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カーボンオフセットの救世主になるか!?海洋国ニッポンにはブルーカーボンがある!

世界は2050 年までカーボンニュートラルを
宣言した!

世界各地で社会のカーボンニュートラル化に向けた動きが加速している。EUは2030年までにCO2をはじめとする温室効果ガス(Green House Gas=GHG)の排出量を対2013年比で55%削減し、2050年までに排出と吸収をプラスマイナスゼロにするカーボンニュートラルを達成することを宣言している。EUを離脱した英国も、対13年比で55.2%相当の削減、さらに50年まで対1990年比で100%削減を目標に掲げた。トランプ政権でパリ協定を離脱していた米国はバイデン政権で復帰。50年まで温室効果ガスの排出総量のゼロを表明している。

世界排出総量の28.4%を占める(2018年)最大GHG排出国、中国は2030年に排出量を減少に転じさせ2060年までにカーボンニュートラルの実現を表明している。

こうした流れを受け、菅義偉政権は所信表明演説で2050年までのカーボンニュートラルを宣言した。2050年までのカーボンニュートラル宣言を行った国は、日本を含め世界121カ国とEU諸国にのぼる。

ただ菅総理の宣言は具体的なプロセスも示されない中でのことであったことから、経済界からは実現を怪しむ声も上がっており、その達成のハードルはかなり高いと言える。そんな中、注目を集めつつあるのが「ブルーカーボン」である。

炭素蓄積・吸収量が熱帯林の
25倍の海藻場、
40倍のマングローブ林

ブルーカーボンとは、大気中の二酸化炭素(CO2)が海のなかに生息する海藻や海草、マングローブ林、湿地・干潟などが光合成を通じてその生物、あるいは海底に吸収、貯蔵された炭素をいう。陸上のカーボン吸収源が緑色の植物であることから「グリーンカーボン」と呼ばれるのに対して、海に生息する海草・藻類が吸収することから、海の色であるブルーに因み「ブルーカーボン」と呼ばれる。

グリーンカーボンにブルーカーボンが加算されることになれば、地球全体のカーボン削減は一気に加速しそうだ。

ブルーカーボンが世に発表されたのは、2009年の国連環境報告書(UNEP)においてだから、名称ができてまだ10年そこそこ。まさにニューカマーだが、研究機関や研究者も続々と現れ、その実体が次第に明らかになっている。

肝心のポテンシャルだが、カーボンの吸収源となる海中の海草・藻類が生息しているのは、太陽の光が届く浅い海で、面積では海洋全体に1%程度。そこに吸収されたカーボンの約8割が蓄積されている。全体からすればごくわずかの印象だが、ブルーカーボンは貯蔵スピードが速い。単位面積では、たとえば海藻の生息する一帯では、熱帯林のおよそ25倍を貯蔵する。ブルーカーボンにはマングローブも入るが、マングローブ林では熱帯林の40倍以上も蓄積できるとの研究結果もある。ただ全体の面積が小さいため、面積の掛け算になると熱帯林や温帯林とほぼ近い炭素蓄積量になってくる。

ただこの有力なブルーカーボンを溜め込む生態系は、森林と同様に年2%が消失しているという。そのための保護対策や整備が求められている。

横浜市や福岡市が独自の
ブルーカーボン制度

すでに自治体のなかにはこのブルーカーボンを制度として取り組んでいるところもある。神奈川県横浜市は2014年から「横浜ブルーカーボン」の名称で取り組みを始めている。

横浜ブルーカーボンでは、まず地元漁協と連携し、地元産のワカメなどを地産地消するしくみをつくり、市内へ搬入するカーボンを削減する。また地元の海でワカメ養殖することでカーボン吸収源が増え、カーボンの削減量も増えていく。またこうした地元の海で海藻類を増やす資金として、海にまつわるイベント開催時の協力金、あるいは地元産の海産物を食べてもらうことで、資金を漁業関係者や保護団体に回す仕組みができている。また企業がカーボンオフセットした量を証明するクレジットにブルーカーボンも加えた独自のカーボン・クレジット制度も導入し、その活用を促進している。

また福岡県の福岡市でも「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」を2020年に導入している。

アップルやP&G、グッチも巨額を投じて
マングローブ林の保護再生に

こうした行政主体のブルーカーボン制度だけでなく、海外では民間企業が積極的にブルーカーボン制度の導入や、その生態系保全に取り組んでいる。その代表がアップルだ。アップルは2018年に環境保護団体と共同でマングローブ再生プロジェクトを開始、マングローブの保全・再生を通じて、100万トンのCO2削減を図る。

ほかにも世界的ヘルスケアメーカーのP&Gが2020年からフィリピンのマングローブ林約450平方キロの再生を図る。また今年に入ってからは、高級アパレルブランドのグッチが中米ホンジュラスのマングローブ林の保全・再生を開始している。

一方世界有数の海岸線を持つオーストラリアでは、政府がブルーカーボンファンドを設立。国内はもとより海外のマングローブ林の保全・再生のために資金を投じる。

四方を海に囲まれた海洋国家である日本にとっては、ブルーカーボンを活用することは、カーボンニュートラルの実現の新たなドライバーとなる。のみならずブルーカーボンの取り組みは、いわゆる生態系保全やそれに伴う教育効果、漁業資源の確保、災害対策など、その効果がさまざまな分野に及ぶ。一石二鳥どころか四鳥も五鳥も狙える。まさに可能性のブルーオーシャンなのである。

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