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経営心理学の基本講座 – 知っていれば、ビジネスが楽になる!

緊急事態宣言も明けて、コロナ前の日常が徐々に戻ってきているようだ。冬にかけての再流行の懸念は拭えないものの、今後大きな制限はないと考えられる。

ただ日常が戻ったからといっても、一気にコロナ前のようなフル稼働は難しいだろう。ステイホームやリモートワークが続き、メンタルの不調を抱える人も多いからだ。ビジネスにおいてメンタルの影響は大きい。ことコロナの影響をまともに受けた新入社員にとっていかに自分のモチベーションを維持しながら、仕事に慣れ、自分の力を発揮できるようにするには、まだ厳しい環境が続くだろう。企業側にとっても同様だ。リモートワークと出社を組み合わせながらいかに、モチベーションの上がる働きやすい環境を提供するかという難題がのしかかってくる。

そこで改めて押さえておきたいのが、人間心理だ。設備やソフト、ITデバイスなどと違い、人間の能力は、その環境や人間関係、心理状態でどんどん高まるからだ。コロナに限らず、人口減少下の日本においては、いまある人財をいかに成長させていくかは、企業にとって一丁目一番地のテーマと言っていい。人を自発的自律的な成長に導く、経営心理学の基本を学んでおこう。

モチベーションは人にどう作用するのか

人を成長させていくためには、その人の「やる気」を高めていく必要がある。人はそれぞれ「やる気」のスイッチ、すなわちモチベーションを持っている。

ある人は給料が上がるということがそのモチベーションになるかもしれないし、ある人は、早く帰ることができることがモチベーションになるかもしれない。別の人は、上司に評価されることがモチベーションになるかもしれない。はたまたお客様からの感謝の言葉かもしれない。

十人十色のモチベーションだが、共通のステージがある。よく知られているのが、アメリカの心理学者エイブラハム・マズローが唱えた「5段階欲求説」だ。マズローは、人は下位の欲求が満たされると高次の欲求に移行していくということを唱えた。

人間は、生きていくためにまず眠りたい、排泄したい、食べたいといった「生理的欲求」があり、それが満たされると、次に病気や事故に遭わない、あるいは経済的に安定したいという「安全への欲求」が生まれる。さらにそれが満たされると愛情や信頼に基づく人間関係や組織に所属したいという「社会的欲求」が生まれ、さらにその社会的欲求が満たされると、周りの人から認められたいという「自尊の欲求」が生まれる。そして最後に、理想とする自分、自分が目標としているところに近づきたいという「自己実現の欲求」にたどり着くという理論だ。

おそらくほとんどの方が聞いたことがあると思う。しかし自己実現した人がどのような特徴を持つようになるかは、ご存知だろうか。

マズローによれば、自己実現した人は次のような特徴があるという。

1)現実をより有効に知覚し、より快適な関係を保つ
2)自己、他者、自然に対する受容
3)自発性、単純さ、自然さ
4)課題中心的
5)プライバシー欲求からの超越
6)文化と環境からの独立、能動的人間、自律性
7)認識が絶えず新鮮である
8)至高なものに触れる神秘性がある
9)共同社会感情
10)対人関係において心が広くて深い
11)民主主義的な性格構造
12)手段と目的、善悪判断の区別
13)哲学的で悪意のないユーモアセンス
14)創造性
15)文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越

こういった特徴がある人は「自己実現がなされた人」とみなしていいし、こういった特徴を持つ人がたくさんいる企業は、仕事に対する満足度の高い企業と言える。

高位の欲求になるに従って、満足度が少なくても
満足感が得られる心のしくみ

「そんな人財はウチの会社にはめったにいないし、そんな人財を増やすのは容易ではない」と思うかもしれない。

しかし、そんなに「容易ではない」ことではなさそうだ。マズローは、低位の欲求から上位の欲求に移行するためには、現時点の欲求が完全に満たされる必要はないと言っているからだ。たとえば生理的欲求は85%が満たされれば、上位に移行し、安全欲求では70%、社会的欲求では50%、自尊的欲求では40%で、自己実現の欲求は10%の達成度で満足するのだそう。

