ビジネスコミュニケーション力の基本は「ホメ力」にあり - ホメ力アップが仕事力、人間力をアップする
目次
かつての名監督が結果を残せなくなったのは?
ITやインターネットなどの進化に伴い、ビジネスにおけるコミュニケーションの重要性が高まっている。スマホやモバイルパソコン、携帯端末の発展によって、メールやWEBを介していつでもどこでも情報がやり取りできるようになり、情報交換は時間や場所の制約を受けなくなった。
だがこのような便利さは、一方でコミュニケーションが取れない、苦手とする人を増やしている。こうしたビジネスコミュニケーションの鍵を握ると最近注目されているのが、人を褒める力、「ホメ力」だ。日本のビジネスにおいてはとかく褒める行為は「おべっか」「ごますり」など、あまりいい受け取り方はされていないようだ。でも褒められて悪く思う人はまずいない。むしろ相手との距離を縮め、いい関係を育てる。
知らない相手はもちろん、知っている相手にもホメ力は必要だ。子供や会社の部下などは、褒めることでその能力を開花させる。かつては能力のある若手ほど、スパルタ式で根性を鍛えるような指導法がその能力を伸ばす、という考えが主流だった。しかしこうしたやり方は、あまり良い結果を生まないばかりか、間違いであることが指摘されはじめている。
たとえば、プロ野球の巨人軍でエースピッチャーとして活躍し、その後40歳を過ぎてからもアメリカのメジャーリーグで投げた桑田真澄さんは、テレビや新聞などで熱血根性型の野球の指導法に疑問を投げかけている一人。自身も高校時代は名門と言われる野球部で厳しい練習を行っていたが、プロとしてやっていけたのは、その時、自分なりに練習をさぼっていたからだと告白している。
奇しくも今年、令和の怪物として話題を呼んだ大船渡高校の佐々木朗希選手の起用法が物議を醸したが、桑田さんは、特に甲子園に出場するようなチームではピッチャーが連投で酷使され、プロとしての可能性を閉ざされてしまったり、たとえプロになってもその寿命を短くしているという。一方でスパルタ式に頼る育成方法は指導者や監督自身の指導力アップにも繋がっていかないとも指摘している。勝つことに固執し、エースや特定の選手だけに負担を強いる一方、チームや組織を考えた個々の性格や能力にあった引き出し方ができにくくなっているという。
こうした考え方は野球界だけでなく、サッカーやラグビーなど、他のスポーツでも言われている。
昔はそれで結果が出たかもしれないが、学生や生徒の考え方が変わって過去の指導方法や戦略について行かなくなった。名監督と言われた人が同じ指導法をしているにもかかわらず、結果を残せないようになったことなどに見てとれる。
同じ結果を導くなら、叱るより褒めるほうが有利
確かに叱ることで、人が変わったり、業績が改善されることもある。しかしその効果は褒めるより短期間で終わってしまうようだ。
『すごい!ホメ方』の著者で自己演出研究の一人者である内藤誼人さんによれば、「人を動かす」際の「叱る」ことと「ホメる」ことの違いを次のように整理している。
① 相手を叱っても、人は動く。ただしその効果は一過性に過ぎない。ホメて動かすほうには持続効果がある。
② 叱るほうには「嫌われる」という副作用がある。この副作用は人間関係をズタズタにしてしまう危険がある。
③ 叱る技術は即効性がある。そのため新人教育などで、即戦力を身につけてもらうためには、叱ったほうが早く仕事を覚えてもらうこともできる。褒めながらだと時間がかかる。
④ 叱っても許される人とそうでない人がいる。同じ言葉でもその効果はまちまちである。
人に何かをしてもらいたかったら、時間はかかるものの、褒めるほうが、叱るよりリスクが少なく、その効果は持続的だというわけだ。また『あたりまえだけどなかなかできないほめ方のルール』の著者でコミュニケーションスキルの講師でもある谷口祥子さんによれば、褒めることのメリットには次のようなものがあるという。
1 相手から好感をもたれる
2 相手のモチベーションが上がる
3 相手に心を開いてもらえる
4 相手に自信を持ってもらえる
5 相手の才能を引き出すことができる
6 人と話すことが楽しくなる
7 観察力や好奇心を養うことができる
8 職場やグループが明るくなる
