CONTENTS 記事・コラム 詳細
  • ビジネスシンカー

キャッシュレス時代だからこそ考えておきたい紙幣に描かれた肖像画の社会学 1

 いよいよ新しい紙幣、日本銀行券が登場した。紙幣のデザインの改変は専門的には「改刷」というが、キャッシュレス化が進む日本においては今回が最後の改刷だと言われている。
 改刷によって紙幣の顔も一新した。新しい顔は1,000円札がペスト菌の発見者で細菌研究所である「北里研究所」の創設者の北里柴三郎。5,000円札が津田塾大学の創設者で日本の英語教育に多大な影響を及ぼした津田梅子。そして10,000円札が、生涯で500も会社を立ち上げ、日本の銀行制度を確立させた渋沢栄一である。
 紙幣には各国のお国柄や文化がにじみ出ている。日本に限らず、紙幣には偉人の肖像画が描かれていることが多いが、海外においては必ずしも日本の歴史教科書に登場する人物がその国の顔になっているとは限らない。そこで今回はこの機会に各国紙幣の顔となっている人物や動物からその国の歴史や文化、思想性を読み取ってみたい。

■各国の紙幣の顔となった人たち

 紙幣の顔となる人物で最も多いのが国家元首である。国家元首は政治制度や国家体制によって大統領、首相、国王などがなる。次に多いのが軍人である。軍人が国家元首であることも多い。その次が作家や音楽家、画家、建築家などの文化人。男女比では男性が圧倒的で、2021年にイギリスで決済サービスを提供するMerchant Machineが世界の主要な法定通貨を調査したところ、男性を肖像として描いている紙幣は全体の88%を占めることがわかった。男女平等が進んでいる昨今だが、お金の肖像画となるとそうはいかないようだ。
 またフランス、ドイツ、オランダ、スペイン、ベルギーなどEU各国では共通でユーロが使われており、各国を代表する人物の肖像画だけでなく、特定の場所や建造物を避けて、古代ギリシャ・ローマ時代から現代までの架空の建造物が表現されている。

EUのユーロ紙幣。特定の人や場所にならないようデザインされている

 このEU紙幣の影響を受けたのか、人物像から動物や風景に変わる紙幣も増えている。人物の場合、後年その評価が変わってしまうことを避ける思惑があるのかもしれない。
 各国をみてみよう。

■全員政治家。文化人、女性もなしーアメリカ

【1】アメリカ(アメリカ・ドル)
 全員が政治家。女性の肖像や文化人はいない。
 1ドル―ジョージ・ワシントン:初代大統領
 2ドル―トーマス・ジェファーソン:第3代大統領。アメリカ独立宣言の起草者の1人。
 5ドル―エイブラハム・リンカーン:第16代大統領。弁護士。南北戦争後、「ゲティスバーグの演説」で、戦没者を追悼して「人民の人民による人民のための政治を地上から決して絶滅させないために、われわれがここで固く決意することである」という民主主義の基礎を示し、奴隷解放を実現した。「史上最高のアメリカ大統領」とも称される。
 10ドル―アレクサンダー・ハミルトン:初代財務長官。独立戦争の時にはワシントンの副官を務めた。アメリカ合衆国憲法の実際の起草者。
 20ドル―アンドリュー・ジャクソン:第7代大統領。軍人。奴隷農場の主。独立13州に関係しなかった最初の大統領。
 50ドル―ユリシーズ・S・グラント:18代大統領。軍人。南北戦争時の北軍の将軍。
 100ドル―ベンジャミン・フランクリン:政治家。外交官。著述家。ジャーナリスト。物理学者。気象学者。アメリカ独立宣言の起草委員の1人。