つまり、人の欲求が満たされるのは必ずしも100%の必要はなく、しかも高次になればなるほど、わずかな達成率で満足するものなのだ。

またマズローは、低位の欲求は賃金や職場施設などのような外的なもので満たすことができるが、高次になればなるほど内的なことで満たされると言っている。

つまりある程度の欲求は賃金や施設で満たすことができるが、成長している人間に対しては、より挑戦的な仕事や創造的な仕事を与えるほうが、満足度が高くなるということだ。

実はマズローは、自己実現の上にもう1つの段階を設定している。それが「自己超越」のステージだ。

自己超越のステージに入った人間はどのようなものなのだろうか。マズローによれば次のような特徴を持っているという。

1)「在ること」の世界についてよく知っている
2)「在ること」のレベルにおいて生きている
3)統合された意識を持つ
4)落ち着いていて瞑想的な認知をする
5)深い洞察を得た経験が今までにある
6)他者の不幸に罪悪感を抱く
7)創造的である
8)謙虚である
9)聡明である
10)多視的な思考ができる
11)外見はノーマルである

さながら高僧か神といったような人間だが、マズローによれば、自己超越している人は人口の2%ほどいるとのこと。無論こうした人がいるからと言って、その会社の業績に結びつくとは限らない。

知っておくべきは、人間は「お金」や「モノ」だけで動く存在ではないということだ。

こうした心の原則を知っておくことは、とりわけ中小企業には重要だ。なぜなら経営資源が限られている中小企業では、社員の能力を引き出せるかが会社の未来を決めるからだ。

自発的な行動には
報酬を与えるべきではない

人間はお金やモノといった外発的な動機づけではなく、内発的な動機づけでやる気になるということを理論化したのがアメリカの心理学者、ヘンリー.A.マレーである。マレーによれば内発的動機には次のような5つのものがあるという。1つは適度な刺激を求める「感性動機」。2つ目が新しい経験や好奇心を満足させる欲求「好奇動機」。3つ目が活発な行動を楽しむ欲求「活動性動機」。4つ目がさまざまな試行を楽しむことを求める「操作動機」。5つ目が頭を使って問題を解決する楽しみを求める「認知動機」である。

いかに適性があり、かつ望んだ仕事でも、同じことを繰り返していけば面白味もなくなる。いつもやる気いっぱいで働くためには、こうした動機付けを上手に組み合わせて、主体的に仕事に工夫や刺激を与えるようにする必要がある。

たとえば、ふだんの業務でより早く正確に出来る方法を探る。顧客の満足度を高める方法を考える。あるいは別の作業や業務に挑戦してみるなど、内発的動機づけを刺激するアイデアを作り出すことが重要だ。

もちろん金銭報酬や待遇改善など外発的動機づけも必要だ。休暇が連続で取れたり、社員食堂のメニューが新しくなったりなど「目に見える」「分かる」ものは、人のモチベーションを高めてくれることは確かだ。

厳に気を付けなければいけないのは、内発的動機による行動に対して、報酬を加えるなど外発的動機を加えることだ。動機づけの効果が低減することがあるからだ。これを心理学では「アンダーマイニング効果」と言い、広く知られている。

たとえば子どもが自発的に清掃のボランティアをしていたのに、これにお小遣いをあげるようになると、小遣いを渡さないと清掃をしなくなるようになる。これは動機づけが内発的動機から外発的動機に移ってしまったのだ。

