの愛らしい姿を指すことが多い。
文化庁が2023年度に行った「国語に関する世論調査」では、「もふもふ」は調査対象者の52.6%が使っているということがわかった。調査では他人が使っても気にならないという人が81.9%いることも判明した。すでに『大辞林』(小学館)や『三省堂国語辞典』(三省堂)では採用されている。完全に市民権を得た言葉と言っていいだろう。
「もふもふ」が若者の間で知られるようになったのは2000年代初頭だとされる。オリジナルについては諸説があるが、最も古いものだとロックバンドの『筋肉少女帯』が1994年にリリースした曲『香菜、頭をよくしてあげよう』のなかで使った、「モフモフとジャムパン食べている君」というフレーズがそのルーツだとされる。
その後2001年に武井宏之さんの漫画『シャーマンキング』第14巻で、パンを食べる際の描写に「もふもふ」という擬音が使われ、また2004年の高橋弥七郎さんのライトノベル『灼眼のシャナ』でもメロンパンの描写に「もふもふ」が使われている。
つまり「もふもふ」は、登場した当初はパンを食べる擬音として広がっていった。最も筋肉少女帯のメインボーカルで作詞担当の大槻ケンヂさんは、自身が1994年に創作した小説『のの子の復讐ジグジグ』で「空は青く、モフモフと柔らかそうな雲が空の低い所を泳いでいた」と描写している。パンのようなやわらかそうな感触をもった物体の有り様を表現するオノマトペとして使ったと推察できる。
■ペットブームと相まって「もふもふ」が一般化
2000年代に入ると「もふもふ」はインターネット界隈でスラング化していき、ペットブームと相まって、ネット界隈では一般化していった。さらに2010年には「女子中高生ケータイ流行語大賞」にもノミネートされ、社会的な認知度が一気に高まっていく。さらに2015年になると、もふもふとした動物を特集したテレビ番組が各局で放送されるようになり、もふもふトレンドが定着した。
日本は過去数十年、少子高齢化が進んでおり、核家族、単身世帯が増え続けている。この傾向に伴いペットを飼う、とくに高齢者が増えているとされるが、過去10年の推移を見ると実はペット飼育世帯は500万世帯ほど減っている。
■コロナ禍でペットを飼う人が増えたが、急増はしていない
この数年は、コロナ禍によって家に籠もる時間が増えたことからペットを飼う人が増加したとされるが、犬と猫では猫は微増したが、犬は下がり続けた。にもかかわらず、ペット関連の市場は右肩上がりを続けている。これは1つには、ペット平均寿命が延びていることがある。飼い主のペットへの健康意識が高まり、よりよいペットフードやペット環境を与えるための費用が増え、ペット関連市場が拡大しているのだ。さらにペットの医療保険など新たなサービスが生まれたことも大きい。
つまり、もふもふはSNSなどで、もふもふペットの姿ともふもふペット関連グッズなどがミーム化してその映像に接することで拡大していったのだ。
■コロナで急増したのはぬいぐるみ市場。もふもふはとくに人気
代わって、もふもふの恩恵を受けたのがぬいぐるみ市場。コロナ禍でとくにぬいぐるみを購入する人
が増え、もふもふぬいぐるみの人気が高まった。消費者インサイト企業「Circana」の調査によると、世界のぬいぐるみの売上は2021年から約58%増加し、2023年の世界市場規模は120億ドルに迫るという。Circanaによれば、ぬいぐるみ市場は2030年まで平均8%の成長が予想され、まだまだ伸びる。ぬいぐるみの利益率は極めて高く、世界的投資家のウォーレン・バフェットさんも2022年に丸みを帯びたもふもふデザインの「Squishmallows」を製造する親会社を買収しているほどだ。
もふもふはいまや商品やサービスを生み出し、拡散させる強力なバズワードとなっている。もふもふは上述した猫を始めとしたペット飼育市場で使われるほか、近年市場を広げているコンセプトカフェの動物系カフェの惹句として使われたり、実際に接することができない動物をキャラクター化して訴求する玩具市場、あるいはもふもふキャラクターを使ったゲーム市場などを牽引している。もふもふ市場がどのくらいの大きさなのかを測ることは難しいが、たとえば上述のコンセプトカフェの1つである「猫カフェ」は、2022年度、前年度比105.0%の660億円という規模だった。
■もふもふをテーマとした福袋を販売したヴィレッジヴァンガード
雑貨グッズの製造販売を手掛ける「ヴィレッジヴァンガード」は、さまざまなもふもふグッズを販売しているが、2019年から21年にわたっては、もふもふした丸みを帯びた人気マスコット『もふもフレンズ』や食パンと目玉焼きをモチーフにした巨大なクッションなど、「もふもふ」をテーマにしたグッズの福袋を販売している。
■もふもふにこだわった動物グッズを展開、売上の一部を動物保護に寄付するフェリシモ
一方オリジナルファッションや雑貨の企画販売を行う「フェリシモ」では、子猫が足もとですりすりしているような気分を味わえる『子猫がちょこん もふもふレッグウォーマー』を販売している。同社では売上の一部を、飼い主のいない動物の保護と里親探し活動、野良猫の過剰繁殖防止活動、災害時の動物保護活動などに活用している。同社はもふもふ系の商材を数多く手掛けており、ほかにも「なりきりにゃんこ もふもふ猫耳付きネックウォーマー」、エゾリスやシマエナガ、エゾモモンガなど北海道のもふもふした動物をシリーズ化した「羊毛フェルトで作る 愛らしく健気な 北の小さなもふもふ動物」など、もふもふにこだわった商品を展開中だ。
■シュールでかわいい猫キャラクターで国内外で人気を博す「mofusand(モフサンド)」
もふもふをストレートに表現して人気を博しているのが、イラストレーター「ぢゅの」さんが手掛ける人気キャラクターシリーズの「mofusand(モフサンド)」だ。なぜかサメの着ぐるみを着たシュールで愛らしい猫たちのキャラクターで、このキャラクターをぬいぐるみやシャツ、ポーチ、文具などのグッズに展開、オンラインショップ「mofusand もふもふマーケット」で販売しているほか、東京駅地下の「東京駅一番街」や大型小売店「マルイ」などで店舗販売もしている。mofusandは海外でも人気を博しており、中国、台湾では実店舗があり、女性を中心に売れているという。
■ファッション界では定番。もふもふ×キラキラがトレンド
「もふもふ」は、いまやファッション界にとって無視できないキーワードとなっている。もふもふファッションは、言葉が生まれた頃の2000年頃から流行し始めた。以来毎年のように登場し、最近では「もふもふ」に「キラキラ」をかけたラメ入りのシャギーニット、エコファーやボアを使ったバッグやシューズにも展開されているのがトレンドとなっている。
寒い時期のもふもふファッションは着る本人だけでなく、それを目にする人の気持ちも暖かくする。
もふもふは、新たな市場を生み出すだけでなく、殺伐とした世の中をほっとさせる効果もありそうだ。もふもふに期待したい。
参考
【WEB】経済産業省 ● FIGARO ジャポン ● JIJI.COM ●オーム社 ● withnews ● Hatelabo:AnonymousDiary ●ダ・ヴィンチ● mofusand もふもふマーケット●ヴィレッジヴァンガード ●フェリシモ ● PR TIMES ● Cross Marketing●矢野経済研究所 ●岩波書店 ほか
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