アメリカ・ドル

■政治家中心もフランス系、イギリス系双方に配慮ーカナダ

【2】カナダ(カナダ・ドル)
 政治家が中心。イギリス系とフランス系に配慮した人選になっている。
 5ドル―ウィルフリッド・ローリエ:カナダ連邦8代首相。フランス系カナダ人。弁護士。ジャーナリスト。カナダの歴代首相のなかではかなり長く、15年間首相を務めた。アメリカとの併合を避けながら、両国の関税を撤廃した「無制限互恵」を実現した。アングロサクソン優先主義を唱えた植民地時代のイギリス本国に対して、抵抗と和解を使いながら、現在のカナダ連邦を築いた。
 10ドル―ジョン・A・マクドナルド:初代、3代首相。スコットランドからの移民。弁護士、政治家。カナダの自由保守党の設立メンバー。新政権設立に貢献した。カナダにおける生命保険普及に貢献し、首相退任後、民間保険会社を設立し、初代社長に就任。現在のマニュライフインシュアランスグループのきっかけをつくった。
 20ドル―エリザベス2世
 50ドル―ウィリアム・ライアン・マッケンジー・キング:カナダの第12、14、16代首相。弁護士。カナダ自由党を党首として29年間率いた。
 100ドル―ロバート・ボーデン:8代首相、弁護士。政治家。首相在任中は第一世界大戦に対処し、また核兵器以外での世界最大級の爆発事故といわれる「ハリファックス大爆発」の処理に対応した。また女性参政権も実現した。

カナダ・ドル

【3】メキシコ(メキシコ・ペソ)
 独立に関わった政治家、活動家、軍人が中心。
 50ペソ―聖戦のテオカリ
 100ペソ―ソル・フアナ=イネス・デ・ラ・クルス:メキシコ独立前の、スペインの植民地時代の詩人。劇作家。修道女。詩「最初の夢」、演劇「家のポーン」などが代表作。
 200ペソ―ミゲル・イダルゴ・イ・コスティージャ:メキシコの独立運動者。メキシコ独立の父とされる。ナポレオン軍のスペイン侵攻でスペインが弱体化する時期に、イグナシオ・アジェンデなどと一緒に独立革命を蜂起する。小さな町、ドローレスの司祭であったイダルゴは、教会の鐘を鳴らし、人々を集め、演説を行い革命を呼びかけた。演説後、イダルゴは事前に仲間たちと用意してきた武器を人々に与え軍隊を組み、スペイン軍と戦うが敗れ、イダルゴは処刑された。イダルゴのこの呼びかけは後にメキシコ独立革命の端緒となった重要な出来事として称えられ、独立達成後、大統領が「ドローレスの叫び」の再演を行うことが習わしとなっている。イダルゴの名はグアダラハラ国際空港名になっている/ホセ・マリア・モレーロス:カトリック神父。メキシコ独立戦争の指導者の一人で、ミゲル・イダルゴとともに独立戦争に参加。イダルゴが処刑された後は、主導権を引き継ぎ、戦争を遂行したが、スペイン軍に捕まり処刑される。モレーロスの名はイダルゴ同様、空港名や駅の名前にもなっている。
 500ペソ―ベニート・フアレス:第26代大統領。メキシコの政治家。先住民族初の大統領。保守派と自由主義派との間で戦った「レフォルマ戦争」における自由主義者の指導者。大統領在任中にフランスからの介入を受けるが、徹底抗戦を貫き、共和制を復活させる。メキシコシティの国際空港名となっている。
 1,000ペソ―フランシスコ・マデロ:第33代大統領。長期にわたり大統領であった第29代大統領の不正選挙を主張し、メキシコ革命を蜂起した/エルミラ・ガリンド:メキシコの女性活動家。男女同権を訴え、女性の参政権獲得に大きく貢献した/カルメン・セルダン:革命家。長期にわたり大統領であった第29代大統領の不正選挙を主張し、メキシコ革命を実現した。

■処刑された人々の苦難を感じるージャマイカ

【4】ジャマイカ(ジャマイカ・ドル)
 独立に関わった政治家、活動家が中心。
 50ドル―ジョージ・ウィリアム・ゴードン:大英帝国植民地時代の政治家。植民地政策を批判し、「ジャマイカ事件」によって不当に弾圧され処刑された/ポール・ボーグル:大英帝国植民地時代のジャマイカの活動家。奴隷の自由を求めジャマイカ事件を主導し、処刑された。
 100ドル―マーカス・ガーベイ:民族主義者・政治家。大英帝国植民地時代のジャマイカに生まれ、労働者のための人民政党(PPP)を設立し活動した。
 500ドル―グラニー・ナニー:大英帝国植民地時代のジャマイカの革命家。奴隷の自由獲得に貢献した/サミュエル・シャープ:大英帝国植民地時代の宣教師。奴隷の自由を求め反乱を引き起こし、絞首刑に処されたが、その死はイギリスの奴隷制廃止に影響を与えた。
 1,000ドル―アレクサンダー・バスタマンテ:政治家。初代ジャマイカ首相/ノーマン・マンリー:英領ジャマイカの政治家。初代英領ジャマイカ首相。
 2,000ドル―マイケル・マンリー:政治家。第4代・第6代ジャマイカ首相/エドワード・シアガ:政治家。第5代ジャマイカ首相。
 5,000ドル―ドナルド・サングスター:政治家、第2代ジャマイカ首相/ヒュー・シアラー:政治家。第3代ジャマイカ首相。

