【インタビュー】世界初、98%プラスチックを削減した使い切りカミソリ「紙カミソリ®」─問うのは、環境性だけではない。
国産で初めて替刃カミソリを開発した刃物メーカー貝印が、昨年発売した「紙カミソリ®」。刃以外の本体のうち、98%が紙でできた世界初の使い切りカミソリだ。
昨年ネットでテスト販売するとわずか3日で完売。その後も品薄が続く人気商品となっている。サスティナブルなコンセプトだけでなく、優れたデザイン性や、自分でカミソリを折り紙のように自作する楽しさなどが評価され、日本デザイン振興会主催 の「2021 年度グッドデザイン賞」における「グッドデザイン・ベスト100」や、世界三大デザイン賞の1つとされる「iF DESIGN AWARD2022」の最高賞など、さまざまな賞を受賞。カミソリの歴史にイノベーションを起こした。
環境意識の高い同社ならではの究極のエコに挑んだ企画かと思いきや、むしろ創業以来110 年以上磨いてきたその「切れ味」を示すプロジェクトとして始まったという。
その企画の裏には、エコにとどまらない老舗企業としての深いメッセージが込められていた。
同社マーケティング広報宣伝部の木皿春香さんに紙カミソリ誕生の背景と今後の商品づくりの哲学について伺った。
目次
耐久性、デザイン性、発色…紙と格闘し、試作品100パターン
BIZ● 従来比でプラスチックを98%削減した紙カミソリ。見た目もすごいインパクトで、斬新なアイデアだなと思いました。いまローソンさんで商品展開しているようですが、すごい人気のようで、地元福井ではなかなか見つかりません。弊社社員が手に入れようとしたら4店舗目でようやく購入できました。そもそも、どういった経緯でこの紙カミソリは誕生したのですか。
木皿● 企画の出発点は、100年以上の歴史のある老舗として、この先の100 年に向けて新しい価値を持つものを生み出すべく、「1day カミソリ」で最高の切れ味を極めようと開発を進めました。
弊社はファミリーカンパニーで、現在の社長で4代目になります。これまでも1代1代ごとに、何か1つ新たな分野の商品を築き上げてきたのですが、去年4代目社長が就任したことから、今回も何か1つつくろうという考えがベースにありました。
ただその1日だけ、1回限りのカミソリを謳う中で、プラスチックで対応するのは現在の環境への取り組みとは逆行しているということで、解決策の1つとして出た案が紙だったということです。
BIZ● ターゲット層はどういった方ですか? 男女比や年代も含めて、どの程度具体的な数字で取り組まれたんでしょうか?
木皿● 男女の絞り込みはなく、ジェンダーフリーを考えています。組み立て前はすごく薄くて軽いの
で、旅行などに携帯したいというお客様ですとか、ホテル様のアメニティ、そういうところをターゲッ
トにしていました。
BIZ● 紙でつくろうと最初に発案されたのは?
木皿● 開発メンバーです。紙スプーンから着想を得て紙カミソリの試作を進め、開発にいたりました。
BIZ● そうなんですか。実際にどのくらいの期間で商品化に至ったのでしょうか?
木皿● 2 年くらいです。試作がだいたい 100 パターンぐらい。
BIZ● 100パターン!! その100パターンの中で特にこだわったところはありますか? 耐久性とか、紙の選定などはもともと事業分野が違うので、相当苦労されたと思うんですけれども……。
木皿● そうですね。基本的に刃物メーカーなので、紙については分からないことばかりで、製紙メー
カーからたくさんのサンプルを取り寄せてテストを繰り返して試作したと聞いています。
紙自体はオリジナルではなく、市中で提供しているものを使っていますので、強度をどうやって出す
かという点に苦労したようです。また水への耐久性を出すためにも、フィルムを貼ったりするなど、いろいろ工夫をしています。
紙カミソリは、折り紙のようにお客様に組み立てていただくのですが、特に力がかかる裏側の“のど”の部分をなんとか固定できないかということで、最終的に安全のために刃の部分を覆っているシールを外していただき、そのシールを巻きつけることで強化しました。紙での挑戦という点では、ここの強度アップが一番の難関だったと聞いています。
選定は本当に難航して、「もうどこに行ってもないんじゃないか」とまで追い詰められて、最後の最後に偶然見つけたようです。
BIZ● 紙はメーカーさんに声をかけてサンプルを出してもらう形なのか、それとも問屋さんに足を運んで「これがいい」とセレクトしたんですか?
