新型コロナのいまとコロナ後を考える
目次
- 新型コロナは年をまたいでまた襲ってくる
- アフターコロナのキーワード「ニュー・ノーマル」
- 都会から地方への動き「開疎化」が起こる
- 離れていてもあたかも一緒にいるような空間をいかにつくるか
- まばたきの間に2時間の映画を1万本ダウンロード。5Gの先、6Gに向けて動き出したNTT
- 生活圏のなかにサテライトオフィスも必要
- ソーシャルディスタンスを意識したオフィスとは
- 社員のストレスを取り去るマネジメントをAIで
- 周回遅れのDXがぐんと進む
- DXで行政のスマート化とスリム化を進め、有事に強くする
- 複雑な給付や補助金より、ベーシックインカム
- 在宅ワークで見栄消費は減少、デパートなどは打撃
- 在宅ワークで女性の社会進出が高まる
- 余暇を使った生涯学習で、マルチステージの人生に対応
- 実現するか学校の9月始業
- 足を運ぶ営業スタイルは一気に過去のものに?!
- サプライチェーンの寸断、食料不足で物価が高騰かハイパーインフレの懸念も
- パンデミックに輪を掛ける世界的蝗害
- 行政は専門家は信じるが、市民を信用しない
新型コロナは
年をまたいでまた襲ってくる
2020年5月4日現在、新型コロナウイルスの猛威は世界中でとどまるところを知らない。政府は連休明け5月7日に緊急事態宣言を解く予定だったが、5月末までの延期が確定した。ちなみにメディアで表記されるCOVID-19 とは感染症名であり、ウイルスは(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2) が正式名で、SARS CoV-2 と略されている(以下表記CoV-2))。
世界的なパンデミックは、過去の例を見ても短期で終わることはなく、およそ100年前のスペイン風邪(インフルエンザ)では足掛け3年続いた。1918年1月から20年末までに世界中で約5億人が感染し、死者は4000万人から1億人とも言われている。
当時の世界人口が約18億人であったことを考えると、現在の人口77億人換算では約1億7000万人から4億2000 万人が亡くなったことになる。
現在の医療環境と当時との違いを考慮すれば、そこまでの死者数にならないだろうが、仮に今回のパンデミックの犠牲者が2桁低かったとしても恐ろしい数字であることは間違いない。
スペイン風邪の場合、大きな波は3回訪れている。日本においてはもっとも感染者が多かったのが1度目の1918年の10月から3月で、約2100万人が感染し、26万人が死亡した。2度目が1919年10月から3月で約241万人が感染し、約13万人が亡くなった。3度目が1920年の10月から3月で、約22万人が感染して約3700人が亡くなった(内務省調べ)。
この数字からわかるように感染者数は1度目が圧倒的に多い。母数が多いため1度目の死者数も多いが、2度目の波では感染者数が1桁低いにも拘らず、死者数は1波の半数までしか落ちていない。
1波の致死率は1.22%であるのに対し、2波は5.29 %と4倍以上に跳ね上がっているのだ。これほど死亡率が上がったのは、いろいろ考えられている。1つには1波で免疫を獲得できなかった人々が重症化したと考えられることだ。またウイルス自体が進化し、毒性が上がった、つまりウイルスが進化したことが理由とも考えられている。インフルエンザウイルスは、RNAを遺伝子としたウイルスでDNA遺伝子を主体とする生物と違う。ウイルスは自分を寄主の細胞でコピーして生き延びるが、RNAは鎖が1本で、2本ある鎖のDNAに比べて不安定であるため、エラーが起こりやすい。しかもDNAの場合ミスコピーが起きた時に自己修復機能が働くため、エラーを起こしにくい。対してRNAはこの修復機能を持たない。よってミスコピーが起こると変異したままとなる。
ヒトには感染防御免疫があるが、ウイルスがどんどん変異するとこの免疫が追いつかなくなる。しかもウイルスの変異の大きさは一定ではなく、「シフト」と呼ばれる小さな変異と「ドリフト」と呼ばれる大きな変異を繰り返し延命を図るのだ。一般にドリフトの変異は40 〜50年周期とされ、これが新型インフルエンザウイルスとなる。
また人が持つ免疫が高いからと言って、死亡率が低いとは限らない。スペイン風邪では10代から30代の若い世代が多数死亡している。これは免疫が強すぎるあまり、スペイン風邪ウイルスと他のウイルスが体内で激戦となり、体が消耗したためとされている。
