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【インタビュー】これからは地方が生む価値が東京で生む価値を抜く

[インタビュイー]
フロムファーイースト株式会社
代表取締役
阪口 竜也さん

自然由来のオーガニック(有機的)化粧品ブランドの「みんなでみらいを」を展開するフロムファーイースト株式会社。米ぬかを使った「米ぬか酵素クレンジング」やゴーヤを原料にした「ゴーヤ濃縮海水スキンケアローション」など、その土地の人々が当たり前に使っていた天然素材を掘り起こして製品として提供し続ける。

代表取締役社長の阪口竜也さんは美大出身。卒業後はデザイン事務所を立ち上げるつもりだったが、社会勉強のために1年限定で入った教育関係の会社で破天荒な活躍をみせ、無事一年で卒業。次に美容業界に転職し、世界初のエクステ専門店を展開、美容業界にイノベーションを起こし、海外にも進出した後、美容商品の会社を設立。すぐに売上10億以上となったが、リーマンショックで債務超過に。「人生最大の危機」を救ってくれたのは、阪口さんという人物を信じて投資をした人や事業家など「人を通じたつながり」だった。リーマンショック後の体験から経済と地球の未来に向き合うようになる。阪口さんはいつしか少年時代に戻っていた。

「やっぱり世界を変えたい」――。

子どもが生まれてから、気づいた。
「このままだと世界は100年持たない」

BIZ ● 阪口さんは以前、美容業界でエクステ(付け毛)の専門店運営や、販売をしたりしていましたが、いま、天然素材を使ったオーガニック化粧品を提供するブランド「みんなでみらいを」を展開されています。ほかにもカンボジアで持続型の植林事業「森の叡智プロジェクト」や地球環境の保全・共生活動などを行っていますが、こうした事業や活動の転機となったのは、ご結婚されてお子さんが生まれたことが大きいのでしょうか?

阪口竜也さん(以下阪口)● そうですね。きっかけとしては大きかったと思います。とくに子どものためというわけではないのですが、やはり1人の人生を考えた時、残り50年60年という範囲は考えていたのですが、子どもの人生を考えた時にざっくりと100 年以上の時間軸が自分のなかに生まれてきた。このままで行ったら100 年先はないなと思えたんです。

BIZ ● そこで化粧品からというのは、美容業界にいたことも関係しているのでしょうか? 著書の『世界は自分一人から変えられる』を読むと、いろいろな出会いが書かれてますが、なにかに導かれてたどり着いた感じも受けます。

阪口● これまでは単純にビジネスを横に広げていくような感じでやってきて、人との繋がりができました。でも「世界を変えよう」と考えた時に何でもかんでもできるわけではないので、そのつながりをうまく使いたいというのはありました。

BIZ ● 阪口さんのやってらっしゃることは、「みんなでみらいを」の言葉に現れているように、未来を少しでも良くするために環境を守っていく、いわゆる社会起業家と言われる方の事業だと思います。従来であったらNPO などの非営利組織がボランティアベースでやったり、企業がCSRとして取り組んでいましたが、そういった取り組みとも違う気がします。

阪口● その大きな違いは、これまでは範囲が限定的だったことです。昔は「こんなんでオーガニックをやりたい」といったら、それに共感をした人などが支持者を得てビジネスを展開していた。歴史を遡ると思想家とか活動家の方が理想郷をつくろうということで、教育とか職とか村やコミュニティをつくったりしたことは、昔からあった。でもそれはある程度の規模にとどまって世界中に広がったことはなかったんですね。結局自分たちが良ければみたいな。

でもいまは国連がSDGs = SustainableDevelopment Goals(持続可能な開発目標)(※1)を世界70億人の目標として掲げて、世界中が取り組んでいる。それも17のジャンルで項目も169のターゲットに細かく分かれている。だから消費者にとっても企業にとっても取引先にとっても、「17の何番目と何番目についてこのプロダクトとこのサービスで一緒にやりませんか」って声をかけたときに、共感しやすいし、広がりやすくなった。

SDGs をベースにするとビジネスが回しやすくなっただけでなく、実際SDGsに取り組んだほうが儲かるんですよ。

社会はいずれ、
みんなが消費者で生産者になる

阪口● 世界の企業や消費者に解決すべき課題として17のゴールと169のターゲットで示しているわけですが、これはビジネスの視点からすればそれだけニーズがあるということなんです。SDGsは新しい市場でそれがすなわち市場規模なんです。この市場は2030年までは確実に広がる。だからいまビジネスをはじめたほうがいい。

