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加熱するブラックフライデーに待った!?広がるグリーンフライデーとその背景にあるファッションロスを紐解く

■ブラックフライデーに呼応し、すぐに広がったグリーンフライデー

 いつの間にか「ブラックフライデー」が定着してしまった。ブラックフライデーというと、経済通だと1929年にウォール街で起こった株の大暴落を想起してしまうが、この数年浸透したブラックフライデーは、ある種“暴落”ではあるものの、庶民にとって嬉しい大セールのことである。もともとはアメリカの「感謝祭」翌日に行われた小売店の在庫処分セールが発祥。なのでクリスマスについで、またしてもキリスト教文化に乗っかった商売に日本が席巻されてしまったとも言え、嬉しいような残念なような複雑な気になってしまう。
 日本のブラックフライデーは、2014年に玩具販売チェーンの「トイザらス」が行ったのが嚆矢とされる。以後、翌年にアパレルブランドの「GAP」、自転車販売チェーンの「バイチャリ」などの実店舗を持つ小売が続いた。ECサイトもこの動きに反応し、2014年には意外なようだがカミソリメーカーの貝印が自社ECサイトでブラックフライデーと銘打ってバーゲンを展開。以後、エディオンやノジマなど家電量販店のECサイト、楽天市場、アマゾンなどが続き、一気に認知度が高まった。いまやブラックフライデーを株の大暴落日などと思う人はほとんどなく、「サンケイリビング新聞社」と「リビングくらしHOW研究所」が2024年10月に関西地区を対象に行った調査では、72.8%、7割以上が知っていると回答している。
 ブラックフライデーは世界的な潮流となっているようで、本家のアメリカではコロナがピークを迎えた2020年が94.1億ドル、21年が94.4億ドル、22年が98.1億ドルと、巣ごもり需要にも支えられて100億ドル、約1兆5000億円規模に達しようとしている(アメリカ・eMarketer調べ)。イギリスは90億ポンド(Statista調べ[2024年予想])、約1兆7,000億円。ドイツが2023年が58億ユーロ(Statista調べ)、約9200億円と、軒並み1兆円、もしくはそれ以上の規模となっているようだ。
 勢いづくブラックフライデーだが、ここに来てこれに歯止めをかける動きが出ている。店が売れ残った余分な在庫を一掃して、新しい商品を取り揃えるきっかけとなる一方、消費者にオトクな商品を提供するWinWinなセールとは言え、大量販売はSDGsの観点からいかがなものか、という動きが出てきたのである。
 それが「グリーンフライデー」である。ブラックフライデーに新品ではなく、新しい素材や原料を消費しないサステナブルな消費を促す活動の一切を指す。すでに家庭で使われている服や家具、家電などを修理したり、アップサイクルしたり、不要となったモノを交換したりするイベントなどが催されている。
 グリーンフライデーはヨーロッパ発祥で、大量の原材料を使った新製品の大量消費を促すブラックフライデーに対抗し、その後を追うように2015年にはイベントなどが開催されている。

■メルカリ、「新作ゼロ」のファッションショーをコラボで開催

 日本では「メルカリ」が2020年に中古品の服だけを扱った「サステナブルファッションショー」を開催してから注目を集めた。メルカリは今年、2024年にも、過去最大となる11のパートナー企業とコラボして、11月22日の金曜日から24日まで、服のリユース・リペア・アップサイクルを活用したサステナブルファッションの楽しみ方を提案する、「メルカリ グリーンフライデープロジェクト2024 〜新作ゼロのファッションフェス〜」を東京・原宿の東急プラザ原宿で開催し、話題を呼んだ。
 メルカリの話では、メルカリを通じて着なくなった衣類を取引することで、1着平均で9.3kgの温室効果ガス削減ができるという。また平均使用年数も3.2年延びるほか、年間4.3万トンのファッションロス、すなわち衣類廃棄を避けることにつながる。