【5】コロンビア(コロンビア・ペソ)
 政治家や革命家、活動家のほか作家、詩人、画家、大学教授など他分野で拾い上げている。
 1,000ペソ―ホルヘ・エリエセール・ガイタン:政治家。20世紀のコロンビアで最も影響力のあった政治指導者。文部大臣、労働大臣、ボゴタ市長を歴任。社会の不均衡是正、教育水準や健康水準の向上、平等社会の実現に尽力したが、1948年に暗殺された。暗殺後、コロンビア各地で大暴動が発生、地方ではゲリラ戦が勃発し「ビオレンシア(暴力)の時代」に突入した。

ホルヘ・エリエセール・ガイタン

 2,000ペソ―デボラ・アランゴ・ペレス:コロンビアの代表的な画家、陶芸家。表現主義の作家として知られ、コロンビア社会や政治に対する批判的な作品が多く、コロンビアで最も重要かつ論争のある画家の一人と考えられている。またコロンビアで最初に女性の裸体を描いた画家としても知られている。代表作として「青年期」、「正義」などがある。
 5,000ペソ―ホセ・アスンシオン・シルバ:20世紀のラテンアメリカモダニズムの詩人。「ラテンアメリカモデルニスモ」の創始者・推進者の一人。代表作に「詩の本」「デザートについて」「苦い滴」などがあるが、30歳でピストル自殺を遂げている。
 10,000ペソ―ビルヒニア・グティエレス・ピ二ェ―ダ:人類学者。カリフォルニア大学バークレー校で社会医学人類学の修士号取得後、コロンビアの国立教育大学で社会経済科学の分野で博士号を取得。コロンビアにおける家族の研究、医学人類学、社会学のパイオニア。とりわけコロンビアにおける女性の地位の研究で有名。コロンビア国立大学名誉教授。
 20,000ペソ―アルフォンソ・ロペス・ミチェルセン:政治家。弁護士。大統領。イギリスやフランス、ベルギー、アメリカなどで教育を受けた後、コロンビア国立大学教授を経て弁護士に。1952年メキシコに亡命。58年に帰国し、自由主義革命運動を創設した。上下院議員を務めた後セサール州知事、外務大臣を歴任。1974年に自由党から大統領選に立候補し当選。国内のインフレ抑制、税制改革による財政の立て直し、国際収支の改善に務めるほか、アンデス共同市場の推進やラテンアメリカ経済機(SELA)の設立を推進した。
 50,000ペソ―ガブリエル・ガルシア・マルケス:コロンビアのジャーナリスト、小説家。ノーベル文学賞作家。コロンビアのみならず、20世紀のラテンアメリカの文学者として世界に影響を与えた。代表作に「百年の孤独」。ほかに「迷宮の将軍」、「族長の秋」、「これらの時代の愛」等があり、いずれも日本語に翻訳されている。

ガルシア・マルケス
ガルシア・マルケス(上)の肖像が使われている50,000コロンビア・ペソ

 100,000ペソ―カルロス・ジェーラス・レストレポ:政治家、大統領。財務大臣を3期務めた後、自由党から大統領に立候補、第22代大統領に就任。任期中に広範囲な社会経済改革プログラムを積極的に展開。「国家貯金基金」、「コロンビア家族福祉インスティトゥート」、「再生エネルギー・インスティトゥート」、貿易投資振興機関「プロエクスポ」(現プロコロンビア)、「コロンビア文化インスティトゥート」などを創設した。

【6】ブラジル(ブラジル・レアル)
 人物はなし。表面はレパブリカと呼ばれるブラジルを象徴する女神像で統一。裏面は豊かな自然を訴求している。
 2レアル―タイマイ(ウミガメ)
 5レアル―ダイサギ(鳥)
 10レアル―ベニコンゴー・インコ(鳥)
 20レアル―ゴールデン・ライオン・タマリン(小型猿)
 50レアル―ジャガー
 100レアル―ハタ(魚)の一種
 200レアル―タテガミオオカミ

