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2500年前からの知恵 – 「孫子の兵法」に学ぶ

古今東西の皇帝や武将、名経営者をとりこにした兵法の古典

 日々新たな経営戦略や経営論が、書店やインターネット空間を埋めている。経営やビジネスの戦略を戦争になぞらえる例は、古くからあるが、今なお現代に語り継がれ、支持を受けている書が、中国の兵法だ。

 中でも「孫子の兵法」は、今から2500年も前に書かれた古典中の古典。著者は、中国春秋時代の兵家「孫武」とされているが、実在したのかは定かではない。謎の多い孫子の兵法だが、その説くところは、中国国内はもとより、古今東西の軍師や武将、知識人、経営者に影響を与えた。

 あのフランスの皇帝ナポレオンもフランス語訳で読んで戦略に応用したと言われ、また日本の戦国時代の武将たちも影響を受けている。武田信玄もその一人。軍旗に記していた「風林火山」は孫子の兵法の「軍争編」にあった、「其疾如風、其徐如林、侵掠如火、難知如陰、不動如山、動如雷霆」から取ったと言われている。その読み下し文の「移動するときは風のように速く、静止するのは林のように静かに、攻撃するのは火のように。隠れるには陰のように、防御は山のように、出現は雷のように突然に」は、武田軍としての戦いの理想を掲げたものだった。このようなことが本当にできたとしたら、まず相手は恐れおののくだろう。

 近代では、アメリカの国防総省でも孫子の兵法の研究がなされている。

 経営者の間でも愛読した人は多く、ソニーの創業者の一人盛田昭夫さんや、いまや巨大グループとなったソフトバンクの創業者、孫正義さんなどが活用したと言われている。あのマイクロソフトのビル・ゲイツさんも愛読していた。

 それにしても2500年前と言えば日本の歴史では、縄文時代。

 まだ有史以前と言ってもいい時代に、戦のあり方をまとめた書が残されたことじたいに驚かされてしまうが、それ以上に驚きなのが書かれた内容だ。シンプルに纏められた内容は、多くを語らず、しかしながら戦い方のツボを抑えている。

最善の戦いは、戦わないこと。

 その戒めや箴言は2500年経っても決して色あせず、IT、AI華やかなりし現代の経営戦略においても十分通用する。例えば最も有名な一文、「彼を知り、己を知れば、百戦危うからず」は、戦いにおける情報の重要性を説いたものとして知られている。まるで現代の情報化社会を予言してたかのようだ。

 しかし孫子はそう言いながらも百戦戦えとは言っていない。

 「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。」

 100回戦って100回勝つのであれば、そのたびに戦利品に与れるから、喜んで戦いに挑みそうだ。しかしそれは善ではないと、孫子は説く。最善なのは、「戦わずして勝つ」ことだと。孫子は戦うことがいかに、人々の物心を傷つけるかを知っていた。戦争がいかに国を疲弊させるかを知っていたのだ。

 戦争はたくさんの人とモノ、金をつぎ込む必要がある。孫子は戦争をするには、軍隊を編成する必要があるので、最低でも戦車1000両、補給車1000台、兵士10万人を用意しなければならない。またそれが遠征の場合は、食料を輸送するための国費や軍費、外国との交渉のため、資材調達のためのお金が必要となると指摘していた。

 いざ戦争が始まり、それが長引けば、たくさんのモノや金、そして人の命が失われる。日に日に兵士の力は弱まっていく上、気力も弱まっていく。それでも激戦を広げるとなると、国の財政が苦しくなるということを知っていた。

 だから、「用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るはこれ次ぐ」と言っていた。つまり最善の戦略は戦わないことで、戦って勝つのは決して得策ではないと述べているのだ。

ただ勝てばいいスポーツと経営は違う

 これを現代の経営に活かすとすれば、どうなるのか。『小さな会社こそが勝ち続ける孫子の兵法経営戦略』の著者・長尾一洋さんは、この文をこう解釈している。

 すなわち、「競合企業との局地戦に勝ったからと言って喜んではいられない。最も有利な経営戦略は、競争相手のいない市場を開拓することであり、新しい市場をつくりだすこと」だと。

 競争相手のいる市場では消耗戦となり、相手ばかりか自分たちのダメージも大きくなる。そこに経営資源をどんとつぎ込んでしまうと、仮に勝てたとしても、次の一手が出せず、戦いに参加しなかった別の企業がその市場をさらっと奪っていきかねない。