また似た動機づけでは、「心理的リアクタンス」というものが知られている。これは、子どもが自発的に勉強しようと準備していた時に親から「勉強しなさい」と言われ、やる気を無くす時の心理だ。子どもだけではなく、大人にも充分当てはまる心理だ。人間は生来的に自分の行動や選択を自分で決めたいという欲求がある。それが他人から強制されてしまうと、たとえそれが自分にプラスになることでも、無意識に反発してしまうのだ。

「いまやろうと思っていたのに…」

そう思った経験のある人は、老若男女問わず世の中にゴマンといるだろう。

子どもの自発的な成長を促すなら、上司や親は「ちょっとだけ辛抱する」ということも覚えなければならない。

モチベーションは
不満を解消しただけでは上がらない

一方やる気やモチベーションは、積極的な動機づけで高まるとは限らない。

アメリカのフレデリック・ハーズバーグという心理学者は、職務の満足のためにどの要素がモチベーションを高めるかを分析している。その結果、満足感に影響を与える因子として、モチベーションを高める「動機づけ要因」と、モチベーションに影響はしないものの、不満を低減させる「衛生要因」の2種類があるとした。

動機づけ要因には、報酬や昇進、達成、承認、責任などがあり、対して衛生要因には、会社の政策と経営、対人関係、給与、作業条件、監督といった要因がある。

その違いについてハーズバーグは、「衛生条件が悪いと体調が悪化するが、それが改善されたからと言って積極的に健康を増強させるものではない」と説明している。

満足と不満足は通常は1つの直線上にあるように思えるが、ハーズバーグは別々の2つの軸上での心理として捉えたのだ。不満足の反対は満足がない状態であって、決して満足した状態ではないということである。つまり人を動機づけるためには不満足を解消するだけでは足りず、満足という感情を促すことが不可欠なのだ。

ややこしい説明になるが、少なくとも不満を解消しただけではモチベーションアップにはつながらない、ということは覚えておいたほうがいいようだ。

企業が求めるリーダーシップとは

これまで述べたように、モチベーションは会社の業績や成長に大きく関わってくる。

そこでクローズアップされてくるのがリーダーシップである。組織の上に立つ人間がどのようなリーダーシップを持っているかで、組織の成長やまとまり方が変わってくるからだ。とくにグローバル化が進んだ現代では、次世代を担うと期待されるリーダーを早いうちから育成する企業が増えている。

リーダーシップについては、かねてよりさまざまな研究がなされてきた。

リーダーシップについて本格的研究が始まったのは、1920年代。当初はリーダーというものは生まれながらにしてリーダーであるという考えが強かったようだ。

アメリカのR.ストッグディルという心理学者は、300近い事例を研究し、リーダーの知識や経験、責任感、パワー、動機などリーダーシップの特性やスキルを見出した。ストッグディルによれば、どのような状況にも万能なリーダーシップ特性はなく、リーダーとして必要となる特性やスキルは、その集団の特徴や状況によって決まると結論づけている。

リーダーシップはいわゆる”持っている人”に備わったものだけれども、すべての組織や状況でリーダーシップが発揮できるわけではない、というわけだ。

これが1950年代になると、リーダーシップはもって生まれた部分はあるものの、教育や訓練によって優れたリーダーになることができるという論が出てくる。さらに1960年代になると、状況が変わるとリーダーも異なるという考えが浸透していく。

現在ではリーダーシップにはいくつかの類型があるとされている。たとえば次のような4つの類型だ。

1)カリスマ型リーダーシップ

・ほかのメンバーより抜きん出た能力を持っており、自ら戦略的意思決定を行い、部下に具体的な指示・命令を出す。
・現場に精通しており、率先垂範して部下を指導していく。
・一方、会社の業績が上がらなくなってきたり、期待した処遇を得られなくなると、これまでの不満や不信感が一気に爆発する可能性がある。
・また部下が指示待ちとなり、自分で考えなくなる可能性もある。
・創業期の企業や、抜本的改革を実行するためには必要とされる。