ブラジル・レアルの表面レパブリカ
動物が描かれたブラジル・レアルの裏面

■軍人率高しーチリ

【7】チリ(チリ・ペソ)
 政治家、軍人の比率が高いが、作家、詩人も採用。
 500ペソ―ペドロ・デ・バルディビア:スペイン王国の探検家。コンキスタドール。サンティアゴ市の建設者として知られる。ピサロの腹心としてビオビオ川のあたりまで征服し、その後、チリ総督に任ぜられたが、アラウカ族の酋長のラウタロとの戦闘に敗れ処刑された。
 1,000ペソ―イグナシオ・カレーラ・ピント:代表的軍人。コンセプシオンの戦いにおいて400名のペルー軍に市街が攻撃されたが、彼と77名の「チャカブコ第4師団」のチリ兵士が勇敢に戦い、最後戦死する。
 2,000ペソ―マヌエル・ロドリゲス:弁護士。ゲリラリーダー。チリの独立運動の主導者の一人。ホセ・ミゲール・カレラとともに独立運動に立ち上がるが、対立者に暗殺される。後にピノチェット独裁時代に都市ゲリラが活発化するが、そのゲリラの名称は、FPMR(マヌエル・ロドリゲス愛国戦線)と呼ばれた。チリで最も人気のある人物の一人で、映画化、オペラ化されたり、歌にも取り上げられてる。またチリには彼の名前のついた通りが28ある。

マヌエル・ロドリゲス

 5,000ペソ―ガブリエラ・ミストラル:詩人。政治家。外交官。女性作家であり、ラテンアメリカ圏初のノーベル文学賞受賞者。主要な作品に「死のソネット」「絶望」「優しさ」など。チリには彼女の名前をとった通りが127ある。
 10,000ペソ―アルトゥーロ・プラット:法律家、海軍士官。ペルーとの「イキケの海戦」で勇敢に指揮し、戦死した国民的英雄。コルヴェット艦エスメラルダ号、スクーナー船コバドンガ艦の指揮官。彼の名前をとった通りの数は144ある。その名をとった海軍学校、大学がある。
 20,000ペソ―アンドレス・ベジョ:ベネズエラ・チリの哲学者。詩人。翻訳家。エッセイスト。言語学者。政治家。外交官。ヒューマニストとして知られる。独立運動に参加し、独立軍の外交官として、ロンドンに約20年間滞在。その後チリに渡り、チリ民法の推進者となる。チリ大学の初代学長を20年間務めたほか、法律と人文科学の分野で多大な功績をあげた。彼の誕生日である11月29日は、「書物の日」に指定されている。

【8】ドミニカ共和国(ドミニカ・ペソ)
 政治家、活動家、革命家のほか作家、詩人、音楽家など。
 10ペソ―マティアス・ラモン・メヤ:政治家。軍人・将軍。革命家。ハイチからの独立戦争で活躍した国民的英雄。フアン・パブロ・ドウアルテ、フランシスコ・デル・ロサリオ・サンチェスと並び「ドミニカ共和国祖国の父」と呼ばれている。
 20ペソ―へネラル・グレゴリオ・ルペロン:軍人。事業家。政治家。スペイン帝国との「サントドミンゴ戦争」、「6年戦争」で活躍。2度副大統領、臨時政府の大統領を務め、1879年から1880年まで第28代大統領。
 50ペソ―アメリカ大聖堂
 100ペソ―フアン・パブロ・ドゥアルテ:軍事指導者。教授。作家。活動家。祖国の父の1人。国内のほかアメリカにもいくつかの銅像が建てられている。1月25日は、「国父ドウアルテの日」として祝日になっている/マティアス・ラモン・メヤフランシスコ・デル・ロサリオ・サンチェス:弁護士。政治家。活動家。1844年のハイチからの独立戦争で活躍。
 200ペソ―ミラバル姉妹(パトリア/ミネルヴァ/マリア・テレサ):ラファエル・レオニダス・トルヒーリョ大統領の独裁政治に強く抵抗し、1960年11月25日に暗殺される。彼女らの非業の死は国際的に大きな反響となり、国連は1999年12月の総会で、11月25日を「女性に対する非暴力の日」とすることを決議した。

