脱コモディティ化を目指すなら、ガラパゴスでしょ!
ネット化・デジタル化が進んだ現代では、新しい商品やサービスがあっという間に広がり、差別化、差異化が難しくなってしまう。ブルーオーシャンだと思って飛び込んだ瞬間から、真っ赤なレッドオーシャンに変わってしまう市場も枚挙に暇がない。
こうした時代は、逆に世界のトレンドを気にせず、独自の「ガラパゴス化」が市場を切り拓く可能性がある。
例えばカメラはすでにデジタル化が進んで、オートフォーカス、手ブレ補正、ミラーレス化が進み、同じ被写体からミニチュア風やトイカメラ風などさまざまな絵柄が表現できるが、いま静かなトレンドとなっているのが、昔ながらの紙焼き写真が出てくるカメラだ。
数年前より、フィルム内蔵カメラ「写ルンです」の最市場化、さらに最近はその場でプリントができる「チェキ」が人気となっている。いずれもフィルム時代を知らない世代が、フィルムを「新しい」と思って買い求めた結果だが、デジタルカメラに市場が奪われたなかでも、製造を続け、技術を絶やさなかったことが、現在の興隆のベースとなっている。
とくにチェキの人気は、それまでカメラ店にしか置かれなかった商品が、雑貨店などに販売ルートを広げたことで、「かわいいカメラ」から「かわいい雑貨の1つ」として受け入れられたことが大きい。
ほかにガラパゴス化の代表としては、ヤマハ発動機の電動アシスト自転車のPASシリーズがある。1993年に発売されたPASは、とくに小さいお子さんを持ったママチャリを操るママ、パパ世代に支持され、現在までそのスタイルやコンセプトを変えずに進化し続けてきた。
当初1回の充電で20km程度だった走行距離も、最新型では56kmまで伸び、また充電時間も10時間から3.5時間にまで短縮された。いまや保育園児などを持つ家庭のベーシックビークルとなっている。ここ数年でも毎年10%以上の伸びを続けており、普及も家庭に1台に迫ろうとしている。伸びの背景には通学用の推奨ビークルとしても学校が積極的に推奨していることや、免許を返納した高齢ドライバーが日常の足として使うケース、あるいはインバウンドの伸びで、観光地の足としてレンタサイクル、シェアサイクルの1つとして普及しているなど、ニーズの多様化がその背景にある。
PASはガラパゴス商品の典型で、欧州の自転車先進国ではPASという完成車としては販売していないが、その電動アシストユニットを完成車メーカーに提供している。これは、欧州各国でその規格や法的制限などに違いがあるため、完成品を現地に合わせるのではなく、ユニットを提供するほうが受け入れられやすいとの判断からだった。
PASが開いた市場は世界でも確実に伸び、国内ではブリヂストンやMIYATA自転車、パナソニックなどの自転車メーカーが、海外でもドイツやスイスなどで電動アシスト自転車メーカーが勢力を伸ばしている。その技術は、電動アシスト車椅子に転用され、来年のパラリンピックで更なる市場拡大が期待されている。
実はヤマハは時代に先駆けたユニークな商品を送り出している企業として知られる。あくまで自転車の延長として開発したPASに対して、日本のスクーターの原型となる「パッソル」シリーズなど、ガラパゴス的発想で生み出された商品も多い。
一方でライバルのホンダは独自のスカート型泥除けをつけた「スーパーカブ」という世界的ベストセラー車(世界生産台数累計1億台達成)を生み出したが、これも元々は創業者の本田宗一郎が、自転車で重い荷物を買い出しに行く妻を楽にさせたいという思いから誕生した、原動機付自転車が原型だった。その形はまさに自転車にエンジンをつけたもので、形はPASに近かった。