2)幹事型リーダーシップ

・世話役型のリーダーシップで、部下の仕事がしやすいように職場環境を整備することに努める。
・部下の仕事の段取りや、コミュニケーションの場づくり、他部署の連携調整などを行う。
・一方部下との人間関係は良くなるが、組織目標を貫徹するパワーは弱い。
・カリスマ型リーダーからバトンタッチされた後継者がよくとるスタイルだが、変革期の企業では長続きしないことが多い。

3)象徴型リーダーシップ

・理念的な指示を出すだけで部下の具体的な行動にはタッチしない。
・業界のオーソリティーや創業家の後継者など、部下がリーダーの権威の源泉を受容している場合に通用するスタイル。
・うまく機能する場合は、部下が自ら創意工夫するが、変革にはあまり向かない。

4)協業型リーダーシップ

・部下に方針を示して、具体的やり方はリーダーが主宰するミーティングで決定する。
・リーダーは部下の仕事の割り当てとOJT(仕事を通じての教育訓練)を行い、情報共有に努める。
・単に部下の仕事の評価を行うだけでなく、仕事の進捗状況を報告させて、相談に乗ったり、助言、指導する。
・緊急時を除いては、現代企業において最も望ましいリーダーシップ像とされる。

ここで問題となるのは、どのタイプのリーダーシップが優れているかということではない。リーダーシップにはいくつかのタイプがあり、それは状況や組織のタイプによってマッチする場合もあるし、そうでないこともあるということだ。とかくマスコミではカリスマ型のリーダーシップが話題になりがちだが、現代企業においては大きな方針を示しただけでなく、具体的なやり方も見せ、その上で自主性に任せる協業型リーダーシップがマッチしているようだ。

リーダーシップは、上司や管理する人が持っていればいいが、必ずしもなければならないものではない。

アメリカのベニスという心理学者は、管理者(マネージャー)とリーダーは違うものだとし、「マネージャーは事を正しく行う人」、「リーダーは正しいことを行う人」と定義している。

コーディネーター、ファシリテーター、
メンター、ブローカー…etc
それらが意味するものとは

最近ではリーダーやマネージャーのほか、プロデューサーやファシリテーターといった、組織や集団をまとめ、一つの方向性を見出す役割を持つさまざまな言葉が出てきている。

R.E.クインという心理学者は、いわゆる管理者を役割別に8つに分け、次のように説明している。

1)プロデューサー……企業目的達成のために、率先垂範する管理者。
2)ディレクター……目標、計画を設定し、部下に役割、課題を振り分ける管理者。
3)コーディネーター……プロジェクトを管理したり、職場の各種の利害関係の調整をしながら作業の促進を図る。
4)モニター……個人や集団、組織の業績を管理する。
5)ファシリテーター……職場内の対人葛藤の解決、チームワークを高める管理者。
6)メンター……部下の相談、仕事のサポート、部下の能力開発の役割を担う。
7)変革者……経営環境の変化に対応して、組織の変革を図っていく管理者。
8)ブローカー……外部に働きかけ、交渉をして資源の獲得を目指す管理者の役割。

ふだんの会話に出てくるような言葉だが、目的や役割をしっかり把握して使っている人は意外と少ないのではないだろうか。とくにプロデューサーとディレクターの違いや、コーディネーターなども分かっているようで分からない言葉かもしれない。会社のなかでこうした言葉を使う時は、みんなで言葉の定義表のようなものを作成したり、工夫するといいだろう。

ホランドのタイプ別職業分類

一方アメリカのジョン.L.ホランドという心理学者は、自分の興味や性格、能力、価値観などに基づく職業選択理論を構築、これの基づいたパーソナリティ検査を考案している。

ホランドは職業選択を1つのパーソナリティ表現とみている。ホランドによれば、個人のパーソナリティは興味の対象によって①現実型、②研究型、③芸術型、④社会型、⑤企業型、⑥慣習型の6つのタイプに分類され、これらのタイプにあった職業選択をすると仕事が楽しく、能力を発揮できるとしている。