木皿● 取り寄せて調べていました。紙カミソリは印刷面も割と広く、発色なども担保されないといけないため、そのあたりにもこだわりました。いまローソンさんに提供して販売させていただいてますが、過去には「VOGUE CHANGE」さんなど、いろいろな方とコラボで商品化させていただいているので、そういうコラボがしやすいのも紙カミソリの特長かなと思います。実際他の企業さまとコラボレーションする時も、印刷面のエリアを指定できたり、いろんな色を選べたり、キャラクターに合わせて形を変えたりできることもこの紙カミソリの特性と考えます。
紙カミソリは、いろいろなタイプが出ているのですが、みなさん初見で、「デザイン性が高い」と言ってくださることが多く、魅力の1つとなっているようです。
ヘッドが動かなくても剃りやすいようなヘッド角度を探り当てる
BIZ● 刃の部分については、既存のラインナップの延長でつくられたんですか。それとも新しく開発したのでしょうか?
木皿● 厳密に刃というと、ヘッドの中に何本もついている金属部分になるのですが、そこだけで言うと他のカミソリとそんなに変わりません。刃を含めたヘッド全体という捉え方で言うと、他のカミソリとは違う工夫をしています。
他の使い切りカミソリだと、周りのフレームの部分まで樹脂が使われていますが、紙カミソリは樹脂を極限まで減らしていますので、そういう意味では他のカミソリとはちょっと違う形になっています。
BIZ● いざ製造となるとプラスチックのハンドルと違って、紙に刃を設置するところでずれてしまいそうです。ものすごく難しい技術のような気がしてるんですが。
木皿● そうですね、そこは非常に難しいところで、接着部分は実は樹脂を使用しています。今回プラスチック 98% 削減と申し上げているのは、ここに樹脂を使っているのと、先に申し上げたように紙の強化にフィルムを使っているため、2%残っているという状況があります。
この紙カミソリは金属ヘッドと紙ハンドルの組み合わせで、特許を取得しております。多分替刃式ですとヘッド部分が動くのが主流で、肌に密着しやすい構造になっているのですが、紙でできているのでその動きがつくれません。それでどこを剃っても剃りやすいよう刃の角度を調整していったのですが、とても苦労したと聞いています。
BIZ● 紙カミソリはそういう機能を削がないと実現できなかったわけですね。でも機能を削ぐことについて、「せっかく進化させたのに、また戻すのか、不便になるんじゃないか」とか、社内で抵抗はなかったのでしょうか。
木皿● そうですね、弊社はヘッドが動く商品を多く世に出していますから、そういった意味ではあったと思います。ただ今回のプロジェクトは、紙の部分の特性とか、資材調達といった点に結構重きがあったので、それほど抵抗はなかったと思います。
BIZ ● 一般のプラスチックのカミソリと比べて、コスト的にはかかると思うんですが、開発にはこのくらいといった原価設定の枠などもあったのでしょうか。
木皿● ある程度の枠はあったと思います。ただ今回は環境への配慮もそうですし、コンセプトを理解していただくということが重要でしたので、コストを追求するというよりは、取り組み自体が確立するのか、継続できるのかといった部分に力を入れていました。
商品自体は、他の商品よりは高めにはなっています。それでも国内海外問わず、問い合わせも頂いてるような状況ですので、付加価値として賛同いただけたのだと思っています。
BIZ● 期待感、高まりますね。今後は海外に向けても販売を予定されているのでしょうか?