今回のCoV-2 の場合はどうか。いまのところPCR検査の数が限定的であるため、正確な数字は不明だが、感染率、致死率は一般的な風邪と同程度と推定されている(再生産率=Rは約2.5)。変異のパターンはA、B、Cの3種類ほど(4月9日現在)だが、さらに変異する可能性がある。変異の種類が増えるにつれ今後さらに感染者数が上がり、死亡率も変化するだろう。一旦感染し、抗体を獲得しても変異が大きい場合は、再感染する可能性もある。
ただいま話題の「アビガン」の開発者である富山大学医学部名誉教授の白木公康氏の緊急寄稿によれば、「コロナウイルスはRNAウイルスのなかでは校正機能を有する酵素を持つので、変異が起きても、それを除去して正しく複製する」と語っている。
よって、インフルエンザのような多様な変異は起こりにくいと考えられ、「2回かかるとは思われないが、 病原性や広がりの研究には重要と思われる」としている。
ただいずれにしても2波、3波に備える必要はあり、変異したウイルスが複数出る可能性はまだまだある(複数の専門家が指摘)。延長された非常事態が終わったからと言って、新型コロナ以前のライフスタイルに丸々戻ることはないだろう。
アフターコロナの
キーワード
「ニュー・ノーマル」
では、我々はこのCoV-2とどのように付き合い、社会生活を送っていくべきなのか。
1つのキーサードは「ニュー・ノーマル(新常態)」である。
ニュー・ノーマルとは、リーマンショック以後使われだした言葉で、東日本大震災後などでも使われていたが、いまいち一般化はしていなかった。
今回のCoV-2 によるコロナ禍環境下では、あちこちでニュー・ノーマルという言葉が散見されている。
すでに三重県では鈴木英敬知事が、アフターコロナを見据えた戦略を打ち出しており、その前提となるニュー・ノーマルを次のように定義している。
①在宅勤務を組み合わせた働きかたが普通のことに。逆にテレワーク環境を備えていない職場は敬遠される。
②地方への移住者増加、沿革での都会の会社勤務、ワーケーションが普通のことに。
③生産性を高めることへの意識が高まり、非効率な業務・作業を行うことは評価されなくなる。
④時差出勤や休暇の取得が進み、自分自身で労働如何をマネジメントすることが普通のことに。
あくまで県庁レベルでの定義だが、一般の企業勤務者でも納得のいく「ニュー・ノーマル」ではないだろうか。
ある種、安倍政権が進めてきた「働き方改革」がコロナ禍を奇貨として全国レベルで広がることになったとも言える。
都会から地方への動き
「開疎化」が起こる
アフターコロナのニュー・ノーマルは、仕事がリモートワーク中心になることだけではない。地方と中央との関係も大きく変わっていく。三重県知事が高らかに謳っているように都会からの地方への移住が進むことは、容易に想像できる。
仕事の場所を問わず、成果を上げることができれば、東京や大阪などの大都市部のラッシュアワーに通勤電車に乗ることもないし、地方都市でもクルマやバスでオフィスに通勤する必要はなくなる。
慶応義塾大学環境情報学部教授でヤフーのCSOである安宅和人氏は、こうした流れを「開疎化」と呼び、「都市化」と対置している。近代社会は洋の東西を問わず、都市化によって近代化が進められてきた。大都市には常に人が流入し、そこには新しいコミュニティーや構造物、事業、システム、文化が生まれてきたが、アフターコロナの世界は、流れが大都市から外に向かう。
とくにいままでは大都市部の中心部の再開発が目覚ましく、高層ビルや高層マンションが立ち並んでいたが、人が流れ込んで来ない限り、こうしたハコは必要なくなるだろう。
安宅氏は、「この新しい我々の世界ではハコというものの役割も再定義されないといけない」とし、「通気の良い形に設計思想も変え、今までのビルは大幅なリノベーションが必要になるだろう。オフィスにつきものの”島”もおそらく消える。日本の職場は官庁も含めて、補正せざるを得なくなるだろう。温暖化に伴い風速70 〜90m/secに対応する街やビルにする必要があるが、その対応も一緒に行うべきだ」と主張する。
離れていても
あたかも一緒にいるような
空間をいかにつくるか
また安宅氏は「離れて作業や議論している中、あたかも一緒にいるかのように感じ、共同作業して価値を生み出すための技術も必要になる」という。
現在、百花繚乱とも言えるWEB会議やチャットツールのなかでどれが残るのかは判断が難しいが、画像がきれいで音声がクリアであること大前提であり、また一緒にいるような感覚を作り上げるなら、映し出す画面もPC画面から壁一面がモニターになるようなバーチャル空間をつくる設備も必要だろう。しかもいちいち接続するのではなく、常時接続にして、数百キロ、数千キロ離れたオフィスがあたかも画面の向こう側に常に存在しているような感覚に仕上げる。
