CONTENTS 記事・コラム 詳細
  • ビジネスシンカー

現有資産を捉え直して、儲けのポイントを探る!令和の時代に押さえておきたい儲かるビジネスモデルの研究

令和時代で変わるビジネスモデル、変わらぬビジネスモデル

 令和の時代が明けた。

 世界を見渡すと新しい元号だからと言って喜んでいられない状況が続いているが、より明るい未来を信じ、少しずつでも明るい「今」をつくっていくことに皆であ「和」せて力を注いでいきたいものだ。

 振り返ると平成は災害の多い時代だった。それは平成という時代が悪かったのではなく、地球の天変地異がたまたまこのタイミングに続いたという捉え方が正しいだろう。

 ビジネスではなんと言ってもIT化が一気に進んだ。特にネットはあっという間に社会に浸透し、ビジネスの構造を変えてしまった。多くのネット長者を生み、なかには国家を超えるほどの資金を有する企業も生まれた。ネットビジネスの特長は1つのモデルが成功すると同じようなビジネスが一気に広まることだ。

 たとえばオンライン英会話の事業者は10や20では済まない。ネット通販も大小様々ある。ネットを通じて自分の不用品を売買するネットのフリーマーケットも一般化している。メルカリばかりではないのだ。いままでにないビジネスも生まれた。「You tuber」などはその典型だろう。いまやYou tuberは男女の小学生憧れの上位の職業となっている。You tubeなどの動画サイト上でいろいろなスキルや教育をするサービスも増えている。カリスマと呼ばれる先生や講師が効果的で面白く授業を行い、それのほうがためになるなら、教育する場としての小学校や中学校はいずれなくなってしまうかもしれない。

 ネットのほかに令和時代に大きく社会を変えていくキーワードがAIだろう。昨年、一昨年は将棋の藤井聡太さんの快進撃が話題となったが、肝心の将棋自体はAIが人間を追い抜いている。

 もはやAIは作曲もするし、絵も描く(しかも巨匠レンブラントが生きていたら描くであろう絵を予想して絵の具を使って描くのだ)。

 名シェフの料理をつくるAIロボットも開発されている。令和の時代には人は本格的に家事から開放されるかもしれない。

 いずれにせよ、誰にどのような価値を提供するかが、ビジネスの基本にあることは確かだ。誰に何を提供するか─を考えることだ。それはすなわち、誰が顧客かを定義することでもある。

買い取り専門の業態に組み換え、成長した中古車のガリバー

 こうした顧客の定義替えは、新たな事業や、新たな産業を生みだすこともある。

 中古車買取りで知られる「ガリバー」もその1つ。顧客の再定義をして伸びた。もともと中古車業は顧客から古くなったクルマを買い取り、中古車を求める顧客に利益を乗せて売るビジネスモデルだった。いわゆるC to B to Cというモデルだ。中古車業者が利益を高めていくには、いかに仕入れ値を安くし、いかに高く売るかということに尽きる。

 クルマを持ち込む顧客からすると、「安く買い叩かれる」という不安がつきまとうことになる。一方業者側からすれば、高く買い取ると利益が圧迫されるし、利幅を上げようと高値で設定するとなかなか売れず、在庫リスクが高まる。

 そこでガリバーは、買い取った後の売り先を一般ユーザーではなく、同業者とした。買い取った中古車は、店頭で売らずに同業者が集まるオークションに出品することで、在庫の回転率を高めたのだ。

 従来の中古車業では買い取りから販売まで2〜3ヵ月かかっていたものが、ガリバーが生み出したビジネスモデルでは、数日に短縮された。ガリバーはこのモデル構築以降、一般向けには「買取専門」という看板を掲げ、業容を拡大してきた。

 もちろんビジネスモデルを変えることは、さまざまな基準や工夫が求められる。

 もともと中古車業界にあった査定の不透明さを払拭するために、クルマの事故歴や走行距離、年式、装備などを規格化し、本部が一元管理。この仕組によって、顧客はどの展示場にクルマを持ち込んでも、ブレのない買取り価格が保証されるようになった。

 さらに売り先をオークションにしたことで、買い取ったクルマを再販する販売コストがなくなり、価格はその時々の相場に一定の利益率を乗せるだけとなり、買取価格が高く設定できるようになった。

 ガリバーは売り先顧客を一般ユーザーである「C」から業者である「B」に定義しなおしたことで(すなわちC to B to Bとするモデル)、買い取り専門業という新たな業態を創造し、市場を拡大させたのだ。

