読めばきっと何かが変わる。今だからこそ読んでおきたい古典・名著
一般に名経営者と呼ばれる人たちは、おしなべて読書家だ。しかも古典や名著と呼ばれる本などを、何度も繰り返し読みながら経営の奥義や人生の奥義を学び、日々の事業活動に活かしている。
たとえばユニクロブランドで知られるファーストリテイリングCEOの柳井正さん。柳井さんは、ユニクロがまだユニクロの名前もない衣料品店の若店主だった頃から「ひょっとしたら1兆円企業になるかもしれない」と信じ、現場で経営を体験しながら、膨大な読書量でその夢を実現してきた。
経営に関わる本を中心に読んだようだが、その読み方は独特で、本田宗一郎や松下幸之助、マクドナルド創業者のレイ・ロックなど、すでに功成り名遂げていた当時の経営者の著した本や伝記などを「書いた人と対話するように」読んだという。
メンター(優れた指導者、よき助言者)という言葉があるが、柳井さんにとっては、本の書き手が自分のメンターなのかもしれない。あなたにとってよきメンターとなる古典や名著はあるだろうか。
目次
経営学の発明者
ピーター・F・ドラッカー
「著者と対話するように読む」柳井さんが、ビジネスマンに勧めているのが、ピーター・フェルナンド・ドラッカーだ。
ドラッカーと言えば、経営者なら知らない者がいないと言われる経営学の泰斗だ。「もしドラ」の愛称で大ブームを起こした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』という小説の題材として知っている人も多いだろう。
もしドラは、主人公が女子高校生、しかも甲子園を目指す高校野球チームのマネージャーという意外性が受け、活字離れが語られるなかで異例の250万部以上の大ベストセラーとなった。版元のダイヤモンド社では、創業以来初のミリオンセラーとなったそう。
数多くビジネス書を手がけてきた同社としては、意外な気がするが、企画もさることながら、やはり経営学者ドラッカーの偉大さを感じざるを得ない。
ドラッカーの場合、その思想と理論を経営に取り入れ、深化、発展を図る「ドラッカー学会」という学術団体もできている。
日本での会員は財界・学会約800人から成り、トヨタ自動車の名誉会長の豊田章一郎さんやセブン&アイホールディングスの名誉会長である伊藤雅俊さん、ファーストリテイリングCEOの柳井さん、ドラッカー学会の創設者であるものづくり大学名誉教授上田惇生さん、日本企業における暗黙知の重要性を説いた一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんなど、陰の経団連と言えるほどの錚々たる顔ぶれが参加している。
「企業の目的は顧客の創造である」
ドラッカーの代表作は多数あるが、「もしドラ」の主人公の女子高校生が偶然手にした本、『マネジメント』は、まさにドラッカーの真髄。経営のエッセンスが凝縮されている。
たとえばドラッカーは、現代企業についてこう喝破している。
「企業は何かと聞けば、ほとんどの人が営利組織と答える。経済学者もそう答える。だがその答えは間違っているだけでなく、的外れである。経済学は利益を云々するが、目的としての利益は『安く買って高く売る』との昔からの言葉を難しく言いなおしたに過ぎない。それは企業のいかなる活動も説明しない。活動のあり方についても説明しない。
利潤動機には意味がない。利潤動機なるものには利益そのものの意義さえまちがって神格化する危険がある。利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは企業や企業活動にとっても必要である。しかしそれは企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である」
ここまで明快に語られると気持ちがよくなる。
では企業とは何か。ドラッカーは続ける。
「企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれ企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は1つしかない。それは、顧客を創造することである」と。
そして、その顧客を創造する活動がやがて市場を形成していく。
「市場をつくるのは、神や自然や経済的な力ではなく企業である。企業はすでに欲求が感じられているところへ、その欲求を満足させる手段を提供する。それは、飢饉における食物への欲求のように、生活全体を支配し、人にそのことばかり考えさせるような欲求かもしれない。しかしそれでも、それは有効需要に変えられるまでは潜在的な欲求であるにすぎない。有効需要に変えられて初めて市場が誕生する」のだと。
