【インタビュー】甘〜い「キャベツウニ」が創造した新しい価値とは―〈後編〉
世界中で広がる磯焼け対策の一つとして、廃棄予定のキャベツを与え、身が詰まった食用のウニ「キャベツウニ」の養殖に世界で初めて成功した神奈川県水産技術センター主任研究員臼井一茂さん。臼井さんの助言を受けて、いま国内外で廃棄予定野菜や果物を組み合わせた特産ウニの養殖が広がっている。臼井さんはさらにマグロの血合に含まれる抗酸化作用を持つセレノネインのアンチエイジング効果や、セレノネインを活用した食の展開、新たな産業振興にも力を注いでいる。「いいところを伸ばすのは当たり前。悪いところ、欠点にこそ、可能性がある。みんな素晴らしい資源を持っているはず」と日本中の経営者にエールを贈る。
目次
苦くて棘の大きいガンガゼが、
ブロッコリーを餌に苦味のない
「ウニッコリー」に
BIZ●全国各地、あるいは世界でキャベツだけではなく、いろんな野菜や果物などを食べてウニ養殖が展開されているわけですか。
臼井●国内では今、大きな企業さんから地元のダイバーさん達のグループ、漁師さん達の個人から団体、そういうところも含めですけど、100カ所ぐらいが試験を進めています。実際、問い合わせの数だともっとありますが、試験を始めて具体的な問題を質問してきているところがその数です。うまくいっているところではちょっとずつ販売まで始まっています。
北海道の漁協では元々コンブをエサとして海面で養殖していましたが、キャベツや白菜も使って販売も行っています。青森でも始まっています。
キャベツ以外では、三重県ではみかんの産地なのでキャベツと組み合わせてます。愛媛県ではガンガゼっていうトゲの長いウニがいるのですが、天然のものは旨味も少なく苦みがあるウニに、出荷時にトリミングで出てくるブロッコリーの茎を与えてたところ、苦味がなくなって美味しくなったそうです。それで「ウニッコリー」という名前で出荷されています。
BIZ●ガンガゼのイメージを覆す、ラブリーなネーミングですね。
臼井●その他、九州、山口の方では地元の信金さんを中心にして、農家さんなども一緒になって、規格外のミニトマトとアスパラをエサとして育てており、特にアスパラで育てると美味しいとのことで、いろいろとチャレンジされてますね。
SDGsのために新たなエネルギーコストを生み出してはいないか?
BIZ●今後、さまざまな廃材を利用する養殖や、ウニを山間地で養殖するのは難しいですか?
臼井●今は海のない地域でもウニ養殖が試験されています。温泉施設や温度管理されている倉庫を利用して、閉鎖系での養殖です。ほかの魚種では、温泉フグや天使のエビなど、温水や使われなくなった施設を利用する、地の利を生かした取り組みですよね。
このキャベツウニの取組は、磯焼け対策で駆除されたウニを有効利用して、その売上で駆除を継続させていく形を応援しているのです。
神奈川県だと逗子市でこの取組が地域の連携になっているのです。漁業者などがウニ駆除を兼ねてキャベツウニ養殖を始めたところ、地元のスーパーさんも賛同し、トリミングしたキャベツの外葉を餌として提供してくれている。そしてそのスーパーさんで殻付きのキャベツウニを売ってるんですよ。自分たちで剥いて。そしてみんなに食べてもらいたいと、ここでは1 個 300円で売っているんです。
電気代も餌代もなるべくかけず、飼育のためのエネルギーコストもかけない。産業としてはまだまだ未熟ですが、これからのSDGsに対応した取組としてはいいのではないかと思っています。
BIZ●地域ぐるみの取組に広がっているのですね。
臼井●逗子でのキャベツウニ養殖はまだ3000個程です。身入りのいいものも悪いものもあり、全てが出荷レベルには達してないのです。
そしてスーパーで売ってる板付きサイズで、1箱にウニ10匹分使ってるんです。お寿司屋さんの板付きウニなら50匹分とか。当所の水槽は1m×3mの1トン水槽ですが、このサイズで最大1000匹までしか入らないんです。寿司屋さんの板付ウニなら20箱分ですから。ですからキャベツウニ自体は、その地域に行かないと食べられない食材として、地域観光につなげられればと思います。
BIZ●大規模養殖で大量に生産するわけではないのですね。
臼井●なるべくローエネルギー・ローコストという形で進めていくのが、これからの社会のあり方と考えている。それから、大量生産・大量消費の形が物や労働の価値を下げてしまい、価値の崩壊を起こしたと思っている。
キャベツウニ養殖では、上手く育って美味しいウニになれば、食用として利用されますが、途中で死んでしまったウニ、身を取り出した後に残るウニの殻も上手く利用しないと、それも産業廃棄物になり環境に良くありません。
