AIと高齢社会には、フィジェットトイが必要だ!たぶん。
目次
■突然ブームとなった「ハンドスピナー」
「ハンドスピナー」という玩具をご存知だろうか?手の上や机の上などでくるくる回転させるだけの金属製、もしくは金属と樹脂によってできた玩具である。2016年にアメリカでブームとなると瞬く間に世界中で大流行し、翌年、日本でもブームとなった。ハンドスピナーが日本の精密加工技術が活かせるベアリングを使った構造であることも、ブームとなった理由の1つだろう。
「我こそは」という腕に覚えのある大小さまざまな精密加工メーカーが参入し、滑らかに回り続けるハンドスピナーを追求。そのなかでベアリングの大手「ミネベアミツミ」と宇宙機器開発を手掛ける「三菱プレシジョン」が2018年にハンドスピナー「Real Spin Ms’」を共同開発して「一本の指の上でハンドスピナーを回す最長時間」に挑戦。見事24分46.34秒の記録を達成し、ギネス世界記録に認定されている。達成したのはハンドスピナーの大会などの優勝者ではなく、ミネベアミツミの広報室長だったということも、ポイントだろう。「自社製なのだから会社の社員がアピールするのは当然」という声も聞こえてこようが、普通の会社員がさらっとギネス記録を出したところにこのハンドスピナーの魅力と特異性が現れている。
■医療の現場では患者の特性に応じた玩具がオーダーメイドされる
ハンドスピナーは、もともとは重症筋無力症候群を患っているアメリカ人のキャサリン・ヘッティンガーさんが、娘と遊ぶために考案したもの。ヘッティンガーさんは特許も取得していたが、特許料を払えず特許を更新できなかった。そこに玩具メーカーが目をつけ商品化したことで、世界的に広がったのである。
従来医療の世界ではこうしたリハビリなどを目的とした玩具が作られ、使われてきたが、そのほとんどが量産化されることなく、目的や対象者の身体特性に合わせてオーダーメイドでつくられることが多かった。それがリハビリや身体能力の維持といった目的を離れるとただの玩具となる。
■医療目的玩具が医療を離れると「フィジェットトイ」に
“ただの”と表現したのは目的らしい目的がないからだ。純粋玩具とも言えるが、このハンドスピナーは「フィジェットトイ(玩具)」の先駆けとも言われている。
フィジェットとは、「そわそわする」「手持ち無沙汰」の意で、暇つぶし、手持ち無沙汰の時に遊ぶ玩具ということになる。しかしながら、ハンドスピナーブームの際は大の大人が結構ハマって、ある種オフィスのストレス解消玩具としてのポジションを確立していった。
その後ハンドスピナーのブームは収まったが、ハンドスピナーそのものは今なお、多くのマニアの心を捉えている。その種類も増えており、さらにハンドスピナーが開拓したフィジェットトイも続々と生まれている。
■続々と生まれ続ける「フィジェットトイ」
たとえば、「フィジェットダイス」。これは立方体の各面にスイッチやボタン、ジョイスティックをほどこしたダイス(サイコロ)サイズの玩具。スイッチやボタンをカチカチいじっていると不安やイライラが解消されるほか、長時間勤務の暇つぶし、眠気覚ましにも有効だという。
「フィジェットキューブ」は、フィジェットダイスの表面のギミックを12面体に施したもの。フィジェットダイスよりやや大型のサイズ。
「インフィニティキューブ」は、8つの小さな立方体から成る立方体のフィジェットトイ。8つの立方体を縦や横などに展開することができ、2列×2段×2層の立方体を、2列×4段の直方体や、2列×1段と2列×3段が組み合わさった直方体などに、カシャカシャと片手の指先でトランスフォームできる。
「マグネットボール」は小さな球状のマグネット(5mm)216個からなるキューブ型のフィジェットトイ。セットのマグネットの数が多いので、直方体や立方体、三角錐などの形だけでなく、文字や絵なども描くことができる。
「ムーンドロップ」は、その名の通り、月の重力を体験できるというボルトとナット型のフィジェットトイ。ボルト状の軸を上下にするとナットのような丸いリングがスライドして下がっていく。3本セットになっているが、それぞれが地球の重力と月の重力、火星の重力の落下速度を再現している。
