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  • ビジネスシンカー

画一化された人材採用を捨てよ!採用レッドオーシャン時代のユニーク人材採用術

■正社員の半数、非正規者の3割が足りていない日本の企業

 帝国データバンクの調査によると、2024年の最新データでは、約51%の企業が正社員不足に陥っており、非正規でも31%が不足しているという。まさに「人手不足戦国時代」とも言える状況が続いている。毎年有名大学や有名工業専門学校などの出身者を大量に採用している大手企業でも、今や中途採用は当たり前の時代。人手不足が常態化している中小企業では、中途採用はもとより、高齢者や子育て中の主婦等の採用に力を入れているほか、外国人採用も増えている。

■あの手この手のユニーク採用法

 採用だけではなく、社員の定着率も人事・採用担当者を悩ませる問題となっており、各社の知恵比べが続いている。こうしたなか各企業は、あの手この手のユニークな人事採用術を繰り広げている。

■いちゲー採用

―面白法人カヤック(㈱カヤック)
 「いちゲー採用」とは、ゲームの上手さで内定を決める採用方式で、部活やサークル、アルバイトに捧げた時間と経験と同様に、ゲームに捧げた時間と情熱を多角的に評価する。採用方法はソニーのPS4(プレイステーション4)のゲーム「New みんなのGOLF」、「THE PLAYROOM VR」を利用したディスカッション「協力プレイ選考」、もしくはゲームのやりこみ度を表すトロフィーランクの最上位である「プラチナトロフィー」を持つ人の一次選考を免除する「プラチナトロフィー選考」、好きなゲームのことや攻略方法について思う存分書く「ゲーム履歴書選考」の3つの1次エントリー方式のなかから選び、パスすると二次選考に進めるというもの。
 カヤックではゲームソフトを開発しているため、通常採用でもゲームに情熱のある人材を求めているが、ゲームにひとかたならぬ情熱を傾けてきた人材は、プレイを通じて突破口を見つける発想力や、困難を乗り越える問題解決能力など、ビジネスに必要な能力が自然と磨かれると考えており、実際にいちゲー採用では9名の人材を獲得している。
 面白法人カヤックは、ユニークな経営を実践する企業として知られ、人事考課では当人がサイコロを振って出た目でボーナス額を決める「サイコロ給」や給与額としての支給はないものの、お金では評価できないプライスレスな評価(即戦力0円、作業スピード給0円など)を明細のなかに盛り込む「スマイル給」制度などがある。
 ほかに採用では履歴書不要で自身のブログや名前、作品などが検索に引っかかった結果がエントリーシートになる「エゴサーチ採用」。4月1日限定で“嘘の履歴書”を作って応募する経歴詐称を逆手に取った「エイプリル採用」、卒業制作や卒論に没頭しすぎて企業のエントリー期間が終わってしまった人向けの「卒制採用」、自己PRではなく推しへの愛をXに投稿することで応募する「推しプレゼン採用」などを展開してきた。このうち、いちゲー採用では360人が応募し、9名の内定・入社者を出したほか、エゴサーチ採用では820名以上のエントリーを獲得し、その中から7名の人材を獲得、エイプリル採用では3000人の応募者から1人が入社、また卒制採用では1人が入社している。

■人狼合説

―トラストリング㈱、㈱サーチフィールド ほか
 人気推理ゲームの人狼を介した合同説明会で、参加企業は合同説明会にエントリーした応募者と、会社説明会と飲み会、人狼ゲームを行って採用を決める。人狼ゲームはプレーヤーが村人と村人に化けた狼が自身の正体を隠し欺いたりしながら他のプレイヤーと交渉したり議論したりして相手の正体を探っていく。コミュニケーション能力や推理力、説得力など数々のスキルを一気に見ることができるため、人材採用に使う企業が増えている。こうした企業はベンチャー系が多く、スーツ禁止、飲み会がセットされるなど、短時間で応募者と採用者の相性がわかるメリットがあるとされ、若い世代に人気がある。

■顔採用

―㈱伊勢半
 化粧品販売を手掛ける㈱伊勢半の採用法の1つ。化粧品を販売するため、自分自身がショーケースとなる。簡素で画一的な就活メイクではなく、自分の好きなメイクで自己をどう表現しているかを基準に採用を判断する。決してルックスだけで判断しているわけではない。服装も自由なので化粧を含めて、いかに自分を表現し、ひいてはお客様をどのように演出するのかをみている。化粧をするのか、すっぴんかも問わない。性別も問わない。