そこで、養殖の途中で死んでしまったウニの殻ですが、ネットで検索すると、ランプや植木鉢などに利用されていたり、粉末にしてから土に混ぜ、焼き物にも利用されていました。
綺麗に汚れが取れた割れてないウニ殻を見ると、きれいな五放射の模様があったので、置物やランプもいいねと。それから細かく穴が開いているので、二つの殻を組合わせたアロマポットなどにも。地域の施設で作ってもらえたら、お土産にできるでしょうと。
割れた殻や抜けたトゲは、焼いてカルシウム剤として使えるから、味をマイルドにさせる使い方や、プランターの酸性土壌の改善にも。
BIZ●全て使い切っていますね。
臼井●新しく何かを作って専用にするより、今あるものを、その特徴を活かせないか、目線を変えると違う利用方法が見えてくる。
僕はそういう考え方で、食品という分野で低利用な素材をうまく利用しています。単体で美味しくないからダメじゃなくて、組み合わせることで食べられる。美味しく食べられるものもあるはずです。
1つのことから全部を求めない。
欠点の評価軸を変える。
1歩進めて、5歩進むタイミングを探る
臼井●たとえば、最初に手掛けたのはイカ塩辛だったんです。依頼を受けた時に「若い女性に食べてもらいたい」とのことで、「口に入れた時のニオイをどうにかして」と。
話は変わりますが、みなさん焼きトンのシロって知ってますよね。あれば豚の腸です。簡単に言うとウンチが入ってたわけですね。だけど食べるときは臭くないですよね。それは処理がいいからなんです。お肉の文化のある韓国では、おからで揉み込むことで脱臭されるのだそうです。なので、ニオイの出るイカの肝、特に脂質ににおいが含まれていますから、オカラ塩と混ぜて漬け込み、オカラにニオイを吸わせようと思ったのです。すると脂の酸化臭などが殆ど無くなり、さらにきれいに乳化され品質も安定されたのです。おからは大豆ですから、レシチンがあって水分と脂分が混ざり合った、マヨネーズ状態が安定したのです。
においを取るなら活性炭とかを使うんですが、お金かかるじゃないですか。
でも豆腐工場では大豆の加工残渣として1日何トンもおからが出るんですね。そのおからを利用したのです。これがアイデアを具現化した最初の製品なんです。
BIZ●おからという既にあるものをうまく活用して、課題を解決したんですね。
臼井●栄養士さんからすると、干物や塩辛は塩分が多いので食べて欲しくないなんて言われますが、必要とされる、そういう要望があるところ、ニッチなものに対応する製品でいいと思っているんです。
アジ、サバ、イワシのように、誰もが「煮ても焼いても刺身でも美味しい」と言うものではなく、刺身はダメだが焼いたら最高とか、癖がある素材が多いんです。なので、何でも使えるではなく、得意な
ところに合わせればいい。
たとえば料理だって和洋中があるわけです。ちょっと苦いね、これは和は合わない、洋ではない。だったら中華で激辛でいいじゃない?とか。広がりがあれば使えるわけです。それが工夫なんですよ。 みなさん全て平均点以上に、悪いところは直して良くしようとします。また、いいところだけを伸ばす。それもありです。それで伸びるならそれでいいと思うのです。
ただし、今までは「悪いところを隠す」だったんです。でも、これからは悪いところではなく、それも特徴として伸ばし、「悪い」から「魅力」に評価を変える。僕たちの目線を変える。これだけの話だと思うんですよ。だって日本人のなかで、辛い味がこんなに当たるとは思ってなかったと思います。
BIZ●お話を伺って、すごくそういったことに感度が高いと感じますが。
臼井●水産は水産の技術じゃないという事は無い。水産だけで水産を評価する必要も無いと思うんです。先ほどの臭いを改善するなら、農業の技術だって、畜産の技術だって、違う分野のものでもいいんです。
僕には水産専門だけでなく、料理という世界もある。だから料理の考え方をやってみる。料理では足し算の他に引き算は無く「誤魔化す」がある。組合せの妙がある。そうやって組み立てることができる。ウニだけ食べるじゃなく、お肉と併せてウニもお肉も生きる食べ方も。アイデアってそういうものだと思うんですね。
そこに科学的な目が加わると、こうすると理にかなってるよと話ができ、説明しやすくなるので、それを実践しているつもりなんです。
BIZ●なるほど。よくあの深夜番組でカップ麺なんかに「味変」という形で、意外なものを組み合わせて「意外と美味しい」「美味しくない」みたいなことをやってますけども、ああいう感覚でちょっといろんなもの、他にないようなものを組み合わせてみる、そういう発想がこれから大事になっていく。
