人口減少、国際化が進む人材市場で企業が生き残るために─企業が身につけたい「異文化知能指数」
先の国政選挙は裏金問題が議席を左右したが、いま日本が最優先に取り組むべきは少子化問題であることは間違いないだろう。国はこれまでもさまざまな少子化対策を講じてき
たが、特殊出生率は下がり続けたままだ。そこで進んでいるのが外国人受け入れ政策だ。観光振興によるインバウンド増と外国人労働者の受け入れ緩和、外国人投資家の呼び込みなどはその例となる。SNSでは外国人観光者の日本人や日本文化への賛辞が飛び交っているが、雇用における外国人労働者とのトラブル、摩擦は少なくない。グローバル化が進むビジネスにおいてはさまざまな国々の人々の文化を理解しなければ、その組織は高いパフォーマンスを発揮できない。そう、いま求められているのは「異文化知能指数」、CQなのだ。
目次
■労働人口不足を外国人労働者に頼る日本
コロナ禍が収まり、インバウンドが戻ってきた。JNTO(日本政府観光局)の調査では、2024年の9月に訪れた訪日外国人数(速報値)が対前年比31.5%増の2,872,200人と200 万人を突破し、8ヵ月連続で同月過去最高を更新している。増えるインバウンドは観光のみならず将来的な人口増を促すきっかけにもなっている。日本政府は表立って移民解禁を謳ってはいないが、人口減の歯止め策として移民拡大に準じた政策を講じている。
たとえば政府は2018年に、2025年をめどに外国人労働者を50万人増やす方針を打ち出している。実際その取り組みは奏功し、外国人労働者数は年々増加し続け、2023年10月末時点で対前年比で12.4%増の2,048,675人と、200万人を突破している。
それでも日本の労働不足は収まらず、パーソル総合研究所の調査では、2030年までにおよそ644万人の労働者が不足する模様だ。国はその不足分を外国人活用で補おうとしているようだが、なかなか思惑どおりにはいっていないようだ。理由としては雇用側と外国人労働者のミスマッチや法律の不備などいろいろ挙がっているが、端的に言えば日本が外国人にとって働きにくい国だからということだろう。「そんなことはない。日本のおもてなし文化や気遣いに外国人は感動するではないか」と反論する方がいるかもしれない。確かに旅行者にとってはおもてなしや海外にはない気遣いが魅力になるかもしれないが、こと会社の社員、労働者となると事情は変わってくる。組織の一員としての暗黙のルールや無意識のマウントやバイアスなど、表に出てきにくい分、やっかいな事態を招くこともある。
また日本が誇る「おもてなし」は、時に外国人からするとおせっかいで失礼な印象を与えることもある。たとえば高級旅館の入り口に掲げられる「◎◎様御一行」の文字。これは欧米の人にとってはプライバシーの侵害とも受け取られかねない。
日本人では当たり前、むしろ御一行の歓迎プレートが出ていなかったとしたら、逆に問題を起こしかねない。「なぜ、出していないのだ。歓迎していないのか?招かれざる客なのか」と。これが欧米人の感覚からすると、「なぜ勝手に自分たちの名前を人目につくような場所に掲げるのか」と。もちろん日本の文化、伝統を理解して喜ぶ外国人もいるが、自国での旅やホテルの常識をベースに初来日する外国人旅行者には、その感覚はなかなか理解できない。
■グローバル化イコール、アメリカナイズではない
このようにある行為が国や民族によって真逆に受け止められたり、誤解されることがあるのがグローバル社会である。グローバル化という言葉は随分前から耳馴染んでいるが、もしかしたらグローバル化という言葉自体も間違って受け取られている可能性がある。
グローバル化というと、英語が堪能で、ビジネスにおいてはアメリカの名門と呼ばれる大学でMBAをとっていたりする人が活躍する姿を想像してしまう。とかくアメリカがグローバル社会の中心のように思えるが、世界という舞台を俯瞰するとそうではない。むしろアメリカ人の考え方はほかの国からかけ離れているケースが多い。
交通や物流、ITの進展によって地球という舞台は小さくなり、確かにビジネスはグローバル化している。しかし個々の取引やコミュニケーションは、国や民族の文化や風習がせめぎ合うマルチカルチュラルな企業や組織同士の「国際化」のなかで行われているのだ。
■会議1つとっても世界にはいろいろなスタイルがある
ちょっとグローバル会社の会議をイメージしてみよう。
会議の前には議題=アジェンダを確認し、ファシリテーターという議長が「皆さんと会議ができることを光栄に思います」といった口上を述べ、会議に入る。出席者の誰もが自分の意見を結論から先にロジカルに述べて、ファシリテーターがきちんと結論に持っていき、明確な判断を下す。そして決断が下されたら、その決断に沿った目標に向かって結果を出す。そう、誰もが結果にコミットするのである。ビジネスにおいては出席者の誰もがベクトルを揃えたうえで課題を共有し、効率的で最大の効果を生む会議がクールで機能的だとされるが、現実はそううまくはいかない。
議事がアジェンダ通りに進まない国も多く、その場で新しい議題が提案され、そのまま進行するような場合もある。また時間も予定通り終わるとは限らない。それどころか意見を求めてもほとんど出てこない国もある。結論を下すためのミーティングの前にすでに結論が下されている国もある。
■オランダ人と議論するのは世界でもっとも大変?