 ただ勝てばいい―スポーツならそれもいいだろう。しかしビジネスにおいては、どう勝つかが求められる。ある市場でシェアトップを守れたとしても、連続赤字だったどうか。研究開発費を削ってのシェアトップだったらどうか。急速に萎んでいく市場でのシェアトップだったらろうか。

 勝ち方の意味を考えて戦いに臨むことが重要だ。消耗戦で勝っても戦力は温存できないだろうし、展望も開けてこない。

提供する事業を定義しなおしてみる

 長尾さんは、また自社の事業の定義を見直すことを勧めている。

 「ほとんどの企業は、自社の事業ドメインを物理的定義で認識している。例えば,花を売っていたら花屋であり、機械を作っていれば機械製造業である。扱っている物理的な商材に着目しているわけだ。これでは同業者がたくさんいて、多くの敵と血みどろの戦いをしなければいけないことになる。

 これを機能的定義に変えてみる。機能的定義というのは、自社の商品なりサービスが顧客に対して実現している機能や効用に着目する事業ドメイン設定だ。例えば、

花王→うるおい提供産業
魚屋→メタボ対策業
居酒屋→ストレス発散業
紙箱製造業→パッケージング業
出版社→知識・文化伝達業
システム販売業→業務効率改善業

などだ。

 自社の事業、あるいは個人であれば、自分の業務や仕事を定義しなおしてみることで、新しい市場や可能性が見えてくる―。いわゆる「ブルーオーシャン戦略」だ。つまり、敵の多い”血みどろの”戦いを強いられる血で染まった赤い海「レッドオーシャン」から抜け出し、敵のいない真っ青な海「ブルーオーシャン」で勝負すべきであると。

期間を決めて、撤退するときは撤退する

 もちろん経営する以上、勝つことが大事だ。孫子は「其の戦いを用うるや、勝つことを貴ぶ。久しければ則ち兵を鈍らせ鋭を挫く。」と言っている。また「兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に兵を知る将は、民の司命、国家安究の主なり。」とも言っている。戦う以上勝たなければならない。しかし勝ち負けがわからないような持久戦、消耗戦をだらだら続けていてはいけないというのだ。兵の英気を鈍らせて、体力も失わせてしまうからだ。

 今は人口が減り、市場が縮小し、どんどん変化していく時代。一つの戦略や市場にこだわり続けることは、ジリジリと貧することになってしまう。長尾さんは、ジリ貧を避けるためにも、「小さくてもいいから、勝ちを積み重ねる」ことを勧めている。そこで重要なのは戦う前に計画を立て、期間を決めること。

 「計画を立て、途中段階にプロセス目標、マイルストーンを置くこと。そしてそれを評価し、フィードバックする。評価フィードバックまでの期間が長いと個々人の意識が続かない」(『小さな会社こそが勝ち続ける孫子の兵法経営戦略』)なので、例えば賞与の対象期間を四半期ごとにしてみるのもいい。一番わかりやすいフィードバックだ。部署ごとにMVPが選ばれてもいい。プロ野球でも打率、本塁打、打点など複数の評価点があるように、企業でも視点を変えれば、多くの人を評価してあげられる。そういう仕掛けや仕組みをつくっていくことは、小さな勝ちを重ねていく上では重要なことなのである。

勝つために経営者に必要な5つの能力

 経営者として勝っていくためには、何が必要なのか。孫子は「勝を知るには五有り。此の五者は勝を知るの道なり。」と5つの力を挙げている。

①戦う時と戦わない時の見極め。
②大部隊と小部隊の任用、運用法の違いを知ること。
③上の者と下の者が一体となっていること
④事前の準備が万全で、敵のスキをつけること。
⑤将軍が有能で、君主が過剰な口出しをしないこと。

 すなわち、「判断力」「知識」「統率力」「企画力」に優れ、「権限移譲」がきちんとできている時に戦うべきだと言っている。これらはそのまま、現代の経営に当てはめることができる。ただすべきことの順位で言えばちょうど逆になる。