臼井●そうですね。だから今までタブーとされてきたものが、いくらでもあるんです。でもタブーというのはその業界の伝統だけだったりするんです。
僕は学生さんに話をする時によく例えるのですが、たとえば原発は危険だから減らせという考えがありますよね。そうすると今のままでは電力が足りなくなるわけです。ではどうしたらいいんだというと、新しい発電を開発するとか、省エネするとか。間違っていませんが、答えが具現化していませんね。減らすなら、テレビを我慢する、スマホを我慢する、クーラーを我慢するでしょ。
できないなら、技術的な省エネか、原発に変わるエネルギーを探してこなきゃいけないでしょうと。でもすぐに革新的なものができないから、僕たちも協力・努力する必要がある。最初から10歩先を目指すのではなく、最初の1歩を歩むために何から取り組むかが大切だと。
次の芽になるもの、同じようなものでも、違う方向のものでもいいのです。今、いろんなことをしようと皆さんされてると思う。でもこれが具体的なものとして考えられないのです。でも、みんな自分たちが持っている武器を過小評価をしてるんですよ。まったく新しいものだけでなく、持っているものの組合せだけでも違うものができるはずなんです。
ただし、見出すにはそれだけ苦労したことがないと、見い出せないかもしれませんが。
タピオカから生まれた
小田原市の骨なしカマススナック
「北条一本カマス棒」
BIZ●伝統産業とか伝統食といった分野なども、まだまだ可能性があるっていうことですね。
臼井●今まで2000ぐらいの商品開発に関わってきてます。
小田原の魚ブランド化・消費拡大協議会から依頼されて「カマス棒」という、食べ歩けるストリートフードを作ったことがあります。小田原城や古い町並みなどを観光しながら、食べ歩ける、直ぐに調理できるものを作ってと言うんですね。しかも、魚らしいものでと。
姿が見えるアユの串焼きなどはあるけど、アジの串焼きなんてものは無い。海の魚は骨が硬いから丸ごとガブって食べれない。そこで、小田原で良く獲れる低利用魚というと、小型のカマスがありました。カマスは干物でも使われていたんですが、ほかの加工品ではあまり使われてなくて。
それで食べれない頭と尻尾を切って、内臓は頭と一緒に取れたので、問題は硬い中骨。ヒレとか細かい骨は揚げれば気にならない。だからフライにすることは決めてたんですけど、中骨をどうやって処理しようかと思っていた時に、テレビでタピオカ入りのドリンクを見かけたんです。
ちょうど台湾ブームで、女子大生がタピオカ入りの紅茶を、太いストローで飲んでいたんです。すると「スポ、スポーン」ってタピオカが吸われていくんですよ。それを見てピンと来たんです、これ使えるんじゃないかと。体に震えが来ましたね。
本当は掃除機でピュッて抜こうと思っていたんです。機械化するのが最初の予定だったんですが、家庭で簡単にできるものにと途中で変わったので。
カマスの身が柔らかいものは、先端は筒状でもよかったんですけど、刺しやすいように注射器の針のようにしたら、手伝ってくれたおばちゃま方が「怖い」というんです。それで先端を山切りカットにしたら「これだったらいいわ」と。ただ丈夫なアルミのパイプ製だったので、「中身が取れてるか分かんない」というんで、透明なアクリルパイプにしたんですよ。
それを製品化するためプラスチック加工メーカーで作ってもらった。最初に作った時は1本の材料が300円。先端のカットに2回削るとのことで1回 1000円の2000円。だから1本2300円から始まったんですよ。この製品は小田原魚市場が一般にも販売しており、カマスの骨を抜くだけの作業なら、僕は1分間で17匹は抜ける。抜くのは簡単なので。
特許も取ったりしましたが、これだったら子供でもできる。包丁も不要で同じようなものが簡単にできる。あとは料理のカタチは食べ歩きできるアメリカンドッグのようにする。もしくは穴が空いてるのでそこに野菜詰めて、ちくわのきゅうり詰めみたいにする。色んな素材も入る。別に肉を入れたっていい。
ここまでくれば、あとはアイデア次第。いくらでも商品はできる。だから僕も最後まで仕上げる開発はしないようにしてるんですよ。僕が100%まで製品を作っちゃうと、逆に製品が成長していくのを殺してしまうので。
BIZ●タピオカからそこまで広がるというのは、やっぱり常にそういう意識をもっていることが大事なんですね。日頃から気をつけてらっしゃるんですか?