こうしたニーズに応えるツールとしてはバーチャルオフィスという方法がある。たとえば、東京・渋谷に本社を置いているシステム開発の「ソニックガーデン」では、朝9時になるとPCやモニター画面上のバーチャルオフィスに社員が「おはようございます」と出社してくる。同社の画像は2分に一度更新され、リアルタイムで各社員が取り込み中か離席中かがわかる。在宅だと相手の様子がわからず声をかけにくいが、バーチャルオフィスだとその心配もない。
こうしたバーチャルオフィスツールを提供しているのは、スタートアップに多い。ソニックガーデンの「Remotty(リモティ)」やイグアスの「Sococo(ソココ)などが知られている。とくにSococoのは実際のオフィスレイアウトを俯瞰した画像をネットに上げ、そこに人が着席(在籍)するようなインターフェイスとなっているのが特長でオフィス感がある。在席の様子は各席のアバターでわかり、呼びかけて相手が応答するとモニターが作動し、顔を見ながら対話ができる。またバーチャルオフィスのレイアウトでは遠隔地の事務所も1つのフロアに配置することができるため、たとえば、東京本社の島の隣に大阪支社の島を置くこともできる。バーチャルオフィスのなかに全国のオフィスを配置し、活動を見ることができるのである。バーチャルオフィスはとかく孤独になりがちなテレワークにとってはありがたいツールと言えそうだ。
まばたきの間に2時間の
映画を1万本ダウンロード。
5Gの先、6Gに向けて
動き出したNTT
リモートワークを実現していくためには、当然安定してセキュアでロバストな通信環境が構築されていることが前提だ。幸いすでに通信速度では5G環境が整いつつあるが、NTTなどはすでにソニーやインテルなどと共同で6Gのシステムを開発中だ。
6Gとなると、まばたきの間(0.3秒)の間に2時間の映画を1万本ダウンロードでき(5Gだと3秒で1本)となるほか、省エネについても進めており、スマホの場合、1回の充電で1年持つような低消費電力、衛星放送などの映像を遅延なく伝送できるという。
在宅ワーク化は一気に進むだろう。ただ働く場所が「在宅かこれまでの企業のオフィスか」と二者択一ではない。自宅と従来の勤務先オフィスとの中間的な場としてリモートワーク専用オフィスが設置される可能性もある。
生活圏のなかに
サテライトオフィスも必要
今回の自粛中にわかったことは、ステイホームを続けることは家族のストレスを増長させるということだ。仕事最中でも傍らにいる子どもが邪魔をするために、子どもに手を上げたという親も少なくない。
コロナ前からリモートワークを進めてきた企業では、自宅ではネットワークのセキュリティが担保できないなどとして、郊外に拠点オフィスなどを設ける例が増えていた。東京や大阪、名古屋、福岡、札幌などの大都市圏ではこうした、とくに大企業などが駅周辺や都心
などに貸し会議室などやレンタルルームなどと契約して提供しているが、今後は駅近にある巨大なインテリジェントビルではなく、カフェのようなサテライトオフィスが使われることになるだろう。
生活圏内にいつでも利用できるサテライトオフィス、あるいはそれに準ずる場は求められていくと思われる。
そもそも本社機能が都心にある必要もなくなってくる。高いコストを払って都心のインテリジェントビルを借りるより、緑豊かな環境にある機能的なオフィスで集中して仕事に励んだほうが生産性は高まる。
ただ仮に地方に新たに本社機能やサテライトオフィスをつくるのであれば、その中身は考える必要がある。
ソーシャルディスタンスを
意識したオフィスとは
安宅氏が述べるようにオフィスでは「島」を基本とした構造はなくなる。それぞれがソーシャルディスタンスを考慮したクリーンな空間でなければならない。今回のコロナだけでなく、新型インフルエンザなど、新たなパンデミックはかなり前から予見されている。その意味でも「開疎」オリエンテッドなワークプレイスは今後の課題であり、可能性でもある。
米国の不動産会社「cushman&waterfield(カッシュマン&ウォーターフィールド)」社は、アフターコロナのオフィスの構想を発表している。もともとアメリカのオフィスは個人のスペースを広くとっているが、ソーシャルディスタンスを意識させるよう、椅子を中心に半径6フィート(約1.8m)の円形カーペットを敷いていることが特長だ。また通路には矢印が貼られ人が交錯しないような工夫がなされている。またこのオフィスでは、出勤者は朝、玄関でワークシートを取ってデスクに敷き、退社時にはこのシートを廃棄する。できるだけウイルスとの接触機会を減らす工夫がなされている。
同社によれば、これで十分とは言えず、さらに空気の濾過も必要だとする。密室に発せられたウイルスのエアゾルは、数時間空間に漂い続ける。そのためこうした仕組みもアフターコロナのオフィスには必要だ。