BIZ ● いまがチャンスだと。

阪口● そうです。いまはまだ市場が小さいので大手が参入しにくいんです。もっと市場が大きくなってあるラインを超えたら、大手がどっと参入してくる。市場が確実に大きくなっていくなかで、どういうポジションを取るかはそれぞれだと思います。まだ実感がない人が多いかもしれませんが、でもすでに学校の教育がSDGs ベースになってきている。今年から小学校ではSDGsに基づく教科書に変わりました。来年再来年と中学、高校の教科書も変わっていきます。そういった教育を受けた子どもたちがやがて社会に出て、社会をつくっていくわけです。それといまは小さな企業や個人がどんどんビジネスしやすい環境になっています。だって一昔前に、個人でネット通販をやろうと思ったらシステムを組むだけで100 万単位での資金が必要だったのが、いまはそういうサイトのベースをつくるだけだったらタダでできます。参入のハードルはどんどん下っているんです。大きな資本を持った人たちだけが商売をする時代ではなくなってきています。

僕は最終的にこの社会はいずれ、生産者とか消費者とかすらなくなると思っています。みなさんが消費者でみなさんが生産者。

東京と地方の
「価値を逆転させる」

BIZ ● みんなが消費者で生産者という発想は、それはアジアなど巡ってみて出てきた考え方なのですか? カンボジアなどで植林プロジェクトなども行っていますが。

阪口● そうですね。僕は最初カンボジアに興味はなかったのですが、ひょんなことから行くことになりました。行ってすごく感じたことは、生活力の高さ。カンボジアって言っても、いま都会はすごく発展していますから、場合によっては東京より進んでいる。でも僕が通っているカンボジアの田舎の人たちって、皆さん自分で家を建てることができるんですよ。食べ物も自分でつくれるし、着る物も自分でつくる。分業になっていない。生産者で消費者。生活力が違う気がした。

生活って「生きる活動」って書きますが、それは衣食住をどうするかってことです。それが全部できることはやはりすごいことだと。でも翻ってみると日本にもあったんです。先人の生きる知恵が引き継がれていた。それが途絶えてしまっていることが多い。そういった過去の生活の知恵みたいなものを掘り起こして、それを現代に置き換えていくと、ものづくりとかサービスのヒントに絶対なるんです。

BIZ ● 阪口さんがいまやっている活動は、その埋もれている昔ながらのいいもの、生活の知恵を掘り起こして、現代風の商品にしていくことですか。

阪口● 僕がやってることを一言でいうと「価値を逆転させる」ということなんです。たとえばいまカンボジアでやってることは、電気のインフラのまったくないような村で、化粧品の原料となる木を植えて森を増やしていく。そういうところって、実は僕らのように都会に住んでいたりする人にとっては、クオリティがすごく高いところなんです。だって水は綺麗だし、空気も綺麗。土壌も豊かで、人工的なものは入っていない。環境が綺麗で豊か。つまりそれは東京で育てるより価値が高いってことです。現実にそうなんですね。インフラも開発されていなかったからこそ、価値が高い。その価値の逆転ということを日本とカンボジアだけでなくて、日本国内でも利用していけば、日本の地方の活性化になる。それがSDGsに対してのアプローチになり、新しい経済形態(エコシステム)(※2)が生まれてくると思うんです。

それをいま「一緒にやろう」ということで、全国を回って仲間を増やしてるんです。昨日は石川県から戻ってきました。

BIZ ● 石川県でなにか見つけたんですか?

阪口● 石川県の羽咋市というところで家をつくろうと思ったんです。

リモートワークにふさわしい
「タイニーハウス」を地方で展開

BIZ ● 家ですか?

阪口● いまコロナで家にいることが多くなって、家を修繕しようと思ったんです。それでいろいろ業者に見積りを取らせたら、高いなと思って。さっきカンボジアの話をしましたが、じゃあ自分で木材を調達してできないかなと思って、森林組合にも知り合いがいるので、声かけてみたら結構できそうなんです。ホームセンターに行ったりしたんですが、やっぱり森林組合で切り出した木を製材所で切ってもらって調達したほうが、全然クオリティが違う。知り合いの大工の人にも来てもらってレクチャーしてもらううちに、自分で家が建てられそうだと思って、家を建て始めたんです。

BIZ ● えー、すごいですね。

阪口● ウィズコロナ、アフターコロナを考えたら、これからはそういうニーズが出てくると思っているんです。

BIZ ● どういうニーズですか?

