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生え抜きの「エリートツリー」が地球を救う!

 

製紙会社の日本製紙は2022年1月にエリートツリーの苗木の生産を本格化すると発表した。民間企業としては初となる取り組みだ。
 エリートツリーとは、同じ種の樹木のなかでもとりわけ成長の早い個体を交配して生み出した、まさにエリート(選りすぐり)の木である。

CO2吸収量1.5倍、
成長速度1.5倍の選りすぐり種

 カーボンニュートラルの実現に向けて日本中でさまざまな取組がなされているが、期待されるのが、森林の役割だ。言うまでもなく植物はCO2を吸収し、酸素を排出する。その植物の宝庫が葉っぱの多い樹木がたくさん自生する森林であるわけだが、人間にも少食、大食いがあるように、樹木でも種類によってCO2の吸収量に違いがある。
 一般に広葉樹より針葉樹のほうがCO2をよく吸収し、さらに針葉樹でもその種類によって吸収量の差が出る。たとえば針葉樹でもスギとヒノキでは、樹齢20年から40年ほどの間はスギの吸収量のほうが約2倍多い。もちろん年齢や樹冠、幹の太さなど厳密には個体差もある。あるいは植林地の気候の影響も受ける。
 ただ樹種の差は大きく、仮に管理コストや苗木の単価が同じだとすると、ヒノキよりスギのほうがカーボンニュートラルへの貢献度は大きいということになる。
 そこで期待されるのが針葉樹のエリートツリーだ。エリートツリーは従来種より、CO2吸収量が1.5倍ある。加えて成長速度が1.5倍速い。九州のスギのエリートツリーでは2年で3メートル、関東では5年で7メートルに達する個体もあるという。
 そのため植林密度も従来の半分で済むので、山を早く林の状態に持っていくことができ、その間の間伐、下刈りコストも下げることができる。独立行政法人森林総合研究所の材木育種センターの星比呂志氏の概算では1ha70万円ほど下がるという。
 林野庁のデータ(2018年)によれば、人工林の平均的木材収入は1haあたり約96万円で、対して造林および保育にかかるコストは114〜245万円となっており、この幅を補助金で埋めていた。
 ただ最近はコロナ禍やウクライナ戦争など、国際情勢の変化に伴って起こったウッドショックで、外国材が値上がりした。2021年12月期で丸太や合板などの外材は対前年比73%値上がりしており、集積材と製材に関しては対前年比135%、132%上昇している。
 輸入材の価格高騰で国産材の価格競争力が増しているところにエリートツリーが加われば、林業は日本の成長産業の一翼を担うことになる。

生産力増強を目的に70年前に開発に着手。
時代を経てカーボンニュートラルの救世主に

 実は日本政府は2050年までにエリートツリーを林業用苗木の9割以上にすることを掲げている。日本製紙の取り組みはこの方針に応えたものだが、同社は熊本県と北海道を皮切りに、静岡、大分、広島、鳥取でも苗木栽培を進めている。また各道県の山林種苗協同組合や新規生産者と協業体制をつくって、2024年よりコンテナ苗木生産も開始する予定だ。これらの取り組みによって同社では2030年までに社有林のエリートツリーを3割、50年まで9割にする方針を掲げている。
 にわかに注目を集めるエリートツリーだが、その開発の歴史は古く、第二次世界大戦後まだ時間の経っていない1954年にまで遡る。もともとは住宅など旺盛な木材の需要に応えるため、生産力増強を目的に開発をスタートさせたが、その後輸入外材に押されて儲からなくなった林業の生産性向上に目標がシフトしていった。
 「やまいち」と呼ばれる、全国の山々から選抜された成長力の高いスギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツなどの個体9000個超を、挿し木や接ぎ木を繰り返し、選抜し、育種していった。こうした選りすぐりの木から次第に成長力の高い個体が生まれ、セレクトされたのがエリートツリーなのである。
 エリートツリーは、スギ以外にも地域特性や用途に応じた開発が育種基本区ごとに進められ、2022年3月末現在、スギが627系統、ヒノキが301系統、カラマツが122系統、トドマツが50系統の計1100系統が誕生、植林されている。
 日本の森林は折しも、戦後に植林したスギ、ヒノキが切り頃を迎えている。九州では中国などへの木材の輸出も行われるなど、木材の輸入国から輸出国へのシフトも始まっている。林業全体が活性化すれば、2050年のエリートツリー9割達成は前倒しになる可能性もある。エリートツリー、地球と人類のために期待したいところだ。

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