 一方でビジネスモデルを変化させることは、既存客を失うリスクも発生する。実際にガリバーの店頭でいい中古車を買いたいというニーズも出きた。そこでガリバーでは、買取り後数日間だけ自社のサイトに画像を載せ、一般ユーザーへの販売も行うようにしている。その期間に売れない場合は、相場に一定のマージンを乗せてオークションで販売すればいい。

 ガリバーに限らず成長を続ける企業は、作り上げたビジネスモデルに執着することなく、どんどん進化させていく点が共通している。

真のお客様を医者から患者様へ再定義。市場拡大した「エーザイ」

 世の中には「お客様第一」「お客様のことを思って」「徹底した顧客志向」などを掲げる企業は多いが、問題はどこまで徹底できるか、である。

製薬会社のエーザイは、社長の内藤晴夫さんの就任以来、顧客を再定義し「患者さま志向」を打ち出した。 

従来製薬会社の売上は、そのクスリを使うかどうかの決定権を持つ病院の医師にかかっていた。そのため製薬会社ではMRと言われる営業担当者が、いかに医師が気に入るクスリを提供することができるかという点に注力してきた。このため真のお客様である患者の利便性と乖離したクスリが提供されることもしばしばだった。

 内藤さんはその志向の徹底を図るために、MRを病院に送って研修させ、クスリが患者にどのように服用されているのか、現場の声や実態のデータを取り続けた。

 その結果、患者にとってのクスリの良さは、効き目や副作用の少なさだけでなく、飲みやすさにもあると認識。それをもとに水を含むと速やかに崩壊する錠剤(湿製錠)という新たなクスリを生み出し、真の顧客である患者の評判を獲得、市場を広げた。

 「客はドクター(医師)」が常識の医薬品業界において、この転換の徹底と成功は、大きな衝撃を与えたのだった。

 このように「顧客が誰であるか」という問いは、ビジネスが行き詰まりを見せたときに極めて有効な問いであり、ビジネスモデル変革のトリガーになる。

同業者も顧客にして成長した美容チェーン「デイ・バイ・デイ」

 千葉県千葉市に拠点をおく美容室チェーン「デイ・バイ・デイ」も、「顧客が誰であるか」を再定義して業容を伸ばした美容室だ。

 美容室というと都心の高級美容室で指名を受けるカリスマ美容師のイメージがあるが、カリスマと呼ばれる美容師は、ほんの一握りだ。若い時代は同じ世代に比べて所得も少なく、それ故、離職者が多い業界でもある。若い世代が他業種に比べ収入が少ないのは、「修行」という考えが広く浸透しているためだ。収入を増やすにはいち早く独立して店を持つことだが、それには一所懸命修行し、早く技術を身に付けることが必要になる。

 それは同時に早く店の戦力になってもらいたいという店側の思惑とも一致する。

 しかし実際は腕の良い美容師が独立すると、店側にとっては戦力ダウンのうえ、顧客の一部を持っていかれる場合もある。こうしたことが度重なると明らかに店の収入にも響き、人材育成の気力も萎えてしまう。

 離職率の高い職場は、指導するほうも、指導を受けるほうも、どこかに「どうせほとんど辞めてしまうのだから」という、ネガティブな思考を抱きがちで、本来注力すべき「顧客にとっての提供価値」になかなかたどり着かない。

 デイ・バイ・デイの社長の平賀幸夫さんは、こうした美容界が抱える構造的な問題を顧客の再定義で解決を図っている。

 これまで漠然と店に来る女性を顧客としていたものを、明確に「働いている女性、子育てで忙しい女性など『美しいヘアスタイル』を求める顧客と定義しなおし、また独立していった”弟子”たちや、ほかの店から独立したものの、経営のうまくいかない美容室に対して経営支援を行うことにしたのだ。

 この再定義を機に、同社では実力のある美容師には独立を支援する独自の「のれん分け」システムを開発した。独立者が本部にのれん代として払うロイヤリティは、最初の3年間が利益の5%。その後4%に下がり、さらに複数店舗のオーナーとなることで1%下がり、売り上げが月間1000万円を超えるとさらに1%下がっていく。独立者が頑張れば頑張るほど、儲かる仕組みとしたのだ。

 美容業界の離職率が高い背景には、技術習得までの期間が長いこともある。美容師は一人前になるまで従来、5年から7年かかると言われ、その間シャンプーなどの溶剤で手荒れが続く場合もあり、とくに皮膚に敏感な若い女性などにはかなり辛いものとなる。平賀さんはこの一人前になる期間を一気に1年に縮める仕組みを考えた。さまざまなヘアスタイルを3つのパターンと12スタイルに集約し、その12スタイルを1ミリ単位のヘアカット技術で実現できることを”一人前”の基準としたのだ。