社員のストレスを取り去る
マネジメントをAIで
企業活動が在宅ワークにシフトすれば、当然、社員の評価法も変わってくる。すでにリモートワークに対応した勤怠システムはある。レッドフォックス社の「cyzen」、テレワークマネジメント社の「F-chair」、NEC ネッツエスアイ社の「テレワークウォッチ」などが知られている。ただ今後は管理だけでなく、ICTを活用して、いかに部下やメンバーのパフォーマンスを上げられるかが問われる。
今回の自粛で改めて浮き彫りとなったのが、リモートワークに抵抗する「粘土層」と呼ばれる中間管理職層の存在だ。稟議書につく判子や交通費の精算などのために会社に通う管理職層が、なかなか下がらない出社率の一因となった。
本来中間管理層は経営層が創出する方針やミッションを担当するセクションに翻訳し伝え、現場から上がってくる情報を事業方針から精査し、重要事項に対しては解決策をもって経営陣に上げていく役割を担うものだが、仕事の進捗管理などが大きな仕事となってしまっているケースも多い。また人材の育成やチームとしての組み合わせなども考慮する必要がある。だが、在宅勤務が中心になると管理や育成がしにくくなる。自律型の人間が求められるため、組織もよりフラットなものとなる。自分の役割を理解し、しっかりとした成果を出しながら、チームとして貢献できる人がより重要になってくる。
近年はデータのデジタル化により人の行動パターンや思考パターンも可視化できるようになってきた。となると、それぞれがどのような働き方、どの時間帯に仕事をすることがもっとも効率がいいのかが見えてくる。たとえば個人がIDに紐付けられ、誰がどのようなパフォーマンスを、どんな資源を使って出したかが自ずとわかるようなシステムなども導入されるだろう。
医療と同じようにより個人にカスタマイズしたオーダーメイドの働き方が模索されることは間違いなさそうだ。その時企業がすべきは、働き方のアドバイザーとなること、もしくはコンサルティングだ。これは人でなくAIでも構わない。
筑波大学准教授でメディアアーチストの落合陽一氏の研究室には40人ほどの研究者が集まり日々先端の研究活動を行っているが、研究室には常時カメラでモニタリングが行われ、研究者の行動を捉えている。落合氏はそのデータからそれぞれの研究者がもっともストレスのかかる時間帯を見つけ出し、働き方や研究者の得手不得手、組み合わせなどを考えているという。
AIが人間の仕事を代替していくことは確実だ。だが人間のパフォーマンスを上げていくためにAIをどのように使うかについては、まだまだ可能性はある。「AI or 人間」ではなく、「人間with AI」という思考は外してはならないと考える。
周回遅れのDXが
ぐんと進む
そもそも日本は働き方、社会生活のICT化による変革=デジタルトランスフォーメーション(DX)においては世界の後塵を拝している。
たとえば、消費税10%引き上げに伴い、にわかに進んだキャッシュレス化では、支払いの選択肢がありすぎるため、現金より使い勝手が悪くなっている。あまりの数の多さにキャッシュレス先進国の中国からの観光客が驚きの声が上がるほどだ。
野村総合研究所が2018年に行った調査では、隣の韓国はキャッシュレス化は全国の約96%まで進んでいる。以下、イギリスが約69%、オーストラリアが60%、シンガポールが59 %、カナダが56%など軒並み5割を超えている(中国は2015 年時点で約60 %)が、日本は20%である。
キャッシュレスの中身も、北欧のスウェーデンに至っては、マイクロチップを注射で体内に埋め込み、店を出入りするだけで自動的に決済が済むまでになった。駅も改札で手の甲をかざすだけだ。スウェーデンのように一気に進むかは、日本人の現金に対するある種の信仰がどこまで崩れるかにかかってくるが、キャッシュレスが進むだけでも恩恵はかなり大きくなる。野村総合研究所によれば、現金決済の維持管理に毎年1兆円が発生しているという。もちろんキャッシュレス化のコストもみていかなければならないが、キャッシュレスの進んだデンマークでは強盗件数が大きく減ったという報告もあり、単に利便性の投資コストだけを見てもいけないと考える。
DXで行政のスマート化と
スリム化を進め、
有事に強くする
ほかにもDXが進展することで、現在問題となっている医療崩壊も避けることができる。つまり感染の疑いのある人、あるいは別の病気の疑いのある人や定期的に医療機関に通っている人が遠隔で診断を受けることが可能になるからだ。すでにこうしたシステム導入されてはいるが、まだ全国津々浦々までには至っていない。現況技術の診断能力限界もある。しかしニーズが高まれば一気に市場は伸び、技術は進展する。