いずれも納得だが、とくに2の相手のモチベーションを上げることや、7の観察力や好奇心を養うことは褒めることの意義を再確認させてくれる。
モチベーションを上げることは、いわゆる「ピグマリオン効果」でも説明できる。ピグマリオン効果とは、アメリカの心理学者ロバート・ローゼンダールが提唱した「人は期待された通りの成果をだそうとする傾向がある」というもの。
たとえその仕事に不安があったとしても「このプロジェクトは鈴木くんだから任せたんだ。思い切ってやってくれ」といってもらえれば、たいがいの人は頑張れるはずだ。
同様に5の「相手の才能を引き出すことができる」というのも納得だ。
とくに子供は自分の才能がどこにあるか自覚がないことが多く、何かに挑戦して失敗しても、挑戦することを褒めたり、何度やって結果がでなくても「そうそう、前よりずっとよくなっている」と本気で言い続けることで、本人が自覚していなかった才能が伸びることがある。子供は本人が何かの才能があると自覚し始めると、あとはどんどん自分で伸びていくもの。時には錯覚や全くの勘違いでその道の第一人者になる場合もある。
ピアニカ演奏の第一人者「ピアニカ前田」さんは、その代表だろう。ピアニカは小学校の時に誰もが習う楽器だが、彼はこのピアニカをまるでブルース演奏者の吹くハーモニカのように吹く。なぜそんな音色が出せるようになったのかというと、一緒のバンド仲間に騙されたからだ。もともとキーボード奏者だったが、誰もが知るアメリカの天才ミュージシャンのスティービー・ワンダーのハーモニカ演奏を聴いていた時、バンド仲間から「すごいだろ、スティービー・ワンダーは。この曲ピアニカで吹いているんだ」と言われ、やってみようという気になったそう。通常はそんな音は出せない。が、スティービー・ワンダーに近づいて、周りをびっくりさせようと思った前田さんは、密かに練習し続けて、ハーモニカ風の音を出せるようになったのだ。
まず相手をよく観察すること
7の観察力と好奇心はメリットというより、むしろ前提のことになるかもしれない。というのも、観察力がないと人を褒めることはできないからだ。
よく「褒めたつもりなのに、逆に嫌味を言われた」とか、「褒めているのに、無視されてしまう」と嘆く人がいるが、そういった場合は、観察力が不足している可能性は大だ。相手をよく見もせず、あてずっぽうに褒めても相手はいい気分にはならない。相手を観察することは、相手に興味がないとできない。
相手に興味を持てば、自ずと聞く耳も持てるし、会話の波長も合ってくる。ちょうどラジオのチューニングと同じで、そこからいろいろな情報が入ってくるようになるのだ。この人と会話をすると新鮮な情報が得られる。刺激を受けるとなれば、その人のことにどんどん興味が湧いてくる。信頼の度合いも高まっていく。プラスのスパイラルがぐるぐる回っていくようになる。
相手の話をちゃんと聴く
ではそんなプラスのスパイラルを回す「ホメ力」を高める基本は、どのようにすれば身につくのだろうか。前出の谷口さんは褒め方のルールとして次を挙げている。
1 相手の話を聴く
2 相手に意識を向ける
3 相手を好きになる
4 相手のノリに合わせる
5 価値観の違いを受け止める
6 相手をリスペクトする
7 話しやすいリアクションを取る
8 極力相手の言葉を否定しないようにする
9 勝ち負けの意識を捨てる
10 自らオープンになる
11 ボキャブラリーを増やす
12 とことん褒めてもらう体験を持つ
13 毎日少しずつ褒める
意外と大変? それとも簡単そうだと思うだろうか。
1の「相手の話を聴く」ことは、コミュニケーションの大前提だ。これは先に述べた観察力を高める話につながる。観察は相手を知ることだから、接触時間が短ければ、相手に対する知識は少なくなる。今はインターネットなどで、相手の情報をつかんだりすることができるが、それは相手がある程度知られているような有名人か、有名企業や組織に属している人の場合だ。したがって初対面や知り合って間もない人の場合は、いかに相手にしゃべってもらうかがポイントになる。
相手の話を聴く場合は、相手が話しやすい雰囲気を作ることを心がける。なるべく騒がしい場所ではなく、じっくり話を聴ける場所がいいだろう。