会議の議論スタイルもいろいろだ。仮に意見がぶつかったときはどうなるだろう。最も率直に言い合う国の1つがオランダだと言われる。上司であろうと遠慮はしない。
ある世界的なオランダ系グローバル会社に買収されたメキシコの会社出身のマネージャーは、オランダで会議を開いたことをこう嘆いていた。「オランダ人をマネジメントするなんて本当に途方もないことだよ」と。「新しいプロセスを導入しようとミーティングを開くと、メンバーたちはミーティング中にプロセスに異議を唱え始めて、あちこち予期せぬ方向に話が飛ぶうちに、私のプロセスも無視されるばかりか、私が上司だということも忘れ去ったかのようになるんだ」
オランダはヨーロッパのなかでも平等主義が徹底している国で、組織は階層的でなくフラットにつくられている。そこでのリーダーの役割は、フラットな立場で意見をまとめることだ。
また、日本人であれば言いにくいようなネガティブ情報も躊躇なく伝える文化がある。『異文化理解力』の著者で、アメリカのインターナショナル・ビジネススクール「INSEAD(インシアード)」で異文化交渉や異文化リーダーシップなどの教鞭を執っている、アメリカ人のエリン・メイヤーさんは、自身がその洗礼を受けたと言う。
それは12人が参加したある重役研修プログラムで起こった。そのプログラムは、アメリカ人とオランダ人が参加して、一人ずつ、それまで取り組んできた難題について語ってもらうことになっていた。最後に語ったオランダ人が自分の問題に対して意見をもらう段になると、早速彼を知る別のオランダ人が「君には柔軟性がないから周りとの折り合いが悪くなることがあるんだ。そのせいでチームとコミュニケーションをとるのが難しくなっているのだと思う」と言い放ったのだ。
意見を言われたオランダ人の耳はみるみる赤くなったが、その後も問題を指摘するオランダ人の話は続いた。その間、残りのアメリカ人出席者は下を向いていたという。研修終了後、複数のアメリカ人がメイヤーさんのもとにやってきて、口々に「あの発言は不適切だ」と語ったのだ。
戸惑うメイヤーさんをさらに驚かせたのは、その日、その後で行われた夕食会だった。遅れて会場入りしたメイヤーさんは、件のオランダ人2人が、陽気にシャンパンを飲み、昔からの友人のように笑い合っていることを目撃する。彼女は率直に伝えた、「2人が一緒にいるところを見れてよかった。研修が終わったら口もきかないんじゃないかと心配していたの」と。
すると欠点の指摘を受け続けたオランダ人は、こう返したのだ。
「もちろん自分に対するああいう意見を聞くのは楽しいことじゃない。自分がうまくやれていないところを聞くのは良い気分じゃないよ。でも私は彼が裏表なく誠実にフィードバックをしてくれて本当に感謝しているんだ。ああいうフィードバックは贈り物なんだ」。メイヤーさんはこのコメントを聞いてこう思ったという。
「このオランダの文化はなんというか、私の(アメリカの)文化と違う」と。
■世界中のマネージャーはさまざまなスタイルでフィードバックする
アメリカは個人の自由を尊重するディベートの国で、こうしたネガティブな意見のやり取りには慣れているのかと思いきや、そうでもないようなのだ。アメリカもオランダ同様、個人主義と平等の国として知られているが、フィードバックする手法と情報がオランダと違っている。
組織のなかでフィードバックを伝えることは極めて重要だ。しかしそのスタイルはその国、その人々の文化によって違ってくるようだ。
メイヤーさんによれば、「世界各国のマネージャーは驚くほど様々な方法でフィードバックを行っている」とのこと。
「たとえば中国人は同僚を公然と他人の前で批判しない方法を身につけていますが、オランダ人マネージャーはいかなるときでも正直で率直なメッセージを伝える方法を身につけています。またアメリカ人はネガティブなメッセージをポジティブなメッセージで包み込むように訓練されていますが、一方フランス人は情熱的に批判し、控えめに褒めるように訓練されています。
つまり、相手が何を1番伝えたいかは、聞き耳を立てるように注意深く聞かないと齟齬や誤解を起こしやすいということです。それは伝える側がより注意しておく必要があります。自分がそのチームでマイノリティで、しかもあなたがマネージャーやリーダーである場合は、チームが機能しなくなる可能性もあるからです」
一般的にアジアの国々は、集団主義で企業構造がピラミッド型だ。それゆえ会議では必ずしもメンバーが思ったとおりの意見を出してくるとは限らない。どこまで言うべきかはその国や地域の文化に拠る。
「あなたがもし中国企業に勤務しているのなら、会議で上司が間違った意見を述べても指摘しないほうが良いでしょう。中国では『いつも上司が正しい』からです。中国に数年間駐在した経験があるアメリカ人マネージャーはこう述べています。『だからマネージャーが部下やスタッフに考えや助言を求めても返ってこないんだよ』と」(『異文化理解力』)。
では中国に赴任したら、どうすれば彼らの意見を引き出せるのだろうか。
メイヤーさんがまとめていることは、次のようなことだ。
・あなた以外のメンバー全員に集まってもらって、ブレインストーミングをしてもらう。そして出てきたアイデアを報告してもらう。上司がいなければ、気遣いがなくなり、みんなが意見を出しやすくなるから。
・会議を開くときは、どのような会議をしたいのか。どんな質問をするつもりなのか、予め数日前にきちんと伝えておく。
・もしあなたが上司なら、会議の議長はあなたの役割であることを忘れないように。周りが許可なく自由に議論へ参加してくることを期待してはいけない。周りに発言を求めること。あなたが個別に発言を求めない限り、彼らは進んで話そうとしないかもしれないから。
■平等主義的な文化の国でチームを率いるときは?
