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【インタビュー】人工衛星は都道府県で持つ時代に!2020年 福井県民衛星「すいせん」 宇宙を駆ける!!

[インタビュイー]
福井県産業労働部新産業創出課
県民衛星グループ
主任 牧野一郎 さん
企画主査 山下裕章 さん

宇宙の活用法が日増しに関心を集めている。これまで宇宙というとNASA やJAXA(宇宙航空研究開発機構)、あるいはISS(国際ステーション)といった国家プロジェクト、国際協力のもとで行われる開発がメインだったが、時代が下るにつれ、身近なものになっていった。

2009 年に大阪の中小企業が打ち上げた小型人工衛星「まいど1号」を皮切りに、最近では堀江貴文氏らが投資をしている北海道のベンチャーが打ち上げるロケット「MOMO」など、民間企業、それも中小やベンチャーが手掛けるまでに身近なものとなった。特に新たな市場として期待が高まっているのが、小型人工衛星だ。

一昨年夏に、内閣府と経済産業省は衛星データ等を活用した宇宙ビジネスの創出を主体的・積極的に推進する「宇宙ビジネス創出推進自治体」を募集した。審査の結果、採択されたのが北海道、茨城県、山口県、福井県の4道県である。

いずれも道県内産業の成長産業の目玉として掲げ、産学官を挙げて開発整備を進めている。なかでも福井県は一頭地を抜いており、すでに人工衛星製造までこぎつけている。今年、自治体として初めて民間企業と共同で人工衛星を打ち上げる予定だ。

福井と言えば、繊維や眼鏡産業のイメージが強く、宇宙産業の気配は感じられない。いったいどういう経緯で1つの県が人工衛星を打ち上げ、持とうと思ったのか。そしてその衛星をどう活用していくのか。オリンピックイヤーに打ち上がる県民衛星プロジェクトの経緯と未来を福井県の担当者に聞いた。

県内には宇宙産業に関わる企業はほとんどない。
ゼロからのスタート

BIZ ● 改めて、どういうきっかけでこの福井県民衛星プロジェクトは始まったのですか?

牧野一郎さん(以下牧野)● 福井県が平成22 年に策定した経済新戦略という政策の指針を改訂する際(平成27年)に、「人口減少が進む中、繊維メガネに次ぐ新産業を目指すべきだ」という話となり、そのなかで「宇宙分野がいいんじゃないか」という意見が出てきました。検討の結果、やろうとなりました。

BIZ ● 繊維・メガネから宇宙衛星とはかなり思い切ったジャンプですね。それは福井県職員の中から出てきた話なんですか?

牧野● 現在、福井県民衛星技術研究組合の理事長をしている株式会社ネスティの進藤哲次社長が、衛星データをビジネスに使えないかということを検討していました。ただ衛星のデータを利用しようとすると10km 四方の衛星写真1枚が当時30 万円くらいする。とてもこれではビジネスにならない。そんな時に小さな人工衛星を開発製造できるという東京の宇宙ベンチャーである株式会社アクセルスペースの話を知って、これなら行けそうだねとなった。

従来人工衛星を1基製造すると大型のもので何百億円もしていましたが、アクセルスペースの超小型衛星は数億円で製造できるというのです。そこで進藤さんが県内外の企業や県に働きかけをして、福井県民衛星技術研究組合をつくり、プロジェクトの実施体制を築きました。自前で衛星を持てば、データ自体も安くなっていろいろな活用ができるのではないかという話になりました。

それと衛星データを農業に活用しようという取組みもあり、いろいろな動きがある中で、人工衛星を自前でつくって打ち上げようというこのプロジェクトになったのです。

BIZ ● いろいろな思いやタイミングが重なって生まれたプロジェクトだということですね。県内に宇宙産業の下地はあったということですか?

牧野● 県内に宇宙向けの部品とか部材を提供している企業は数社ありましたが、宇宙産業はほとんどゼロからのスタートです。

BIZ ● かなり野心的な話ですね。撮った映像などのデータは県で利活用するわけですか?