絶対してはいけないことは、相手が話の途中に割って入ること。中断することだ。とくに男性は、結論を急ぐあまり、先回りして勝手に結論を述べたり、意見を述べたりしてしまうが、関係が成立していない段階で話を中断された方は、自分が否定されたようで、いやな気になるものだ。
これは8番目の極力相手の言葉を否定しないことにもつながる。人の話を聞きながら無意識に「違うんだよ」「そうじゃないんだ」と心の中で呟いたり、実際に言葉にしたりしていないだろうか?そういう感情は、たとえ口に出さなくても態度でわかってしまう。そのような場合は、一旦相手の言うことを「YES」と肯定した上で(AND)、自分はこう思うと話すようにするといい(「YES・ANDのコミュニケーション」)。
相手の話をちゃんと聴くことは6番目の相手をリスペクトすることに通じる。
それ自体が「相手を尊重しています」というメッセージになるからだ。つまり褒めるということは、相手を尊重していますという表現にほかならない。褒めるという行為自体は、相手が喜びそうなことを口に出すことだが、それには態度が伴っていないと効果は現れない。むしろ逆効果になる。
相手と話す時には勝ち負けの意識は捨てる
9番目の勝ち負けの意識を捨てることもホメ力アップには欠かせない。谷口さんによれば、人間は「年齢が離れていたり、異性だったり、異業種の人だと手放しでほめるのに、自分と同業者だったり年齢が近いなど、属性が近い人の話題になると、素直にほめることができずライバル意識が顔を出す人が多い」のだそうだ。実に耳が痛い話だ。これは同じアドバイスでも親兄弟から言われたことより、他人や有名人から言われたほうが受け入れやすい心理に似ている。谷口さんはこう言う。
「ほめるという行為は、決してあなたが負けを認める行為ではないのです。ほめてもあなたの価値は決して下がりません」と。
勝ち負けを意識しなくなると、5番目の「価値観の違い」もわかってくる。なぜそんなことを考えるのか。なぜそんなことをしてしまうのかという違いに関心が向き、そういうことを、そういう価値を大事にする人なんだと、わかるようになってくる。
話を聴くときは、必ずメモを取る
7の話しやすいリアクションとはどのようなものなのだろうか。人間は相手が興味深い人であったり、話が面白ければ、自然と目が輝き、身を乗り出したりする。聞き手が関心を持っていると分かれば、話し手は気持ちよくなり、もっと話そう、語ろうという気になる。
身を乗り出すほどでなくても、相槌を打ったり、笑ったりすれば、やはり気持ちがよくなるもの。とくに有効なのがメモを取ることだ。メモはそのまま「あなたのお話は大事なので、参考にしたい」という姿勢の現れだ。だから目上だけでなく、目下の人に対しても行うと、相手はそれだけで大切にされているという気になる。人は本来、周りに認められたがる存在だ。そもそも褒めるという行為は、「認める」という行為の一つだと言われている。
コーチングの専門家で『コーチングのプロが教える「ほめる」技術』の著者の鈴木義幸さんによれば、褒めるという行為は「コーチング」という能力開発手法において、アクノリッジメント=承認と呼ばれる範疇に入るそうだ。承認にはその人の存在を認め、その貢献を細かく覚え、その内容を口に出して伝えてあげる。または声をかける、あいさつをするなどといったことも含まれる。
「『あなたの存在をそこに認めている』ということを伝えるすべての行為、言葉が承認にあたります」(『コーチングのプロが教える「ほめる」技術』)ということなのだ。鈴木さんによれば、人間はもともと長い歴史のなかで、互いに認めてもらうことで生き延びてきたという。そのため「人の生存本能は、絶えず自分自身が協力の輪のなかに入っているかどうか、仲間はいるのかどうかについて絶えずチェックしている」(同書)という。世間では「お一人さま」など、誰にも認めてもらわずとも生きていける唯我独尊の生き方を勧める向きもあるが、一人がいいというのは、あくまで頭が言っているだけで、本能はやっぱり周りと協力しなければ生きていけないとわかっているのだ。
12番目の、とことん褒めることもホメ力アップのためには欠かせない。とことん褒められるとどうなるかを体験してるか否かでは、人をほめようとする力が違ってくる。
そして大事なことは実践だ。毎日少しずつ褒めることを実践し、ホメ力を高めていく。