逆にもし、あなたが自分より平等主義的な文化のチームを率いている場合は、こんなやり方がいいだろう。
チームに目標による管理を導入して、各従業員に次の年に向けた部門の展望を伝え、それから彼らに年度の個人的目標を設定してもらい、それを話し合って最終的にあなたの了承を得るようにする。そうすれば、周りが何をしているかを把握しながらも、管理者ではなくまとめ役になることができる。
・目標は具体的で明確なものにし、ボーナスやその他の賞与との関係性も考慮しよう。
・目標は、12ヵ月スパンで立てて、定期的に進捗を確認しよう。1ヵ月に1度がいいかもしれない。進捗が満足いくものなら、もっと部下に裁量を与えてもいいし、進捗が遅れていれば、もっとあなたが関わっていけばいい。
■グローバル時代に必要とされる企業の“異文化知能指数”「CQ」
現代は、1つの企業が国境を越えて活動するのが当たり前の時代だ。そこにはその企業の発祥国だけでなく、複数の国がその会社のビジネスのやり方を受け入れ、事業活動を行っている。
そこで注目を集めているのが企業組織の異文化適応力だ。マルチカルチュラルな企業や組織が増えるにつれて、この異文化への適応力をスコア化する組織も出てきている。その代表の1つがCQ=Cultural Intelligenceである。CQは、「多様な文化的背景に対応できる能力」、すなわち“異文化の知能指数”と言われ、グローバル時代における企業のもっともHotな能力となっている。
CQは次の4つから成っている。
①異なる文化のなかで効果を出していきたいという「動機」
②異なる文化に対する「知識」
③効果を発揮するために知識を活かして準備し、実践しリフレクションする「戦略」
④異なる文化でのバーバル(言語)、ノンバーバル(非言語)のコミュニケーションである「行動」
こうした能力は、海外への留学経験や赴任経験があれば、だいたい身につきそうだが、『経営戦略としての異文化適応力』の共著者である宮森千嘉子さんと宮林隆吉さんは、これからの時代はビジネスのグローバル化を「語学力と海外経験」で評価してはいけないと語る。
たとえば海外在住経験が豊富である人がCQが高いというわけではなく、そこだけで評価すると大きな問題を起こしかねないと指摘する。
ありがちなのが、欧米駐在経験豊富な人がアジアに赴任したりした場合だ。現地の人の良い点を見ようとせず、悪い点ばかりに注目することが多く、互いに相互理解が進まず、壁やわだかまりが残るケースが多くなってしまうのだ。
先に紹介したように、会議でも意見を積極的に出してこなかったりすると、「やる気がない」とみなし、その背景にある文化や根本原因を探ろうとしない。
一方で「いろいろバックグラウンドは違っても最後は人間同士なんだから、理解し合える」という自信を持って臨む人もいる。とくに組織論や人材開発論に造詣が深い人やコーチングなどのプログラムを受けた人からこうした声が聞かれるようだ。
しかし、そういったシステマチックな論やプログラムはアメリカで発展したケースが多く、企業文化としてアメリカナイズされた企業以外ではなかなか効果が発揮できないことも多い。
アメリカ的な文化を持つ企業では仕事とプライベートを分けて行動するが、アジアなど集団主義的文化、権威主義的文化にある企業では、仕事の評価と人物評価が渾然となっている場合が多く、深いコミュニケーションまで辿りつかないこともある。
とはいえ、仕事の専門性が高ければ異文化適応力は気にしなくていいという意見もあるだろう。とくにものづくり系の企業では使う用語が同じであれば、言葉ができなくても数字やテクニカルタームでコミュニケーションはとれたりする。また会計や財務用語は世界共通の言語である。
だがたとえば「品質」という言葉を捉えたとき、その意味するところは国や業界で違ってくる。そして似て非なるものの誤解こそが、もっとも厄介な問題を起こすものだ。
■ビジネスにおける複雑な異文化を解く鍵、『ホフステード6次元モデル』
こういった異文化の違いに対する適応性は、経験やそれぞれの属人的キャラクターによって決定されることが多かった。だが近年ビジネスにおける異文化研究が進み、国籍や人種による文化特性がわかるようになってきた。
その1つがオランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード教授が研究してきた『ホフステード6次元モデル』である。
ホフステード6次元モデルは、人間社会にある普遍的な6つの次元に注目し、各国の文化を分析していたもので、国別に0〜100でスコア化している。そのスコアから見えてくるのが次の6つの特徴である。
【1】権力格差(大きい・小さい)
【2】集団主義と個人主義
【3】女性性(生活の質)と男性性(達成)
【4】不確実性の回避(低い・高い)
【5】短期志向と長期志向
【6】人生の楽しみ方(抑制的・充足的)
■フランスは意外と権力格差の大きい国、体罰容認もマジョリティ