具体的な分類は以下のようになる。

①現実型―機械や物を対象とする具体的で実際的な仕事や活動に対する好みや関心が強い。対人的活動を回避する傾向もある。

 対象職業→機械管理、生産技術、熟練技能、動植物管理、機械装置、運転関連など

②研究型―研究や調査のような、研究的探索的な仕事や活動に対する好みや関心が強い。ものごとをじっくり追求する傾向があり、人の折衝は苦手。

 対象職業→医学、生理学、物理学、数理、統計学、工学、社会調査研究、情報処理関係など

③芸術型―音楽、美術、文芸などに興味関心が高く、非組織的で変化のある環境を好む。奔放で型にはまらない行動をする傾向がある。感受性が豊かで創造性や直感力がある反面、事務的販売的仕事は不得手。

 対象職業→美術、彫刻、文芸、舞踏、音楽、演劇、演出、広告、編集、報道、デザイン、法務など

④社会型―人に接したり、奉仕したりする仕事や活動に対する好みや関心が強い。良好な人間関係を維持できるが技術的、科学的学習能力が弱い傾向がある。

 対象職業→行政サービス、個人サービス、教育、医療保険、福祉関係

⑤企業型―企画や組織運営、経営などのような仕事や活動に対する好みや関心が強い。能弁だが自信家で攻撃的な傾向がある。

 対象職業→経営管理、販売、営業、財務、広報、企画、政治関係など

⑥慣習型―定まった方式や規則に従って行動するような仕事に対する好みや関心が強い。役割や計画をきちんと遂行し、定まった方式や規則に従って行動する反面、創造力や柔軟性に欠ける面がある。

 対象職業→一般事務、経理事務、医療事務、文書管理、保管関係など

自分の適性が分って、その仕事に就いたことはその人にとってハッピーだ。しかし企業から見ると、それはあくまでスタート地点であり、そこからその人がどれだけ成長できるかが企業の成長を占う。

逆に、好きで適性な仕事だから放っておいても伸びるとは限らない。自分には向いていない、誰もが嫌がるような仕事を頑張っていくうちにその仕事が好きになったり、他の人が持てないようなスキルや能力がつく場合もある。

コミュニケーションを
効果的に取るために
5つのポイントを押さえよう

いまや心理学はコミュニケーションの領域でも大きな関心事となっている。近年の企業アンケートでは、コミュニケーション力が最も重視する能力の1つとなって久しい。とくにグローバル化が進み、さまざまなバックグラウンドを持つ人が1つの組織に関わるようになってきた現在、その重要性は増々高まっている。

そもそも企業に限らず、組織や集団は複数の人間で成り立っている。従ってそこのコミュニケーションがうまくいかなければ、仕事が進まなかったり、組織自体が崩壊してしまう。そうならないように、現代企業はさまざまな取り組みに挑んでいる。

効果的なコミュニケーションを取っていくためには、まず組織のメンバー全員が互いに良好なコミュニケーションをとろうという努力が必要だ。そのために一般的に次のようなポイントが知られている。

1)目的を明確にする

なぜそれを伝えなければならないのか。なぜこういう方針なのかを説明せず、いきなり仕事の指示を出されると、人は積極的な達成意欲を持つことができない。背景や目的をしっかり伝えることが効果的なコミュニケーションの第一歩。

2)受け手の注意を喚起させる

正確な情報を与えても、受け手の集中力が欠いていては効果的なコミュニケーションは成り立たない。受け手がしっかり受容できるように集中力を喚起するように努める。

3)伝達の回路を明確にして距離を短くする

情報はネットワークの距離が長ければ長いほど、その正確さが失われる。それだけでなく速度が遅くなり、間違いが増える可能性が高まる。なるべく短くする努力も怠りなく。

4)コミュニケーションの方法を豊富にする

コミュニケーションの方法は言葉以外にもある。身振り手振り、態度な語的な方法を組み合わせることで、より豊かな情報を共有できる。

5)主体的に参画できる場を与える

コミュニケーションは内容を伝え合うだけではない。必要なことを伝えあえばいいのではなく、企業におけるコミュニケーションは、職場におけるいきがい感と深い関わりを持つようになっている。主体的に組織の活動に参画できるような場をつくることが重要。