ミラバル姉妹

 500ペソ―ウレーニャ親子(ペドロ・エンリケス・ウレーニャ):哲学者、批評家、作家。ドミニカ共和国のみならず、メキシコやアルゼンチンでも活動した20世紀のイスパノアメリカを代表する文化人。代表作に「イスパノアメリカ(アメリカ大陸スペイン語圏)における文学の流れ」など。/サロメ・ウレーニャ・デ・エンリケス:作家。詩人。教育者。最も傑出した作家、詩人とされる。女性の教育の向上に努め、男女間の権利の平等のために戦った。
 1,000ペソ―大統領宮殿
 2,000ペソ―エミリオ・プルドンム
:弁護士。政治家。下院議員、法務大臣を歴任。米国の軍事介入に激しく抵抗した。国歌作成者、作詞者でもある/ホセ・レイェス:音楽家。共和国の国歌の作成に当たり、プルドンムの作詞に協力し、作曲を行った。

■やっぱり「あの人」が出るーモンゴル

【9】モンゴル(トゥグルグ)
 現在のモンゴル人民共和国の立役者とチンギス・ハンのみ描かれている。
 10トゥグルグ―ダムディン・スフバートル:モンゴルの革命家。軍人。モンゴル人民革命党の設立者の1人。モンゴル人民共和国の設立の立役者。29歳で急逝。
 20トゥグルグ―ダムディン・スフバートル
 50トゥグルグ―ダムディン・スフバートル

ダムディン・スフバートル

 1,000トゥグルグ―チンギス・ハン:13世紀初頭に成立したモンゴル帝国の創始者、「太祖」。クリルタイという部族長をまとめ、モンゴルから西は中央アジア、ヨーロッパに至る世界史上最大の領土を持つ帝国をつくった。
 5,000トゥグルグ―チンギス・ハン
 10,000トゥグルグ―チンギス・ハン

■日本のテレビが大統領誕生のきっかけ?ーフィリピン

【10】フィリピン(フィリピン・ペソ)
 自治領時代のフィリピンの英雄と、現代の偉人が描かれている。
 20ペソ―マニュエル・ケソン:フィリピンのアメリカ自治領時代の政治家。タガログ語の体系を整え、フィリピンの標準国語として定めた。
 50ペソ―セルヒオ・オスメニャ:政治家。独立運動家。
 100ペソ―マニュエル・ロハス:現在のフィリピン第三共和国の初代大統領。
 500ペソ―ベニグノ・シメオン・アキノ・ジュニア:政治家。上院議員。タルラック州知事。独裁体制を敷いたフェルナンド・マルコス大統領時代の反体制勢力のシンボルとして国民的人気を誇った。マルコスは彼を反体制の危険人物として逮捕投獄し、死刑宣告を与えたが、国民的人気を誇るアキノを処刑することはできず、アメリカに追放したが、国民の期待にこたえるべく、アキノは帰国を決断。台北経由で空港に到着すると飛行機のタラップに出て間もなく軍の兵士によって暗殺された。マルコスは民間人を犯人に仕立てたが、この様子は日本のTBSのクルーが捉えており、その後の国民的な反マルコス運動「エドゥサ革命(二月革命)」となり、夫人であったコラソンアキノの大統領実現のきっかけをつくった/コラソン・アキノ(アキノ夫人):マルコス独裁政権後に成立した女性大統領。フィリピンの民主化を推進した。就任後、マルコス時代の憲法を停止し、市民的自由・人権・社会正義・多選禁止に重点を置いた新憲法を制定、76%の指示を得た。また以前より要求してきた米軍のフィリピンからの撤退も実現した。

ベニグノ・シメオン・アキノ・ジュニア

 1,000ペソ―ホセ・アバド・サントス:第二次世界大戦中、日本軍が侵攻してきた際の大統領代行/ビセンテ・リム:第二次世界大戦中、日本軍が侵攻してきた際に活躍した軍人/ホセファ・リャネス・エスコダ:フィリピンでのガールスカウト設立者。ソーシャルワーカー。

■半島と島を支える橋にフォーカスーデンマーク

【11】デンマーク(デンマーク・クローネ)
 2009年より新紙幣に。半島・島国国家であることから「橋」をモチーフしたデザインとなった。
 50クローネ―サリングサンド橋
 100クローネ―旧リールベルト橋:デンマークのユトランド半島とフュン島間にあるリレ海峡を横断する橋
 200クローネ―クニフェルス橋
 500クローネ―ドローニングアレクサンドリネス橋
 1,000クローネ―ストレベルベルト橋