 つまり、まずトップが部下を信頼し権限委譲が行われていることだ。その上で、きちんとした計画・企画が練られていること。その計画・企画に対して全員が納得し一体感が醸成されていること。そしてそれぞれの部署の一人ひとりが全体の戦略から戦術を理解し、自分の役割を把握し、その任務にふさわしい知識と知恵を備えていること。そしてそれらがすべて整った上で、最善の時を判断する、のだ。そして最善の時とは、周到な準備を重ねてきても、戦わないこと。場合によっては撤退するという判断もあるということだ。

 経営は自社の問題だけではない。社会環境やライバル会社、取引先、顧客の動向などさまざまな因子がからみ合っている。たとえそれぞれの項目が100点を取っていなくても、今この時を逃さずに戦いに挑む場合はある。大事なことは自社基準の100点ではなく、市場の基準で100点であるかである。

敵は競合他社ではない。潜在顧客

 戦うために必要な力はわかった。しかし肝心なのは誰と戦うか――ということが残ってくる。そこで出てくるのが、最も有名な言葉、「彼を知り、己を知れば、百戦危うからず」だ。

 ここでいう彼は、「敵」という言葉に置き換えられるが、敵は「ライバル会社」「競合相手」ではない。現代マネジメントでは、「マーケットニーズ」、つまり「潜在顧客」だ。孫子の兵法では、先の言葉の後にこう続く。「彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし。」

 日本人は一般に目標や敵が見えると、強いと言われている。しかし、現代のビジネスでは、どこにいるのかすらよくわからない洗剤顧客のニーズをどう掬い上げ、商品やサービスを作って売っていくかにかかっている。

 とかく日本の企業では業界内意識が高く、それゆえ市場のお客様より、他社の動向を気にしがちだ。ライバル会社との競争、情報戦に注意を取られすぎると、いつの間にか市場そのものを失ってしまいかねない。

潜在顧客を知るためにどうするか

 では彼、すなわち顧客が考えていること、欲していることを知るためにはどうすればいいのか。

 潜在顧客を知るには、現場の生情報が入ってくることがポイントとなる。孫子はこう言う。「軍の以て進むべからざるを知らずして、之に進めと謂う。之を軍を繋ぐという。」

 つまり、自軍の軍隊が前進してはいけないような状況にあるのに、前進せよと命じたり、退却してはいけないような状況にあるのに退却を命じるようではいけない。それは軍の邪魔をしているだけだというのだ。これは現場の情報を把握していないから起こること。

日報を使って現場の情報を共有

 そこで長尾さんが勧めるのが、ITを使った「IT日報システム」だ。誰もが同じ情報を共有できるようにし、経営者は現場で何が起こっているのか、日々確認できるようにする。そして起こっていることをもとに、日々の戦略を考えていくのである。長尾さんはさらにこのIT日報を、「計画書」として使うことを勧めている。

 孫子は「勝兵は勝ちて、而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。」と語っている。勝つ軍というのは、勝ってから戦い、負ける軍は戦いを始めたあとに勝ち方を考える。これではいけないと孫子は説いているのだ。

 つまり勝つためにはまず準備をする。それは日々の業務においては予測を立てる.仮説を立てて、行動を起こすということだ。

日報には「勝つストーリー」も書く

 長尾さんは「営業活動に絞ってみても、実際に商談に入る前に、勝てる準備、勝てる商談ストーリーを持っていることが重要である」という。「売れる営業マンは商談前にストーリーがイメージできている」からだ。

 今日どうだったかを書くだけでなく、次はどうするのか。いつまで、どのような対策をしていつ訪問するのかの予定を考えさせるのだ。

 この勝つストーリーを考えることは社員の成長にもつながる。

 「今日どうだったかというのは、覚えていれば書けるが、次にどうするかという計画は、考えなければ書けない。考えなければ書けないことを毎日書かせるから、考える習慣がつく」からだ。

 仮に書けない営業マンがいたとすれば、「その営業マンが御用聞き営業、成り行き営業をやっている証拠である」だと長尾さんは断じている。

 この、敵=顧客に勝つストーリーを作り出せる能力を高めていけば、やがて顧客満足度の高い提案ができるようになる。顧客満足度を高めるのは顧客の言われるままに動くのではない。