【1】の権力格差について見ていくと、格差の大きい国は、マレーシアやサウジアラビア、イラク、フィリピン、ロシア、アラブ首長国連邦、メキシコ、中国、インドネシアなど、主にアジア、中南米が多い。逆に権力格差の小さい国は、オーストリア、イスラエル、デンマーク、ニュージーランド、スイ
ス、イギリス、ドイツ、オランダなどヨーロッパ各国が並ぶ。日本はスコア54でほぼ中間。意外だが、近代民主主義の礎をつくったフランスはかなり権力格差の大きい国で、また子供に対しての体罰を容認する人が2015年で70%もいた。
権力格差の小さい国の特徴としては次のようなことが挙がっている。
・人々の間の不平等は最小限にすべきであり、人はみな平等な権利を持つべき
・親は子どもを、子どもは親を平等な存在として扱う
・教師は生徒を、生徒は教師を平等な存在として扱う
・教師は生徒が自発的に振る舞うことを期待している
・学習の質は、教師と学生とのコミュニケーションと、生徒の優秀さで決まる
・患者は医者を平等な存在として扱っており、積極的に情報を提供する
こうした国では、周りをやる気にさせることがうまくいくコツとなる。権力がフラットに近いので上司が部下に意見を求めることもしょっちゅうだ。良いアイデアはどの階層からも
生まれると考えているので、部下は上司から相談されることを期待しているし、上司に対する建設的な批判ができるかは、部下の大切な資質として捉えている。
一方、権力格差の大きい国の特徴としては
・人々の間に不平等があることは予測されているし、望まれている
・親は子どもに従順さを教える。年長の親族に対して敬意を払うことは、一生にわたって続く基本的美徳
・生徒は教師に敬意を払う
・教師は教室で全主導権を取ることが期待されている
・学習の質は教師の優秀さで決まる
・患者は医者を目上の人として扱っており、診療は短く、医者が主導権を取る
などがある。
こうした国でのビジネスでは“畏怖の念”を利用することが、うまくいくポイントになる。権力を持つ人はその人らしい振る舞いが求められており、そのように振る舞いながら、的確な指示を与える。この際、注意しなければならないのは、上司となった場合、相手の言い回しや態度からメッセージを読み取ることだ。権力格差の大きい国では部下が上司に「ノー」と言いにくい傾向があるため、婉曲的に伝えている場合も多い。したがってプロジェクトなどを任せる際は、仕様や納期をしっかり理解しているか、適宜確認する必要がある。
■日本人は集団主義と個人主義の中間
【2】の集団主義と個人主義については、まず集団主義を重んじる国には、中国、東南アジア諸国、中東諸国、中南米諸国、ロシア、ポルトガルなどがある。特徴としては、
・人は内集団のなかに生まれて、その集団に忠誠を誓う限り保護される
・子どもは「私たちは」という視点からものごとを考えることを学ぶ
・内集団と外集団では、価値観の基準が異なる。排外主義的
・内集団のなかでは常に調和が保たれ、直接対決は忌避される
・不法行為を起こすことは、本人と内集団にとって恥であり、面子を失う
・資産は親族と共有する
など。
集団主義の強い社会では、人間関係が職務より優先される。こうした国では食事に誘われたり、飲みに誘われたりすることが多いが、これは歓迎の意もあると同時に、「この人と一緒に仕事をして大丈夫か」とチェックを兼ねていることが多いと考えるべきだ。
個人主義の国には、イギリス、カナダ、ニュージーランドなどアングロサクソン諸国、北欧、ドイツ、フランスなど欧州勢が入る。特徴としては、
・成人すれば、自分と身近な核家族だけの面倒を見ればよい
・子どもは「私は」という視点から物事を考えることを学ぶ
・すべての人に対して同じ価値観が適用される。普遍主義的である
・自分の心のうちを語る人こそ、誠実な人
・不法行為を起こすことは、罪の意識を掻き立て、自尊心を傷つける
・所有権は個人のものであり、子どもと共有しない
・コミュニケーションはコンテクスト(状況)に左右されにくい
といったことが挙がってくる。
一方個人主義の強い国では、職務が人間関係より優先される。その人の能力、スペックが信用の軸になるので、それが認められれば、初めてでも大きな仕事を任せられる。日本は集団主義傾向が強い国だと思われているが、ホフステードの分析では中間の46スコアとなっている。ただこの「中間」という分析は曲者で、日本人自身は「自分自身は集団主義的な考え方をしていないが、周りの人たちは集団主義的な考え方の持ち主である」と考えている人が多いようなのだ。
■女性性の高い国では、月間MVPなどの表彰は行わない
【3】の女性性と男性性の分析でわかることは、「仕事重視」か「プライベート重視か」ということだ。
女性性を重視する国としては、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなどの北欧、オランダ、リトアニア、エストニア、ラトビアなどのバルト海諸国、チリ、タイ、韓国、ベトナムなどが入る。特徴としては、