 同社では、新入社員に対してOJTとは別に、年間1200時間の研修を設定し、実務試験を実施している。これは一般的な美容学校の授業時間を上回っている。平賀さんは「この研修を受けることで、全国トップレベルの技術が習得できる」と話す。

 つまり顧客をヘアメイクにやって来る客だけでなく、同業者とすることで、同社のビジネスモデルが変わり、儲けの構造が変わったのだ。ガリバーは売り先である顧客を同業者に変えることで、ビジネスモデルを変えたが、デイ・バイ・デイは顧客を従来の客を絞り込んで差別化を図ると同時に、同業者という新しい顧客を加え、さらに経営支援という数年契約をベースとした安定収入を得ることで事業を広げていったのだ。

顧客が欲しいのはドリルではない。穴だ─顧客の見えないニーズを探る

 どこで儲けるべきかというビジネスモデルの組み直しを考える際には、「顧客が何を欲しているか」を問うことも重要な視点だ。企業側からすれば「顧客価値の再定義」となる。

 これはマーケティングの事例としてよく使われるセオドア・レビットさんの言葉が、この思考法の代表例と言える。

 彼が残した「4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したから」という至言は、顧客価値を問い直す福音とも言える言葉だ。

 つまり、ホームセンターでどのドリルを買おうか迷っている客は、どのドリルの性能がいいかで悩んでいるのではなく、真の悩みは「いま作っている棚のネジ穴を的確に開ける道具を欲しているのだ」というものだ。

 ドリルメーカーにとっては「より多様なネジ穴を開けるドリル」の提供が顧客価値となるが、ビジネスモデルという視点では、限定的だ。

 顧客の立場に踏み込めば、そもそもその棚が必要なのかという問いが生まれるからだ。お客にとっては、何か物を置いておく場所が必要なだけだったかもしれない。であれば、単に壁と壁に突っ張り棒を充てるだけで十分だろう。あるいはフックにリュックをかけ、そこにモノを収納しておくことも考えられる。

 すると提供する顧客価値は、「何かものを収納、飾っておく方法の提供」ということになり、ドリルの選択はそのなかのごくごく一部になる。

顧客は常に企業の想像を超えた代替性を求めている

 一般的に売り手側は、自社の商品の利点ばかりが目に入るため、顧客が求める真の価値には気づきにくいものだ。だが顧客は常に企業が提供する商品やサービスに代替性を求めている。

 その代替性は、A社のドリルかB社のドリルか?という、同様の機能、同様の目的上での比較でもあるが、穴を開けずに問題を処理できないか、という代替性も求めているのだ。

 この代替性はインターネットが発達した現代では、常に問われる問題だ。いま多くのビジネスが、インターネットの進化に伴い、モノを購入し利用するビジネスから、モノを借り、そのモノを通じたサービスに変化しつつある。

 その代表がクラウドコンピューティングだ。顧客は様々な機能が詰まったコンピュータという箱が欲しいのではなく、コンピュータを通じたアプリケーションサービスが欲しいのだ、というわけだ。

 インターネットの普及期ではまだ、パソコンはソフトとセットで売られていたが、いまはインターネットを介しソフトをダウンロードし、定額の使用料を支払う「サブスクリプション」というビジネスモデルが一般化している。

クラウドとITが重機メーカーの収益構造を変える

 クラウドコンピューティングは、従来型のものづくり企業のビジネスモデルも変えた。

 たとえば重機メーカー。従来建設会社などへ油圧ショベルやブルドーザーなどを売って、交換部品やメンテナンスなどの一部を無償サービスとして提供していたが、近年は重機を売った後のアフターマーケットに力を入れている。部品交換やメンテナンスサービスを充実させ、これを有償化。本体の利益より重視するようになった。

 重機メーカーの「コマツ」は「コムトラックス」というGPSとインターネット回線を使った独自のITシステムにより、世界中で稼働している自社機械のさまざまな情報が取れるようにしている。機械のさまざまな場所に取り付けられたセンサーから情報が掬い上げられ、機械がいまどこにあり、動いているのかいないのかだけでなく、どのような動き方をしているのか、燃費がどのくらいなのか、油圧はどのくらいか、ラジエターの温度はどのくらいか、何かトラブルが起きていないか、無駄な動きをしていないか─などが遠隔地から管理できる。