木皿● 現在検討させていただいています。
BIZ● 何名ぐらいがこの開発にかかわっておられたのですか。
木皿● 中心となって取り組んでいた人物がよくインタビューを受けている研究開発本部の塩谷俊介という者ですが、彼を含めて13名です。
BIZ ● ふだん貝印さんが何か新しいことを進めるときは、どういうシステムで動くのですか。この指とまれみたいな形で集まってきてプロジェクトが動いていくのでしょうか。それとも割と縦割りでメンバーが決まっているなかで、研究テーマに近いところで開発が動いていくとか…。
木皿● 従来、商品開発にあたっては企画部門が案を出して開発を進めるという、縦割りの形で開発をしてきたのですが、今回は横断的なプロジェクトとして始まりました。中心メンバーはいましたが、いろいろな社員が同じ目線で考えようという感覚で進めたイレギュラーな取り組みで、弊社の開発スタイルとしてもチャレンジでした。
「組み立てるのは手間」と言っていたのに、組み立て動画がTikTokで跳ねる
BIZ● 国内と海外で反響の違いや、女性、男性の反響の違いなどはありますか?
木皿● 女性と男性の反応差はあまり出てないようです。いま国内と海外で動画投稿サイトのYouTubeを展開しています。またTikTokに紙カミソリの動画が投稿されているのですが、とくに海外では紙カミソリを組み立てる動画が、日本の文化の折り紙のイメージと重なって、非常に反響が大きいようです。開発段階では、「組み立てるのって、ちょっと手間だよね」という意見もあったんですが、逆にそこが受けて、跳ねたりしているので、わからないものだなと思っています。
BIZ● 発売されてからグッドデザイン賞をはじめ、さまざまな賞を受賞されています。ここまで受賞すると予想されていたんでしょうか。
木皿● もちろん予想はしていなかったです。社内でも驚いています。社員同士「とてもありがたい」ってよく話しています。
BIZ● そうですか。じゃあ紙カミソリの発売以後は、社内でSDGsの意識などにも変化があったのでは?
木皿● そうですね。弊社はほかにも環境対応の紙パッケージの商材などを出しているので、その中で今回の取り組みにこんなに反響があったということでは、意識改革の1つになったと思います。これからもSDGsの切り口をより意識していこうという空気は感じていますね。
営業部からは、すごく問い合わせが増えていると聞いていますし、ローソンさん店頭でよく見かける
ので、社内の意識改革に繋がっていると思います。今回のプロジェクトをきっかけに、他の商材で新し
いものを検討しています。
BIZ● 今回の紙カミソリのインパクトは相当あると思いますが、今後は御社の方向性としてプラスチックのカミソリは無くなっていくことになるのでしょうか?
木皿● いまメーカーとしてSDGsの取り組みを社内外で進めていますので、大きな方向としてはあります。ただ急に一律に変えるということではなく、できることから着実に進めていくということです。
BIZ● 100パターンの試作やさまざまな方々とのコラボなど、紙カミソリではいろいろな知見が得られたと思いますが、今後新商品の開発時に活かせそうだと思えるところはどんなことでしょうか?