しかしながら日本に限らず、現代社会ではその潜在的な欲求を消費者自身が察知できないことも増えている。ドラッカーは答える。
「欲求が感じられていないこともある。コピー機やコンピュータへの欲求はそれが手に入るようになって初めて生まれた。イノベーション、広告、セールスによって欲求を創造
するまで、欲求は存在しなかった」「顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である」
そしてさらにこう語る。
「企業の目的は、顧客の創造である。したがって企業は2つだけの基本的機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」と。
まるで曇天続きの空にパーッと光が差し込むような明快さがある。実はドラッカーを一躍有名にしたのは、『マネジメント』ではない。『新訳・現代の経営=The Practice of Management』。直訳するとマネジメントの実践だ。
新訳・現代の経営の日本語版は1954年に発行され、上下巻合わせて600ページを超える、かなりのボリュームの本だが、日本で100万部が売れている。世界では500万部のベストセラーとなった。その内容は多くの経営者、学者に影響を与えている。
「ある大企業の幹部は、民間企業に入ったあと、大学に残って学問の道に進むべきだったか、役所に入って国のために働くべきだったか悩んでいたという。そのとき、世界で500万部、日本だけで100万部の大ベストセラーとなった経営学の古典『現代の経営』の冒頭の言葉、『経営管理者は事業に息を吹き込むダイナミックな存在である。彼らのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない』を読み、自分の選択は正しかったと勇気百倍したという」(『ドラッカー入門』[上田惇生])。
世界中の経営コンサルタントから
「コンサルタントの師」と
仰がれるドラッカー
ドラッカーは名だたるコンサルタントからも尊敬されており、「コンサルタントの師」とも言われている。
世界的経営コンサルティグ会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントたちが著した、MBAのバイブルと言われる『エクセレントカンパニー』。その著者の1人、トム・ピーターズが、ドラッカーの『現代の経営』について、「私たちの書いたことは、すべて『現代の経営』に書かれている」と言っているほどだ。
ドラッカーの信奉者、ファーストリテイリングの柳井さんも、数ある本のなかでこの『現代の経営』を推している。柳井さんはほかにドラッカーの著書では、『プロフェッショナルの条件』を勧めている。
プロフェッショナルの条件には、現代のような知識集約型社会におけるプロフェッショナルのあり方が、マネジメント視点から凝縮されている。ドラッカーのすばらしいところは、その論の背骨が個人のあり方まで一貫して繋がっていることだ。彼が開発した「マネジメント」が、自己のマネジメントに対しても適用されている。
プロフェッショナルは、目的に向って常に自己変革し、生産性を高めていく存在であり、そのために自らをマネジメントしなければならないと説いている。
ドラッカーがいう自己変革とは、次の6つだ。
① 目標とビジョンを持つ
② 仕事に真摯さを重視し、完全を求める
③ 生活に継続学習を組み込む
④ 自らの仕事ぶりの評価を、仕事そのものの中に組み込むこと
⑤ 行動や意思決定についての期待を記録し、検証することで、自らの強みを知る
⑥ 新しい仕事が要求するものについて徹底的に考える
自分の仕事ぶりを客観視し、強み、弱みを知って、学習時間を取って、新しい仕事に求められているものを徹底的に追求するのがプロフェッショナルなのだ。
ファーストリテイリングの柳井さんの生活ぶりは、まさにこのプロフェッショナルを具現化しているようでもある。
2500 年の時を経て
読み継がれる戦略・戦術論
ドラッカーのマネジメントは、現代経営の古典だが、悠久の時を超えて読み継がれる古典もある。中国の兵法書『孫子』はその代表格だ。愛読者は非常に多く、ソニーの創業者の盛田昭夫さん、ソフトバンク創業者の孫正義さん、マイクロソフトの創業者のビル・ゲイツさんなど、世界中の経営者を唸らせた。
孫子は今から約2500年前の、紀元前5世紀後半から4世紀にかけて孫武という思想家によって著された戦争の総合書である。