ほかにもDXが進展しデジタルインフラが整っていれば、行政手続きのスピード化、スリム化が進む。今回の1人あたり10万円の支給はよりスピーディになっていたはずだ。
有事の際の手当、支給の手続きはなるべく簡略なほうがいい。DXにより行政の手続きが簡便化すれば、役所のさまざまな運用コストは下がっていく。もっとも効果が期待される分野だろう。先の3・11の震災では、行方不明者や避難者が転々として消息を追えない人が大量に出た。そのため行政の支援が追いつかず、かつ行政自身が被災したため機能しなかった。有事の際住民の素早い支援をするのが行政の第一義とするなら、それがいまだに滞ってしまうというのは、そのための支援策を真剣に打ってこなかったと言われてもしかたあるまい。
複雑な給付や補助金より、
ベーシックインカム
今回10万円給付については、生活保護受給者をどうするかという問題が上がったが、むしろ改めて考えるべきはベーシックインカム制度かもしれない。すでにスペインではベーシックインカム制度の導入を検討し始めた。日本でも幾度となくベーシックインカムは検討されてきたが、まだ試験までにも至っていない。いまの財源では1人あたり月5〜15万円で議論されており、月7〜8万円が現実的な数字として想定されている。
確かに1月をやりくりするのには厳しいが、例えば家族4人であれば、7万円で28万円、8万円で32万円となる。世帯単位ではかなりいける話である。麻生副総理は「手を挙げた人としたい」と発言したが、富裕層に対しては、自ら返上してももらってもいいし、一旦受け取り、寄付や援助としてもらってもいい。最終的に確定申告などで一定の網をかけて調整してもいい。まずは届け、憲法が保証する「最低限度の文化的な生活」を実現する。経済の拡大はその先にある。「怠け者が増える」「フリーライダー」が利するという声もあるが、どんな社会や組織でもフリーライダー層は一定あり、そこだけに目を向けると組織や社会は動かなくなる。そういった人に希望をもたせ働くための支援をすることはまた別の政策である。
ベーシックインカムの導入は、なにより面倒な計算や手続き業務に関わる行政をスリム化できる。政治家のアンケートでも、全員ではないものの、ほぼ全部の党で賛成者がいる。
その点からもスペインをはじめとするヨーロッパの動向には注目したい。
在宅ワークで
見栄消費は減少、
デパートなどは打撃
街はどうなるだろうか。とくに都市部の商業地。
残念ながら既存スーパーや百貨店の来客数は落ちていくと思われる。とくにハイブランドを扱う百貨店では、在宅勤務が中心となると見栄消費の必然性が下がってくるため、客数が減ることが予想される。東京の銀座や表参道などのハイブランド店舗も打撃を受ける。もっとも、Web会議などでフォーマルなコードがかかったり、リモートワークファッションが成立すれば別の話だが。ただブランドロイヤリティの高いハイブランド・ラグジャリーブランドは、逆に予約制などにより入店制限をかけるなどして(すでに行われているが)、ブ
ランド価値をさらに上げることができるかもしれない。
リモートワークで在宅者が増えれば、たとえ繁華街でも飲食店はかなり厳しい経営を強いられることは間違いない。イベント業も厳しい。生き延びるためには共同仕入れやデリバリー、あるいはトヨタやシャープがマスク生産を決めたように、複数のビジネスに関わりながら、フレキシブルに対応していくことも必要になってくる。これは従来のBCP(ビジネス・コンティニュイティ・プラン=事業継続計画)の概念を超えるものだ。BCPという概念自体、大手・中堅企業のテーマだとも思われているようだが、アフターコロナ時代では、小さな小売店でもBCPは考えておく必要が出てきたといえる。
在宅ワークで
女性の社会進出が高まる
在宅ワークがアフターコロナのニュー・ノーマルとなってくれば、女性の社会進出がこれまで以上に高まることが予想される。通勤時間が減り、家庭内で仕事配分が可視化されるので、共働き夫婦では家事などの分担が変更されやすくなる。専業主婦が仕事に復帰したり、社会活動や文化活動に参加する、あるいはeラーニングなどを通じて新たな資格や免許を取得し、キャリアアップを図るなどが実現可能となる。
米国の経済誌「フォーブス」は4月16日付けの電子版で、「コロナ対策に成功した国々、共通点は女性リーダーの存在」としたキャッチで記事を組んだ。挙がったのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのジャンダ・アンダーソン首相、アイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相、ノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相、フィンランドのサンナ・マリン首相らだ。