山下裕章さん(以下山下)● 県民衛星ですから、県民のために使うということが第一になってきます。まずは行政利用として、県庁の土木や森林保全などの業務で活用できないか、検討してるところです。

衛星データを活用したシステムでは、約2週間毎に更新される画像による、河川や森林など、登録したエリアの継続監視による変化の自動検出や、過去の任意の衛星画像とハザードマップなどの情報を地図データ上への表示、衛星画像の3D 表示による立体的な把握などが可能となります。その上で専用の機能を付加し、行政や民間で使えるソフトにしていきます。

BIZ ● ほかにもいろいろデータの利活用の可能性はありそうですね。

山下● 例えば湖の水質管理。水草がどれだけ生えていたりなどが分かると思いますし、土木工事の進捗管理などもデータが定期的に取れるので、いちいち現地まで行かなくても分かるようになると思います。森林など、なかなか人が入りにくいところの監視に向いてると思います。定期的にデータが取れるので、 行政パトロールの効率化なども図れそうです。また農業関係では一帯の稲のタンパク質含有量が見えたりするので、稲刈りのベストタイミングなども判断できると思います。

人工衛星をつくることで
製造技術を習得、
県内での生産体制構築につなげる

BIZ ● 県民衛星打ち上げ後の展開はどのようにお考えですか。

牧野● 県民衛星として打ち上げる衛星は1基ですが、1基つくって終わりではありません。県民衛星を作ることで製造技術を蓄積し、ものづくりビジネスとして展開していく。全国に先駆けで打ち上げることで、他の衛星の受注につなげていきたいと考えています。

最初から何十基も自前で持つのは大変です。かと言って小さな衛星が1基だけでは、データとしての撮影頻度が十分ではありません。アクセルスペースは何十基も打ち上げて高頻度で撮影するという計画があり、コンステレーション(群)というのですが、福井県でまず一基打ち上げ、他の衛星と連携することでデータを補完して、撮影頻度を上げいくことを目論見ました。

BIZ ● 人工衛星というモノをつくるものづくりビジネスと、データを活用したソフトビジネスの2軸で進めるということですね。

牧野● はい。先程言いましたように福井県には宇宙産業はありません。ですが福井県の中には繊維とかメガネなど、部品や部材を作ることにものすごく長けてる企業が多い。その技術を活かせば宇宙産業にも関わっていけるのではと。まずは衛星の組み立てを福井県でできるようにして、後々は部品自体も福井県の企業が作れるようにして供給していく。最終的には人工衛星製造のサプライチェーン構築まで持って行けたらいいと思っています。

またデータの利活用ビジネスについては、まず県で実証して行政向けのシステムを作り上げ、実績を積んで全国の自治体に展開していき、あわせて民間向けのソフトウェアを展開していくイメージです。

福井の高度なモノづくり技術を
人工衛星製造に活かす

BIZ ● 福井の技術の素晴らしさはわかりますが、実際どのような形で生かされるのですか。

牧野● 人工衛星は宇宙空間まで行ってしまえば無重力で真空状態なので重さは関係ありません。ただ宇宙に持って行くまでは軽い方がいい。なので、メガネの軽量化技術などが活かされるのではないでしょうか。

一概には言えませんが、衛星が1 kg 軽くなると打上げ経費がだいたい数百万円安くなるとも言われています。メガネの加工技術はものすごく微細で難しいですが、いまはチタンなど難加工材の加工技術があります。最近では炭素繊維も使われていたりしますが、こういった技術が軽量化に活かされてきます。製造に関わっている鯖江精機はメガネの加工技術から金属加工技術に入っているのですが、ものすごく高い技術を持っています。福井の中にはそういったすごい技術があって人工衛星に活かされると思っています。

BIZ ● 県民衛星の製造については、いまはどういう状況ですか。

牧野● 県民衛星は今年、打ち上げる予定で、それに向けて試験を進めています。県民衛星は100kgぐらいありますが、これの組み立てや試験を経験することで、県民衛星と同サイズの人工衛星の製造技術やノウハウの蓄積を進めています。

