人間が勝手に格付けされる時代に!?増えるAI信用スコアビジネス
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AIの信用スコアがアナタの社会活動や生活を決める時代に?
出張で急ぐアナタ。駅の改札でICカードをタッチ。すると警告音とともに、 「あなたのスコアは891です。この列車に乗るためにはあと44スコア足りません」とのアナウンスが……。
「しまった」と改札口で頭を抱えるアナタ。
もしかしたらそんな光景がそこかしこで見られるようになるかもしれない。
希望する電車に乗れなかったのは「信用スコア」が足りなかったから。信用スコアとは、過去のクレジットカードの支払い歴や銀行ローンの有無と残額、家族構成や収入、ショッピング歴や学歴、趣味やボランティア活動などさまざまな個人データなどから「アナタはこのぐらい信用できる人です」という数字を導きスコア化したものだ。
個人の信用情報自体は、銀行やカード会社がその融資やカード発行などの際に使われているもので、珍しいものではない。それがここに来て話題となっているのは、その信用をAIが判断するようになったことだ。それだけでなく、上述のように日常生活の行動にも応用可能になったことだ(あくまで可能性)。
アメリカや中国ではIT企業や金融機関がAIを用いて個人の信用度を判断するシステムを構築、サービスとして企業や行政などに利用されるようになっている。
社会規範の向上のためにAI信用スコアを使う中国
14億の人口を抱える中国では、「国民の社会規範」の向上を目的として国抱えで2015年から進められている仕組みで、代表的なAI信用スコアを提供する会社にはアリババグループの「ジーマ信用(芝麻信用)」がある。
ジーマ信用はアリババグループでのサービス利用歴などから信用度を分析してスコア化、最低350点から最高950点で表現している。スコアは350 〜550が信用較差、551 〜600が信用中等、601 〜650が信用良好、651 〜700が信用優秀、701 〜950が信用極好の5段階に分けられる。高スコアとなるとさまざま優遇が受けられる。ホテル、シェアリングサイクル利用時、図書館の貸し出し、電気自動車レンタル時の保証金免除、雨傘の無料レンタル、観光旅行のビザ申請の簡素化などの特典がある。
算出されるスコアは「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「行為偏向」「人脈関係」の5つの軸から分析される。「身分特質」は学歴や職歴、免許証や資格、「履約能力」は過去のローンや負債の支払い能力を示し、住宅購入積立金、不動産やクルマなどの資産も分析、「信用歴史」はクレジットカードなどの利用歴、「行為偏向」は消費趣向でネットショップやリアルショップでの購入歴などから分析され、「人脈関係」はSNSなどのアカウントからの交友関係を分析している。
単純に過去の金銭の貸し借りや返済能力だけをみるのではなく、社会的な行動性向までをもみているのがこのAI信用スコアの特徴と言える。
また、中国ではこうしたAI信用スコアサービスを事業として始めるためには、中国中央銀行である中国人民銀行の認可を得なければならない。AI信用スコア事業はほかにもテンセントなどもテンセント信用などを展開しており、いわば公的な格付けにも似たシステムとなっていることもあり、利用者は拡大している。
TOEICのスコアのように努力次第で信用スコアは上げることができる
中国政府の狙い通り、AI信用スコアが広まることで、人々の行動に変化をもたらしていることは確かなようだ。
たとえば、「芝麻信用」をレンタカーサービスに導入した事例では、保証金を徴収する方法よりも、利用費用の踏み倒しが52%減少、交通罰金の踏み倒しが27%減少、車の紛失が46%減少するという効果が出ているという。
中国では、図書館やホテルなど公共サービス、あるいは公共性の高いサービスを利用する際はデポジットを要求されるシステムとなっているところが多く、デポジットが免除されるだけでも取引がスムースとなり、社会の活動が潤滑化する。また初対面の人通しがスコアを見せ合うことで信用度がわかるのでビジネスの展開が早まってくるほか、あからさまな待遇差となることは、とくにメンツを重んじる中国では有効のようだ。
中国でこうしたAI信用スコアサービスが受ける理由としては、信用スコアが固定されるのではなく、日々更新が可能だということ。つまり借りたものをきちんと返すことを続けてたり、ボランティア活動や寄付行為、新しい免許の取得など、個人が自律的に「良いこと」成長している」ことの証明ができれば、スコアが上がっていくところにある。いわば英検やTOEICなどの点数を上げるように、自助努力によってスコアを上げることができるということだ。
日本でもベンチャー企業やIT企業がAI信用スコアを利用したサービスを展開している。日本で最初にAIを使った信用スコアサービスを手掛けたのが、ソフトバンクとみずほ銀行が共同で創業した「J.score」
ビジネスローンなどの信用評価に利用しているようで、従来の融資に比べて金利が低い、必要とする書類が不要などのほか、人の将来の可能性を反映したスコアリングで社会経験年数の少ない若い人などには融資利用がしやすくなるなどのメリットがある。
同様にLINEやYahoo !、NTTドコモ、クラウドワークス、セカンドサイト(新生銀行系)、メルペイ、エルテスなどIT、情報系、金融系企業が続々と参入、あるいは参入を予定している。
それぞれ、ベースとなるビッグデータや分析算出法などは異なるが、ローンや融資などの枠や金利などの審査に利用するほか、メルペイなどは出品者と購入者との信用不安を解消するために利用する模様だ。ただメルペイは信用スコアを公表しない。導入するのは後払いを可能にするためだ。
シェアリングエコノミーを支えるAI信用スコア!?
インターネット技術が進展し、メルカリなどいわゆるPtoPといわれる個人の直接売買が誰でも気軽にできるようになってくると、より気軽にモノやサービスの売買がしやすくなる。一方で売り手も買い手も有象無象、玉石混交状態になるため、相手を信用していいのか不安はつきまとう。そういった不安の解消にこの信用スコアは使われる模様だ。
個人の所有物を融通しあったり、シェアしたりして、生活やビジネスを展開する考え方は「シェアリングエコノミー」と言われ、21世紀に入って急拡大している。その代表的ビジネスである「エアエーアンドビー」もこのAI信用スコアを活用している。
今後AI信用スコアは、シェアリングエコノミーの拡大とともに広がっていくだろう。
ただもちろん、手放しで喜んでもいられない。
AI信用スコアはともすると格差や差別を助長することになりかねないからだ。AI信用スコアが進んでいるアメリカでは、結婚相手の親が本人のAI信用スコアが低すぎるとして、婚約を解消させたケースがあったり、企業が人材採用に高い優れた新卒者を採用しようと導入したものの、男女差別を助長する結果となったなどの例が出ている。
こうした問題は、AIのアルゴリズムやデータの精度などさまざまな要因から起こっている。とくにAIに読み込ませるデータに偏りがあるといかに最適なアルゴリズムで分析したとしても、公平さに欠ける結果を出してしまう。後者の例では、その企業で採用してきたもともとの母数が男性が多かったために、AIが「男性が望ましい」と導いていたのだ。
また、用いられるビッグデータは、ショッピングサイトなどの個人の購買歴などから引き出されることも多く、サイト運営者がサイトユーザに知らせることなく、情報を利用して問題となった例もある。
精度の高いAI運用には個人情報が必要であり、当然しっかりとした管理が求められるのは言うまでもない。
一方で中国のような審査にはなかった、ボランティア活動や寄付など、いわば個人の徳の見える化で社会全体をよりよい方向に向ける機会となるのであれば、積極的に導入すべきだとも考える。ただスコアの横行が冒頭のような個人の私生活を制限することにならないよう運用は慎重にしてもらいたいものだ。