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販売に関わる人なら押さえておきたい「売れる言葉」「売れる法則」

コロナ禍で大きなダメージを受けた接客業。コロナ前に比べ、俄然接客の仕方や距離の置き方に気を使うようになったかと思う。しかしながらWithコロナ、Postコロナにおいても接客販売の基本は変わらない。どんな相手にどんな言葉を使うべきか。どんなタイミングで話しかければいいのか。クロージングに持っていくための基本セオリーは……。販売員なら当たり前に使っているその言葉や声がけ、もしかしたらNGかもしれない―。一度基本を押さえておこう。

売れてる販売員が使わない
NGワードとは?

 もしふらりと寄った店頭で「お買い得ですよ」「お安くなっていますよ」と言われたら、アナタは「ラッキー」と心の中でガッツポーズするだろうか?
 何気に入ったファッションセレクトショップで、何気にジャケットを見ていたら、後ろから「よろしければ、ご試着できますので」と声をかけられた。思わず「ちょっと、試着しようかな」という気になってきた…。
 よくありそうな光景だが、この「お買い得です」「お安くなってます」、「よろしければ…」は、よく聞かれる模範の声がけのようだが、接客アドバイザーの平山枝美さんによれば、実は店舗販売の現場ではNGワードとなっている。
 なぜNGなのか。それは販売スタッフが客の気持ちを考えずに発している言葉だからだ。
 たとえば、「お買い得です」「お安くなっています」という言葉をかけられたお客の心理は「安いことは確かに魅力的。でも、そこを強調されすぎるのはイヤ」という状態。仮にバーゲンやセール目当てに入ってきた客でも「安いですよ」「お買い得ですよ」という言葉を連呼しすぎると、「私は、安いから商品を手に取っているわけではない」という反感を招くことになりかねない。
 他方、「よろしければ」という言葉は、「『よろしければ』という言葉でにごさず、もっと私を察して空気を読んで」という感情を招くことになりがちだ。

会話はできるだけ
「共感を呼べる」表現で

 ではどうすればいいのか。平山さんによれば、お客に寄り添う、空気を読んだ言葉をかけるのが正解だそうだ。
 たとえば、セールの時はいつもよりきちんと商品のポイントを伝えることだ。客は安いことを知っている。求めているのは、その商品の特性だ。「肌触りがいいですよね」「きれいな色ですよね」といった共感できるような言葉で話しかけると、客は反応しやすくなる。無論、セールでは価格が魅力で入ってきたわけなのでお得感を出すことも重要だ。その場合は「定番品なので長く使えます」と言った婉曲的な表現を使うと良い。冬限定でも「春先まで使えますよ」といった言葉をかけられれば、「これを買うと無駄遣いにならないか」という客の不安が払拭される。

「よろしければ…」は
販売員の”逃げ”の言葉

 一方万能のマジックワードのような「よろしければ…」は、平山さんによれば、むしろお客を観察していない”逃げ”の言葉であるという。実際あるのが、お客がすでに商品を手にとっているのに関わらず「よろしければ、お手にとってご覧ください」と言っていたり、「よろしければ、試着できますよ」と言うが、「そもそも試着できない店があるのか」と思われたり、客の言動をしっかり観察していないことから生まれる、ミスマッチな言葉であることが問題なのだ。

 たとえばソファを押しているお客がいれば、「すわり心地を確認している」と察知して「ほどよい硬さですね」と声をかける。スカートを当てながら足元を見ているお客が入れば、「裾丈を確認しているのかな」と察知し、「膝が隠れるくらいの丈です」と言った声がけをする。お客の行動にはサインがある。売れる販売スタッフは、そのサインを見逃さない。そしてその時の言葉もお客の心情にあった共感できる言葉を選ぶ。無論どんな言葉がお客に響くかは、千差万別だ。売れる販売スタッフは、どのようなお客がどんな状況の時、どの「アプローチワード」にどんな反応したかを記録しているという。つまり経験値が高くなればなるほど、「よろしければ」という言葉が減ってくるものなのである。

「◯◯をお探しですか…」も
NGワード

 「 ◯◯をお探しですか?」という言葉もよく使われる。これもNGだ。とくにふらっと寄っただけのお客には答えにくいし、仮に「はい」と答えてしまったら、「買わないといけないのではないか」という警戒感が生まれるからだ。このような場合は、「たくさんあって、迷ってしまいますよね」といった共感ワードが効いてくる。「選んでいるうちにわからなくなってきますよね。ご要望に合わせていつでも説明させてください」といったん様子をみた後、一通り見終えたタイミングで「何かお手伝いできませんか?」と言った声がけをするとかなりの確率でお客から「◯◯って見ていても分からないよね」と言った反応が出て来る。
 仮に要望のものが見つからなかったら「あいにく、店頭に出ているだけです」と正直に話すしかない。ただそのままだと次来てくれるか分からない。店を出てそのまま別の店で探す可能性もある。仮にそこで希望のものが見つかったら、次の来店はないかもしれない。

お客が欲しかったのは
最新電動ドリルではなく、穴だった!