■焼き魚採用

―三鷹光器㈱
 人工衛星用の天体望遠鏡や脳外科用の顕微鏡、精密測定機器、半導体検査機器など極限レベルの精密機器を製造する三鷹光器では、入社希望者を昼食に誘って焼き魚の食べ方をみる。焼き魚は比較的骨の多い食べにくい魚を注文する。そこで箸の使い方や手先の器用さをみるのだ。焼き魚のなかには腸などが取り出せていないようなものも出るが、それを丁寧に取り出して食べる応募者は加点されるとのこと。こうして選抜した社員にまず間違いはないそうだ。同社ではほかに模型飛行機の制作と裸電球のデッサンを課している。模型飛行機はキットの組み立てで行うが、いかに丁寧に早く組み立てられるか、素直さと器用さをみる。また電球のデッサンは形の正確さや球面の映り込みなどを丁寧に描けているかを判断する。「電球の形はこうだ」といった予断をもって描いている応募者は、いかに高学歴で成績が優秀でも落とすという。ちなみに合格者のなかには、電球のサイズがわかるように手も一緒に描いた人、球面の質感を出すために消しゴムを駆使した人、周囲のゴミまで描き込んだ人などが採用されている。また応募者には1日かけて工場を案内するが、その際は歩き方も観察している。ちゃんとした歩き方ができない場合は、「君はほかの会社に行ったほうがいい」と諭すという。「狭い工場にはさまざまな機械が置かれており、きちんと歩けない人は事故のもとになる」からだ。

■筋肉採用

―大谷地病院
 マッスルファーストな医師を求む―。札幌市の精神科医療専門病院である大谷地病院では医師を筋肉重視で採用している。近年筋肉量の多い人は精神が安定しているという研究結果が出ており、また筋肉採用というインパクトを含め、採用の差別化を図った。採用された医師には、24時間無料で利用できるジム・体育館が用意されるほか、プロテイン手当、会員制ジム手当、体脂肪率手当などがつく。

■麻雀採用/サウナ採用

―スターティアホールディングス㈱ほか
 デジタルツールを使ったマーケティング関連事業を行う同社では、麻雀採用を実施しており、2017年から通算で計35名の人材を麻雀採用で獲得している。エントリーした学生、大学院生が4人で半荘ごとに相手を替えながら対局していく。1位となった場合はいきなり最終面接を受けることができるほか、上位も一部面接がフリーパスとなる。麻雀採用は、人材会社の株式会社カケハシ スカイソリューションズが開発した採用システムで、麻雀には論理的思考力や勝負勘などビジネスに必要なものがあるとの考えから開発された。上位者にはプロ雀士との対戦も用意されている。またこの麻雀採用システムを開発したカケハシ スカイソリューションズは、ほかに、サウナを愛する学生とその情熱を評価する企業を結びつける合同イベント「サウナ採用」も手掛けている。イベントの目的はリラックスした環境下で、オープンなコミュニケーションを通じて、企業と学生が互いの真の価値を理解し合うことにある。

■オフィス冒険選考

―㈱CARTA HOLDINGS(旧VOYAGE GROUP)
 CARTA HOLDINGSの前身の1つ、旧VOYAGE GROUPが行っていた採用法。オフィスに隠された宝箱を応募者4〜5人が1組となって探すというゲーム型選考で、各人が協力しながら隠れた宝箱を探していく。ゲームを通じ応募者の協力性や問題の解決能力を探っていく。具体的に場所を移動しながら行うというより、想定される場所を推論して場所を見つけ出すというディスカッションが主体となる。新卒採用においてリーダーシップや推理力、ロジカルシンキング、人間性などをみるグループディスカッションはよく使われるが、こうしたゲームを使って人間性や業務遂行能力をみる採用方法は近年広がりを見せている。

■絵ごころ採用

―㈱サーチフィールド
 サーチフィールドはクリエイターのマッチング事業を手がける会社。絵ごころ採用とは、文章の作成が必要なエントリーシートを省略し、イラストだけで書類選考を行う採用方式。サーチフィールドはイラスト制作ができるグラフィック職、アートディレクター職を求めているため、イラスト制作のスキルに重きを置いた採用方式をとっている。この絵ごころ採用によって面接回数が短縮され、よりスピーディーな選考が可能となった。