・福祉社会が理想で、貧しい人、弱い人を助ける
・寛容な社会
・生きるために働く
・男の子も女の子も泣いていいが、喧嘩してはいけない
・女性の美の理想は、両親に影響される
などが挙げられる。
かたや男性性が強い国としては、スロバキア、日本、ハンガリー、オーストリア、ベネズエラ、スイス、メキシコ、中国、ドイツ、イギリス、コロンビア、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、チェコ、インドなどがある。
特徴としては、
・業績主義社会が理想で、強い者、秀でた者が支持される
・欠点の修正を求める社会
・働くために生きる。仕事は人生にとって重要な要素
・女の子は泣いてもいいが、男の子は泣いてはならない
・女性の美はメディアや有名人に影響される
ということが挙がっている。
男性性の社会では目標に向かって努力し、それを達成する人を賞賛する。目標達成のためにはハードワークを厭わないし、ときには家庭を犠牲にする。
一方、女性性の高い国では、たとえば目標達成のためにMVP社員を表彰するようなことはめったにない。目標は
「達成するもの」ではなく、「方向性を決めるためのもの」であり、成果を挙げるのは「自分の力だけ」でなく、「運や周りの助けがあってのこと」だと解釈されるからだ。仮に1ヵ月の業績が良かったからといって、そんなことでいちいち目立ったり表彰されるのは恥ずかしい、と考えるのである。
■曖昧さを許容できる国はものごとのスタートが早い
【4】の不確実性の回避は、「曖昧さをどこまで許容できるか」という文化の物差しだ。このスコアでは日本は92と高い。つまり、不確実なことを許さない文化ということだ。不確実性を回避するトップは意外にもギリシャで、スコアは100。以下、ロシア、ベルギーが続き、日本はその次。日本の次にはアルゼンチン、スペイン、フランスなどが続く。
不確実性においてヨーロッパ文化は各国でばらける。例えばドイツとイギリス。ドイツではたまに列車が遅れるが、そういったときは「いたしかたない」といった、いささか禁欲的なトーンでその事実が伝えられるようだ。対してイギリスでは時刻表通りに運行されると「ラッキー」と思うようだ。つまりイギリスは曖昧さや不確実さを受け入れる国なのだ。
不確実性回避度が低い国の特徴としては、
・人生とは不確実なもの、不確実なことが自然。ルールや形式、構造にはこだわらない
・ストレスも低く、不安感もそれほどでもない
・専門家や学者より、常識や実務家を信頼する傾向がある
・学生は学習のプロセス、自由で良質なディスカッションの場を求め、教師は学生が「わからない」と答えても気にならない
など。
対して、不確実性回避度が高い国としては、中東、中南米、ポルトガル、ベルギー、ロシア、ポーランド、ルーマニア、フランス、ブルガリア、韓国、ドイツ、台湾などがあり、その特徴としては、
・人生に絶えずつきまとう不確実性が脅威。それを取り除くために形式、ルール、規則が必要とされ、構造化された環境を求める
・ストレスが高い、不安感がある
・トップマネジメントは日々のオペレーションにフォーカス
・医師や弁護士など、「その道のプロ」を信頼する傾向がある
・学生は正しい答えを求め、教師がすべての回答を示すことを期待している
などだ。
仮に回避度が違う者同士がプロジェクトを進める場合、お互いのやり方と達成度を充分理解しておく必要があるだろう。
不確実性回避度が低い国の代表であるアメリカでは、失敗することも盛り込みながら「リーンスタートアップ」という手法で、スピード感をもって進めることが多いようだ。対して日本のような高い国では、根回しや稟議などを含めて極力失敗しないように意見を調整しながら物事を進める。これは回避度が低い国からすると、「リーダーシップがない」「信用されていない」「細かすぎる」と感じてしまうようだ。逆に回避度が高い文化の人からは、プロジェクトの詳細を詰めずに走る人間を、
「思慮が足りない人たち」「モラルがない」「原則を知らない」「怠惰でだらしない」などと思われてしまう。
とくにこうした手続き的なことは、誰もが「自分たちが正しい」と思いがちなので、要注意だ。
■長期志向は、全体を俯瞰し把握してからスタートする
【5】の長期志向か短期志向では、前者が日本、韓国、中国、台湾、シンガポール、インドネシア、ドイツ、ベルギー、スイス、チェコ、エストニア、ラトビア、リトアニア、オランダなどが当てはまり、後者では中東やアフリカ、中南米、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、デンマーク、ノルウェー、フィンランドなどが当てはまる。
長期志向の特徴としては、
・資源を節約して倹約を心がける
・結果が出るまで辛抱強く努力する
・余暇を重視しない
・市場での地位に焦点が置かれ、将来の成長・利益を重視する
・自己を全体のなかの一部であると考え、志向が統合的。全体像を把握してからポイントに向かう