何をもって「成功」とするのは難しいが、これらの国では医療崩壊が起こっていない。すでにニュージーランドのアンダーソン首相は、外出制限を解除した。
人口8300 万人のドイツ以外は、いずれも人口の少ない小国だ。アイスランドに至っては奈良市や川越市とほぼ同じの人口35万人である。日本のお手本にはならないという声もあがってきそうだが、ここでは規模の大小ではなく、本質はどこにあるかということだ。いずれのリーダーも、共感力とテクノロジーに対する理解、トランスピアレンシー(透明性)に優れ、支持を得ている。とくに台湾の蔡総統のICTを使ったマスク不足に対する対応は鮮やかだった。
話を戻せは、アフターコロナで女性の社会進出ではこうした優れた女性リーダーが増える可能性があるということだ。加えていうと先の国々は教育費がほとんどかからない。また生涯学習のインフラも整っている。たとえば、ニュージーランドでは、大学は必ずしも4年で卒業しなくても、たとえば2年分の単位取得後、仕事に就き、数年働いて大学に戻り、残りの単位を取得して卒業というパターンも珍しくない。学べる時に学びやすい環境が揃っており、自分の意思で自分のライフスタイル、ライフステージにあわせて学べることが特長だ。
余暇を使った生涯学習で、
マルチステージの
人生に対応
いま多くの先進国と言われる国は人生100年時代に入っている。『ライフシフト(LIFESHIFT)』を著したロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラッドン教授によれば、人生は従来の「教育・仕事・定年(隠居)」の3つのライフステージからマルチステージに移ると分析している。つまり定年で退職するというライフステージにはならず、生涯現役、または仕事→教育→仕事→教育といったステージを繰り返すことになる。その際に持つべき資産は自分を「リクリエーション」(再創造)する無形資産だという。そのために人生のなかに挟み込まれる細切れの余暇時間を使うことが大切だと述べる。
さらに彼女は余暇時間での学び方について、3つに分けて学ぶことを得提案している。3つとは「5分で学べること。週末に学べること。2〜3ヶ月にわたらないと学べないこと」だ。
3つ目はこれまでの日本の社会慣習のなかで実現しようとすることは難しいが、テレワークで減った通勤時間などを当てれば十分可能だろう。
すでに教育の現場は遠隔授業化が進んでおり、一般向けの公開講座も増えている。今後議論も出てくるだろうが、キャンパスという場を必要としなくなれば、教育コストは大きく下がり、学費の無償化の可能性も出てくる。有料でもオンラインであれば、低料金で通学の負荷も少なく、学べる人の母数は増える。オンライン教育だけの大卒、院卒も増えていくかもしれない。
ただ、すでに百花繚乱となっているオンライン英会話スクールのように、自分にあったメニューをどう選ぶかは課題となる。
成長する組織の共通項として「ラーニングオーガニゼーション」という言葉が創出されて久しいが、アフターコロナの世界では個人と企業組織が求める「学び」がどこまで重なり、それぞれ学びの欲求に対して企業がどこまで理解・支援するかが問われてくる。
実現するか学校の9月始業
教育の風景も一気に変わる可能性もある。5月1日現在、鳥取県が5月7日より学校再開を発表しているが、都道府県や地域ごとに学校の授業のスタートが変わってくると、生徒、学生の学力差が顕著になる。
全国知事会では、一部の知事から学校の始業を4月ではなく欧米の9月スタートに合わせる意見が出されている。グローバル化が進むなかで日本の教育問題のなかでも入学時期の問題は大きなテーマとして取り上げられてきた。もちろん現場の反発も大きいようだが、9月開始はグローバル化に対応した人材育成以外にもメリットがある。新型コロナ、季節性のインフルエンザへの対応だ。入試がピークとなる1月2月は、まさにインフルエンザの流行期であり、また毎年のように大雪などで交通機関が乱れる。こうしたリスクを回避できるメリットは受験生にとっては大きいはずだ。となれば教育がこれまでのように一斉入学、一斉卒業という形式がとれなくなる可能性もある。大企業などの一斉採用、一斉入社という形も崩れるだろう。
企業は通年採用がニュー・ノーマル化し、当然そのなかでのキャリアプランも再構築せざるを得なくなるし、組織と社員のエンゲージメントをどう構築するかが問われてくる。
足を運ぶ営業スタイルは
一気に過去のものに?!