臼井●いろんなものに関心があるだけです。どこでどうなるかは僕にも分かりません(笑)。ただ、開発したいもの、そういう気になることをいっぱい持っていると、関係ないものであっても目に入れば頭の中でいろいろ出てくるのです。アイデアはレッテルを剥がすところから、突然いろいろ湧いていくものです。
マグロの血合に含まれるセレノネインの
アンチエイジング効果で新しい産業を生み出す
BIZ●今後、キャベツウニ以外でなにか取り組む予定はあるのですか?
臼井●このキャベツウニの事業は、今担当する5研究事業のうちの1本なんです。昔は一人で12本も持っていた時がありましたが、今、動いている研究事業の1本。この5本のなかでメインにしてるのがマグロのセレノネインっていう抗酸化物質の人での効果、マグロから見つかり、天然成分としては最強クラスの抗酸化力をもち、特に血合に多いのです。 抗酸化は体内の余剰な活性酸素を消去する。活性酸素が体に残ると病気や老化、未病の原因になるんです。若い時は代謝でどうにかなったのが、年を取ると抗酸化物質を食べ物で入れないと消去されないんです。
それで様々な抗酸化物質が注目されているのです。今、神奈川県の聖マリアンナ医科大学と神奈川県にある国の水産研究・教育機構の水産技術研究所と一緒に共同研究を進めています。
僕は人にマグロを食べてもらって、血中の酸化ストレスの変化を測ってます。水産技術研究所は食べることでセレノネインが体内に蓄積するか。そして聖マリアンナ医科大学では、マサチューセッツ工科大学(MIT)のレオナルド・ガレンテ教授が20年ほど前に見出した長寿遺伝子関連蛋白質「サーチュイン」を測っています。
まだ測定中ですが、食べることで体内にセレノネインの蓄積が確認され、週3食、3週間の9食の摂取だけで、血液の酸化ストレスも殆どの方が改善されてるし、サーチュインの増加量も他の抗酸化成分と比較にならないほど凄いんですよ。
BIZ●そんなにですか! すごい効果が期待できそうです。
臼井●マグロの血合は品質が問題なんです。マグロは取り扱いが悪ければ、脂などが酸化してしまう。そういうマグロを食べちゃうと抗酸化成分が相殺されちゃうわけです。
だから高品質な血合じゃないといけない。輸送にはマイナス50℃のコールドチェーンが求められる。
これからは美味しいからここ(神奈川県三崎市)に来ようじゃなくて、体にいいからマグロを食べに来る。そしてジョギングとか散歩もあわせて湯治のように泊まりにくる。
美味しいうえに体にもいいことを明確にしていく。それができれば、民間企業の活性化にもつながるはずです。この土地だからできることを広げていけばいい。
BIZ●臼井さんのように見極めてコーディネートする力が必要なんですね。
臼井●一人だけではできるコトが限られます。なのでいろいろな専門家の力が加わって一つにできれば、大きな影響のある成果が出せるんです。そして目標を明確にしていきながら役割分担も明確にして。なのでコーディネートしないと仕事が始まらないことも多い。逆にいうと「こうしたいから足らないものはこれ」だとオープンにする。そこは餅は餅屋にということで、担ってくれる人や機関にお願いして。それでスタートしたこのマグロの研究が楽しみなんですよ。
BIZ●足りないものを補い合っていくわけですね。同じ組織の中でも活用できる考え方な気がします。
臼井●会社的に言うと人材をいくらでも浪費できちゃう。無駄遣いするんですよ。1人1人すべてパーフェクトな人っていうのは、1割ぐらいいるかもしれません。でも、言い方が悪いかもしれませんが、他の9割は欠点があるんです。
その欠点を補ってパーフェクトにしようというのが今までの発想。でも僕はどこかが劣っているのなら、伸びてるところを更に伸ばしてあげればいいし、そういう事に特化してプロフェッショナルにしていくことができたらすごいんじゃないという発想。自分はどういうことに向いているかが分かっていないだけの話。もっと言うと、学生時代なら自分は何がしたいんだろうとか思うでしょ。そういうところが見つけられてない。