お客を欺く術を持っているか

 孫子はこう言う。

 「兵とは詭道なり。故に能なるも不能を示し、用いて之に用いざるを示す。」

 詭道とは、敵を欺くことだ。でも顧客を欺くことはできない。顧客の声に応え、満足してもらうことがビジネスの王道のはず。

 だが長尾さんは、顧客満足とは顧客の声に応えることではないと言い切る。

 「期待に応えるということは、予想通りということであって、不満足は生まないが満足度を上げることにはならない。顧客の評価は事前の期待値と商品なりサービスを購入したあとの実績値とのギャップの大きさによって決まる」から、期待を大きく超えて満足するわけだ。

 期待通りでなく、期待以上のものを提供するために、御用聞きになってはいけないのだと言う。

 「顧客をいい意味で裏切り、欺くことができなければ」顧客の満足度は高まらない。そのためには「敢えて期待値を下げてみることがあってもいい」と長尾さんは言う。「お客様のご期待は高すぎて、我々ではお応えできないかもしれません」「この価格帯ですと、どうしても限界がございまして」とちょっと退いてみる。その後実際に商品を見せ、使ってみてもらうことで「思った以上にいいじゃないか」「これはお買い得だ」という満足度アップを実現することもできるのだ。

情報投資を惜しむと会社が潰れる

 孫子の兵法は、始計編、作戦編、軍形編、勢編、虚実編、軍争編、九変編、行軍編、地形編、用間編、火攻編の全部で13編から成る。軍隊の形や行軍の仕方、地形による攻め方、火器の使い方など、リアルな戦で使えるノウハウ、技術が満載だが、一貫して強調しているのは、情報の扱い方の重要性だ。

 たとえば曰く「衆を闘わしむこと寡を闘わしむが如くするは形名是なり。」

 これは大部隊を小部隊のように動かすには、旗や幟を立てたり、太鼓を鳴らしたりと情報伝達の形をしっかりつくっておくべきだということ。これはIT時代の現代では、情報ネットワークをきちんと構築し、ルール化し、情報共有を図っていかないと、市場を取ることはできないということを意味する。

 曰く「相守ること数年、以て1日の勝を争う。而るに爵禄百金を愛(お)しみて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。」

 これは、敵国と相対峙する場合は時に何年もかかることがある。しかし決戦となれば1日で終わってしまう。そのためスパイの報奨を渋って、情報収集を怠ってしまう将がいたら、国を滅ぼしかねないという、お金以上の情報の重要性を説いた話だ。

 もちろん今時スパイ行為は勧められないが、情報収集のためのIT投資をケチっているようでは、会社を滅ぼしかねない。ここでのIT投資は、機器や設備だけの話でない。社員のITスキル、さらに個人情報などの正しい扱い方を含めた、人材育成も含めての話だ。せっかく構築したITネットワークも使えなければ、宝の持ち腐れだ。また現代では情報管理を怠ると、情報漏えいが起き、たちまち業務停止となってしまいかねない。情報活用のためには、機器のメンテナンスに加えて、情報管理をする人材のメンテナンスも必要なのだ。

小さい企業は経営理念を発信せよ

 しっかりとした情報ネットワークは、社内だけでつくり上げるものではない。刻々と変化する時代では、社内外のネットとワークをいかに築くかが重要だ。とくに中小企業の場合は、自社人材や自社情報だけでは限界があるからだ。

 孫子は「諸侯の謀を知らざるものは、予め交わることを能わず。」と言っている。諸外国と手を組んでいくためには、各国のトップが何を考え、どのような戦略をもち長期展望を持っているかを知らないと、手は結べないということだ。

 企業が生き残っていくには外部の企業や人の協力を得る必要がある。手を結ぶ以上、相手がどのようなビジョン、成長戦略をもっているか、いかに実現してきたかをしっかり見据えなければいけない。古い付き合いだから、安いからだけでは、互いに成長はしない。それは逆に自社のビジョンや成長戦略がきちんと確立し、理解されていないと、便利な業者としてしか見てもらえないことにもつながる。小さい企業だからこそ、確固たる経営理念、ビジョンをもち、しっかりと発信することが重要なのだ。

 2500年の時を超えて、孫子の兵法が教えてくれることは、まだまだある。勝ち続けるための、情報戦略を皆さんはしっかり持っているだろうか。


<POINT>

■ 戦いは机上で決まる。
■ 最強の戦いは、戦わないこと。
■ 敵は競合会社ではない。潜在顧客。
■ 経営は勝てばいいのではない。どんな勝ち方をするかが大事。
■ 日報は計画を書く。
■ IT日報で情報共有する。
■ 戦うには理念が必要。
■ 戦うための「判断力」「知識」「統率力」「企画力」はあるか。
■「権限移譲」はできているか