分かっていても、
事故や不祥事が起きるのは
なぜなのか

コミュニケーションと並んで、ビジネス心理、経営心理的な見地から、近年高まっているのはリスクに対する意識である。

不祥事を起こした企業では、「分かっていたのに防ぐことができなかった」という弁解をする企業トップがいる。頭で理解していながら対策を打てなかったというのは、人間心理を理解した行動マニュアルができていなかったか、つくってもいざという時の行動に結びつくまで訓練が行われていなかったということになる。起こってから「しまった」では済まないのが最近の社会情勢だ。

製造業の現場では事故を防ぐための確認や予防意識を維持する取り組みがなされている。そういった安全対策のベースとなっているのが、ハインリッヒの法則だ。

重大な事故が1件起こる前には29件の軽微な事故があり、その前に300件の異常があるという法則だ。

異常をいかに察知し、小さい段階で対策をとっておくことが重大事故や不祥事を防ぐ鍵であることは言うまでもない。

しかしながらマニュアルをつくっていたり、シミュレーションをかけたりしても不祥事や事故は起こってしまう。なかには第三者を入れてチェックしていたにも拘らず、事故や事件を起こしてしまう企業がある。

客観的には「慢心があったから」ということになるが、ヒューマンエラーを心理学的視点で分析していくといろいろ分かってくることがある。

事故やエラーを起こす因子としてまず考えられるのは、体調だ。睡眠不足やアルコールや薬など摂取、疲労があると人間の判断力は急激に下がる。さらに年齢もある。「昔は大丈夫だった」ことが、中年代を過ぎると徐々に体が対応できなくなることがある。

体が万全でも判断を間違えるときがある。企業や組織では個人として正しい行動を取っているにもかかわらず、集団になると間違いや不祥事を起こすこともあるのだ。

7つの心理特性によって
ヒューマンエラーが引き起こされる

心理学では、集団になるとエラーが起きる心理特性は早くから研究されてきている。その要因として次の7つが知られている。

1)権威勾配……上司など自分より権威がある人に対しては、人は自分が正しいと思っていても、その意志に反して服従してしまう傾向。大きな事件や事故、あるいは戦争などの裁判ではよく、被告が「上司の指示に従っただけ」と言って責任を回避する発言がなされる。こうした発言には決してその場の方便としてでなく、発覚当時は仮に「いけない」と思っていても、上司が指示を出せば服従せざるを得ないという心理が働いていたと考えられる。

2)同調行動……「自分は違うけど、みんなが言うからいいや」という思考心理だ。企業に限らず、地域社会や学校などでも見受けられる。アッシュという学者は、会議などの場で対象者と違った意見を何人が言うと、その人が意見に同調するかという実験を行った。それによると周囲で3人以上いると、その意見に同調しやすくなることがわかった。とくに日本人は同調行動を取りやすい民族だと言われており、個人が正しくても全体が間違う可能性は高くなる。

3)社会的手抜き……「自分一人ぐらい、いいや」という手抜き心理だ。リンゲルマンという学者は、綱引きを1人同士で引いてもらった場合と、2人、3人、8人で引いてもらった場合の1人あたりの引く力を調べたことがある。それによると1人同士で引いた場合の力を100%とすると、8人の場合はその49%しか出ていなかった。人間は数が多くなると、社会的手抜きは行われやすくなる。