もう1つ代表的ガラパゴス商品として上がってくるのがガラケーこと、旧来型の携帯電話である。ガラケーのガラはそのままガラパゴス化を意味しており、まさにこのガラケーから日本の商品やサービスのガラパゴス化論議が始まった。すなわち携帯電話キャリア、メーカーが巨大なガラケー市場をスマホが奪ってしまうことを憂慮したため、世界のスマホ市場で遅れをとってしまったというもの。つまりいずれ、世代交代するのは目に見えており、その新しい技術に先行投資をせずに目先の利益に執着したため、電子立国の日本の地位がガタ落ちしたというのが大方のアナリストの見立てだ。しかし、2019年現在でもガラケーは新機種が誕生しており、それどころかこの数年はガラケーの売上が伸びている。
理由としては進化するスマホがだんだん大きく、重くなり、携帯性に乏しくなっていること、(スマホに比べ)料金が安い、バッテリーの持ちがガラケーのほうが何十倍も持つというようなことが、理由として上がっている。なかでも最近増えているのが、「断スマホ」ニーズだ。スマホの場合、電話より、SNSやアプリの告知など四六時中スマホ画面を見て、アクションを起こす必要があったりなど、生活時間のかなりを支配されることに負担を感じているようだ。いわゆるSNS疲れだ。ガラケー専門店の「携帯市場」の調査では「断スマホしたい」という声は年代が下がるにつれ多くなり、10代・20代のスマホユーザーが最も多かった。
ガラケーの良さが改めて見直されている模様だが、気になるのは通信速度高速化による、ガラケーの周波数帯が使用できなくなることだ。2020年から3Gが終了するため、これに対応していたガラケーが使えなくなる。ただ4G対応のガラケーもあるので、こちらに乗り換えるか、または4G対応のフリーCIMを使うことで対応ができる。ガラケーの基本機能は大きく変わっていかないだろうが、その性能やデザインは変化し、まだまだ進化していくだろう。
電気炊飯ジャーも日本を代表するガラパゴス商品と言える。最近こそ収まりつつあるが、韓国や中国、台湾などの爆買で各メーカーは特需を迎え、日本の家電量販店では、何台も買い求める中国人や台湾人の姿も珍しくなかった。炊飯ジャー自体はいまは二分化され、普及版が中国で現地生産されているが、日本ではどんどん高級化し、1台10万円超えも珍しくない。少子高齢化、人口減少で米の消費自体は減少しているものの、電気炊飯ジャー市場自体は拡大し続けている。和食が世界食として広がっていくなかで、今後日本の電気炊飯ジャーはさらに市場を拡大していくだろう。
総合商社という仕組みも代表的ガラパゴスの1つだろう。一般的に貿易会社は専門的な、自分たちが得意とする商材に特化して扱っているが、日本の総合商社はそれこそ、ラーメンからミサイルまでと皮肉られるほど、ビジネスのタネとみれば、あらゆるものを扱い、拡大していった。
とくにバブル崩壊以降は、商社という枠を超え、積極的に川上川下にも乗り出し、メーカー機能や、農業や漁業の1次産業も取り込むケースも増えている。現代のビジネスは複雑なネットワークと組み合わせでできているため、情報やそこから生まれたノウハウ、知恵を持ってるスペシャリスト集団が価値を生み出しやすい。
最近ではスタートアップなど外部の技術を持った新興企業などと組む例が増えているが、それでも社内リソースと情報が豊富な総合商社は自社系列や取引先、ときに国や自治体と手を組んで事業を生み出し、成長させている。
このほか、お尻を洗って乾かすという機能を生み出したTOTOのウォシュレットは、「シャワー付きトイレ」という市場を生み出した、日本を代表するガラパゴス家電の1つだろうし、酒税との戦いから生まれた「第2のビール」や「第3のビール」、「ノンアル
コールビアテイスト飲料」も明らかにガラパゴス飲料だ。
もっと言えば、クール・ジャパンの代名詞である日本のアニメもガラパゴス商品だ。3D化が進む世界のアニメ市場で日本は2次元の細やかな表現力にこだわり、世界を唸らせてきた。
このように日本の商品やビジネスモデルは、ある種ガラパゴスだからこそ、グローバル市場で生き残ってきた。ユニークでそこそこニッチな市場であれば、海外企業が入り込みにくい。そのなかで技術や機能を磨き続けていれば、いずれ海外で評価される可能性は高い。