そのなかの一節、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という教えはあまりにも有名だが、まるで現代のビッグデータ時代を予見するように情報と戦略の重要性を説いていることは、まさに時代を超越した先人の慧眼と言える。
孫子は他のビジネス名著と同様に、多くの関連書や解説書が生まれている。現代語訳ということではなく、その後世になってからもいくつもの関連書が生まれているのだ。
宋の時代には、当時の戦術家・思想家11人の注釈を集めた『十一家注孫子』や、孫子の兵法の実践に必要なことが書かれた『行軍須知』、その戦法の具体例を著した『百戦戦法』、内容を要約して解釈を添えた『虎鈴経』などが生まれ、時代が下った明の時代には注釈をつけた『孫子参同』『握機緯』、さらに清の時代になっても孫子に注釈を加えた『孫子彙征』『兵鏡』など、多くの解説書、注釈書が誕生している。
その構成は、序論の「計」編に始まり、準備計画について述べた「作戦」編、戦わずに勝利を収める方法について述べた「謀攻」編、攻撃と守備の形について述べた「形」編、態勢と軍勢について述べた「勢」編、戦争における主導性の発揮の仕方について述べた「虚実」編、敵の機先の制し方について述べた「軍争」編、戦局の変化への対応の仕方を述べた「九変」編、軍を進める上での注意事項について述べた「行軍」編、地形による戦術の違いを述べた「地形」編、さらに火攻めの戦術について書かれた「火攻」編、9種類の地勢について書かれた「九地」編、そして諜報活動について書いた「間」編の13の編に分かれて、細かに書かれている。
特筆すべきは序論の「計」編。いわゆる「まえがき」ではなく、戦争を決断する前に考慮すべきことを述べている。
経営を生き残りをかけた戦争になぞらえれば、日々繰り広げられる事業活動は戦いの繰り返しと読み取れる。それゆえその戦いが戦う価値がある戦いなのかを考えることは重要になってくる。
変化の激しい時代。やってみなければわからないことが、たくさんある。しかし孫子の時代は下手に戦いに参戦して、負けてしまえば、国家そのものが簡単に消滅する危険があった。だからこそ軍師やトップは全知全霊をかけて戦いを学び、分析し、シミュレーションをかけるのだ。
孫子の計編にはこうある。
「勝を知るに五有り。此の五者は勝を知るの道なり」と。つまり勝つためには5つの力を見極める必要があると。
①戦う時と戦わない時の見極め。
② 大部隊と小部隊の任用、運用法の違いを知ること。
③ 上の者と下の者が一体となっていること。
④ 事前の準備が万全で、敵のスキをつけること。
⑤ 将軍が有能で、君主が過剰な口出しをしないこと。
これを現代に言い換えると「知識」「判断力」「統率力」「企画力」「権限移譲」、この5つが揃って初めて戦えるということになる。その際大事なことは、戦わないという判断ができるかということ。間違ってはいけないのは、戦争書だからと言ってすべてが整ったら開戦ではないということだ。むしろ戦わないことの見極めこそが経営には重要になる。
加えて言えば戦う相手は、必ずしも競合だけとは限らない。
先の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」の後には、次の言葉が続く。
「彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし」
つまり、自分をしっかり理解し、足元をしっかり見て、敵を知ることだと。ここで言う敵とは、目に見えているライバル会社のみならず、見えていない潜在的なライバル会社であり、潜在的顧客であるということだ。
世界で4000万部を売り上げた
『7つの習慣』とは
世界の経営者に大きな影響を与えているのは、ドラッカー以外にもいる。『7つの習慣』を著したスティーブン・R・コヴィーもその1人だ。
『7つの習慣』は、1989年にアメリカで出版され、翌年には翻訳本が各国で発行されて、累計4000万部を突破したまさに世界的大ベストセラー。日本では少し遅れて1996年に出版され、こちらも2020年4月1日まで240万部の大ヒットとなっている。アメリカのビジネス誌「フォーブス(Forbs)」は「最も影響を与えたマネジメント部門の書籍」のベスト10に挙げ、また日本では雑誌「プレジデント(President)」が行なった「どの本どの著者が1番役に立つか」アンケートで1位となったこともある。
愛読者も多く、アメリカ元大統領ビル・クリントンさんをはじめ、P&G元社長のジョン・ペッパーさん、アメリカ国家航空宇宙局局長のジェームズ・C・フレッチャーさん、トヨタ自動車の元会長奥田碩さんなど東西の政財界要人、学者に影響を与えている。
コビィーが掲げる7つの習慣とは、次の7つ。