といったことが挙げられる。
一方短期志向の特徴としては、
・消費することへの圧力が強い
・すぐに結果を求める
・余暇は重要
・最終損益に重点がおかれ、四半期、当年の利益を重視する
・自己を単一的な主体として考えるので、思考が分析的で、まずポイントを理解する
などだ。
したがって長期志向の国で短期志向の行動や判断を行うと、「1つの意見にとらわれがち」「拙速」「全体像が見えていない」と見られがちで、逆に短期志向の国での長期志向の行動や判断は「物事の白黒が曖昧」「ぶれる」「分析力がない」「決断が遅い」と見られる。
■抑制的な社会ではポジティブさを強調しすぎない
【6】の人生の楽しみ方は、充足的な社会を志向しているか、抑制的な社会志向かということだ。
まず充足的な社会では、
・幸せであるとか健康的であると思える人が多い社会
・人生はコントロールできると感じている
・言論の自由は比較的重視されている
・余暇は重要
・ゆるい社会
・微笑みかけることが規範
・職場ではポジティブシンキングが奨励される
この特徴を持つ国はメキシコやベネズエラ、プエルトリコ、エルサルバドル、コロンビア、スウェーデン、ニュージーランド、オーストラリア、デンマーク、カナダ、イギリス、アメリカ、ナイジェリア、ガーナ、南アフリカなどがある。
一方、抑制的な社会では、
・肯定的であることを思い出しにくい、悲観的な社会
・言論の自由は一般の関心事ではない
・職場では謹直で実直な態度が信用され、プロフェッショナルであると受け取られる
・無力感を感じている(自分に起こることは自分ではどうすることもできない)
・微笑みは疑惑の目で見られる
・余暇はあまり重要ではない
といったことが特徴で、こうした国は、エジプト、パキスタン、旧ソ連諸国、ロシア、東欧、モロッコ、バングラデシュ、インド、中国が当てはまる。
抑制的な国から来た人が充足的な国でビジネスを行う場合は、ポジティブな態度を見せ、何事にも積極的に取り組むように努めることが求められる。一方その逆の場合は人生はコントロールできると思っている人が少ないので、あまりポジティブな面を強調しすぎると、信用を失うことになるので注意が必要だ。
■世界は6つの「メンタルイメージ」の国に分けられる!
さらにこれら6つの軸はそれぞれバラバラではなく、相関性が高いことがわかっている。
たとえば権力格差が高い国は総じて不確実性の回避度が高くなる。これらにはフランス、メキシコ、イラク、パキスタンなどが入ってくる。日本は権力格差は中間だが、やや格差のあるゾーンに位置し、不確実性の回避度は高くなっている。逆にイギリスやスウェーデン、デンマークはその対角にある。
こうした関係から、さらに6つのタイプのメンタルイメージの文化圏が以下のようにカテゴライズされており、組織づくりやリーダーシップのあり方の参考モデルとして利用されている。
①コンテスト(競争)―勝者がすべてを手に入れる文化。競争的で権力格差が小さい。個人主義で男性性が強い社会。不確実性回避のスコアが低い。
国:アメリカ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ(主にアングロサクソン)
ビジネスへの対応:リーダーは、専門家よりジェネラリストが評価され、リーダーはビジョンを示しながら、よりハイレベルな目標にコミットすることが期待されている。公式なフィードバックの場を設け、積極的にサポートすること、公平な評価が求められる。会議は「アクションをとるための有意義な意見交換の場」であり、意見を述べない者は無能とみなされる。議論が紛糾したときは、リーダーがトップダウンで決断する。会議は短い方がよく、一度決まった決定でも良いアイデアがあれば変更になることもある。
②ネットワーク―個々が独立しつつ、つながりあって関係している。権力格差が小さく、個人主義。女性性が強い。
国:(主に北欧諸国)デンマーク、オランダ、ノルウェー、フィンランド、アイスランド
ビジネスへの対応:肩書にとらわれず、一方的に命令されることを嫌う。したがってリーダーに求められるのは公平、平等性で、あらゆる利害関係者を調整して合意形成する力。決定力が期待されるのは、ほかに手段がなくなったとき。会議は合意形成を目指すが、日本などと違い、全一致を前提としていない。また全員の発言が求められるのはアングロサクソン系と同じ。会議が長くなることも多いので、時
間は余裕をみておいたほうがいい。会議の前後にお茶などを飲みながら非公式に意見を聴いておくのも有効。
③油の効いた機械―権力格差が小さく、個人主義で不確実性回避の傾向が強い。手続きやルールを重視する。階層的圧力は効かない。
国:ドイツ、オーストリア、チェコ、ハンガリー、ドイツ語圏スイス