まず行動を褒め、人柄や影響力を褒める
そうは言っても具体的に何を褒めたらいいのか分からないという人も多いと思う。だが人の行動や会話を注意深く観察していくと、いろいろな「褒めどころ」があることが分かる。
前出の谷口さんは具体的に次のような「褒めごと」を挙げている。
1. 人柄と影響力を褒める―褒めるためにはある程度観察が必要だが、「元気そうだ」「優しそうだ」といった人柄の印象は付き合いが浅くても言いやすい。また、「君が話しているとみんな楽しそうだなぁ」といったように、その人が周りに与える影響力などについて、褒めることも比較的しやすく、効果的だ。
2. 能力を褒める―「いつも段取りがいいね」「仕事が丁寧だね」「突発的なことがあったときの状況判断は抜群だね」……など個々の能力をきちんと掴んで、褒めることはその人のモチベーションを大きく高めてくれる。たとえ持ち上げ過ぎ、と思ってもよく言われることなら嬉しいものだ。
3. 行動を褒める―能力を褒めることはある程度付き合いがあり、またその才能や能力をしっかり試すことができて、言える言葉だ。しかし行動は見た目や事実として分かるので、能力より褒めやすくなる。例えばメールの返しが早い人や、机の上が片付いている人。電話の応対の言葉が素敵な人など、実際に触れてよかったと思う相手の行動を褒めてみる。
ルックスがいい人は「声」を褒めてみる
4. 声や話し方を褒める―いろいろな人と話すと、魅力的な話し方をする人に出会うものだ。聞いてみると実は若い時に俳優を目指していたり、人を惹きつけるためにボイストレーニングや話し方教室に通っていたりする。そこを引き出して褒める必要はないが、声や話し方はちょっと話せば分かる。
間がよかったり、話がくどくなかったり、常に論理的だったり、使う言葉が分かりやすかったり。また分かりやすいエピソードや面白い喩えを入れる人などいろいろいるものだ。最も広く受け入れられるのが、声だ。「いい声ですね」というのは抽象的だが、相手に与える印象は大だ。とくに外見や見た目が褒められているような人にはインパクトがある。
5. 立ち居振る舞いを褒める―長年日本舞踊やバレエをやっていたりすると、ふだんの立ち居振る舞いに出てくるものだ。あるいは剣道や合気道などの武道、元モデルなど仕事柄、経験によって人の立ち居振る舞いは出てくる。「優雅な感じですね」「いつも姿勢がいいですね」といった言葉は、褒め言葉だけでなく、その人の来歴を知るきっかけにもなる。
相手が好きなこと、憧れていることを褒める
6. 相手の変化や成長を褒める―人はどんどん変化する。しばらくぶりにあった人なら印象や行動が変わっていることはありえる。とくに話してみると、勉強しているな、とか経験を積んだな、ということが分かる。そんな時は「いろいろ勉強しているようですね」「いい経験を積まれたんですね」などと褒めるといい。この場合、注意したいのが、「昔はグズでどうしようもなかったのに、立派になった」とか「昔は野暮ったかったけど、おしゃれになった」といったネガティブ情報をつけることだ。
よほどの親密な関係だったら許されるが、ビジネス上の関係では、たとえ上司部下の関係でも注意は必要だ。
7. 相手が好きなものを褒める―強弱はあるが、人は何らかの収集癖があるものだ。女性だったらアクセサリーや化粧品、バッグや靴などなど。男性は切手や昆虫採集に始まり、フィギュアやミニュチュア模型、旅先の土産などなどだろうか。収集するものは好きなもの。自分が好きなことを褒められて嫌がる人はいない。趣味や定期的にやっているスポーツもそうだ。好きだから続くのだ。こういったコレクションや趣味、スポーツなどを褒めると相手は喜び、会話も弾む。
8. 所属や組織、歴史を褒める―それでもとりたてて特徴がない場合は、所属している組織や出身学校の歴史や有名度などを褒めるとよい。その場合気をつけたいのが、なぜ素晴らしいかをできるだけ具体的に示すことだ。◯◯社さんは、かつてこのような商品をつくって時代を切り開きましたね、とか。あの大学は◯◯先生などいい仕事をされる方がたくさんいますね、とか。もちろん、誰もが知っている会社や有名校などはそのまま「すごい」「立派」と褒めても構わない。
観察した事実を伝えるだけでもモチベーションは上がる