<newcomer&考察>
働き方改革のニューカマー! おひとりさま向け「街角個室」

 いま都会ではコワーキングスペースやシェアオフィスが増えているが、一方でネットカフェ等の「お一人さま向け」個室も広がりつつある。

 人間というのはとかく天の邪鬼で、「みんなと繋がりたい」と思ってSNSなどで友達や「いいね」を増やすことに躍起になったかと思うと、「一人になりたい」「放って置いてほしい」という心理も併せ持つ動物のようだ。シェアオフィスや、レンタルオフィス、ネットカフェが伸びている背景にはそのあたりの心理が働いているようだ。

 街なかに増殖する、「シェアスペース」に対して新たな広がりを見せているのが、「街角個室」だ。

 その名の通り、街角を一角ある個人向けの貸出スペースだが、おもに地下鉄駅などパブリックな場所に設置してあるのが特徴。移動の合間や商談前後のすき間時間などに利用できるとじわじわ広がりを見せている。

 最初にしかけたのは「東京メトロ」と「富士ゼロックス」。メトロの駅構内に電話ボックスのような完全個室「サテライトオフィスサービス」を昨年6月から今年3月まで、4駅で実証実験を実施している。オフィスというだけであって、その中身は充実しており、イス、テーブル、コンセントをはじめ、無料Wi-Fi、液晶モニターから膝掛け、鏡、文具まで備えている。実験中の利用料は15分で200円(税別)。今後は、駅構内だけではなく、オフィスビルにも設置予定だという。

 JR東日本も動いた。ウェブ会議システムの「ブイキューブ」が開発した一人用オフィス「テレキューブ」を「ステーションブース」を名付けて展開している。昨年11月から今年2月まで、新宿・東京・品川の駅構内に4台ずつ設置して実証実験が行われている。

 特徴的なのは個室と商談などができる複数タイプがあること。室内には机とイス、24インチモニター、コンセント、USBポート、スピーカー、Wi-Fi、防犯カメラ、非常ボタンなどを装備。またJR東日本では、2020年までに、コワーキング型の「ステーションデスク」と、複数人利用可能な個室「ステーションオフィス」を加えた、全3タイプを30カ所に設置する計画予定だ。

 

 この新しいタイプの場貸しビジネスは不動産業界が放っておかない。不動産大手ディベロッパーの三菱地所はブイキューブと提携して、大手町と丸の内のオフィスビル3棟のエントランスにこの「テレキューブ」を展開している。

 外からは見えない造りで、扉を閉めると外部のざわめきが微かに聞こえる程度の遮音性。利用方法は、基本的に利用したい時間帯を事前にスマホ予約の上、ブース到着後、スマホで電子キーを開けるという仕組み。2019年5月20日からは日比谷、赤坂、青山、横浜へ設置エリアを拡大中だ。

 ブイキューブもこの波を受け、専用の運営会社「株式会社テレキューブ」を設立している。

 個室を使いたいというのはビジネスパーソンだけではない。小さいこどもを持つパパ、ママも同じ。授乳やおつがえなどなにかと手間がかかる小さいお子さんは、いざその場所を探すといってもなかなか難しい。

 育児関連サービスのベンチャー「トリム」は、ベビーケアルーム「ママロ(mamaro)」を開発提供している。落ち着きや安心を強調する木製ボックスで、中からカギがかかる完全個室タイプだ。ベビーケアルームは一見ママの使い勝手を意識していると思われるが、働き方改革でパパの育児参加が増えている昨今、むしろ男性にとってありがたいスペースとなりそうだ。

 現在、市役所・公民館といった自治体施設や、大型ショッピングセンター、レジャー施設など、全国の公的空間、約70カ所に設置されており、利用料は無料トリムが無償で貸し出しているのではなく、施設側が利用者サービスの一環として捉えているので、施設側がトリムにレンタル料を支払う仕組みだ。

 これら個室ニーズは秘密性、秘匿性、プライバシーなどを気にする人やビジネスパーソン、個人などに高まっていきそうだ。空港やガソリンスタンドなど、待ち時間があるような場にはマッチングがしやすいモデルだ。

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