木皿● 紙と金属の接合であるとか、金属商品の会社が紙を使ってモノがつくれるというのは、すごく大きな知見に繋がったと思っています。カミソリにはさまざまな形があるので、他の商材にもきっと応用できると思います。
またプロジェクトベースで商品の開発を進めて、実際に発売につながり、そこがまた評価につながるという一連の流れは、いままでにない商品の作り方で、とても大きな財産になったと思っています。
剃っても、剃らなくてもいい。貝印が伝える「#剃るに自由を」の意味
BIZ● 今回のプロジェクトを通して今後、貝印商品の良さをこういう人に伝えたいと思われたところなどはありますか。
木皿● そうですね。紙カミソリはお客様に新しい価値を提供するという役割があったわけですが、弊社は紙カミソリ以外にも、いろんな価値を提供する取り組みをしています。その1つが「#剃るに自由を」という野外広告の展開です。東京・渋谷の街に1週間ほど掲出させていただき、また同時期に地下鉄東京メトロの電車内広告としても展開したところ、かなりの反響をいただきました。
最近は電車内の広告でも、「脱毛しないといけないよ」みたいな広告が結構多いのですが、私たち貝印としては、そういう不安を煽るのではなく、剃ってもいいし、剃らなくてもいい。剃るのであれば貝印の製品もある。でもその選択自体は自由ですというメッセージをこの広告で発信しています。剃る自由をカミソリのメーカーとして謳うというのは1つの挑戦であり、紙カミソリもそうですが、いろんな形をこれからもお客様に届けられればなと思っています。
BIZ ● カミソリメーカーが、「剃らなくてもいいよ」って言うのは、すごい思い切りですね。
木皿●「 #剃るに自由を」のプロジェクトは、広報宣伝部が担当しましたが、担当の次長は果たしてこれでいいのかと悩んで「眠れない」と不安にかられた時期があったようです(笑)。この広告のモデルは人ではなく、バーチャルヒューマンを使っており、その点でも新しい試みでした。
また「#剃るに自由を」については、展示会などで紙カミソリのブースに掲出したのですが、「見ました」と言ってくださる方もとても多くて、そういった意味でも響いた方がいたのだと嬉しくなりました。
翌年には中学生向けとして、正しく剃る知識を提供する「FIRST SHAVE BOOK(ファースト・シェーブ・ブック)」という冊子をつくって、配布させていただきました。これは剃った経験のない子どもたちに、たとえば剃ることで毛が太くなるんじゃないとか、そういったこともないですよといった「誤解」を訂正してお伝えしたり、「剃る」をもっと多角的に捉えてもらおうという試みでもあります。
BIZ● すみません、剃ると毛が太くなると思ってました…
木皿● 思いますよね。そんなことは全然ないんです。そういう誤解を無くして、剃ることや肌、自分への選択肢をもっと広げられたらと思っています。
BIZ ● 紙カミソリの開発にあたって最初からSDGsを意識されていたわけではないとおっしゃっていましたが、「#剃るに自由を」の広告も、時代の流れを捉えたボディニュートラル的な考え方で、SDGs的な考え方にも重なると思うのですが、そういう発想はどこから出てくるんでしょうか?
木皿●「 #剃るに自由を」に関しては、カルチャー誌の「EYESCREAM(アイスクリーム)」さんとう雑誌で行った対談企画で、登場されたアーチストの方が「ムダ毛って言われてるのはちょっと可哀想だね」とか、そういうことをおっしゃっていて。そこから「#剃るに自由を」の広告に繋がりました。ですのできっかけは結構社外にあったりします。もちろん社内からも話が上がってきます。ケースとしてはどちらもありますね。
BIZ● 弊社エル・ローズは、下着の企画開発製造をしている会社でもあるのですが、過去に脇毛を除毛すると脇汗を掻きやすくなるということで、汗取りインナーを販売したところ、反応が良かったんです。お客様の需要を捉えた商品だと思ったのですが、いまのお話だと、逆に剃らない女性が増えてくるので、そういう需要もなくなっていく。確かに人それぞれなので、より幅広く柔軟に対応していかなければならないと考えさせられました。
木皿● 私たちも同じ観点で、カミソリメーカーなのに「#剃るに自由を」というのは、ある意味矛盾した動きなんじゃないかという声が社内にありました。でも逆にメーカーだからこそ反響があったのだと思っていますし、究極的には、いまのカミソリが要らなくなるというのはあるかもしれません。でもそこをネガティブに謳うのではなくて、前向きに捉えて伝えて、新しい価値創造のきっかけにしたいと考えています。
当時「#剃るに自由を」を発表した時は、こういった意見広告的なものが結構世の中に多く出ていて、社会によって固定化されている価値観に対して、選択肢を消費者側に委ねるというか、そういう大きなムーブメントみたいなことが混じってきたのかなと思っています。