■目を逸らしてはいけない「ファッションロス」問題

 モノの大量廃棄ではフードロスが話題となっているが、近年はファッションロスが大きな問題としてクローズアップされている。
 環境省が2020年に出した「ファッションと環境」調査結果によれば、1年間に国内で廃棄された衣類は約48万トンで、食品ロスの約472万トン(2022年度)より1桁少ないものの、環境に与える影響は大きい。
 衣類はその原料調達から製品製造、販売、廃棄、リサイクルに至るまで長いサプライチェーンをたどる。しかも製品の約98%が海外からの輸入品である。
 環境省のサイト「SUSTAINABLE FASHION」によれば、購入した衣類のうち古着として販売される割合は7%で、譲渡・寄付される割合が3%、地域や店頭での回収が14%、資源として回収される割合が8%、残り68%が可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄されているという。
 衣類はファッション性が高いほど、売れるピークが限られるため、流行の陰りがみられたり季節が変われば、価格は大きく下がる。それでも売れ残った場合は廃棄するケースが多かった。とりわけハイブランドの衣類の場合は、ブランドイメージ維持のためにピークを過ぎて売れ残っても安売りはせず、そのまま廃棄・焼却してしまうことが多く、問題となっていた。

■衣類は手放す枚数より、購入する枚数のほうが多い

 大量廃棄につながるのは、衣類が持つ大量生産、大量購入、大量廃棄の一方方向のサプライチェーン構造や、製品単価の下落による、購入点数の増大、衣類のライフサイクルの短期化がある。また手放す量より、購入する量が上回るという、衣類という商品の特性が大量廃棄につながっている模様だ。環境省の同サイトによれば、1人あたりの年間購入枚数は約18枚であるのに対し、手放す枚数は15枚で、差し引き年間3枚ずつ退蔵されることになる。日本では1人あたり35枚が着用されずクローゼットやタンスに眠っているという(2022年調べ)。
 こうしたクローゼットに眠っていた衣類が、引っ越しや持ち主の他界、あるいは収納の限界によって一気に吐き出されて、大量廃棄につながっている模様だ。
 環境省は持続可能なファッションの実現に向け、一方方向のサプライチェーンを循環型経済(サーキュラーエコノミー)に転換させようと、古着のリユース・リサイクルを後押ししている。古着を素材別に選別し、裁断や加工しながら、リユースやリサイクルの商流に乗せる事例を紹介したり、衣類の世界的環境ラベル「GRS=Global Recycle Standard」の認証取得を推奨したりしている。

■有名アパレルチェーン、店頭古着回収システム、続々導入

 リユース、リサイクル率は使い終わった製品の受け入れ先の多さに比例する。世間では古着のリサイクル・リユースチェーンが広がっているほか、「ユニクロ」や「GU」、「パタゴニア」、「SHIPS」、「ZARA」、「THE NORTH FACE」、「H&M」など不要となった古着を引き取る大手アパレルチェーンも増えている。衣料の大量消費から大量回収・大量リサイクル・リユースへと、ファッション・アパレル業界はシフトしつつあるようだ。

■イケア・ジャパン、グリーンフライデーで中古家具買取価格を30%アップ

 リサイクル・リユースは他のジャンルの商品でも広がりつつある。その1つが家具。世界的家具小売りチェーンの「IKEA」の日本法人「イケア・ジャパン」では2017年より、家具の買い取りサービスを展開、2024年では11月11日から12月9日の間、グリーンフライデーキャンペーン期間として通常の買い取り価格より30%上乗せで買い取りを行っている。
 グリーンフライデーの活動は多様だが、商品の新規購入に繋がらないとの理由から、積極的に取り組む企業はまだ少ない。ただ昨今の原材料高騰は、クローゼットや押し入れなどに退蔵していたモノの再利用やリサイクル・リユース市場への放出などを後押しする環境にある。
 グリーンフライデーは言葉こそ新しいが、要はリユース、リサイクル、リペアなどモノを長く、有効に活用する取り組みの知恵比べである。もったいない文化が浸透している日本がそのお手本となってもいいはずだ。

参考
<Web>●環境省 ●朝日新聞デジタル ●毎日新聞 ●ホワイトプラス社プレスリリース(PRTIMES)●CmmercePick ●TRANCE ●ELEMINIST ●IKEA ●メルカリ ●Shift C ●環境ラベル等データベース ●SCSglobal ほか

ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム

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