■インフルエンサー採用

―オンデーズ(OWNDAYS)㈱
 メガネ、サングラス販売業の同社では、SNSなどのオンライン上での高い影響力を持つ、いわゆるインフルエンサーを採用する「インフルエンサー採用」を行っている。応募資格はInstagramやX、TikTokなどの人気SNSにおけるフォロワー数が10,000人以上のアカウントを持つ人で、年齢や学歴は関係ない。基本的にすべての職種に応募でき、採用された場合は基本給与に手当がプラスされる。

■いつものあなた選考

―TAKEUCHI㈱
 住宅リフォームや空調機器、東京ガス関連のサービス事業を行う同社では、通常選考のほかに「いつものあなた」選考を用意している。その名の通り、ふだんの応募者の様子をみるための採用方式で、個人の特徴を正確に把握するために導入された。この選考では面接時のスーツ着用の禁止、面接場所は求職者が指定することになっている。ただし面接場所は指定できるが、「近い」という理由ではNG。いつものあなたが表現できるか、自分のルーツに関わる場所であることが求められている。

■AI面接

―吉野家グループほか
 外食チェーンの吉野家グループでは1次面接に対話型AIを使っている。国内外で約2800店舗を展開する同社には、毎年関東の1都3県で数千人の応募があることから、採用業務が店舗の負担となっていた。AI導入後は、業務負担が大幅に削減された一方、応募者も場所や時間を自分で決められることから増えたという。吉野家が導入した面接AIは株式会社タレントアンドアセスメントが開発した対話型AI面接サービス「SHaiN」で2024年4月2日現在で導入企業が500社を突破している。もはや1次面接のスタンダード的存在となっている。

■29品のふぐ採用

―㈱東京一番フーズ
 ふぐ料理の専門店を経営する同社では、ふぐを意味する29(ふく)の数字から29種類の採用サイトを用意。ふぐっぽい顔をしている人を選ぶ「ふぐ顔採用」、午後2時09分にエントリーした人に同社チェーン店で使える1000円のクーポンを進呈する「0209採用」、陸路ではなく「海路」で面接に来た応募者が船のチケットを見せると2900円のクーポンを進呈する「ウミルート採用」、複数の言語スキルを持っている人を採用する「フグリンガル採用」など、ふぐや数字の29にちなんだ採用条件を用意。応募者はその条件の中から最適な方法を選択することができる。

■issue採用

―㈱プレイド
 デジタルデータを活用したサービスで企業の付加価値を高める事業を展開する同社では、エンジニアやデザイナーといった職種ではなく、社会や企業におけるさまざまな課題ベースに人を採用する「issue採用」を導入している。同社が将来挑戦したいと考えている課題(issue)を提示、それらの課題に積極的に取り組んでいく人材を見つける。

■日本一短いエントリーシート採用/おせんべい採用

―三幸製菓㈱
 せんべいを中心としたお菓子を製造する新潟に本社を置く同社。採用サイトでは「おせんべいが好きか」、「新潟で働くことができるか」の2つの質問だけを設けており、応募者はその質問に「YES」と回答すると、現れた欄にメールアドレスを入れるだけでエントリーが完了する。エントリーシートへの膨大な情報を書き込む負担を下げ、応募者を増やしている。同社によれば「この会社に入りたいという気持ちは徐々に形成されるため、必要な情報を必要なタイミングで貰えれば十分」とのこと。その言葉どおり、おせんべい愛が強烈な人に向けては「おせんべい採用」が用意されている。おせんべいへの愛をプレゼンするというもので、発表形式、分量も自由。もともと同社は他の菓子メーカーに比べ、低い認知度を問題視していたが、それを逆手にとり、会社を理解する情熱を持った学生との巡り合いを打ち出した採用法として、この方式を取り入れた。結果雇用のミスマッチが減ったという。

■全国オーディション採用

―日本交通㈱
 創業93年の歴史を誇るタクシー業界最大手の同社では、新卒採用に従来の採用方式のほか、全国オーディション採用を導入している。それぞれがもつ魅力を自由に伝えることができる方法で、練ってきた企画をプレゼンしてもいいし、自分について語る、歌う、踊る、描く、数式を解く、ファッションでアピールするなど、まったく自由。履歴書は不要。