方や鈴木さんは褒め方の基本技術として次を挙げている。
1. 修飾せずに観察を伝える――褒めるためには観察をしなければいけないのは、既述した通りだが、観察したことをそのまま言うことも褒め方の一つだ。ただ見たことを伝えるだけでも、本人のモチベーションがアップするもの。
着けている時計を見て「お、オメガだね」とか、「新しいネクタイだね」「髪の毛切ったんだね」とか。あるいはメールの送信時刻を見て、「昨日はずいぶん遅くまでいたんだね」とか「君はよく『ありがとう』っていうね」とか、「プロジェクトは第三フェーズに入ったんだって」など事実を述べるだけでも、「あ、関心をもってもらえている」と思うものだ。
2. リフレイン――観察と同様に、相手が言ったことを繰り返す(リフレイン)だけでも、相手の存在意識やモチベーションを高めてくれる。とくに悩みなどを抱えている人が何かを語るときにはこのリフレインは効果的だ。「あの時、◯◯がこうして、こうなって、私はこんなことをしたんだよ」という相手に対して「そう、そんなことをしたんですね」。「あの時は、こうだったけど、今はこう思っているな」「今はそう思ってるのですね」と、相手の言葉の一部を捉えて繰り返すだけでも、相手は認められていると感じて、心を開いていくものだ。
褒める前に声をかける癖をつける
3. 頻繁に声をかける――前出の谷口さんは毎日少しずつ褒めることを勧めているが、すぐに褒めることができにくい場合は、まず頻繁に声を掛けてみること。とくに上司の場合は、「どうだ?」「昨日の会議はどうだった?」、宴会の翌日は「昨日は楽しかったね」とか。些細なことでも声にして伝える。女子ソフトボールの日本代表監督の宇津木妙子さんや、不振にあえぐ早稲田大学のラグビー部を大学選手権で優勝させた清宮克幸さんなども、よく選手に声がけをしたそうだ。
男こそ褒める。美人は褒めない。
もちろん褒めることは万能ではない。相手によっては、言った本人の評価を下げる場合もある。褒めるワザは相手によって使い分けることも必要だ。
『すごい!ホメ方』の内藤さんはタイプ別ホメ方テクニックとして以下の原則を挙げている。
1. 美人の女性は褒めないほうがいい―アメリカのニューヨーク州立大のメージャー教授の調査では、「仕事がスピーディでよかった」「レポートがよく書けていた」など例え容姿以外のことを褒めても、美人は容姿のせいで褒められていると考えがちだそう。それどころか、逆に褒めた人間を悪く評価するようだ。美人過ぎる人に対しては、逆に叱ったり、貶めたりするほうがいいという傾向がある。もちろんこれは美人過ぎる人に対しての話で、ふつうは褒めるのが常道だ。
2. 男こそ褒める―逆に男はあまり褒められた経験が少ないようだ。だから男こそ褒めることは有効だ。アメリカの心理学者でヴィンセネス大のチャールズ・マクマホン教授によれば男女両方に「どれくらい褒めて欲しいか」と調査したところ「男性のほうが褒め言葉に敏感で、しかもより欲しがっている」との結果が出たそうだ。男は褒められて伸びるものなのだ。
3. 頭のいい人を褒める―頭のいい人は、ストレートに褒めるのではなく、わざと抽象的で分かりにくいほうがいい。というのも頭がいいので、それなりに理解してくれるからだ。これもアメリカの調査で「(頭のいい人は)やさしい表現では心が動かされない」という結果が出ている。「◯◯さんは、はやぶさのイオンエンジンみたいなものですね」とか、「その時の◯◯さんの役割は、EUの初代大統領のようなことが求められたのですね」など、なんとなく分かったような、わからないような言い回しが好まれる。
4. 権威的なタイプ―権威的なタイプは威張りたがり屋です。皆さんの周りに結構いるかもしれない。相手が上司や先輩である場合は、直接ではなく間接話法で褒めると効果的だ。「◯◯さんのこと、◇◇部長がこれこれこうだと褒めてました」とか「◯◯部長のやり方は、孫正義さんが言っていたことの実践ですね」など誰もが知っている有名人や、その人か尊敬する人を出して褒めることが有効だ。
いかがだろうか? ホメ力、なかなかの効果が期待できる。しかも明日からでもビジネスに活かせそうな技術だ。
<POINT>
■ 根性や叱咤型では甲子園には行けない時代に
■ 男こそ褒める!