 お客が買い物に来るのは、商品を買うのではない。「自分の願望を満たす、あるいは家族や会社の課題を解決する手段を手に入れる」ためだ。
 有名なマーケティングの話がある。
 ある日、お父さんが日曜大工で犬小屋をつくろうとする。その作業中にベニヤ板に穴を空ける必要があることに気付く。そこでお父さんは早速ホームセンターに出向き、コストパフォーマンスに優れた電動ドリルを探す。ホームセンターの店員は盛んに新しい電動ドリルを紹介するが、店員さんのトークを聞いているときにふとお父さんは、となりのエリアに昔ながらの錐があることに気づく。お父さんは考える。「穴を空けるだけなら錐でもいいんじゃないか」と。そう。問題は穴を空けることであって高性能の電動ドリルを買うことにはない。お父さんは、錐売り場の前に立つ。すると今度は穴と留め具がセットになったベニヤ板が目に入る。
 そこでお父さんはまた気づく。「別に穴を開けなくてもこれを使えばいいんじゃないか――」。
 結局、お父さんが欲しかったのは、性能のいい電動ドリルではなく、「穴」だったのだと気付くわけだ。
 何とも寓話的な話だが、ここには販売のエッセンスが詰まっている。つまり商品は、お客の課題解決の1つの手段に過ぎない。その方法を展示する場が店であり、お客の解決策を一緒に考えるのが販売員ということだ。当たり前だが、安いから、質がいいから売れる時代ではない。

在庫がないからと言って、
お客を諦めさせてはいけない

 お客は価格が安いから買うのではない。”お客にとって”お値打ちだから買うのである。お値打ちとは、価格であるかもしれないし、店頭の販売員のスタッフの説明で新しい発見をしたから買うのかもしれない。新しい発見は何も探しに来た商品ではないはずだ。
 だから、「在庫がありません。商品は店頭に出ているだけです」で終わらせてはいけない。
 「他店の在庫を探してみましょうか」「それなら似たアイテムがありますよ」とか、「プレゼントとか何かですか?」「夏物をお探しですか?」「ご自宅でお使いの予定ですか?」といったお客が来店した理由を探っていく言葉をかけるようにすべきなのだ。

近づく時には、
お客のパーソナルスペースを意識する

 しかしそのままだとお客にアプローチはできない。上級の販売スタッフがやるのは、お客の動きに合わせ、作業をしながらカニのように横歩きで移動することだ。そしてお客が立ち止まって悩んでいる時を見計らって、徐々に近づく。
 この時絶対していけないのが、一気に正面から近づくことだ。お客の威圧感はマックスである。
 近づく場合は、横からゆっくり近づき、2メートル手前で一旦立ち止まるのが理想だ。そこでお客の様子を伺う。しばらくしたらそこから2歩近づく。この時、逃げるようなそぶりを見た時は「まだ」のサインだ。また2歩戻る。2メートルから2歩近づくとお客との距離はだいたい1. 2メートルとなる。この1.2メートルという距離は心理学的にパーソナルスペースと言われる距離で、家族や友人、恋人など信頼関係がないと入れない距離と言われている。お客が逃げるようなそぶりをするのは、心の準備が整っていないためだ。
 ではどのタイミングで近づけばいいのか。お客が販売スタッフをチラッと見た時だ。「私に近づいて欲しい」というサインである。

近づく時には
お客の動きのスピードに合わせる

 この時、気をつけなければならないのが、お客の動きの速度だ。基本はお客のスピードに合わせる。動きのゆったりしたお客は、ゆっくり買い物をするのであせらずじっくり様子をうかがって近づく。逆に動きの速いお客は、買い物のペースも速く、さっと見て帰ってしまう可能性が高い。だから、1度拒否されても、2度めに近づく際は早めのアプローチがポイントとなる。
 この駆け引きはなかなか慣れないと苦痛かもしれない。だが経験値が上がれば、販売スタッフの動きはスムーズになり、余裕ができるようになる。余裕が生まれてくれば、観察力が増し、売り上げを伸ばすことができる。