あわせて、一昨年打ち上がったアクセルスペースの人工衛星「GRUS(グルース)」が撮った衛星データを、開発中のシステムに取り込みシステムの実証を進めています。

緑として写っているところは、本当に緑なのかとか、河川の中洲の堆積データが業務に使えるのかなど、我々がその場所に出向いて写真に撮ったりしながら検証しています。

BIZ ● そうですか。でも人工衛星をつくるとなるといろいろハードルがありそうですね。

牧野● 衛星の製造技術については、人工衛星の第一人者である東京大学の中須賀真一教授のもとで勉強させていただきました。いまは実力がついてきて県民衛星よりさらに小型の3U衛星では、東京大学と共同開発するというところまでいっています。3U 衛星はアメリカの大学が開発した小型人工衛星Cube Satの国際規格となっているもので、10cm ×10cm × 30cm の小さい衛星です。これに対して県民衛星は60cm × 60cm × 80cmなのでちょっと大きいものです。3U衛星は福井県でつくれるところまで来ています。

BIZ ● ビジネス展開としては、パソコンにおけるインテルさんみたいに1つのユニットみたいなものを作って、それをカスタマイズして提供するようなビジネスモデルなんでしょうか。

牧野● 衛星には、バスという基本的なユニットがあるのですが、それだけで衛星として機能するものです。福井で開発した3 U 衛星では30cm のうち20cm がバス部分(15cm まで圧縮可能)で、残りの10cm 部分をミッション部分として使えます。そこに例えば地上カメラで撮影したりなどやりたいことがあれば、そこにカメラをプラスしますし、地上と通信したいということであればそこに通信機器を積み込んで通信します。いろいろな目的の衛星に対応できるようにユニット化した設計としているので、今後量産の広がりがあると思ってます。

BIZ ● いま何社くらい関わっているのですか?

牧野● 県民衛星プロジェクトの実働部隊として、衛星を製造するものづくり系企業7社と、データの利活用を担当するシステム系企業4社と県で福井県民衛星技術研究組合を構成しています。

このほか顧問として東京大学、福井大学、福井県立大学、福井工業大学、福井高専(福井工業高等専門学校)、JAXA に入ってもらって、さまざまな助言をいただいています。

ほかに技術支援として県工業技術センターには、衛星製造に必要な設備や環境を整備しています。こうした布陣でプロジェクトを進めています。

ルワンダの衛星製造の実績から
アフリカの市場へ

BIZ ● 参加企業の数は足りているのですか?

牧野● 3U衛星の製造では、県内企業4社が取り組んでいるのですが、春江電子は衛星の設計、その設計に基づいて鯖江精機が筐体の金属部分をつくり、そこにセーレンが中の電子基板回路を作り、外へ通信するアンテナ部分を山田技研が担当してと、得意分野がうまく噛み合っています。

既にルワンダ向けの衛星であったりとか、東京大学が開発した水推進エンジン(※)を積んだ衛星とか、オリンピックで使うガンダム衛星など、いろいろな衛星の話が来て製造に取り組みました。更なるオーダーに対応して広げていこうとすると、いまの体制だけでは無理なので、他の企業にもぜひ加わってほしいと思います。

BIZ ● ルワンダからすでにオーダーが入っているのですね。

牧野● 最初ルワンダ政府から東京大学に依頼があったようです。ルワンダは通信インフラが整備されていません。それで地上のデータを一回宇宙に飛ばして、衛星でデータを集めて、それを地上局に落とすような仕組みができないかということで、協力してほしいと。県内企業が東京大学へ研修へ行く中実力をつけていったので、じゃあ福井県さん一緒にやりましょうとなりました。2018 年7月には東京大学と県の製造系企業、県工業技術センターで共同研究契約を締結しスタートしました。

BIZ ● 実力は折り紙付きということなんですね。そうすると宇宙ビジネス展開は日本市場だけはない?

牧野● 国内だけだと数が限られてくるので海外を視野に入れたビジネス展開になってくると思います。

アフリカなどは有望な市場です。アフリカは地上インフラ整備が遅れているので、通信インフラにも衛星が使える可能性が高いと思います。いまアフリカのさまざまな国が困っています。我々は東京大学ですでにルワンダの衛星をつくった実績がありますので、そこからアフリカの市場に入っていけると考えています。

まずは福井の技術を学びたいという意欲のある人や、接点のある人を受け入れて技術交流を図って人材を育成する、そういった中から優秀な方が福井に残っていただく、来ていただくということもありますし、連携した国から受注を受けるということもあると思います。