脱毛広告が電車内でも多くなっていて、そのなかで女性はやっぱり脱毛しないといけないとか、毛がない方が美しいといったことが、ジェンダー的なイメージというか、固定観念がつくられてきたと思いますが、そこに対して貝印としては選択肢を増やしていき、消費者側で自由に決めていただく形のなかで、我々が選ばれるようにもっていけたらと思います。
時代の変化、お客様の要望に応え続けて110年余。1万点超の商品ラインナップに
BIZ● 弊社は、バストは大きい方がいいとか、綺麗に見える方がいいとか、支えきれないといった悩みに対応して開発してきました。しかし最近は胸が大きいことを嫌がる女性も増えてきています。
胸が大きいことによって綺麗な服が着られないとか、可愛い服が着られないというような心理が働い
て、逆に胸を大きく見せないブラジャーの需要も増えてきています。
流れとしては時代が変わっていくというより、ニーズが多様化しているということなのだと思っています。その点からも貝印さんはうまく広告がマッチしてる気がします。
でも貝印さんが、剃らない自由という選択肢を増やしていくと、カミソリが売れなくなり、接点を持たない人も増えて、認知度も下がるという負のスパイラルに陥りかねない。とするとそこには、文化的な価値観として合わないけれども、貝印がいるよ、将来必要になった時のためにいますよとか、いままでと違う会社のメッセージ、目標を描いていかないといけない。そこが問われているのかなと思ったのですが。
木皿● 弊社が初代から受け継いでいる共通した認識としては、古くからの良きものは守りつつ、新しいものは積極的に取り入れるという柔軟でしなやかな姿勢を掲げてます。貝印はグローバル刃物メーカーで、いま商品数が1万点以上あります。この1万点以上という数は、まさに良きものを守りながら、新しいものを柔軟に取り入れてきた証明だと思います。その時代時代の求めに応じて商品数を増やしていった結果の数です。
紙カミソリもそうですが、カミソリ自体のニーズの低減はあると思います。ただサスティナブルな商材や時代のニーズを考えた時、100年以上発売を続けている企業がそういう商品やメッセージを出すこと自体、そこに意味があると考えています。
時代やニーズの変化の中で、新しい価値であるとか、新しい機能をもった商品としてお客様に提供で
きるものが、必ずあると思っています。
BIZ ● その意味では、今回の新しい取り組みで、紙以外にいままで接触していなかった分野の方々や価値観との巡り合いなどはあったんでしょうか。
木皿● 「#剃るに自由を」で対談させていただいたアーチストの方々との出会いなどはそうかと思います。従来の貝印は、美粧といった展示会などに出させていただくことが多かったのですが、そういったところ以外の切り口や考え方のなかでやりとりができたことは大きいですね。
今年の3 月に、新しく「整える」をテーマにしたグルーミングツールのブランド「オーガー
(AUGER)」を立ち上げたのですが、その出店先の1つであるビームスさんの系列会社が主催している「SELF LOVE FES(セルフ・ラブ・フェス)」も新しい出会いかと思います。
セルフラブという通り、自己愛をテーマにしたイベントなんですが、そこでは整える(自分の)時間を大事にしようというメッセージを込めています。原宿のラフォーレの上階が会場になっています。
BIZ● たとえば心を整えるとか、自己愛といったテーマを設定して、共感しやすいものに関してはコラボしやすいかと思いますが、今後の、特にそのカーボンニュートラルを実現していくためには、メーカーは特に苦労する、我慢しなきゃならないことが増えていくと思うんです。
その時に自社だけでなく、周りの方々に協力することもあるかと思いますが、場合によっては、自分たちにマイナスになる人たちも受け入れて、手を組んだり、共存していくことが、先程の選択肢づくりを含め重要になるのかなと思いました。
木皿● そうですね。協力会社さんの兼ね合いもあるので、一概に全てというわけではないかもしれませんが、これからはいろいろな方とのコラボに挑戦していきたいと思っています。
マイナス面ということではないのですが、たとえば私たちは包丁などを商品として出していますが、商売としては買い替えていただくほうがいいわけですが、環境の観点からすると包丁を買い替えるよりは、1つの包丁を長く使った方がいいと考えています。そこで研ぎのサービスも行っています。世の中の新しい動きについては、これまでとは違う形でアプローチしていかないと、というところは、常に考えています。
貝印が商品を通じて実現したい世界は「爽やかな味わいのある日々」
BIZ● いろいろ企業姿勢なども伺いましたが、あらためて貝印さんが実現したい社会とはどんな世界なのでしょうか?