①主体性を発揮する
②目的を持って始める
③重要事項を優先する
④Win-Winを考える
⑤理解してから理解される
⑥相乗効果を発揮する
⑦刃を研ぐ
いずれも、言われてみれば「な〜んだ」と思うことばかりかもしれないが、知っていても、思っていてもできないからこそ、この7つの習慣が受けたのだと考えられる。
7つの習慣では第1の習慣の前に、70ページほどの前書きがある。そこには「真の成功とは何か」という、到達点について述べられている。
そこでコヴィーは「人の成長も人間関係も自然のシステムであり、農場の法則が支配している」と説いた。農場の法則とは、場当たり的な詰め込み主義で作業せずに、春にきちんと種まきをし、夏に遊び呆けず、きちんと世話をして、秋に収穫をするということ。
「必要な務めを果たし、作業を行わなければならない。蒔いたものしか刈り取ることができない。そこ(真の成功)に近道はない」ということだ。
習慣ということを3つの要素に分解していることも特徴だ。3つの要素とは、「知識」「スキル」「やる気」だ。「知識は、なぜするのか、何をするのかという2つの質問に答えてくれる。スキルは『どうやってするか』を示すものである。やる気は動機であり、『それを実行したい』という気持ちである。生活のなかで習慣を確立させるためには、この3つの要素がどれも必要である」と説いている。
習慣というと、とかく無意識に行なっているものと思いがちだが、習慣化していくためには、やる気だけでも、知識だけでも身についていかないものだということをコヴィーは教えている。
政治家、名監督、名経営者の
バイブル、『菜根譚』
古典・名著には、リーダーとしてのあり方、人生の生き抜き方のコツをまとめたものも多い。
中国の明の時代に書かれた『菜根譚』もその1つ。いわゆる処世訓の集大成だが、古今東西のリーダーたちに親しまれた名著だ。
日本では、首相となった田中角栄さん、東急グループの創業者五島慶太さん、小説家の吉川英治さん、プロ野球巨人軍の監督で黄金期を築いた川上哲治さん、名将・知略家監督と知られる野村克也さんなど、その道のカリスマたちが愛読書としていたと言われている。
「仮に悪事を働いたとしても、人に知られることを恐れているなら、まだ見どころがある。せっかく善行を積んでも早く人に知られたいと願うようでは、すでに悪の芽を宿している」
「人間関係では好き嫌いの感情を表に出しすぎてはならない。善悪や賢愚を問わず、みな受け入れていくだけの、包容力を持ちたい」
「人が世の中を生きてゆく時は、自分から一歩譲ることがより優れた道である。この一歩を譲ることが、次の一歩を進める根本となる」
などなど、噛みしめたい言葉が並んでいる。
ニーチェも愛読。
ヨーロッパ人の処世バイブル、
バルタサル・グラシアンの
『賢人の知恵』
同様にヨーロッパでは中世のスペインで活躍した神学者、バルタサル・グラシアン・イ・モラレスの『賢人の知恵』が知られている。その傾倒者は数多く、ニーチェやショーペンハウエルといった哲学の巨人、日本の森鴎外などが激賞したとされている。
もっとも章を割いている「人とのかかわりについて」では、「相手の欠点を受け入れる」「他人のあら探しをしない」「優れた人とつきあう」といった言葉がある一方で、「人の不幸に同調しない」「相手の短所に目をつぶらない」「運のいい人を見極める」「平凡な人とつきあう」「自分の対極にある人とつきあう」「八方美人になる」といった、ちょっと二律背反的では? と思えるような言葉も出ている。また成功についての章では、「逆境に備える」「競争を避ける」「絶頂期を見極める」といった深い言葉が並ぶ。
時にシニカルにすら思える言葉は、まさに「賢者の知恵」の面目躍如といったところだろう。
累計545万部。
経営の神様、松下幸之助の
『道をひらく』
名経営者が著した本も時代を超え、ジャンルを超えて読み継がれることが多い。なかでも経営の神様と呼ばれたパナソニックの創業者、松下幸之助の本は多くの商売人のバイブルとなっている。京都大学出のインテリ芸人として知られる宇治原史規さんは幸之助が残した『若さに贈る』を、お笑い芸人の学校に行きだした時に読みたかったと漏らしているほど、業界を超えて打つものが詰まっているようだ。
松下幸之助の本もドラッカー同様にたくさん出版されているが、なかでも有名なのが『道をひらく』。自身が立ち上げたPHP研究所の機関誌に書き綴ったなかから抜粋したもので、これも日本中の企業経営者の圧倒的な支持を得ている。累積部数は545万1600部(2021年1月)で、最も多く発行されたビジネス書として日本記録に認定されている。