■留年採用

―㈱東急エージェンシー
 大手広告代理店の同社では「留年は財産」の標語を掲げ、留年した間に取り組んできたことをアピールしてもらう留年採用を実施している。留年して得たことを会社で生かしてもらうことが狙い。応募資格は29歳以下で、翌年度の4月に入社できるのが条件。また同社では、内定を受けたもののまだ学生の間にやりたいこと、やるべきことがある場合、入社を1年待ってもらうことができる「留年パスポート」制度もある。

■釣り人採用

―藤井電気工業㈱
「電気工事で鉄道を支え、あふれるワクワクを実現する」ことを掲げる同社。本社がある岐阜県白川町には、全国的に鮎で有名な白川が流れており、毎年たくさんの釣り人が集まる。釣り好きにはたまらない環境であることから、人材確保の有効策として出たのが釣り好きな人を採用する「釣り人採用」。釣り人採用で採用された社員に対しては、鮎の解禁日前日から土日を含めた連続5日間の休暇を確約するほか、年釣り券(雑魚・鮎魚両方支給)、釣り遠征交通費、釣竿等の趣味のグッズ購入費補助(年間の上限金額あり)。また鮎の買取制度もある(18cm以上は1尾300円で買い取る。買い取った鮎は食品加工して販売)。同社の裏を流れる黒川でも鮎釣りが楽しめるため、お昼休憩時に釣り三昧ができ、本社併設のバーベキュー場の利用も可能。

■スタメン採用/相棒採用/スタミナ採用

―㈱ADKホールディングス
 大手広告代理店の同社では、優れた才能を持った新卒者については、いきなり事業現場の最前線で活躍できるスタメン(スターティングメンバー)採用を導入している。現場社員への調査から同社が求める人物像を抽出、活躍できる9つのポジションを設定、応募者は自分の興味や能力に合うポジションに応募できる。ポジションには、好きなことを極めないと気がすまない「ハイパーナイフ」や戦略的に物事を考えることが好きな「ロジカルモンスター」、真新しいテクノロジーやデータを扱うことが好きな「テックギーク」、世の中に影響を与えたい野心家の「ザ・イノベーター」などが用意されており、面接担当者の負担も減らしている。また「相棒採用」は、面接イベントを通じて出会ったADK社員のなかで「一緒に働いてみたいと思う」社員を、学生が指名することができる採用制度。指名した社員が担当する選考を通過すれば、その後はその社員が相棒となり選考をサポートしていく仕組みとなっている。「スタミナ採用」は体育会系学生の特別枠で、試合など部活を優先する体育会系の学生のスケジュールに合わせて行う採用制度。応募する学生は就活可能なスケジュールを提出、ADK側が調整する形で面接などを行う。体育会系の学生がほしいから行っているのではなく、体育会系出身の社員からの「体育会系学生にフェアな就活を」という声を反映して生まれた。

■釣り部採用

―中央交通㈱
 名古屋市のタクシー会社の同社では、釣りとタクシードライバーは共通点がたくさんあるということから行った採用法。応募者は社長と一緒に船の上で釣りをしながら面接を受ける。見事入社した場合は10万円相当の釣具セットがプレゼントされるほか、大物を釣った場合はボーナス支給、釣り連休の相談も受け付ける。

■GitHub採用

―㈱サイバーエージェントほか
 GitHubとは、世界最大のソフトウェア会社マイクロソフト開発のプラットフォーム。クリエイティブなエンジニアであれば、誰でも利用している。GitHubはエンジニアの開発実績を構築することが可能なので、採用者はそこからエンジニアの実力を測定できることから、GitHubを使った人材採用を行うIT系会社は多い。サイバーエージェントによると、GitHub採用を導入することで面接回数を短縮できたという。シリコンバレーなどではGitHubと交流サイトのLinkedInだけでエンジニアを採用する企業もある。

■Uー29採用/副業採用

―サイボウズ㈱
 ノーコードで書けるプログラミングソフトの「kintone」や中小企業向けのグループウエア「サイボウズOffice」などを提供するソフト会社のサイボウズ。同社では29歳以下であれば、新卒・既卒を問わず応募することができるU─29採用を行っている。UにはUnderの意味とUniqueの2つの意味があり、様々な経歴やバックグラウンドを持つ人を採用し、多価値で活気のあるチームワーク力のある組織を目指して導入した。また多様な人材、文化を取り入れるために他に仕事を持っている人を採用する「副業採用」も行っている。