 ちなみに旧クローネでは、人物肖像を採用。50クローネが女流作家のカレン・ブリクセン、100クローネが音楽家のカール・ニールセン、200クローネが女優のヨハンヌ・ルイーゼ・ハイベルク、500クローネが科学者でノーベル物理学賞を受賞したニールス・ボーア、1,000クローネがスケーエン派画家のアンナ・アンカー、ミカエル・アンカー夫妻

■女優から映画監督、絵本画家。文化の厚みを感じるースウェーデン

 多彩な分野の人物を採用。
 20クローナ―アストリッド・リンドグレーン:児童文学者。代表作に「長靴下のピッピ」、「やねのうえのカールソン」、「やかまし村のこどもたち」など多数。その作品は世界70カ国以上で翻訳出版されている。「国際アンデルセン賞」「ドイツ書評協会平和賞」「ライト・ライブリット賞」などを世界
的賞を受賞している。
 50クローナ―エバート・タウベ:音楽家。作家。作曲家。歌手。スウェーデンのバラード奏者の第一人者として知られ、最も尊敬される音楽家。
 100クローナ―グレタ・ガルボ:俳優。スウェーデン生まれでアメリカのトーキー映画時代に活躍した。代表作に「椿姫」「アンナ・カレーニナ」があり、いずれもアカデミー賞主演女優賞候補となった。絶大な人気を誇りながら、35歳で引退した。

グレタ・ガルボ

 200クローナ―エルンスト・イングマール・ベルイマン:映画監督。脚本家。舞台演出家。「愛と憎悪」「生と死」などを主要なモチーフに多くの名作を残す。1945年にデビューし、1952年の「不良少女モニカ」でフランスのヌーベルバーグの作家に認められ、世界的に注目される。「カンヌ映画祭」「ベルリン国際映画祭」「アメリカアカデミー賞」で多くの受賞がある。
 500クローナ―ビルギット・ニルソン:ソプラノ歌手。圧倒的声量とのびやかな持続力、透明な響きで聴者を魅了した。ワーグナーやシュトラウスのオペラでその才能はとくに輝いた。
 1,000クローナ―ダグ・ハマーショルド:第2代国連事務総長。政治家。外交官。歴代最年少の事務総長。就任後最初の仕事として職員数約4000人の事務局を設立し、その職責範囲を定める規則を策定し、国連の機能性を高めた。飛行機事故で現役のまま生涯を閉じた。

スウェーデン・クローナ

■海をテーマにしたデザインコンペで建築家がデザインーノルウェー

【13】ノルウェー(ノルウェー・クローネ)
 2017年に改刷を発表。海洋国家であるノルウェーをイメージしたデザインをコンペで募集し、建築事務所の案が採用された。従来採用していた人物肖像画は消えた。
 50クローネ―ウトヴェール灯台
 100クローネ―ギョクスタッド船
 200クローネ―タラ
 500クローネ―救命ボートRS14「スタヴァンゲル」
 1,000クローネ―海の波

 いかがだろうか。今回はあまり馴染みのないエリアを中心にピックアップしてみた。日本で暮らしていると紙幣に著名人や偉人の顔が載っているのが当たり前と思っているが、必ずしもそうでなかったり、その人選も政治から文化、学術まで幅広くとっている紙幣があったり、国の考え方や文化の違いを実感できたのではないだろうか。
(2に続く)

参考
【参考サイト】●経済について楽しく学べるman@bow ●ナショナルジオグラフィック ●ホームメイト ●文鉄・お金とコインの資料館 ●一般社団法人ラテンアメリカ協会 ● NIKKEI STYLE ● JAL(日本航空サイト)●エイブルネットワーク プノンペン店 ●ナムウィキ ●外務省 ●アジア経済研究所 ● JETRO ● WEEKLYSingaLife ほか

POINT
■紙幣に肖像画が必ず載るとは限らない
■ラテンアメリカの紙幣には人物像が多い
■紙幣の脱人物化が進んでいる
■男女平等先進国を謳う国でも女性が紙幣に登場する率は少ない
■紙幣には国の文化や政治色が色濃く写し出される
■紙幣デザインを一般コンペにしたノルウェー
■南米では紙幣だけでなく建物や通り、大学、空港に偉人の名前をつける
■紙幣の人物を通して新しい世界史が広がる

ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム

TOP

JOIN US! 私たちの想いに共感し、一緒に働いてくれる仲間を募集しています!

CONTACT お問い合わせ

TOP