高まる各都道府県の宇宙産業のなかで、どう差別化するか

BIZ ● 国内の動向も気になりますね。

牧野● 一昨年内閣府から宇宙推進ビジネス自治体として、北海道と茨城県、山口県、福井県が選定されたので、そういう県とは色々情報交換しています。

BIZ ● 茨城県の場合はJAXA があるので地の利がありそうですね。

牧野● 確かに茨城県はJAXA があるということもあるようです。山口県はJAXA のセンターが山口に移転されてからデータビジネスに力を入れている模様です。北海道では北海道大学が人工衛星の研究をされていて、とくに農業にそういったデータが利用できないかと力を入れています。

BIZ ● お互いライバル視している?

牧野● ライバルというよりは、宇宙産業を盛り上げていくために協力していこうということで進んでいます。

福井県で宇宙人材の育成を!

BIZ ● 県の取組みはどれくらい県民に浸透しているのでしょうか。

山下● 昨年福井で開催された宇宙国際シンポジウムであるISTS(第32 回宇宙技術および科学の国際シンポジウム)には多くの方に参加いただきました。また、県民衛星の名称募集には1344 件もの応募をいただき、県民の皆様の関心の高さを実感しております。

BIZ ● 結構な数が集まりましたね。

牧野● メディアの露出が増えているのが大きいと思います。ルワンダ向けの衛星や水推進エンジンを搭載した3 U 衛星は2019 年11 月20 日に国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙空間に放出されていますし、ほかにも「ガンダム衛星」は3月に打ち上げられる予定ですが、そういった人工衛星がメディアに出て、注目を集めているようです。

実際、公民館や経済団体の集まりなどで「県民衛星プロジェクトの取り組みを紹介してください」という話もいただくようになりました。

それと当県ではふるさと納税のなかでプロジェクトを支援するというようなメニューも持っており、ここ3 年ぐらい全国の皆さんから、支援もいただいています。

BIZ ● 認知度が高まって、製造技術もさらに上がって固まってくれば、その技術を習得したいという若い人も出てくるでしょうし、県外からもやってくるでしょうね。地元の大学に人工衛星が学べる学部みたいなところができるといいですね。

牧野● 最終的にそうなればいいなと思いますが、まずは人工衛星の製造が学べる研究室などといった形でしょうか。県外の大学などから専門の先生に来ていただいて、研究のほか県内企業に対して指導をしていただきながら最終的には学生さんを育てて地元の企業に就職する、こういうことに繋がっていけばと思っています。

BIZ ● いま、学校の教育現場でも活用できるといいですね。

牧野● 関わっている企業の方が取り組みについて高校で話をしたり、子供たちの衛星の工作教室などのイベントを催して、子供たちにも興味を持ってもらうといったことをやらせていただいてます。

山下● 一昨年はジュニアISTS(宇宙に関する研究発表会)ということで、JAXAの担当者や宇宙に関わる人が県内の高校に行って、高校のサークルに直接指導していただき、昨年福井で開催された宇宙国際シンポジウムでその成果を発表することもしました。

受注がどんどん入ってきているので、
参加企業を増やし、
さらに技術を磨いていく

BIZ ● これからのスケジュールは?

牧野● 県民衛星の製造完了後、県民へのお披露目を行い、打ち上げ場所へ輸送します。県民衛星は4月~9月に打ち上がる予定ですが、打ち上がった後は県民衛星のデータを使いながら県庁内で利活用ソフトウェアの実証を重ねていき、他の自治体や民間に展開できるようなソフトに仕上がっていければと思っています。

BIZ ● 打上げ基地はどこになるのですか?

牧野● ロシアのソユーズロケットに搭載され、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打上げられる予定です。

BIZ ● 楽しみですね。このプロジェクトがどのようにして地元に還元されるのか、改めてプロジェクトの意義を教えてください。

牧野● 県民衛星から得られたデータをどのように活用していくかということが大きなポイントです。行政がまず使っていくことになっていますが、それは県民の方の安全安心を高めるということに繋がっていくと思いますし、さらには教育場面で衛星画像を使うといったことなども考えられます。まずは衛星から得られるデータをしっかり活用していきます。

BIZ ● プロジェクトの成功を期待しています。本日はありがとうございました。

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