ビジネスへの対応:代表的な国がドイツ。計画性を重視し、予想外のことが起こったら、権力者に相談するのではなく、専門家に相談する。また合理的で明確な理由によって行動するようになっているので、リーダーが命令すると「なぜ、どんな理由か」といった質問を受けることがよくある。組織のメンバーは歯車として捉えられ、自分が何をすべきか、明確に理解している。会議では目的が重視される。情報交換なのか意思決定なのか…。議題を決めるための会議も行われることもある。また発言は事実ベースが求められるので、専門家として、担当としてふさわしい情報を提供するようにする、議事録はすぐに作成されて共有されるが、新人ではなく責任のある人がまとめるようになっている。
④人間のピラミッド―権力格差が大きく、集団主義。不確実性の回避が高い。家父長的で強力なリーダーの決定に従う。プロセスの構造化が必要で、変革には時間がかかる。
国:中南米、アフリカ諸国、中東、ポルトガル、ロシア、ギリシャ、スロバキア、南イタリア、トルコ、タイ、韓国
ビジネスへの対応:畏怖の念を抱かせる家父長リーダーが求められるリーダー像。厳格ななかにも愛情をもち、部下のプライベートの幸せを喜ぶ。明確な指示を出して、それを定期的にチェックするようにする。昇進は個人の能力より、組織への忠誠心が重視され、それゆえ縁故採用も多いのが特徴。会議は決定する場ではなく、上司から部下への情報共有の場。たとえ会議でも公の場では個人を批判しないようにする。合理的分析はあまり好まない。
⑤太陽系―権力格差が大きく不確実性が強く、個人主義。
国:フランス、ベルギー、北部イタリア、フランス語圏スイス、一部スペイン、アルゼンチン
ビジネスへの対応:この文化圏で注意するのは、議論の仕方。まずテーゼ(命題)があって、それに対するアンチテーゼ(対立命題)が示され、その後これらを統合した上位概念にもっていくという考え方。反論や疑問が次々と出され、慣れないと困憊するが、これをゲームとして楽しむくらいに捉えるとより良い結果にたどり着く。階層的社会だが、上位の階層にはいわゆるエリート層で構成され、またエリートはそれにふさわしいノブレス・オブリージュの役割を担う。極めて知性的に振る舞い、強いメッセージを表明し、遠くから見ているという印象を与えることが求められる。会議は情報共有の場であり、部下からの質問に答える場。推論や演繹的な思考に習熟する必要がある。
⑥家族―階層と忠誠、フレキシビリティ。集団主義。家父長的で、強力なリーダーに部下は柔軟に従う。権力格差が大きい。
国:中国、香港、シンガポール、ベトナム、インドネシア、フィリピン、マレーシア、インド
ビジネスへの対応:一人ひとりの能力に応じ、明確な指示を出し、それが実行されているかを定期的にチェックするときにはプレッシャーを与えて牽引する。面子が非常に重視されるので、人前で叱ったり、注意するのはご法度。会議は予定通り進まず、長引くことも多いので、明確な情報を得るためにさまざまな質問をして、内容を組み立てることも必要。誰の知り合いかということが重視され、時に会社の組織以上に影響力を与える。家や車などの持ち物もそれ相応のステータスのあるものが求められる。柔軟性が求められる社会で、資源が足りなくてもなんとか適応するという文化がある。食事などインフォーマルな場を設定し、コミュニケーションを取り信頼を得るようにする。
■ローコンテクストな国では、言葉にできるものを必要なだけ明確に出す
こうした異文化への適応については、この「ホフステードの6次元モデル」のほか、INSEADが8つの軸で世界の文化を見取っている「カルチャーマップ」がある。8つの軸は、
①コミュニケーション……ローコンテクストとハイコンテクスト
②評価……直接的なネガティブ・フィードバックと間接的なネガティブ・フィードバック
③説得……原理優先と応用優先
④リード……平等主義と階層主義
⑤決断……合意思考とトップダウン
⑥信頼……タスクベースと関係ベース
⑦見解の相違……対立型と対立回避型
⑧スケジューリング……直線的時間と柔軟な時間
である。
ホフステード6次元モデルと被っているものもあるが、いくつかは独特の軸となっている。
たとえば、ローコンテクストとハイコンテクスト。これは、自分の意見、その理由、背景など言葉として伝えることができるものを明確に出してコミュニケーションを取る文化と、言葉として出さなくても言外に意味を受け取ることができる文化の違いを示している。前者がローコンテクストで、後者がハイコンテクストだ。
ローコンテクストの代表は移民が中心の多民族国家であるアメリカだ。ローコンテクストの国は共通の文化バックグラウンドを持たないので、相手にしっかり言語で伝える必要があり、これがコミュニケーションの基本となっている。ほかにも移民の多いオーストラリアやカナダ、ドイツ、フィンランドなどもローコンテクストの国に分類されている。