売るためには
販売のプロセスを理解する

 売るためには販売のプロセス(流れ)とプロセスごとのポイントを抑える必要がある。
 販売のプロセスは次の通りだ。

①お客の観察
②アプローチ
③商品説明(商談)
④クロージング
⑤リピーター獲得

観察力が売り上げを左右する


 ①のお客の観察は、入店したお客の観察である。観察力は販売スタッフの経験やセンスで差が出るが、成功体験や失敗経験を分析していくことで、観察力と対応力が増していく。
 ポイントは…
(1) お客の表情を観察し、喜怒哀楽を読み取れるか
(2) お客の持ち物から生活環境(職業や趣味など)を想像できるか
(3) 店全体の状況を見て適切な販売行動を取れるか
(4) 常連のお客が来た時に小さな変化に気づくことができるか
 となる。
 お客ばかりではなく(3)の店全体の状況を判断できることも重要だ。1人のお客に拘っていると、いつの間にかレジの回りに長い行列ができたり、荷物が大量に入荷してとりあえず通路を確保することが求められたり、状況に応じて臨機応変に動けるようでないといけない。

百貨店で午前中ゆっくり店を
見ている人がいたら「お金持ち」

 販売コンサルタントの橋本和恵さんによれば、観察力が増せば、「お客がどのくらいお金を使うか分かってくる」という。橋本さんはお金持ちかどうかは、歩き方で分かるそうだ。百貨店などでは平日の午前中に、個別の商品ではなく、店全体を見渡しながらゆったりと歩いている人がいたら、金持ちである可能性が高いのだ。
 なぜゆっくりとした歩き方になるかというと、こういった人は商品の原価や利益を計算するのが癖で「ここには従業員が6人いて、商品原価はこのくらいで、家賃がこのくらい、だから利益は…」と考えながら歩くからだそうだ。こういう人には単価の高い商品を勧めると効果的なことは言うまでもない。
 百貨店で、昼過ぎとなると、家事を午前中に終えた主婦が目立ちはじめる。すると橋本さんは販売戦略を変える。1人あたりの単価を上げようとせず、単価を下げてより多くの人に売るようにするのだ。

スーパーやモールで、ショッピングカートを
上下2段につけている人は「買う気満々」

 また、商品購入準備が整ったお客も分かるという。たとえばスーパーでは「ショッピングカートの買い物カゴを上下2段に設置しているお客」だ。また一緒にいる人もポイントだ。男性がいれば、重い荷物にも対応できるので、かなりの量や大型のものを買う可能性が高くなる。
 着ている服によっても購買の意思が変わってくる。橋本さんよれば、黒っぽい服を着ている人は、自分の意志をしっかり持っていて回りに流されにくく、じっくり話を聞いて、ポリシーを探る必要があるという。これに対して薄い色の服を着ている人のほうが、黒っぽい服の人より売れる率が高くなる。

買い物袋やショッピングバックを
たくさん持って入ってきた人は、まだまだ買う

 また両手に買い物バッグをたくさんぶら下げている人は、片手にバッグ1つしかない人より買う気があるという。入店した時にショッピングバッグをたくさん持っているから「もうこれ以上は買わないだろう」と思いがちだが、お客の心理は逆。「買う気満々」だという。

 靴もポイントだ。とくに「女性の場合はヒールの高さと美的センスは比例する」法則がある。ヒールが高い人ほど見た目に拘る傾向があるからだ。従ってこうした人にとってはファッションや美容に関わる商品は高額でも売れるのだ。

肌の色から趣味が分かる

 さらに橋本さんは、肌の色から趣味を読んで、商品を勧めるきっかけにしたこともある。時計を販売していた時には、腕周りが気になってくるので、日焼けをしていると、どんな趣味や嗜好があるかを探り出して、販売につなげていた。たとえば片手だけ日に焼けている人はゴルフをしている可能性が高くなる。ゴルフは片手だけ手袋をしてプレーするのが一般的だからだ。両手が日焼けしている場合は、釣りをしている可能性が高いという。
 釣りが趣味だと分かれば、防水性や夜や真昼での視認性などを説明できる。ゴルフが趣味なら「ゴルフをやられる方は、こちらの商品が人気ですよ」と伝えると会話が弾むという。このように、ちょっとした観察眼でお客の嗜好や予算、買う意志が見えてくるものなのである。