木皿● カイグループでは「爽やかな味わいのある日々をお客様と共に」というコンセプトを掲げております。そのコンセプトに基づいて、全てのステークホルダーの皆様と協力しながら、自然環境と暮らし、未来に向けた可能性を守りつつ、連携しながら継続的な発展を目指しています。
ある意味、カーボンニュートラルも含めて、いまは 1 つの転換期だと考えています。会社のあり方や、商品の作り方、お客様との向き合い方など、紙カミソリが起こした変化は、弊社にとっていいターニングポイントであったと思います。
BIZ● エル・ローズも100 年企業を目指しているのですが、110年以上の歴史を持つ老舗企業である貝印さんに、100 年企業になる秘訣を伺いたいと思っているのですが。
木皿● 先程の話と被るかもしれませんが、弊社がファミリー企業であることと、お客様が求めるものをできるだけ具体化していく御用聞き精神が、いままでの 100 年のところでは強かったかなと思っています。
1つのメーカーで様々な商材を一気に展開できるというのは、強みであり、そこの評価が繋がってここまで来ているのかなと思います。
カミソリから商用品の爪切りとかも全般に扱っていますし、化粧品も液モノとか粉モノと呼ばれる商品以外のツール関連はほぼ網羅しています。キッチンツールでは包丁がメインとなりますが、その他の調理器具もだいぶフォローしていて、弊社だけで並べられるぐらいになっています。その商品展開数の多さは、100年繋がってきた部分だと思っています。
BIZ● 貝印さんは刃物だけでなく、ヘアゴムのような刃物からは何の関係もなさそうなものもつくられていますが、なぜつくられるようになったのでしょうか。
木皿● 弊社はグルーミングツールも提供していて、その繋がりの中でコームやヘアブラシなどの他のグルーミングツールも揃えてきました。ヘアゴムやクリップもその流れですが、お客様から1つのメーカーブランドとして揃えたいというご希望があったことから、商品のラインナップのなかに取り入れました。
弊社のグルーミングセットは、各社少しずつ違うようにはなっていますが、パッケージは揃える形で、全て弊社の方で一律にコンビニさんにも提供させていただいています。
BIZ● 100年企業にしていくことは本当に難しいと思います。貝印さんは、さまざまな変化に対応しながら刃物一筋という根底の部分は全然変わってないですよね。正直なところ、御社はファミリー企業というところで意思が受け継がれやすいのかとも思ったりしましたが、伺ってみてやはり技術や理念をいかに繋いでいくかという意思がとても大切だと実感しましたし、それは10年単位などではなく、実は毎日毎日繋いでいくことがすごく重要なのだと痛感しました。
我々も美と健康をテーマに掲げているので、そこはブレずにずっと大事にしていきたいと思いました。これからも、サスティナブルで社会にインパクトを与える貝印さんらしい商品の開発を期待しています。ありがとうございました。
( 文中敬称略)