■ 人を動かしたかったら「叱る」より「褒める」
■ 観察をせずに人を褒めない
■ 褒めるのではなく、相手を認めることが前提
■ 美人すぎる人は褒めない。
■ 頭の良い人は、抽象的な表現・分かりにくい表現で褒める
■ とっかかりは目に見える行動や雰囲気をまず褒める
■ 心からその人の存在を尊重する
【newcomer&考察】脳が気持ちがいい音「ASMR」で売り上げアップの時代に
ASMR。ご存知だろうか。最近は日韓の国交問題のねじれからいきなり破棄となったGSOMIAの読み方が話題になったが、ASMRも読み方はちょっと迷う。「アスマー」、もしくは「アズマー」などと呼ばれているが、ローマ字読みで「エー・エス・エム・アール」が正しい読み方のよう。ASMRとは、「Autonomous Sensory Meridian Response=オートノマス・センサリー・メリディアン・レスポンス」の略で、日本語では「自律感覚絶頂反応」と訳されている。と言われても何のことかはわからない。
ASMRとは、最近「YouTube」などの動画投稿サイトでヒートアップしているマニアックな音を聞くことで、脳が刺激され、じんわりととろけそうになるくらいの快感を覚える現象のことを指す。いまこのASMR動画が世界的なブームとなっている。
ASMR動画は10年ほど前に米国で誕生して、この数年は日本でも”音フェチ動画”と呼ばれ、2017年あたりから急速に認知度がアップしている。
その内容はどんなものかというと、人気を集めているのが食べ物を食べている咀嚼音。ほかにガスバーナーの燃焼音、炭酸水の泡が弾ける音、雨粒が傘に当たる音、焚き火のパチパチ弾ける音、古本の表紙を指でタッピングしたり、マッチをこする音、点いた火を水で消す音……聞きようでは、ただのノイズでしかないが、このありふれた日常の生活音が、人間には”快感”をもたらすのだ。これらの音は、単に録音されて動画配信されているのではなく、より立体的に聞こえるようにと、特殊な”バイノーラル(立体音響)マイク”を使って収録されているのが一般的。
人気動画の中には再生回数が1000万回以上、3000万回に達するものもある。
このASMRは、もちろん企業も取り入れはじめている。
「ケンタッキー(KFC)」は、今年4月に発売した「パリパリ旨塩チキン」のPR動画にASMRを活用している。
その名の通り、”パリパリッ”という食感が訴求力を発揮して想定の1.5倍の売れ行きを実現したという。
「森永製菓」も4月、チョコアイス「パキシェル」のブランドプロモーションに活用。テレビCMを一切せず、”パキッポキッ”という食感をネットで”音”を訴求した結果、2018年度の販売量が5年前の2.6倍に拡大したという。
またセルフメイド家具の「IKEA」では、商品の質感より、その心地よさを伝える手法としてASMR動画を採用。ベッドのシーツを静かに撫で触ったり、机や卓上スタンドをコツコツと叩く音などが25分間流れる動画を流したところ、同社の他の商品紹介動画と比べ、100倍以上の再生回数を獲得している。
このほか、「シャネル」もその仕立てのシーンの動画をナレーションなしで、ミシンやカッティングの仕立ての音だけで構成し、訴求。
ライターで知られる「Zippo」は、これぞASMR動画という動画を制作。片手で何度も火を点けたり、表面を触ったり、タッピングしたりなど、マニアの所有欲をくすぐる内容となっている。
「アップル」もASMR動画をいち早く取り入れた企業だ。同社は30分程度のASMR動画を複数上げている。
一方でこうしたASMR動画だけに特化した芸人やYoutuberも増えつつある。
商品の魅力を全く新たな角度から伝えることができるのが、ASMR動画を使った広告のメリット。実際、ASMR動画を見てから、それを食べるかどうかを決めるという人が増えている。事前にASMR動画で、その商品の咀嚼音を聞いて”食欲の予習”をしておくと、普通に食べる2~3倍はおいしく感じるという体験談もある。
言葉より、食欲や購買欲をダイレクトに刺激する新しいマーケティングの可能性を秘めたASMR。インスタ映えならぬ、”音映え”がトレンドとなる時代がやってきたようだ。