業務として劇的に変わるのは、営業職だろう。従来のような飛び込みや訪問営業すらままならなくなる。いわゆるプッシュ型の営業ではなく、プル型の営業思考と行動が求められる。すでに「デキる」といわれる営業パーソンは、メールやSNSなどを巧みに使った営業手法にシフトしている。訪問が当たり前の営業ではなく、いかに訪問せずに営業をクローズさせるかが問われる。リモート営業に特化したツールはすでに何社から提供されているが、フェイスtoフェイスでのリモート営業であれば、オンライン会議ツールなども活用できる。
いわゆる「足で稼ぐ」営業タイプの人にとっては、「わざわざそこまで行く」ことに意味があった。とくに肩書のある人が遠方の得意先や営業先に向かうことは営業を受けるほうもかしこまるし、効果はあるだろう。アフターコロナではそれが全くなくなる。意味をなさないとまでは言わないものの、激減することは想像に難くない。営業の成果は営業ツールではなく、やはり事前のデータ分析能力が差となることは間違いない。顧客にとって真に価値のあることは何かを見極め、時に客が気づかない課題や問題をすくい上げ、しっかりとした解決策を提案する。ある意味、営業のエッセンシャルがますます問われてくるのがアフターコロナだと言える。
サプライチェーンの寸断、
食料不足で物価が高騰か
ハイパーインフレの懸念も
これまでのパンデミックに対する各国の対応を見るまでもなく、アフターコロナでは過度な他国への依存は抑えられるだろう。かと言ってどの国も国内だけでサプライチェーンを完結させることは難しい。ただ企業の内製化率もある程度高めておく必要がある。物流の寸断、材料供給地の出荷停止などに備えた複数のシナリオやルートは用意しておくようになる。となれば、最終的にある程度の物価上昇は避けられなくなる。
不気味なのは、UN(国連)とWHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)が食糧危機の懸念を発表していることだ。農産物のサプライチェーンが寸断される可能性や社員の感染による食品向上の封鎖なども然ることながら、最大の懸念は生産地で農業労働者の確保が難しくなりつつあるのだ。米国では農産物の収穫をメキシコからの季節労働者に頼っている。また西欧の収穫には、東欧や北アフリカからの労働者が欠かせない。国境遮断が長引けば、どこも自国の食料を優先するため、自給率の低い国は大きな打撃を受ける。
マスク不足でこれだけピリピリしている世の中で、食料不足となれば新たな紛争の火種となりかねない。
この新型コロナで影響を真っ先に受けているのは、パートやアルバイト、契約社員など非正規雇用者である。社会に必要な仕事を担う人々をエッセンシャルワーカーと呼ぶが、エッセンシャルワーカーは実はこうした立場の弱い人たちが多い。政府は与党などからの突
き上げもあり、給付や助成金の増額を始めとする新型コロナ対策を打ち出したが、自粛が長引けば財政的に持たないことになる。
立教大学特任教授の金子勝氏は、デフレが反転してハイパーインフレが起こることを危惧する。すでに日本は未曾有の金融緩和をしているため、市中にカネが余っており、物不足・食糧不足となれば、そこにカネが一気に集まり、戦後の物不足のように物価が急騰するというのだ。となればすでに開きはじめたコロナ格差がさらに拡大し、エッセンシャルワーカーの生活がいよいよ立ち行かなくなり、インフラが機能しなくなる。結果「持てる者」にも物資が届かないという事態も起こりうる。
エリアを限定して徐々に緊急事態を解除し、6割、7割程度の「運転」で経済を回すか、緊急事態をさらに延長し国債の増発で支えるか…。国債増発は消費税アップといわばトレードオフなので、これを財務省が許すかだが……。もっとも財務省は国債を積み上げてもほとんどが自国通貨で買われているのでデフォルトにはならないという立場だ。追加措置が出される可能性は高い。