このなかで一貫して述べていることは、愚直に前向きに仕事に取り組む姿勢だ。本の冒頭にはこんな言葉が載っている。
「雨がふれば、人はなにげなく傘をひらく。この自然な心の働きに、この素直さに私たちは、日ごろあまり気づいてはいない。だがこの素直な心、自然な心のなかにこそ、物事のありのままの姿、真実をつかむ偉大な力があることを学びたい。何ものにもとらわれない伸びやかな心でこの姿と自分の仕事をかえりみるとき、人間としてなすべきこと、国としてとるべき道が、そこにおのずから明らかになるであろう」
幸之助は、与えられた仕事、自分の道を極めていくことで、日本人一人ひとりが成長し、日本という国が世界に誇れる国に成長できると信じてやまなかった。
松下幸之助が師と仰いだ
東洋思想家、中村天風
その松下幸之助が信奉していた人物の1人が、中村天風だ。日本人で経営者に読まれる人物としては、東洋思想家や宗教家なども多いようだが、中村もその1人。松下幸之助のほか、現代の経営のカリスマ稲盛和夫さん、日本初の平民宰相と言われた元首相の原敬さん、元プロ野球ヤクルト監督を務めた広岡達朗さん、往年の名横綱双葉山定次さん、近年では元プロテニスプレーヤーの松岡修造さん、二刀流メジャーリーガーの大谷翔平さんらが私淑しているという。
中村は武術の使い手であり、また語学が堪能な才気煥発の青年であったが、血の気が多く、数々の問題を起こしていた。右翼団体の大物にも可愛がられ、日清戦争時代には軍事スパイとして活躍、初代中華民国初代大統領となった孫文と親交を持ち、孫文が起こした第二革命を中華民国最高顧問として支えた。
喧嘩早く武勇伝の多い天風であったが、結核が発症し、治療のためにアメリカやヨーロッパを巡るも思い通りの結果は得られなかった。ところが帰路の途中で知り合ったヨガの聖人に魅せられ、ヒマラヤの麓で2年半の修行を重ねると結核は完治。さらに悟りを拓いたとされる。
帰国後は新聞記者や銀行家として活躍した後、講演活動に注力。その奇異な生い立ちも含めて次第に政治家や実業家が教えを請うようになっていった。
中村の思想のベースには、人間は生まれ持って成長し進化していく、偉大で尊厳な「宇宙原則」があり、その法則を活かした「一身独立」の人間となることを望んでいた。自然の法則に則った、その人それぞれの特性を活かした成長が豊かな社会を育むという視点は、まさに松下幸之助の『道をひらく』に通じている。
このほか、禅の研究で知られる明治時代の仏教家で東洋哲学者の鈴木大拙、日本における帝王学の祖と言われ、歴代の総理の相談役だった東洋思想家の安岡正篤などの著書もよく読まれている。
海外では、自己啓発哲学者のデール・カーネギー、ナポレオン・ヒルなども経営者、ビジネスパーソンの支持を集めている。
ハーバードが
なぜビジネスを学ぶに値する場所なのかがわかる
デイジー・ウェイドマンの「ハーバードからの贈り物」
古典や名著は、類まれなる才能をもった経営者や学者、あるいは小説家という個人が著していくものだが、影響力のある著作物を出し続ける組織も少なくない。その1つがハーバード大学だ。
実際その教壇に立つ人材はそのネームバリューに違わず、魅力に溢れ、明快で飽きさせない講義をする人ばかりのようだ。
こうした魅力的な講義のなかでとくに人気があるのが、ハーバードビジネススクールで卒業前の学生に贈る「最終講義」だと言われている。
その講義を集めた本にデイジー・ウェイドマンの「ハーバードからの贈り物」がある。古典でも名著ともされていないが、あえて入れたい一冊だ。
そこで語られる内容は、学問の集大成ではなく、人間としていかに有意義な人生を送るかという餞の言葉が、時にユーモラスに、時にセンチメンタルに語られている。合理的で冷徹に生産管理を説く学者が、登山で滑落して受けた無償の、かつ命がけの救助への問いかけ。成績優秀者に行なった卒業後の調査で、成績に応じて業績が上がっていくことはなかったと報告する財務・法律の学者、娘の視野を広げるためにバイク旅行に連れていき、娘から大きな影響を受けた臨床心理士の資格を持つビジネススクールのキャリアプログラム創始者、成功者と言われる人の共通項が、複雑で聡明で欠点のある”完全な人間である”などなど……。
「人生や経営は、どれだけしっかり学んでも思い通りにはならない。だから困難に打ち勝つ忍耐力と、落ち込んでもゴムマリのように跳ね返るポジティブな意志こそが、成功にたどり着くのだ―」
なるほど、ハーバード大学はビジネスを学ぶにふさわしいすばらしい大学であることがわかる気がする。
読み継がれる本には読み継がれるだけの理由がある。活字離れが語られる現代だからこそ、じっくり本と向き合いたいものだ。機会があれば、またいくつか紹介したい。