180cm以上の男性、165cm以上の女性は
お客に威圧感を与える

 ②のアプローチはお客に近づき、声がけすることである。
 ポイントは
(1)声がけに心理的な抵抗がないか
(2) お客に声をかけて逃げられる確率が5割以上か
(3) 1度アプローチに失敗しても2度目のアプローチを実践できるか
(4) お客のしぐさから「今は声をかけてもいい」というサインを読み取ることができるか
(5) 声がけのタイミングについて、自分のルールを持っているか、
   である。
 アプローチは人によって方法が違ってくるが、基本はお客に威圧感を与えないことだ。気をつけたいのが、身長の高い販売スタッフだ。お客に対してはできるだけ同じ目線以下で会話できるのがベストだ。高身長のスタッフ、男性は180cm、女性は165cmを超えると威圧感を与えるので、アプローチの際の目線には注意したほうがいい。

近づく際には
「挨拶プラス笑顔3秒」が基本

 もちろん、近づく際には笑顔は欠かせない。橋本さんによれば、声がけの鉄板は「挨拶プラス3秒の笑顔」だという。人は笑顔の人を無視することは難しいからだ。
 ③の商品説明(商談)は、商品の特徴を理解し、お客のニーズを汲み取りながら目的にあった商品を絞り込むことだ。
 ポイントは
(1) 商品の内容や特徴について聞かれた時に、90%以上即答できるか
(2) 商品メリットを分かりやすく伝えることができるか
(3) お客が商品を使う場面を想像できるか
(4) 男性のお客と女性のお客で商品説明を変えているか
(5) クロージングをかけなくても説明だけで80%以上のお客が購入しているか、となる。

新しいワンピースが
欲しい女性の深層心理とは?

 ここでは商品の知識はもちろん、お客の潜在ニーズ(課題)をきちんと捉えることが重要になる。潜在ニーズが分かれば、仮に在庫を切らしていても、別の商品や別のサービスで対応が可能となる。
 たとえば、アパレル系の店舗に来店した女性客が「ワンピースが欲しい」と来たとする。この場合どのような接客をすべきか。
 言われたとおりワンピースコーナーに案内し、説明するのか。もちろんブランドサイズが明確であれば、売り場に案内すれば購入確率は高くなる。しかし橋本さんによれば「ある商品が欲しいという発言の裏には、その商品によって満たしたい願望が必ず隠されている」という。仮に花柄のワンピースであれば、「可愛く見せたい」という願望が隠れている可能性が高い。要は可愛いと思われる願望を満たせば、商品はワンピースでなくてもいいのだ。これは先に紹介した犬小屋の「穴」にも通じる話だ。

商品は買ったその人が
使うとは限らない

 もう1つ、商品説明の際に気をつけたいことは、その商品を誰が使うかということだ。「買った人=使う人」ではない。同じ人が使う場合でも、会社で使うのか、プライベートで使うのか、プライベートでも父親として使うのか、息子として使うのか、友人として使うのかで、選ぶ商品は変わってくる。

商品説明には
数字を入れるようにする

 また商品説明の際には、できるだけ数字を入れるようにしたほうがいい。数字を入れるとより客観的になり、お客のイメージを広げるきっかけにもなるからだ。
 たとえば、オーガニックコスメなら「30代女性200人中135人が、このメイク落としに5点中4点以上の評価をつけています」、「◯◯ランキングで1位を獲得した」などと説明すれば、説得力が増す。そのため自分の扱う商品のライバルが何であるか、市場でどのように評価されているのかは常に頭に入れておく必要がある。

お客の財布事情と自分の財布事情を
混同しない

 ④のクロージングは、十分な商品説明や価格の交渉の後、購入を決断してもらう行為だ。意外と長年営業や販売に関わっている人でも知らないという人が少なくない。どれほど長い接客をしてもこのクロージングで失敗すると時間と労力が無駄になる。
 クロージングのポイントは
(1) そもそもクロージングとは何かをしっかり説明できる
(2) お客が価格で購入を迷っていたら、価格の理由の説明ができる
(3)「 ちょっと高い」というお客の言葉への返しを3パターン以上持っている
(4) お客によってクロージング方法を変えることができる、である。
 調査によればクロージングが苦手な人は、総じて「セルフイメージの低い人」が多いことが分かっている。自分は売れない、あの人には敵わないといったネガティブな自己イメージを持ってるとクロージングはうまくならない。
 とくにセルフイメージの低い人に共通するのが、自分の財布事情とお客の財布事情を混同することだ。お客のタイプを観察して、この人はこのくらい買うだろうと予測することは、販売の精度を上げるうえで必要だが、その基準は自分ではない。いくら使えるのか、いくら使うのかはあくまでお客が判断することだ。だから迷っているからと言って、その理由を価格にだけ求めるのではなく、ほかの要因をしっかり探っていくことが大事だ。