またすぐではないものの、消費税の撤廃の可能性もある。京都大学の藤井聡教授は、消費税導入以後、消費が落ち込み続け、本来広
がっていた市場が縮小し、入ってくる税収が失われたと主張している。
パンデミックに輪を掛ける
世界的蝗害
パンデミックでは世界規模で弱い者に牙を剥く。やっかいなのはアフリカでは新型コロナ前から、サバクトビバッタの大量発生による作物被害が出ていることだ。
4月13日、国連は、アフリカのエチオピアでバッタが大量発生し、20万ヘクタールの農地が被害を受け、100万人が緊急食糧援助を求める事態となったと発表した。このバッタは飛翔距離が100kmから200kmあるとされ、アフリカのソマリア、エリトリア、ケニアに被害をもたらし、中東のサウジアラビア、イエメン、オマーン、イランの作物を食い尽くし、インドを覆い、さらに中国まで被害を及ぼしているという。日本にも早晩やってこないとは限らない。
新型コロナ同様に早期に対策が求められる。飢餓にさらされている地域に対しては、先進国を中心とした国々が手を組み、食糧支援がどこまで可能かだが、現物支給をするにしても、サプライチェーンが寸断されてしまえば、届けることはできない。民間NGOと各国の連携も鍵を握りそうだ。
中長期では促成技術の進化への期待は高まるだろう。いわゆる野菜工場などが各地に広がる可能性は高い。穀物の供給が滞ると畜産農家は打撃を受けるため、肉から野菜へのシフトも強まるだろう。となれば、野菜を原料とした代用肉市場は広がる。トヨタやシャープはいまマスクをつくっているが、そのラインが野菜に変わることも非現実的な話ではない。
食糧ではかねてよりFAOが世界的人口増によるタンパク質不足を問題視、代替として昆虫食を提案していた。すでにベルギーやフランスでも国がかりで農家のコオロギなどの食用昆虫の繁殖を支援するようになっている。アジアでは食虫文化は受け入れられている。食糧不足が深刻化すれば、食用昆虫の養殖も今後進んでいく可能性はある。まずは世界中で蝗害を起こしているバッタ自体がそのタンパク源になるかもしれない。
行政は専門家は信じるが、
市民を信用しない
アフターコロナについては、誰も正確なことは言えない。ただいくつかのシナリオを用意しておくことは重要だ。情報を取捨選択し、とるべき道を自律的にとるのだ。
イタリアで200万部のベストセラーを出した新鋭の作家パオロ・ジョルダーノ氏が『コロナ時代の僕ら』というエッセイを緊急出版した。物理学の博士課程まで学んだジョルダーノ氏は、CoV-2がイタリアで発見された時から拡大の懸念をし、ツィートを重ねていった。得意の数学で現状を分析しながら、広がる感染者と変わりゆく光景に変わっていく自身の感情や思いを書き綴ったが、その根底にはこんな問いがあったという。「すべてが終わった時、本当に僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろか」
ジョルダーノ氏は日々現実に追いつけず、感情や認識が翻弄されるなか、現実の悪循環の原因についてこんな見解を述べている。「行政は専門家を信頼するが、僕ら市民を信じようとはしない。市民はすぐ興奮するとして、不信感を持っているからだ。専門家にしても市民をろくに信用していないため、いつもあまりに単純な説明しかせず、それが今度は僕らの不信を呼ぶ。僕たちのほうも行政には以前から不信感をいだいており、これはこの先も決して変わらないだろう。そこで市民は専門家のところに戻ろうとするが、肝心の彼らの意見がはっきりせず頼りない。結局、僕らは何を信じてよいかわからぬまま、余計いい加減な行動を取って、またしても信頼を失いことになる。
新型ウイルスはそんな悪循環を明るみにした。科学が人々の日常に接近するたび、毎度のように生じる悪循環だ。パニックはこの手の悪循環から発生する。発表された数字が原因ではない」
果たして日本はどうか─。