阪口● リモートワークが当たり前になってきて、みんな東京の本社に通わずに仕事ができると気づいたわけです。静かなところで仕事ができるという環境であれば、別に大都市にいる必要はない。地方に移動する人たちは増えるかなと思ったんです。それは完全な移住ではなく、もう少し薄い関係、観光客以上移住者未満の人、関係人口といいますが、そういう人が増える。そのために拠点となる家が必要です。それをDIYキットにして売り出そうと思っています。生活するのには十分な内容とサイズで、海外でいうところの「tiny house=タイニーハウス」です。

BIZ ● DIY…自分で家をつくるのですか…

阪口● 流石に基礎は難しいので、それは専門の業者にお願いします。それ以外は大工さんにアドバイスしてもらいながら、半年くらいで完成する。だいたい200 〜300 万円くらいでできます。それを羽咋市で場所を提供してもらって展開しようと思っています。もともと羽咋市は、「米ぬか」の提供地として繋がりがあったのです。議会も通って、地域の木材を使ったり、移り住みことに対してもいろんな国のサポートもある。それと僕らが提供するタイニーハウスには、希望すると畑がついてきます。もともと耕作放棄地が多く、そういった跡地利用を考えていたわけなので、それができる。いまどんどんその商品のパッケージ化を進めているところです。

BIZ ● それはすごいですね。地方移住が加速しそうですね。

阪口● いままで地方はどこも過疎化に悩んでいて、移住対策を打ち出していましたが、なかなか進まなかった。それは地方で仕事を見つけるのが難しかったから。でもリモートワークなら東京の会社に勤めながら地方で仕事ができるので、関係人口も増えて、移住のハードルが下がる。地方だと空き家が余ってるから、それを利用すればという声もあります。でも庭や家自体も大きくて、住むとなると水回りなど、結構手をいれなければならい。ある意味スペックオーバーなんです。

それが自分の好きな家を好きなように建てるとなれば、愛着が持てるし、ずっと長くいようとも思う。地域の自然を守りながら地域の活性化にもつなげることもできる。

BIZ ● 楽しみです。ほかにもなにか動いているのですか。

葉っぱで
”イケてる”靴をつくる!

阪口● もちろん。僕は全国にいろいろなことを教えてくれるおじいさんがいるんですね。最近面白いなと思って準備しているのは、鹿児島の与論島で天然白髪染めの原料となるヘナを育てて、白髪染めとして売り出すことです。与論島では海水を使った化粧水の原料を提供してもらってるんですが、与論はサトウキビ農家が多く、サトウキビを刈って工場まで運んで砂糖にしている。でもサトウキビは重くて運ぶのが重労働。与論島は過疎でお年寄りしかいないから「あと10年もしたらサトウキビ農家はなくなる」と地元のおじいさんたちが言っていたんです。

でもヘナの話をしたら、「ヘナだったら収穫できそうだ、与論をヘナの一大産地にしないか、阪口さん一緒にやろう」と言ってきた。それでいま300 坪くらいの畑で栽培して、どれくらい収穫できてそこからどれくらい原料ができて、いくらで売り出せるかを計算しています。うまくいけそうだったら、来年からキロいくらで買う予定です。単価さえ合えば、僕が栽培しなくても地元のおじいちゃんたちが面倒をみてくれて、耕作放棄地もなくなっていく。

それから、いま靴をつくろうと思っています。

BIZ ● 靴ですか?

阪口● 前から考えていたんですが、いま試作していて、コロナでステイホームとなったので、バブーシュに切り替えようと考えているんですが。9月にリリースする予定です。スペインのメーカーの素材で、販売するんですが、これをいま日本でつくれないかということで大学と組んで素材研究を始めたところです。開発できたら、これはほかに環境に配慮した壁紙とかにも使えるし、アパレルメーカーにも提供できると考えています。いろいろ可能性があります。

BIZ ● どんどん広がりますね。そういうアイデアは阪口さんのセンスだと思いますし、たとえそう思っていても、なかなか現実につくれるものではないと思います。それは先程おっしゃっていた人とのつながりがあるからだと思います。この人と組もうとか、この人とならやっていけるという、基準みたいなものは、何かあるんですか?