パーフェクトな人なら成功例を見れば真似できるんでしょうけど、普通はそうはいかない。僕なんか本当に劣等感の塊でダメ人間。分からないからすぐ教えてって言う。プライドないから(笑)。
若い人にルール、
原則を伝えて成功体験を積ませる
BIZ●パーフェクトな人はいないというお話ですが、特にどんどん複雑化していく世の中では、全部に対応することが難しくなっており、100年前に天才だと言われた人も、今の時代に天才であり続けるかというのは多分難しいですよね。才能を組み合わせるって大事なことだと思います。
臼井●僕は今50代ですけど、若い20代、30代だと違うテクニックや知識を持っている。僕たちが苦労して10段階でやったことを2段階でやっちゃうこともあるんですよ。
彼らはその優位性を実はわかっていないんですよ。それを我々が明確にしてあげる。今の若い人は能力の高い部分があるんですけど、実は足場が非常に弱い。1度失敗するとダメになる。メンタルがまず弱い。だから足場を固めてあげて倒れないようにして伸ばしてあげる。
今組織的にそれだけの余裕が日本の中にない状態なので、上手く伸びてくれた人は使える、という評価しかない気がするんですね。
ウチにはこれとこれしかなくて、相手にはこれがあるんだけど、どう伸ばしたらうまくいく?を具体例でやると、いろんな実務的な考えができるんです。意見を出してもらう前に、意見の元になるところを明確にこっちが見出してあげて、「それでどうする」と聞く。いきなり「うまくいくにはどうする」なんていう質問はありえないんです。
BIZ●今日お話を伺って、捨てられるようなダメになってる困りゴト、マイナスにマイナスをかけることで、すごい可能性が生まれる。そこが一番本質だと感じました。
臼井●決して、僕はキャベツでウニを育てることじゃなくて、ウニをうまく活かすために、たまたま料理の技術じゃなくて、養殖という方向が適したと考えたのでやってるだけなんです。ここには養殖の専門部署がありますが、やってくれないから自分がやってるだけで。でも、専門部署に任していたら「上手くいかない」と言って終わりになったかもしれないんですよ。
BIZ●やっぱり養殖は養殖の規定概念の中で留まっている可能性があったかもしれない…。
臼井●そうですね。どこも規定概念はあります。加工品開発の方も、ノウハウとマニュアルは民間にいくらでもあるんですけど、そういうところはタブーがいっぱいなんです。では、タブーを取り除こうとなると、いきなり全部取り除いてしまう。タブーの訳が分からずにやるんです。最初にルールがあってそこにこれは合わない、これは合う、その上の話で進めていかないといけない。でないと、「納豆とチョコレートを混ぜるといいんじゃないですか」など、単に突飛な発想になる。
そりゃ油で納豆の臭さは消せるけど違うだろうと。方向性として違う。ルールを知らないとお互いのいいところを消しちゃうことが多い。車を走らせるのに、信号の赤黄青は覚えててくれないと、というレベルの話です。
その上で水と油が混ざらないなら、まぜる方法はいくらでもある。なにかを入れて混ぜる方法もあるとか。いくらでも調べれば情報が出てくる。あるいは1度やってみれば問題点がわかる。それを修正していけばいい話ですから。
今の若い人は逆に言うと調べる能力は高いので、ノウハウ、マニュアルをある程度下地として渡して、経験させていかないといけない。経験がないからできませんって答えをすぐに出しちゃう若い人が多い。正しいんですよ。でも上の人は「そんなに簡単に諦めないで」っていうぐらいでしょ。そうじゃないんです。成功例を作らせてあげないとと思う。
BIZ●ふだん、あれほどお世話になっている魚介類ですが、まだまだ知らないことがたくさんあると今回のインタビューで思い知らされました。漠然と考えていた温暖化対策に対しての、いままでと違ったメタな感覚を覚えた気がしますし、もっと自信をもって試行錯誤をすればいいのだという勇気もいただいた気がします。
本日は、貴重なお話、ありがとうございました。(文中敬称略)