代用肉で注目。大豆が地球を救う!? じわり広がる市場とパワー、「大豆」
なにかと話題となっている代用肉。すでに製品化され、一般家庭の食卓にものぼりはじめている。日本でもニッポンハムや伊藤ハム、キューピーなど、大手食品メーカーが続々と代用肉を製品化している。その多くが植物由来であるが、なかでも最も多い原料となっているのが大豆だ。
大豆は日本でも豆腐や味噌、醤油、納豆など古くから日常的な食に利用されてきた。日常的に摂取することで、生活習慣病などを予防し、健康を維持できる栄養食品としても認知されていた。しかしミレニアムが話題になる前後から大豆のさらなる研究が進み、その秘めた機能やパワーが大きな注目を集めるようになった。
たとえば大豆タンパク質にはコレステロール濃度調整機能、糞便脂肪酸排泄促進機能、リノール酸代謝調節機能や肥満に対する効果などが確認され、大豆イソフラボンには抗酸化作用、骨粗しょう症対応、更年期障害改善効果などさまざまな効果が認められている。
このため各国は大豆を使った食品などに健康食品として認定する制度などを設け、その普及を後押している。
日本では大豆を使ったコレステロール濃度調節機能のある食品については、「特定保健用食品(トクホ)」として認定している。また米国では、一定量の大豆たんぱく質を含む食品については、「科学的に十分な根拠を持つ健康強調表示(SSA)」を認めている。イギリスでは、「1日に25g以上の大豆たんぱく質を摂取することは、血中コレステロール値の低下を助ける」として大豆を使った食品に「包括的健康強調表示(JHCT)」を認定している。まさに大豆は人類の健康を救うスーパーフードの位置を築き始めているようだ。各食品メーカー、医薬品・健康関係の企業もこれに注目、商品化を進めている。
大豆の可能性に目をつけた
大塚薬品グループ
代表的なのはカロリーメイトやポカリスエットで知られる大塚薬品グループ。2000年前後から「Soy( 大豆)」と「Solution( 解決)」を結びつけたSoylutionをテーマとした新しい食品開発に取り組んでいる。その代表的商品が2006年に発表した「SOYJOY」である。薄皮を除いて粉末状にしてフルーツを入れて焼き上げたバータイプのスナック食で、発売すると、5年で世界11カ国に展開するほどヒットし、その種類も増えていった。生産拠点も日本、中国、米国と3カ所に置いて供給している。また2010年には大豆に炭酸を加えた大豆炭酸飲料「SOYSH」を発売。2012年にノンフライの大豆スナック菓子「ソイカラ」などを発表し、業界をリードした。
大塚薬品グループは、単に健康食としての大豆ではなく、地球環境に配慮した大豆を利用することの意義も訴求している。たとえば大豆と同様のたんぱく質を牛肉で摂ろうとするとその32倍の飼料が必要となる。また肉を得ようとするなら、10倍の飼料が要る。飼料効率からすれば、代用肉としても高いのが大豆なのだ。
大豆に注力しているのは大塚薬品グループだけではない。
ほかにも大手ではグリコや森永製菓、アサヒグループ、マルコメ、カゴメなどが大豆を原材料にした食品群を展開している。
ただ懸念もある。世界的な大豆ブームで、世界中の森林やサバンナが大豆向けの農地に転用されていることだ。WWF(世界自然保護基金)によれば、空前の大豆ブームでこの50年で、世界の大豆消費量は2700万トンから2億6900万トンに増え、その作付面積も100万k㎡まで広がっている。これはフランス、ドイツ、オランダ、ベルギーを合わせた広さである。とくに南米では1990年に1700万haだった作付面積は2010年は4600万haと、3倍近くにも拡大している。
WWFはこうした現状に対して「責任ある大豆生産」を提唱。森林や草原や湿地など生態系を破壊するような場所の農地転用を認めず、持続可能な生産方法を守る農業者に与える認証制度などを各国政府に推奨している。
大豆がこれほど注目されているのは、爆食大国である中国の存在が大きい。中国のGDPが急激に伸び始めた2000年代中頃から、食肉の量も増え、これに沿うように世界中で家畜の飼料となる大豆の消費量が増えたのだ。このため大豆の世界相場が一気に高騰し、世界
的相場の指標となるシカゴの大豆市場では2006年から08年にかけて3倍の価格をつけている。その後は一旦下ったものの、底値が高止まりし、従来の2倍から3倍の価格が続いている。
中国の肉需要は当然国内では賄えず、輸入量が拡大したが、なかでもブラジルやウルグアイなど南米からの輸入量が急増。先の大豆農作地が南米で90年代から2010年までの間に作付面積が拡大したのも頷ける。
日本でも大豆の消費拡大を受け、国産大豆の自給率も上がってきている。2013年までは8 〜10%で推移していたが、2018年には過去最高の25%まで上がっている。品種改良も積極的に行われ、長らく上位を占めてきた品種にもこの数年で動きが見られるようになった。
農水省のデータでは国産大豆の登録品種は138種もあり、味噌や豆腐など用途や地域風土に合わせて改良されてきた。使われる商品の幅が増えれば、より個性や特長をもった大豆が生まれてくるだろう。
大豆の可能性はまだまだありそうだ。