阪口● 勘もかなり重要視しています。タイニーハウスをやろうと思ったのも、たまたまその耕作放棄地を見ていたら地元の人がふらっとやってきて、名刺交換して「こんなことやりたいんだ」って言ったら、その人は「すでに俺はここでそんなことをやってるんだ」みたいな話をしてきて……どこの誰かは知らないんですよ。でも僕は「やるんならこの人だ」と思ったんですよ、そこで。

僕はコロナの前から、結構SDGs関連の講演で自治体から呼ばれていて、行くといろいろな人に会う。そこで「うちにこんなのがあるんだけど使われないか」とか相談される。やるんなら、やっぱりちゃんと売れて利益を出せるようにしたいし、続けていけるようにしたいんですよ。そういう感覚から選んでいますが、やるやらないは勘もありますね。

BIZ ● そういう原動力ってなんなんですか?

阪口● いまのSDGsを意識したビジネスをやる前のビジネスって、あまりやる気がなかったんですよ。絶対一生やる仕事ではないなと思っていて。人生は一回きりだし、やるなら好きな仕事をしていきたいと。

普通、生活は仕事と別に考えますよね。仕事をして空いた時間が生活のような。でも僕は違うと思っていて、仕事も全部生活の一部と考えてるんです。空いた時間のために稼ぐ生き方をしているわけではないんです。だからいま楽しいですよ。生活を楽しんでいる、それが原動力かもしれませんね。

BIZ ● 阪口さんの話を聞いてると少しずつ未来が良くなっていく気がしています。本に書かれていたようにこれまでは自然を破壊して経済が発展してきた。でもこれからは経済を回していくことで、自然や環境をよりよくしていく時代に入ったんだと感じます。

でも1つ懸念しているのは、技術の進化スピードです。テクノロジーによってEVや太陽光発電など環境負荷の少ない技術や製品が出てきて、AI やITの技術が世の中を便利にしています。でも今後さらにハイテクノロジーが進んだ時に、オーガニックでサステイナブル(持続可能)な暮らしはどのように融合していくのでしょうか。よくサステイナブルで環境負荷の少ない暮らしというと、昔の暮らしに戻るのかという言い方をする人もいますが。

阪口● 僕はサステイナブルな暮らしには必ずテクノロジーは必要だと思っています。最新のAI もロボットも必要だと思います。要は使う人の考え方だと思うんです。それは兵器にもなるし、SDGs としての平和利用もできる。

例えば、オーガニックがいいからとサトウキビを増やそうとして、森林を焼き払ってプランテーションして、そこで働く人たちを低賃金でガンガン使ったら、結局社会は悪いほうに向かう。最終的にそこを変えていかないといけないというのが僕の結論なんです。でもいま70億人のために地球の課題をみんなで解決していくことで、より豊かでサステイナブルな未来がつくりやすいとしたら、それは利用すべきだと思うんです。それは大企業とか中小とか、どんな業種も関係なく、誰もが共感を得やすくなっているし、とても取り組みやすくなっている。やったほうが絶対メリットがあります。この記事がその取組のきっかけになったら、すごく嬉しいですね。

※ 1)SDG s = Sustainable Development Goals( 持続可能な開発目標):2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015 年9 月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」にて記載された2030 年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17 のゴールと169 のターゲット、232 の指標から構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no onebehind)」ことを誓っている。 SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本も積極的に取り組んでいる。SDGs に取り組むことは企業にとっては「儲かる」ことは確かで、2017 年のダボス会議の経済フォーラムではSDGsに取り組むことで世界で12兆ドル、3億8,000万人の雇用が見込めると発表された。

※2)エコシステム(ecosystem):もともとは生物用語の生態系を意味する。生物界においては、弱肉強食の捕食関係があるが、一方で相互補完的な共存関係を作り上げている。たとえば、自動車会社は、自社以外にもたくさんの関係する取引先をもち、その取引先企業はさらに取引先企業をもっている。いわゆるサプライチェーンと呼ばれる企業群だが、それ以外にもそのサプライチェーンを支える間接的な組織が関わることでその自動車メーカーと自動車産業が成立する。陸路の輸送においては、自動車と電車、航空機は競合関係にあるが、それぞれがすべてのニーズを代替できるわけではなく、また補完する関係にもある。こうした見えない補完、共生関係、そして多様なサブシステムなどが実際の経済を回している。このため、ニッチ(生物学的には棲家)と言われる分野は経済が複雑化すればするほど生まれ、小さい企業でも生きていく可能性が高くなる。

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