「フィジェットスライダー」は2枚、もしくは3枚の金属製の小さなプレートからなる。の名の通り、スライドさせてもとに戻すだけの構造で、前後にずらすタイプと横に扇形にスライドするものなどがある。スライドさせた後、戻してカチッっと嵌まるのが快感だというマニアが多い。
フィジェットトイにはカチッと嵌まることをストレス解消の基準としているもののほか、ギュッと握る、スクイーズと言われるトイがある。
代表的なものが「スクイーズストレスボール」。大きさはゴルフボール大からテニスボールくらいの大きさで、握るとスライムのように低反発でぐにゅっとした感触が得られるのが特徴で、色も明るいパステルカラーのものが多い。形も球状から動物や昆虫、独自キャラクターなど、多数ある。
■2023年、ウクライナ発の「フィンギアーズ」が話題に
そして2023年話題となったのが、「フィンギアーズ」である。強力な磁石のついた指輪型のトイで3つセットで遊ぶ。1つのリングを1本の指にはめて、その周りに別のリングをグルグル回転させたり、2つのリングを回転させたり、お手玉のように片手のなかで3つをグルグル回したりして遊ぶトイで、2019年ウクライナで開発された。戦争の被害を受けているウクライナに対しての支援の意味もあったのも確かだが、フィンギアーズで遊ぶ効果も大きく、楽器を演奏する際の指使いが滑らかになった、記憶力が高まった、集中力が高まった、認知症の予防などさまざまな効果が見られるという。
■フィジェットトイの源流、「ペン回し」は脳を活性化も集中もさせる
こうしたさまざまなフィジェットトイを見ていくと、おそらく大概の人がイメージとして浮かんでくるのが、ペン回しではないだろうか。ペン回しは国際的かつ原初的フィジェットトイであるようで、世界中の若者がこの技を習得している。
こんな実験がある。イギリスのオックスフォード大学が、ペン回しが癖となっている学生600人のうち、半分をペン回しをしてもいい条件で、残りの半分をペン回しをさせない条件で同じ問題を解かせたところ、ペン回しをした学生のほうがさせなかった学生の3倍問題が解けたという。
これは過去にペン回しを何度も繰り返しながら考えごとをしているうちに、ペン回しという行為が集中力アップのスイッチとなっていったと分析されている。
一方、ペン回しができない人がペン回しを習得しようとする行為は、脳の前頭野を刺激する。これはペン回しに限らず、新しいことを覚えようとするときに現れる脳の反応だ。つまりペン回しは、技術獲得段階で脳を活性化させ、習得後は気持ちを落ち着かせて集中力の発揮に効果がある、ということである。
学校の試験中や授業中にペン回しがOKとなれば成績の底上げができるのではないか。それは難しいだろう。ペン回しをしない人にとって目障りとなからだ。
東京都内のある進学塾の講師は、上記のようなペン回しの効果を認めているものの、授業やテスト中にはやらないよう指導している。
■フィジェットトイで「無駄」「無価値」「無意味」を創出
しかしこれからの企業は、積極的にフィジェットトイを導入したほうがいいかもしれない。とくに企画会議など新しい発想が求められる場では、ペン回しをはじめとするフィジェットトイをあえて持ち込み、意見を募ると従来にはない意見が出てくる可能性がある。
今後AIが進化していくと、膨大なデータ処理やロジカルな思考や説明はどんどんAIが担うことになるだろう。となれば、今後人類はいかに無駄や不便、無意味なことに価値を見出すかが重要となってくる。
そのきっかけづくりにフィジェットトイの果たす役割は大きいのかもしれない。
参考サイト
● AFP ● STUDY HACKER ●ニコニコ大百科 ●減収生活.com● PR TIMES ●未来を企画するクラウドファンディング「GREEN」Edged market ● Pen spinning KAY ●パリピ流 ウエイウエイ ほか
ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム