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イマドキのマーケティングの基本

ヒット商品は勘では生まれない

モノやサービスが売れない時代と言われて久しい。どんな市場にもモノやサービスがあふれ、ヒット商品を生み出すことは難しくなった。しかもそういったモノやサービスは国内だけでなく海外からもやってくる。

そんな中でもヒット商品は生まれている。顧客や消費者のニーズをくみ取り、それを実現した商品やサービスだ。経営者のなかには、鋭い感性とセンスでヒットを打ち続ける方もいるようだが、非常にまれな例と言える。天才肌のファーストリテイリングの柳井正さんでも、商売は1勝9敗と言い切っているほどだ。

ヒットになるかどうかの最終的な判断は、経営者の勘やセンスになるかもしれないが、それもしっかりしたベースがあってこそ。そのベースとなるのは、的確な「マーケティング」だ。

マーケティングというと一部の専門家の知識やスキルと思う方もいるだろうが、経営者なら身につけておきたい現代の商売の基本である。メールや挨拶と同様、「仕事のたしなみ」という人もいる。身につけているかいないかで、会社の収益は大きく変わるのは間違いない。

個人事業主や中小企業の経営者のなかには、何かのスキルや技術を武器に起業したり、先代から事業をそのまま引き継いだりするケースがあるかと思うが、意外とマーケティングを知らないまま経営していることが多い。

無論「知ってるよ」という人もいる。だがインターネットの発達や社会環境の変化に伴い、マーケティングの考え方も日々進化している。もしからしたら取り残されてはいないだろうか。

マーケティングってどういうこと?

そもそもマーケティングとはいったいどういうものなのか。ちょっとした書店に入るとマーケティングに関する本は数十冊は見つけることができる。いろいろな立場の人がさまざまな定義をしているが、その定義は千差万別といっていいほど分かれている。

そのなかでも代表的なのはアメリカマーケティング協会(AMA)の定義と日本マーケティング協会(JMA)の定義だ。

JMAの場合、マーケティングとは「企業および、他の組織が、グローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて市場創造のために行う総合活動」としている。一方AMAは「組織的な活動であり、顧客に対して価値を創造し、価値についてコミュニケーションを行い、価値を届けるためのプロセスであり、さらにまた組織および組織のステークホルダーに恩恵をもたらす方法で、顧客関係を管理するための一連のプロセス」としている。

分かったような分からないような定義だ。ほかにも「商品やサービスを売るための仕組みづくり」、「潜在市場を有効市場に変える方法」となどさまざまな定義がある。マーケティング学の大家、フィリップ・コトラーはマーケティングの目的について、「絶えず変化する人々のニーズを収益に変えること」と言っている。さらに経営学の巨人であるピーター・ドラッカーはマーケティングの理想を「販売をなくすこと」だと言っている。ひとつの至言だろう。

ここではマーケティングをまさに文字通り、マーケット(市場)の進行形、つまり「新しい市場を切り開いて収益に結びつける方法」と捉えてみる。より細かく説明すると「販売や営業の手間を極小化するために、誰がどんなものを欲しがっているかを的確に探り当て、その誰かのために適切な機能・品質・価格の商品を、的確なタイミングで届ける仕組みをつくっていくこと」ということになる。

高度成長期はマーケティングが不要だった

なぜマーケティングは必要なのか。1つには、モノやサービスが市場を満たしていくためだ。

商品の売れ方は時代とともに変わってきた。たとえば戦後1950年代から1970年代までの高度成長期では、需要が生産量を上回る状態が続いてきたので、企業は生産に集中するだけで十分だった。企業は生産能力と流通の拡大に努めればよかった(第1段階)。しかしその後生産が需要に追いつくようになると、個々の商品の売れ方は鈍化していく。企業間の競争は激しくなり、商品の機能や品質をより際立たせる必要が出てきた。企業は他者との差別化を図るべく、製品開発に力を注いだ(第2段階)。ただこれは顧客のニーズを汲み取ったものではなく、企業が自社の発想のみで差別化を図っていったのだ。

やがてさらに需要が十分に満たされるようになると商品の差だけでは、売ることが難しくなった。そこで企業は商品をいかに売るかという売り方に力を注ぐことになる(第3段階)。しかし売り込み合戦が過熱すると、消費者は反発を覚えるようになる。そこで企業は考えを変えていく。「より生活者が満足するような商品を買う方法をとらなくてはだめだ」と。消費者がどのようなものを欲しがっているのかを調べ、その企業独自の特徴付けを行いながら、満足度の高い商品を提供することになる(第4段階)。

この1から4の段階をそれぞれ、「生産志向段階」「製品志向段階」「販売志向段階」「マーケティング志向段階」と呼んでいる。現在の市場はこのマーケティング志向段階に入ったといわれている。またこれらの段階については、1~3の段階を「プロダクト・アウト」、4番目の段階を「マーケット・イン」という分け方をする時がある。

プロダクト・アウトとは、「いいものは売れるはず」という作り手中心の考え方で、マーケット・インは顧客や消費者が欲しがっているものを探し出し、商品化して提供する顧客中心の考え方とも言える。

よく、売れる商品をつくるにためは「顧客のニーズを聞け」「市場のニーズを分析せよ」といったことが言われるが、これはマーケット・インの発想から生まれたこと言葉だ。

もう一つは、商品には「寿命=ライフサイクル」があることだ。世の中にはロングセラー商品があり、10年20年、場合によっては40年、50年と売れ続ける。

しかしそういった商品は稀で、業界にもよるが、たとえば菓子類や即席めんなどは、3カ月も持たずに消えていくものもある。従って、企業は1つの商品にだけに頼ることなく、新しい商品を市場に投入していく必要がある。

当然ながら新しい商品を開発して売るためには、新たに消費者が欲しがっているものを探り、開発していかなければならない。つまりマーケティングのプロセスを1から進めていくことになる。たとえヒットした商品があるからと言って、同じような商品をちょっと中身を変えただけでは消費者は財布から現金やカードを出さない。よって企業は商品の寿命が終わる前に新しい商品を市場に投入する必要があるのだ。

ちなみに商品のライフサイクルは次の4つのステージに分かれる。
最初が「導入期」である。この段階ではまだ売上高の右肩上がりのカーブはそれほど顕著ではない。「上がっているかな」といった程度。その後ある時点を超えると急激に売り上げが増えていく。「成長期」に入ったのだ。やがてその売り上げ曲線が緩やかになったかと思うとピークを迎え、下降する。この売上の右肩上がりが鈍化したころからピークを迎え、そして下降し始めたあたりが「成熟期」と呼ばれる時期だ。そして間もなく衰退期を迎え、急激に落ち込んでいく。一般に成長期のカーブより、落ち込む時のカーブのほうがきつくなる。

この商品のライフサイクルは時代が下るにつれてどんどん短くなっている。情報網がどんどん発達しているので、ある商品が売れるとなると、ライバル会社が似たような商品をあっという間に開発し、後を追ってくるからだ。

ニーズとウォンツ

マーケティング志向の時代にあっては、まず顧客や消費者がどんなことを求めているのかを知らなければならない。その基本になるのが「ニーズ」と「ウォンツ」という2つの言葉だ。

ニーズとは必要性や需要という意味の英語だが、マーケティングの世界では、同様にウォンツという言葉も使われる。似たような言葉だが、使われ方が違う。また専門家によって定義づけも違っている。

最も知られているのは、ニーズは「しなければならないという必要性」で、ウォンツは「欲しい、したいという欲求」であるという考え方だ。

どういう違いかをクルマを例にして説明しよう。

通勤にクルマを使う人がいる。10年以上使って、あちこち傷んできたので、そろそろ買い替えようと考えたとする。その人にとってはクルマは必需品になるから、ニーズとなる。この時点では対象は一般的乗用車が対象となる。中古車でも軽でもいい。しかしそれがどうしてもポルシェかベンツでないといけないと、こだわりが入ると、それがウォンツになる。お昼に何か食べたいというのはニーズで、それがマクドナルドのてりやきバーガーとなるのがウォンツであるともいえる。

今の市場はニーズを満たす商品はあるが、問題はウォンツにできるかどうかにかかってくる。逆にニーズを飛び越えウォンツが先に出る場合がある。クルマを買い換える必要がないのに、どうしても欲しいので、フェラーリを買ってしまったりすることだ。

ニーズとウォンツについては、「顕在化している欲求がニーズ」であり、「消費者自身が気づいていない、潜在的欲求がウォンツ」という考え方もある。たとえばインターネットが普及する前は、そのようなサービスを欲しがる声はほとんどなかったはずだ。だがインターネットが普及した今は、インターネットを使ってこういうことがしたい、ああいうことがしたいと明確に欲求が出てきた。どちらかと言えばプロダクト・アウトに近い感覚だが、革新的な商品や仕組みのなかにはそれが世に認知されてはじめて、その使い方や欲求が生まれてくる例は往々にしてある。こうした消費者の無意識のなかに眠っている欲求を引き出す考え方を「インサイト(洞察)」ということもあり、眠っている市場を掘り起こす上で重要なキーワードになっている。

人間の欲望を知る

消費者のニーズやウォンツはどのように引き出されるのだろうか。マーケティングではその前提となっている人間の欲求についていくつかの分析がなされている。

代表的なのは心理学者マズローが唱えた「欲求5段階論」だ。マズローは、人間は経済的に余裕が出てくるとより高次の欲求に移っていくとしている。

5段階のうち最も基本的な欲求が、「生存の欲求」である。生きていくための必要不可欠な「衣」「食」「住」への欲求だ。その次が病気や事故から守ろうとする「安全への欲求」。その次が会社や地域、家族などの組織やコミュニティでの人間関係に愛情や友情を求める「帰属と愛情の欲求」。その次が社会から認められたい、尊敬されたいという「尊厳の欲求」。そして最も高い次元の欲求が、仕事や生き方において自分の求める姿になりたい、理想とする自分になりたいとする「自己実現の欲求」である。
このほかこのマズローの5段階説を下敷きにした「アルダファのEGR理論」というものもある。

この理論ではマズローの理論を「生存欲求」「関係欲求」「成長欲求」の3つに統合している。生存欲求は生存と安全への欲求、関係欲求は、安全と社会的欲求、尊厳への欲求、成長欲求は、尊厳と自己実現の欲求に相当する。

マーケティングにおいては、これらの欲求に応じたそれぞれの市場が存在すると考えられ、たとえばミネラルウォーターや食品などは生存への欲求、安全への欲求を意識したマーケットだし、保険や金融商品は安全への欲求、高級車や高級マンションは尊厳の欲求、難関大学への合格をサポートする予備校や、資格取得のための講座は自己実現の欲求の市場であるとも言える。

先進国においては、ほとんどがこれらの理論の最後の段階にいる人だ。だが昨今の大雨や大地震、噴火などの天変地異を引き合いに出すまでもなく、状況によって生存への欲求、安全への欲求は常に人間のなかに内包されている。

誤解を承知で言えば、マーケティングは欲望心理学の実践でもある。つまり人間社会が複雑化すれば、それに応じた複雑な心理が発生し、かつその心理に呼応する市場は生まれてくるのだ。

たとえば、アメリカの心理学者H.A.マレーは、「恥辱の回避」「防御」「保身」「解明」「優越」「自己卑下」など28の欲求があると分析している。つまりこれだけの欲求のニーズがあり、それぞれに市場があり、そこに対するマーケティングも必要となるのである。

どんな消費者がいるのか

このようにマーケティングでは、どのような人間でも環境や経済力に応じて同様の欲求を持っていると考えている。しかし実際には、人の消費行動は実にさまざまな現象となって現れる。それは同じ商品でも関心度が違うからだ。新しい商品が出ると誰よりも早く新商品に飛びつく人がいる一方で、周りの人が買わないと買わない慎重な人もいる。こうした情報感度によって消費者を分ける方法論に「イノベーター論」がある。

イノベーター理論では、新しい商品に早く反応する(購買する)層から

「イノベーター」(2.5%)→「アーリーアダプター」(13.5%)→「アーリーマジョリティ」(34%)→「レイトマジョリティ」(34%)→「ラガード」(16%)

の順に反応していく。カッコ内の数字はその比率で、ほぼどのようなジャンルの商品でも当てはまるという。

この中で、アーリーアダプターの人はその市場や商品についてオピニオンリーダー的性格が強く、一般に新しい商品はこの層がポジティブに反応すると、売れる可能性が高まるとされる。

また想定される市場において、だいたい普及率が14%を超えたあたりから急激に商品が広まると言われており、このポイントを「クリティカルマス」と呼んでいる。

消費者がどんな商品に反応するかはやはり、その人のライフスタイルに負うところが大きい。マーケティングではさまざま分析方法があるが、そのなかでもライフスタイルを分析する代表的方法が「AIO分析」だ。

これは消費者のライフスタイルを

「A=ACTION(行動)」
「I=INTEREST(関心)」
「O=OPINION(意見)」

から見ていくもので、消費者が仕事や趣味、地域でどのような活動をしており、またどのような趣味や趣向、ファッションや食生活、媒体、教養をもっているのか、社会やビジネス、教育、文化などについてどのような意見を持っているかをアンケートや面談などの調査を通じて分析し、カテゴリー分けをしていく方法だ。

同じ商品を買ったからといって、その動機は同じではない。その動機の背景にあるライフスタイルや価値観がわからないと、消費者や市場の特性は見えてきにくいものだ。

マーケティング戦略の要素

どんな消費者にどのようなニーズやウォンツがあるのかがわかったら、その商品を開発して、ターゲットとなる消費者に購入してもらわなければならない。この戦略を考える時にポイントとなるのが「マーケティングの4P」と呼ばれるものだ。

4Pとは、

「製品(Product)」
特徴、品質、デザイン、色、パッケージ、大きさ、返品、アフターサービスなど
「流通(Place)」
在庫、輸送、流通範囲、チャンネル、品揃え、立地など
「価格(Price)」
価格、値引き、割引、支払条件など
「プロモーション(Promotion)」
販売促進、広告、パブリシティ、ダイレクトマーケティング

のこと。いずれも消費者側から企業がどう見られているかを判断していくもので、マーケットインの視点からは特に重要になってくる。

AIDMAからAISASへ

マーケティングの4Pのうち製品や流通、価格については細かな戦略を立てて、実践している経営者は多い。しかしながらプロモーションについては、PR会社や広告会社といった外部に丸投げ、あるいはそこにはお金が掛けられないと諦めている人もいる。

マーケティングは消費者の欲望を引き出し、購買に結び付けるための手法だ。なので、いくら素晴らしい商品やサービスでも、それを知った人が、欲しいと思わせて来店や契約につなげなければ意味がない。その最後の導線を果たすのがプロモーションである。プロモーションは、消費者の気持ちの高まりや変化を理解した上で進めなければ水泡に帰してしまう。

その変化を表す代表的な理論が「AIDMA(アイドマ)」である。どこかで聞いたことがあるかもしれない。AIDMAは人がどのように情報を取り、購入という行動を起こすのかの心理プロセスを追った理論で、極めて説得力を持ち、長らく広告業界やマーケッターの間では信奉されてきた。新しい商品情報に触れると人はまず「Attention=注意」を惹かれ、その商品に「Interest=関心」を持つ。そして商品をよく知り、気に入ると「Desire=欲望」を抱く。そしてその商品の名前や特徴を「Memory=記憶」し、ついに購入や契約という「Action=行動」を起こす。

ただ近年はインターネットという新たなメディアが浸透したことでこの行動プロセスに変化が表れている。それが「AISAS(アイサス)」という考え方だ。

商品情報に触れた人が、注意を惹かれ、関心を抱くまでは同じだが、その次にその商品についてインターネットで「Search=検索」をする。そしてそこで情報を吟味し、納得して購入(Action)に至る。そしてその商品の感想をブログなどで公表して、情報を「Share=共有」するというもの。

人間はどこかしら心を動かされたものについて発信したいという欲望があるのかもしれない。1つの承認欲求の形態だ。SNSやブログにコメント機能や「いいね」機能が組み込まれているのはその証左だ。SNSに「いいね!」機能をつけたのはFacebookだが、視点を変えれば、最初からマーケティングツールとして構想されていたネットツールだとも言える。企業の企画部門やマーケッターにとって、試作品を発表すれば、市場の反応があっという間にわかってしまうからだ。

こうした考えは従来のPRや広告の考え方を大きく変えた。以前はプロモーションを打つ際には、テレビや新聞などのマス媒体を中心に組み立ていたが、今はインターネットのSNSやYoutube、ブログを中心に組立てるようになった。テレビや新聞、雑誌などに商品情報を露出させ、企業のホームページやSNSの公式サイトに誘導するのだ。最近「続きはWEBで」というCMや雑誌広告を目にするのはその考えに則ったものだ。

AISAS からAISCEASへ。そして無関心へ

最近ではその軸がPCのサイトからスマートフォンに移っている。新聞や雑誌、駅や街中のポスターやチラシなどに記載した二次元バーコードからスマートフォンのサイトに飛ばす流れが一般化している。そこでさらに関心をもたせるような仕掛けをつくり、最後に購入ボタンをクリックさせるという流れだ。

ただこの構造も絶対的ではない。軸がマスメディアではなく、ネットになると、人の購買プロセスも変化する。すでにAISASはAISCEASに変わっている。Attention,Interest、Searchと最後のAction、Shareの間にCompare(比較)→Examination(検討)が入ってくるのだ。ネットのビジネスモデルは真似されやすい。だから消費者は比較し、検討することが欠かせない。クルマや家電など、スペック比較できるものであれば、単純に価格比較となり、消費者はわかりやすい。となると、売り手は泥沼の価格競争にハマっていく。そこで、保証やアフターサービス、付属品などで差別化したり、あるいはメーカーとコラボした「特別」な商品を生み出すことも求められている。

