廃棄物に新たな命を。広がる「アップサイクル」
持続可能な社会を構築するためには循環型社会システムの構築が肝要だ。日本は高いリサイクル技術を持っている世界的な環境先進国である。と思うのはいささか早計だろう。
え、リサイクルって国によって違う!?
確かに日本には優れたリサイクル技術がある。とくに菅義偉政権が2050年のカーボンニュートラルの達成を世界に宣言してからは、リサイクル技術が伸長している。
しかし肝心のリサイクル率を見る限りは、まだ低く、2020年度の一般ごみのリサイクル率は20%(環境省発表)。前年度比で0.6%アップしているが、もっと高いと思っている人が多いのではないだろうか。もっと多い、8割とか9割だと思っていた人が大半だと思われる。確かにペットボトルやアルミ缶などのリサイクル率は高いが(PETボトル86.0%〈2021年度・PETボトルリサイクル協議会〉、アルミ缶96.6%〈2021年・アルミ缶リサイクル協会〉)、すべての廃棄物でこのリサイクル率を達成しているわけではない。
ただこの数字にはちょっとしたマジックがある。日本のリサイクル率が低いのは、一般廃棄物を焼却・エネルギー回収するケースが多いからだ。その率77%(2021年度・環境省)。2位のノルウェー57%を20ポイント引き離し、OECDでトップの率となっている。
ただ日本は廃棄物を焼却しているのではなく、焼却で発生した熱を活用している。いささか古いデータ(2008年度・環境省)だが、主に発電と温水プールや施設の暖房などに67%が活用されている。また廃棄物を利用した廃棄物発電(ごみ発電)施設はごみ焼却施設全体の36%で(2019年度・環境省)、前年度の35%から増えている。
サーマルリサイクルはリサイクルと呼ばない?!
こうした廃棄物焼却から出た熱の利用をサーマルリサイクルと呼んでいるが、海外ではあまり評価されていない。そもそも世界が目指す循環型社会は、モノがモノとして再利用されることで成り立っていく。新品の服が古着として利用される、新刊が古本として利用されるほうが循環型社会の理に叶っている。廃棄物のマネジメントを考えると、最も優先すべきは廃棄物を出さないことだ。そのための取り組み(簡易包装の推進、フードロスを出さないなど)が優先され、その次がリユース(再利用)、その次に再資源化、それができない場合は分解・堆肥化とする。それ以外が、埋め立て、焼却、コントロールダンビング(管理型の埋め立て)であり、最後の3つの手法は「処理」のカテゴリに分類されている(JICA資料)。
国際的には焼却はリサイクルとしては主流ではない。さらに言えば、リサイクルという言葉も実は不明瞭で多義的だ。
環境省の資料のなかにも、リサイクルのほか、再資源化、循環利用、再商品化、リメイク、リフォーム、マテリアルリサイクルなど似た言葉が並ぶ。また分母となる廃棄物の量も廃棄物が発生した量、中間処分場に入った量など、各国でまちまちだ。
定義はともかく、日本人が取り組むべきは焼却処分を減らし、廃棄物のモノとしての特性を生かして再利用することである。
アップサイクルとダウンサイクル。
違いを意識する
そこで注目されているのが、アップサイクルだ。アップサイクルとは、廃棄予定のモノにデザインや用途変更などのアイデアを加え、別の活躍の場(価値)を与えることだ。
1994年にドイツの企業家のレイナー・ピルツが雑誌のインタビューで打ち出したのが最初と言われている。ピルツはこの際、アップサイクルとダウンサイクルにも言及している。
古くなったジーンズをリメイク、リデザインして、鞄や靴などにするのがアップサイクル。あるいは売れ残りの野菜や果実、規格外の野菜などを菓子の材料にする、などである。対して、切って雑巾などとしたり、廃車となった自動車やオートバイから部品を取り出してスペアとして活用するのがダウンサイクルである。アップサイクルは語感の良さもあってか、昨今取り組む企業が増えている。とくに盛んなのが、アパレル業界だ。
アパレル製品のセレクトショップを手掛ける「BEAMS」は、在庫品やデッドストック品などのアップサイクルを積極的に手掛ける。在庫品や廃棄予定の商品を一点物の商品として蘇らせるアップサイクルブランド「BEAMS COUTURE」を展開しているほか、在庫品となったアパレルブランドの商品のタグを、別のタグ、別ブランドに付け替え、別価格で売り出す「Rename」という取り組みも行っている。
またファッションデザイナーやクリエイター、企業などが参加しているファッションコミュニティ「New Make」では、売るタイミングを逃して廃棄処分となった衣類を企業から受け取り、アップサイクルして売り出している。
この活動を支援している企業の1つが化学メーカーの「三井化学」。同社は排土や肥料などを詰めているフレコンバッグで使用期限が過ぎたものをトートバッグにアップサイクルした。フレコンバッグに使われたロゴや内容表示などがデザインアクセントとなり、エッジの効いたクールなトートバッグとなった。フレコンバッグは、基本的に耐用年数の15年を過ぎると廃棄することになっているが、15年を過ぎても強度は80 〜90%を保つため、日常のバッグとしては十分な耐荷重を持つのが特徴。同社では同様にフレコンバッグ素材を使って財布などにもアップサイクルしている。
60年の歴史を誇る東京立川市の八百屋「根津」は規格外のさつま芋を使ったアップサイクルスイーツ「”純正”生スイートポテト」を開発販売している。世の中は空前のさつま芋ブームだが、規格外のさつま芋は廃棄されることが多く、その活用法が課題となっていたが、さつま芋の素直な甘さを生かした、このスイートポテトスイーツは人気を呼んでいる。
山形県酒田市を本社に置く「グリーンエース」は規格外の農産物や野菜の未利用部分をアップサイクルし、開発したドレッシング「Salad on Salad」をクラウドファンディングの「CAMPFIRE」にて先行販売した。Salad on Saladは野菜の未利用部分などを凝縮活用することで、1回分で小皿のサラダ分の食物繊維が摂れるという「かければかけるほど野菜がとれる」ドレッシングとなっている。
オーダー家具やリメイク家具を提供している名古屋市の「ソイロリビング」とプロダクトデザインや商品の企画開発、コンサルティングなどを手掛ける「スタジオポイント」、岐阜県多治見市のタイルメーカー「星和セラミック」は製造過程でつく傷などから廃棄される未利用タイルを生かす「ウラタイル」プロジェクトを展開。その名の通り傷や斑のあるタイルの表面ではなく、裏面の形状と色を生かしてアップサイクルしたタイルを販売している。
アップサイクルは、こうしたモノづくり企業だけでなく、不動産業界にも浸透しているようだ。不動産大手の「三井不動産」は、建設が計画されている土地、あるいは建物を再利用する際にやむを得ず廃棄してきた樹木や物品などをアップサイクルし、家具や床、壁材などとして活用する「土地の記憶」プロジェクトを展開する。
考えてみれば、不動産会社や建築会社が手掛ける再開発やリフォーム、コンバージョンは、もともとアップサイクルの発想で行われてきたが、近年はESGやSDGsの観点から環境負荷の少ない技法や素材が加わり、スタイリッシュでサスティナブルな構造物が増えている。
アップサイクル。これからのものづくりだけでなく、不動産、あるいは情報、サービス産業でも意識したい言葉だ。