■アスリート採用

―サーチファーム・ジャパン㈱/㈱パソナグループほか
 ヘッドハンティング事業を行うサーチファーム・ジャパンは、中途採用やシニア採用のほか、アスリート採用を行っている。スポーツと仕事の両立を目指す人材を応援するための制度で、現役中は競技優先で仕事をしてもらい、引退後は競技で培った集中力や忍耐力などをそれぞれ担当の仕事に活かしてもらう。一方、人材会社の大手パソナグループではアスリート社員を契約社員として雇用、グループ内の会社、職場で業務を行いながら、プロアスリートとして活動している。引退後は正社員としての道が約束されており、現役時代に安心して試合に臨むことができる。プロアスリートの競技が多様化するなか、引退後のセカンドキャリアに関心が高まっているが、企業側の関心も高まっており、エンターテイメント向けの人材派遣を行う㈱エイスリーが行った調査では、経営者の4割が元アスリートの採用に関心を寄せているという。主に主体性、実行力、知名度を期待しており、それらの能力が営業活動や広報活動の強化に役立つと分析している。

■実績採用/オンラインプログラミング採用

―チームラボ㈱
 最新のテクノロジーを活用したシステムやデジタルアート、デジタルコンテンツの開発を行う同社。「実績採用」は、学歴や経歴は関係なく、何をつくり、どんなことをしてきたかをみる採用方法。卒業論文や卒業研究、博士論文、卒業制作、課題制作など対象はなんでもよい。提出形式も紙やデータ、動画など自由。また「オンラインプログラミング採用」では、制限時間内に指定されたプログラミングの課題を完成させる選考方式で、プログラマー職が対象。

■No.1採用

―ソフトバンク㈱
 さまざまなデジタル機器、インフラ、ソフトウエアなどで社会変革を促進するソフトバンク。同社は通常の新卒採用や中途採用のほか、新卒学生向けとして、分野を問わず過去に1番になったことがある人材を採る「No.1採用」を実施している。No.1のレベルは全国大会以上が対象でキャリア基準は高校生以上となっている。個人レベルだけでなく団体やチームのNo.1も対象となる。採用者はその実績と即戦力を活かせる職場が用意される。ソフトバンクのNo.1採用は、企業で導入が進む一芸採用の1種で、こうした一芸採用は今後も広がりそうだ。

■縁故採用

―岩波書店
 創業100年以上の歴史を持つ総合出版の岩波書店では、2013年に縁故採用を宣言している。「世界」や「科学」などの学術雑誌や広辞苑などの辞書、岩波文庫や岩波新書などの啓蒙書籍などを発行する日本を代表する学術出版社である岩波書店が行った宣言に批判の声があがったが、無試験で採用させるのではなく、ちゃんと厳しい入社試験を課している。縁故の範囲は社員、もしくは岩波が出した本の著者で、その推薦者の紹介状が条件となっている。いたずらに応募者を増やすのではなく、一定の質が担保される岩波の採用方法は、採用にあまり資源を割けない中小企業の手本となり得る。こうした縁故採用は大手企業でも見られることで、いわゆるOB訪問やOG訪問はそれに近い。また最近増えている「リファーラル採用」も縁故採用と言える。

■続々と導入が増える「アルムナイ採用」と「リファーラル採用」

 多様化する採用手法のなかで、近年増えているのが「アルムナイ採用」と「リファーラル採用」だ。アルムナイとは企業の卒業者を意味する英語で、自社を卒業した人を再び採用することをアルムナイ採用と呼んでいる。企業にとっては自社の卒業後、さまざまなスキルや知識を得た社員が戻ってくれば、会社側では社内教育の負担が減り、その知見や経験を即戦力として活かすことができる。恒常的人材不足のなか、とくに結婚や出産を機に退職した女性のアルムナイ採用が高まっている。もう1つのリファーラル採用は、自社社員のネットワークを使った紹介採用のことで、ある程度の人物保証がなされるため、採用コストを考えると効率的な手法と言える。

■アルムナイ採用

―複数企業
■アクセンチュア
 一般的にコンサルティング会社の場合、その会社で定年まで働く社員は少ない。そこからさらに転職し、キャリアを積んでいくケースが多い一方で、卒業後、戻ってくる社員も少なくない。
 世界的コンサルティングファームのアクセンチュアでは、社員が企業を退職した後も継続的なつながりを保つ「アクセンチュアアルムナイネットワーク」を構築しており、同社の退職者は自由に参加が可能となっている。退職後も300,000人以上のメンバーがこの制度を通じて専門的な知識の共有や新規ビジネスの発掘、キャリアアップなどの支援などに活用している。