一方でスペックなどで一律比較できない商品については、いかにこだわりや物語などで差異性を出すかが重要になる。そこでたとえばアマゾンやグルメサイトでは、利用者による評価がつけられるようになった。商品の評価は買った人の目的や属性に左右されるが、より数多くの人が評価すれば、バイアスも是正され、信頼性の高い評価が可能という理屈だ。同じ商品やサービスをこれから購入しようという消費者は購入判断の目安になりやすい。評価が良ければもちろん、企業にとってはありがたいが、たとえ評価が低かったとしても評価者の母数が多ければ、それだけ社会に知られる商材であることの証明であり、ブランディングとしては有効になる。だがこのシステムもいわゆる評価のヤラセが起きており、評価の星を売るビジネスも誕生している。

さらにはそこまで手間や時間をかけたくないという企業では、話題性を求め、短兵急に「炎上マーケティング」などの手法が採られることもある。炎上マーケティングとは、ツイッターやFacebookなどのSNSで、過激な言葉や行動の動画をアップして、世間の注目を集める手法だ。新サービスやスタートアップなどの企業が知名度アップを目的として仕掛けることもあるが、すでにブランドが確立している企業では下手するとダメージのほうが大きくなる可能性がある。似たようなネットビジネスモデルが続々と登場するため、いまネットに限らず企業は、その他大勢から抜け出す方法を常に模索している。マーケティングプロセスにおいては、最初のAttentionにいかに力を入れるかに重きが置かれるようになってきたのだ。

結果として、低コストで知名度や話題性を上げることが難しくなり、マス広告にコストをかけて、自社サイトなどへ誘導することになっている。

グローバルコンサルティング会社のアクセンチュアが世界各国で調査した結果がある。それによると日本をはじめとする先進国では、徐々に製品やサービスに対するこだわりや執着がなくなってきているという。ネットにおいては購入前に比較・検討をするが消費者が減ってきているというのだ。つまりネット消費を解き明かした強力なAISCEAS理論が効かなくなってきているのだ。アクセンチュアは、これを「消費者の無関心化」と呼んでいる。とくにその傾向が強いのが日本だという。

無関心化の一方で高まる
ソーシャル・マーケティング

背景にはどんどん消費が個別化していることが挙げられる。すでに市場においてはマスマーケティングの時代は去り、どんどんミクロマーケティング化している。

マーケティングは、もっとも広範な消費者にテレビや新聞、雑誌などの、マス媒体を使って注意喚起していたマスマーケティング時代から、地域や特定の職業、業界、年齢層、収入などをターゲットにした「セグメントマーケティング」。さらにそれより小さい「ニッチマーケティング」がある。ニッチマーケティングはたとえば自動車事故歴や飲酒癖のあるドライバーだけを狙った保険、軍用専門の双眼鏡など、マスやセグメントからこぼれ出たニッチなマーケットを狙う。さらには個人のニーズやウォンツを引き出してカスタムメイドの商品やサービスを提供する「カスタムメイド・マーケティング」に分かれる。カスタムメイド・マーケティングはまさに究極の形だが、すでに医療においては個人の遺伝子などをベースにしたオーダーメイド医療などが生まれている。

一方で関心が高まってるのは、一般的な消費ではなく、環境問題や貧困問題の解決につながるような社会的消費だ。ことにこの数年は国連が主導する「SDGs(持続可能な開発目標)」の浸透もあり、あわせて社会問題や課題を解決し、よりよい社会の実現のためのソーシャル・マーケティングへの注目が集まっている。

マーケティングは、その商品開発や新サービスの提供を通じ、どのような市場をつくりあげていくのか、その市場の発展や商品の提供価値がどのように社会をより良くしていくのか、どのような社会を構築していくかを考えるツールに変わりつつある。

マーケティングは日々変化している。今回は基本的なおさらいだけだが、それでも目から鱗が落ちた方もいるのではなかろうか。またタイミングをみてマーケティングの話をしてみよう。

<参考文献>

●「はじめて学ぶマーケティングの本」 安田 貴志
 日本能率協会マネジメントセンター
●「広告業界がわかる」 佐藤 聡
 技術評論社
●「コトラーに学ぶマーケティング」白井 義男
 イースト・プレス
●「マネジメント 基本と原則」P・F・ドラッカー
 ダイヤモンド社
●「『ビジネスの数字』の常識」 椿 薫
 フォレスト出版
●「実践 パーミッションマーケティング入門の入門」坂本 啓一
中経出版
●「マーケティング」 恩蔵直人
 日経文庫

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