4)社会的促進……人は同じ作業を一人でやるより、複数の人が分担してやったり、あるいは別の作業でも周りに人がいると「頑張って」良い成績を残す。プロスポーツでも観客が多いほうが普段以上に頑張れるというのも同じ。人は得意なことは、周囲に傍観者がいるだけで成績が上がる。

5)集団浅慮……たとえ優秀な人が集まる組織でも全体となると間違いや誤ったことを引き起こすことがある。ジャニスという学者はその過程を集団浅慮と名づけた。ジャニスによれば、とくに「自分たちは限られたエリート」だと思う集団に起こりやすいという。彼らは、自分たちこそが唯一優秀で正しい判断ができる人間たちだと過信し、批判的な情報を軽視するとともにそのような外部情報を支持するメンバーを疑問視する。結果他集団や情報から孤立し、最初の誤った仮定やそれに基づく決定を変更できないまま行動し、突き進んでしまう。まさに大企業や省庁で起こる不祥事などはこのメカニズムが働いていると考えられる。ジャニスはこれらの対策として、①リーダーは批判的な評価者の役割を重視し、成員が反対意見や疑問点を出すように鼓舞しなければならない。②リーダーは最初から自分の好みや希望を述べて偏った立場にあることを明らかにしてはならない。③複数の集団に同じ問題について政策決定させる、ということを挙げている。

6)集団凝集性……企業や集団に対する愛着や帰属意識は、個人によって温度差があるが、レビンという学者によれば、集団のまとまりは、自分の運命が集団の運命に依存していること(運命の相互依存性)に気づいた時に強まるという。レビンはこれを集団凝集性と呼んでいる。たとえば飛行機がハイジャックされた時の人質などは、まさに運命共同体で集団の凝集性が高まる。一般に集団目標が明確で、メンバーの雰囲気がよく、メンバー数が少なく、メンバー間に類似性が見られる時も凝集性が高まると言われている。

7)リスキー・シフト……問題が起きた時、あとで「たくさんの人がかかわっていたのに、こんな危ない選択をしたのだろう」という声が聞かれるが、その理由は「たくさんの人がいたからこそ」である。一般に人間は、個人より集団になったほうが高いリスクを取る傾向がある。この現象をリスキー・シフト現象と呼んでいる。

このように、個人では正しいと思っていても、集団となると正しい意見が反映されたり、正しい行動に結びつくとは限らない。企業や組織のトップ、マネジメントに関わる人はぜひ心しておいて欲しい法則だ。

融資の際に金融機関は何を見ているか

人間の心理について独自の洞察眼をもっているのが金融機関だろう。

金融機関に融資を依頼すると、担当者が融資先を訪れて経営者の人柄や会社の雰囲気や技術力など、決算書など数字に表れない情報を読み取る。そういったチェックポイントに「トイレが綺麗かどうか」がある。

「トイレが汚くても、業績が良ければいいじゃないか」という声が上がりそうだが、実はちゃんと理由がある。トイレが汚いというのは、その会社の社員が依存的だからだ。つまりトイレが汚いということが分っていても、誰かが掃除をするだろうと思って主体的に動かない、考えない人が多いと判断するわけだ。依存的な社員が多いと、業績が悪くなったときにその理由を他部署のせいにしたりするので、自分たちで何とかしようという空気になりにくく、赤字が続き、倒産する可能性が高いと判断するのだ。

ほかにも、「雨の日に傘立てが社員の傘で埋まってるような会社には融資をしない」「サンダル履きで応対するような企業には融資しない」というケースもある。傘立てが社員の傘で埋まる会社は、顧客視点の足りない会社、自己中心的な会社と見られ、サンダル履きも同様に判断される。

人の心理は、発言や行動に出る。それは見る人が見れば、その人が所属する組織がどういう会社や集団であるかが分ってしまう。

経営やビジネスに心理学をもっと取り入れてみてはいかがだろう。会社の雰囲気や業績が大きく変わるかもしれない。

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