■P&G
 P&Gも大きなアルムナイネットワークを持っている。同社のアルムナイネットワークは世界中のP&Gの元社員で構成された非営利団体であり、2023年の12月現在、会員数は35,000人を超え、世界中に支部がある。日本支部では主に業界の最新情報を共有し、キャリアアップや成長に役立つ情報や資源を提供、また元同僚の再会や新しい出会いの場も創出している。

■サイボウズ㈱
 チームワークを支援するグループウェアを開発販売するサイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方があって良い」との思想から、ワークライフバランスに配慮したアルムナイ採用を取り入れている。同社の「育児自分休暇制度」と呼ばれる制度は、退職後最長6年間はサイボウズへの復帰が認められている。

■武田薬品工業㈱
 世界的医薬品メーカーである武田薬品工業では、2011年に同社のOBとOGと現役社員が合流する専用のプラットフォーム「アクティビティ」を立ち上げている。知識や経験などの最新情報の共有が行われているほか、セミナーや交流イベントなど、会員が所属する企業間での協業も生まれている。

■㈱スープストックトーキョー
 食べるスープの専門店であるスープストックトーキョー。駅構内やショッピングモールなど東京を中心に57店舗を展開している。同社にはバーチャル社員制度と呼ばれるものがあり、退職者でも希望すれば「バーチャル社員証」が発行され、スープストックトーキョーとのつながりを維持できる。またバーチャル社員証があれば、どの店舗で食事しても社員同様に10%割引で食事ができ、メルマガや社内報を受け取ることもできる。

■㈱荏原製作所
 自社の退職者をエバルムナイと言う呼称でアルムナイネットワークを構築している。このネットワークを通じてアクセス可能な人的資本を広げるとともに、様々な人材を引き込んで協業やオープンイノベーションを促進することを狙っている。

■㈱ニトリ
 ニトリでもアルムナイネットワークを立ち上げており、ネットワーク上で情報交換やイベントなどを通じて退職者の社員の交流が図られている。同社では早くから社員が働きやすい環境作りのための一環として「ジョブ・リターン(再雇用制度)」を実施している。ジョブ・リターンは出産や育児などのやむを得ない理由、または転職、留学などのキャリアアップのために退職した人が対象となっている。

■双日㈱
 双日のアルムナイネットワーク「双日アルムナイ」。双日の前身である元ニチメン、日商岩井のOB OGを含む、現役社員との人的ネットワーク形成と拡大を目的としている。有意義なイベントや記事を発信し、その他活動内容にはプロジェクトへのアドバイス、事業形成のサポート、講演会の開催、定期的な会談や意見交換会が行われている。

■リファーラル採用
 リファーラル採用も導入が広がっている採用法だが、導入については、施策方針と具体策を策定し、会社全体で取り組んでいる会社が多い。

■セールスフォース・ドットコム
 販売支援の業務ソフト等を開発販売しているセールスフォースでは、紹介してくれた社員への旅行券のプレゼントを行う。リファーラルの施策方針としては、①コアバリューに共感してくれる人材の採用、②エンプロイジャーニーに沿った呼びかけ、③入社1年後には転職口コミサイトへの入力依頼などを行っている。

■㈱スマートHR
 クラウド人事総務ソフトの「スマートHR」を提供しているスマートHRでは、促進施策として①会食費は企業が負担、②良い人を紹介した社員に「ありがとう手当」を用意、③採用に至らなかった場合「ごめんねご飯制度」を実施し、社員の心理的負担を軽減している。

■㈱富士通
 大手システムベンダーである富士通では、①約4ヶ月のトライアル検証を実施し、制度をブラッシュアップ、②紹介対象に関するガイドラインを設定、③人事部トップから全社員に対してリファーラルについてのメッセージを発信する、④新卒や中途入社時にリファーラル紹介方法やツールを説明する。

いかがだろうか。刺激はあったかと思う。「なかなかいい人材は来ない」と嘆く前に、まずは従来の採用活動を見直してはどうだろうか。

参考サイト
●各社公式サイト ● PRTIMES ● note ●みんなの採用部 ●帝国データバンク ●日本経済新聞社 ● PPESIDENT ON LINE ほか

ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム

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