お客の予算から割り出す
「即決金額」の法則

 とは言え、的外れな金額では売れるものも売れなくなる。そういった場合は、最初に予算を聞いておくといい。橋本さんによれば、お客には即決金額があり、その目安はだいたい「÷2プラスα」だという。聞き方も「だいたいご予算はおいくらぐらいでしょうか?」という言い方ではなく、「このくらいになると手が出せないという金額はありますか」という聞き方をするという。
 この時、「5万円くらいかな」と答えたら、即決金額は2万5000円プラスαで、だいたい2万8000円くらいとなる。この即決金額が分かれば、戦略を変えることができる。たとえば1時間に5万円のお客を2人決めるのではなく、1時間に4人のお客を決める戦略に変えるのだ。そうすると必然的にアプローチするお客も増えるので、結果として売り上げアップに繋がるということになる。


 お客の「買う」「買わない」という決断は無か有のデジタルな結果をもたらす。ただ心理としては「買わない=89%」「買う=11%」である場合もあるし、「買わない=51%」「買う=49%」である場合もある。前者を「買う」という結果に持って行くには相当なエネルギーを使うが、後者ではちょっとした言い方や説明が加わるだけで「買う」という判断に変わる可能性が高い。クロージングではこの比率がどのくらいなのかを見極めることも重要だ。買わないのはもしかしたら、タイミングが悪いだけなのかもしれないし、あとひと押しの言葉が足りないだけなのかもしれない。

お客の代表的な断り文句を
切り返すフレーズを持つ

 橋本さんよれば、お客が断る際の言い方にはパターンがあり、その対処法を考えるだけでも売り上げがぐんと伸びるという。
 たとえば、ファッション業界で最も多い断りの理由は、「値段が高い」ということ。しかし値段が高いという言葉は、買えそうで買えないギリギリの価格だということ。もしお客の想定を遥かに上回る価格であれば、高いとは言わず、そのまま帰っているはず。この場合はなぜその価格なのか、競合店、競合商品との比較、まだ足りていない商品説明部分などを話して、納得してもらうようにすると「買う」という気持ちに振れていく。
 ファッションで次に多いのが「流行モノは今年限りで、買うともったない」という理由。このようなお客は商品は気に入ってるので、たとえば「アレンジ次第で来年も着ていただけます」「最近のトレンドは2〜3年続くので来年も着られますよ」など、その不安を取り除くようなトークができれば、買う可能性が高くなる。
 また「同じようなものをもっている」という理由を挙げるお客も多い。基本的に人の趣味、嗜好は大きく変わらない。だから同じようなものが増えてしまうのである。
 その場合は、「好きなものはやはりお似合いになるんですよ」「同じものでもよく着られるなら、洗い換えに必要ですよ」「色違いで持たれる方もいらっしゃいますよ」と言ったり、「ふだんのお洋服はどんな感じですか」と言ってコーディネートを提案したり、雑誌を見せて「このような組み合わせもできますよ」とイメージを膨らませるといい。

頷きがリピーターを増やす

 店が安定的に売り上げを上げていくには、リピーターをつくることが大事だ。リピーターをつくっていくためには、訪れるたびに変化がある、発見があることが重要だが、販売スタッフの対応ももちろん重要だ。リピーターになる客にとって販売スタッフに何を求めているか。それは「安心感」だ。安心感を分解すると「悩みに対応してくれること」と「売り込まないこと」だ。
 お客は商品によって何らかの願望を叶えようとしている。課題を解決しようとしている。その方法が分からないから店頭で迷う。その真の願望を引き出し、課題を解決するような姿勢を見せれば、お客は「この人なら任せて大丈夫」という安心感を得る。接客の際はその姿勢をきちんと見せる。もっとも効果的なのは「頷き」だ。心理学的には頷きが多いほど、相手が安心するというデータが上がっている。「この人に話して安心」と信頼されば、お客は自分からいろいろな悩みや願望を話してくれる。信頼できる販売員がいる店は、お客がお客を呼んでくる。
 すなわち現代において販売員の仕事は、商品を売るのではなく、お客の問題を引き出して解決することなのである。

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