ハイコンテクストの代表は日本をはじめとするアジアやイラン、サウジアラビアなどの中東、ケニアなどアフリカ諸国。長い歴史と伝統、民族的にも多様ではない国では、長年同じ文化、同じ空気のなかで暮らしてきたので、言語以外のところでコミュニケーションを取り、相手を理解することができるのだ。逆にハイコンテクストの国の人が、ローコンテクストの国で仕事をしたりすると、会話のなかで「言外」の意味を読み取ろうとしてしまい、状況判断に迷うことも出てきてしまう。
■ネガティブなことを直接伝える文化と間接的に伝える文化では受け取り方が真逆
また②の直接的ネガティブ・フィードバックと間接的ネガティブ・フィードバックも、その国で仕事をする上で重要な軸だ。前者はロシアやオランダ、フランス、イスラエル、ドイツなどに多く、率直に単刀直入にネガティブメッセージをそのまま伝える。それに対して後者は、柔らかく、さり気なく伝える文化で、ポジティブなメッセージでネガティブなメッセージを包むこともする。日本やタイ、インドネシアなどアジアで多く見られるコミュニケーションスタイルだ。
それゆえ、ポジティブなフィードバックについても受け手の文化が違うと、メッセージが逆に伝わることがある。
たとえば、イギリス人が「とても興味深いですね」と言うとき、それは「好きではない」というメッセージとなるが、同じ表現をオランダ人は「いい印象を与えた」と理解する。またイギリス人が「もう少し考えてみてください」と言った場合、それは「悪いアイデアなので止めてください」という意味となるが、オランダ人は「いいアイデアなのか! もう少し掘ってみよう」と受け止める。さらにイギリス人が「確かに私のミスだよ」と言うときには「私のミスじゃない」ということであり、これをオランダ人は「彼のミスだ」と理解する。
このようにどういうフレーズで会話が始まるのかによって、その意味するところは180度違って受け止められてしまうのだ。同じヨーロッパでもこれだけ違って受け止められるのだから、グローバルでビジネスに関わるときには、その違いをしっかり丁寧に見ていく必要がある。
■イタリアとカナダでは論の組み立て方が逆
もう1つ、原理優先と応用優先について触れておこう。原理優先とは、最初に原理や理論、複雑な概念を検討してから事実や発言、意見を提示することを指す。これに対して、応用優先とは、それぞれ発言や意見を提示した後、それを裏付ける結論や説得力を持たせる概念を加えることだ。前者がイタリアやフランス、ロシア、スペイン、ドイツなどで、後者はカナダ、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどが当てはまる。論の組み立て方が逆なので、とくにアメリカやカナダの人にとっては、フランス人などからのメールに「なぜ本題から入らないんだ」とげんなりしてしまう可能性がある。
■国際社会では自分の国の文化を相対化して臨む
いかがだろうか。これだけ文化の差異がビジネスに影響を与えているとなれば、国連などで会議が紛糾するのも納得してしまうだろう。もちろん、ここに挙げた分類や事例は、すべての国に当てはまるわけではない。個人差もあるし、メディアやSNSの影響で変化している部分もあるだろう。
しかしながら、こうした研究が形となって、ある程度の説得力を持ってきていることは、それだけグローバル化、すなわち国際化が進んでいることの証であり、それだけ異文化ギャップに悩む人々が増えているということでもある。
今後国際化はますます進む。上司や部下、得意先が外国人になることは全く珍しくない。重要なことはいかに自分の文化を相対化し、互いにルールや目的を確認しながら、「理解し合う」という気持ちをもってコミュニケーションを取っていくことだ。とかく国同士の鍔迫り合いが目立つ昨今、この異文化への理解力は企業成長の新たなエンジンであるばかりでなく、分断が進む世界の希望の種になるに違いない。
参考
●『経営戦略としての異文化適応力』宮森千嘉子・宮林隆吉[ 日本能率協会マネジメントセンター] ●『異文化理解力』エリン・メイヤー《樋口武志(訳)》[英治出版]●『工場管理』2019 年11 月号[日刊工業新聞社]ほか
POINT
■グローバル化イコールアメリカナイズではない
■世界では会議1つとってもいろいろなスタイルがある
■オランダ人と議論するのは大変?
■世界中のマネージャーはいろいろなスタイルで適切なフィードバックを行う
■平等主義的な文化の国でチームを率いるときは?
■語学力が高くて海外経験が豊富な人がグローバルマネージャーにふさわしいとは限らない
■フランスは意外と権力格差の大きい国、体罰容認もマジョリティ
■日本人は集団主義と個人主義の中間
■抑制的な社会ではポジティブさを強調しすぎない
■世界は6つのメンタルイメージの国に分けられる!
■ローコンテクストな国では、言葉にできるものを必要なだけ明確に出す
■ネガティブなことを直接伝える文化と間接的に伝える文化では受け取り方が真逆
■イタリアとカナダでは論の組み立て方が逆
■国際社会では自分の国の文化を相対化して臨む
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