投資は土地や株だけではない!広がる新たな投資先
かつて老後の生活を守っていくためには、ひたすら貯金をして銀行に預けるのが当たり前だった。高度成長時代にはインフレ率も高かったが、その分、金利も高かった。1970年代には低くて4%台、高いと8%に迫る金利だった。80年代になるとやや落ち着くも、それでもバブル絶頂期の90年12月には6.08%となった。以後は下がり続け、95年には1%を割り込む。それが最近の22年3月末では0.003%である。100万円を1年預けて30円しかならない。手数料を取られたら元本が減ってしまうのだ。
資産防衛を考えれば、もはや銀行に預ける意味はない。そこで近年話題になっているのが「投資」という考え方だ。国も貯蓄より投資を推奨しており、その流れでNISA=Nippon Individual Savings Account(少額非課税口座)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などが整備された。
いずれも自分で投資先を選ぶタイプで運用は自己責任となる。ほかにも株式投資やファンドなどの投資信託、不動産に小口投資をするREIT(不動産投資信託)、国債などの債券等、投資の種類は増えている。
ジャパンウイスキーが世界を席巻。
正価300万円の「山崎55年」が8100万円に!
投資先は株や債券ばかりではない。最近は海外で人気があがっているジャパンウイスキーや日本酒なども投資対象となっている。
酒類の投資といえば、ワインが代表だったが、近年はウイスキーが人気を集めている。とくにジャパンウイスキーは、2000年代より徐々に国際的評価があがっており、いまや世界的な賞を総なめ状態で、世界の左党の垂涎の的だ。サントリーのシングルモルトウイスキー「山崎」はイギリスの専門誌が主催するWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)をはじめSWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション)、ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)など世界3大コンペティションで、2003年から金賞、最優秀金賞など多数受賞で、その評価はうなぎのぼり。2020年に発売された「山崎55年」はなんと300万円。さらに2022年に行われたニューヨークのサザビーズで、およそ8100万円で落札されたのは驚きである。約27倍。世界的なウイスキーブームの凄まじさを感じさせるだけでなく、日本のウイスキーの素晴らしさを象徴する出来事となった。
その一方で日本では空前のハイボールブームで、山崎を始め、お値打ち価格の知多や角などが払底したことも記憶に新しい。品不足はサントリーだけでなく、ニッカやキリンシーグラムなどにも波及した。ウイスキーの製造はオンタイムでできないため、製造した分の在庫が切れてしまったらそれ以上は販売できない。仕込みの時に需要はある程度予想するが、嗜好品であるため、ある年からいきなり何倍もの量は仕込めない。とくに年代ものは量も少ないので、人気が出やすくなる。
ワインに比べ管理が楽なウイスキー。
カスク投資も盛ん
またウイスキーの場合、ワインのように温度や湿度、光、振動などに気を配る必要はなく、直射日光や気温差の激しいところを避けるだけで保管できる手軽さが魅力となって投資ブームを後押ししたようだ。ウイスキー投資は現物のボトルを仕込んで、値上がりを待って買取ショップなどで売却する方法もあるが、ファンドを使った投資もある。投資方針に基づき株や債券をミックスしたファンドと同様に値上がりの見込める高級ブランドのウイスキーをファンドが複数買付けて、一定の年月後、値上り分から手数料を引いた額が支払われる。
ウイスキー投資ではジャパンウイスキーのほか、本場のスコットランドのスコッチウイスキー、なかでも1 ヶ所の蒸留所だけの原酒でつくるシングルモルトは高い人気を誇っている。世界中に安定したファンがいるので大きな下落はないと考えられている。
またボトル単位の投資以外に人気が高まっているのがカスク(木樽)ごとの投資だ。
資産形成のアドバイスなどを行うクレア・ライフ・パートナーズによれば、2020年までの過去10年では希少ウイスキーのカスク投資は540%ものリターンを生み出しているという。これは宝石貴金属の100%(2倍)、ワインの142%、美術品の146%、クラシックカーの190%などを大きく上回る。
もちろんこれらは10年の平均値なので、ワインであれば銘柄、仕込んだ年、美術品では、その作者で価格は大きく変わってくる。それにしても、という感はある。
8%以上の利回りを謳う、
コンテナしいたけ栽培投資
投資の対象は、こと日本では広がっている。注目されているは農業分野だ。なかでも話題となっているのはコンテナしいたけ栽培投資である。2002年創業のテンフィールズファクトリーでは、小口のしいたけ温室栽培投資を展開、利回り8.86%を謳う。
同社のしいたけ栽培はコンテナと菌床を使った栽培方法が特徴。コンテナを使うことで天候の影響を受けずに確実に生産でき、また休耕地などを利用することで土地代を抑えるメリットがある。
従来しいたけは、原木に菌を打ち込んで栽培するのが主流であったが、近年はおがくずや木材チップなどを固めた菌床という木質素材に、米ぬかなどを栄養として固めて栽培する方法が主流となっている。
菌床しいたけの収穫量は、原木栽培の10倍になると言われるものの、味や品質においては原木栽培のしいたけのほうが高いとされている。
温暖化の影響で近年は天候が安定せず、野菜をはじめとした農産物の価格が乱高下している。コンテナ菌床しいたけは環境が安定しているため、価格変動が少ないことが投資先としての魅力になっている。
船舶をターゲットにした投資ファンド、
2年で9%の利回り
こうした新しいタイプの投資先は、近年増えているクラウドファンドによるところも大きい。ソフトバンクグループの、SBIリーシングサービスが提供するJOLCO(購入選択権付日本型オペレーティング・リース)では、小口で投資できる船舶ファンドを展開している。投資家が船を買うのではなく、あくまで船会社が購入し、投資家がクラウドファンド業者を通じて融資を行う仕組み。想定利回りも対象となる船舶の種類によって変わってくる。冷蔵船向けが半年で3.84%、多目的船舶が24 ヵ月で9.336%など(4月18日現在)がある。
レアトレーディングカードに億の値が…
一般的にコレクターが多い市場は投資の対象になりやすい。フィギュアやトレーディングカードもその1つだ。とくにトレーディングカードは収集しやすさもあって、希少なカードだと1枚で数万、数十万円の値がつくこともあるという。米国の愛好家の例では1枚数億円の値がついたカードもあった。
高級時計も人気の投資アイテムとなっているが、いかに高級でも傷があったりすると値が下がり、新品を保存してもオイルなどが劣化するリスクがある。それでも限定モデルなどは人気が高く、相場を見極めると高いリターンを得られる。
気候変動や世界情勢の不安、原材料費の高騰など、先の読めない時代だからこそ、リスク分散の意味もあって今後も投資先はますます多様化しそうだ。
だが数ある投資の中で一番リターンの大きい投資は「自己投資」なのかもしれない。