 コマツはこのコムトラックスを、販売する重機に無償で取り付けた。1台につき10万円以上はするというシステムを、すべての製品に取り付けることは大きな決断だったが、これによって大きなビジネスチャンスが生まれることになったのだ。

 その最大のメリットが「予防保守」だ。そもそも過酷な建設現場で使われる建設機械は壊れることが前提となっている。そうしないとコスト的に見合わないからだ。そのため、故障が起きたときにいかに現場を止めずに素早く修理できるかが求められてきた。大きな建設会社ではスペアの部品などを用意しておくことができるが、小さな建設会社にとっては負担となる。

 コマツの重機では、このコムトラックスのネットワークにより、重機を所有している建設会社より、コマツ側のほうが早く重機のトラブルがわかるようになり、素早い対応が可能となった。それだけでなく油圧やラジエター、エンジンなどの状況が常にモニタリングできるようになっているので、「そろそろエンジンオイルの交換時期だな」「ショベルのツメの交換時期だな」など、故障前に消耗品や部品の交換が可能となり、機械が故障で止まることを予防できるようになったのだ。

 ユーザーである建設会社にとっては、機械トラブルで作業が遅れるリスクが減り、機械を提供するコマツにとっては、オイルなどの消耗品や部品を定期的に注文してもらえるので、売上が立ちやすくなる。

 また安いオイルなど消耗品や部品市場を、別の業者に奪われにくくなるというメリットも生まれる。もちろんユーザーにとっては、正規品というやや高額な商材を購入し続けることになるが、粗悪品を使うことでの故障リスクも減り、かつ定期的なメンテナンス負担も減るため、結果としていわゆるWN-WINの関係が構築されるのだ。

 こうしたメンテナンスを中心とした手厚いサービスは、機械が大型化するほど必要になり、とくに海外の大型鉱山などでの需要が増している。

 鉱山向けの1台何百トンもある超大型機械においては、交換パーツや消耗品、ときに専門エンジニアを現場に貼り付けるサービスなどで、機械の導入価格の数倍の売上げが上がるようになっている。

プリンタも携帯電話も浄水器もみんなジレットに学んだ

 こうした本体に付属した製品やサービスで売り上げるビジネスモデルは、プリンタなどでも適用されている。

 とくにPCの普及に伴い市場を広げている家庭や個人向けのインクジェットプリンタでは、この付帯ビジネスモデルが中心だ。

 インクジェットプリンタが市場に出回り始めた頃は非常に高価で、5万円以上するモデルがザラだった。それがいまでは3000円程度のプリンタで商業印刷並みの美しいカラー印刷ができるまでになった。

 それにしてもこれだけの低価格でプリンタが買える時代が来るとは、10年前では想像もつかなかったろう。しかしプリンタメーカーは想像していたのだった。

 本体価格を可能な限り下げることで、プリンタ購入のハードルが下がる。そしてその代わりにインク代を使わせることが、その収益源となることを。もはやプリンタメーカーのインクは本体価格を超えていることも珍しくない。プリンタメーカーはよりインクを使ってもらうために、4色のインクを5色も6色にも増やしている。

 最近はさすがに消費者の反応が悪くなり、インキがなくなると激安店でプリンタをまるごと買い換えるユーザーが増えて問題化、プリンタメーカーもインキ容量を大型化したプリンタを出すようになってきた。

 実はこのプリンタのビジネスモデルは、プリンタメーカーが生み出したものではない。前例がある。それが髭剃りで知られる「ジレット」だ。

 ひげそり用カミソリはもともと柄付で売るものが一般的だったが、これをジレットは柄と刃を分離させ、刃を「替え刃」とすることで、柄さえ買ってもらえれば、継続して自社製品を購入してもらえるビジネスモデルを構築したのだ。

 ジレットモデルは、「コダック」というカメラ・フィルムメーカーでも採用され、デジタルカメラが普及する前の、現像サービスモデルをつくり上げた。コダックは当時高額だったカメラを大きく値下げして普及させた代わりに、そこで使う専用フィルムを使ってもらうことで、フィルム代と現像代を収益とするモデルを打ち立てたのだ。

 ジレットモデルは、現代においてはさまざまな事業のモデルとして採用されている。

 代表的なものが携帯電話のキャリア(電話会社)だ。周知の通り、携帯電話の本体はかなりの高額だが、それを低額に設定し、まず客に電話機を持ってもらうことでユーザー数を広げ、その代わり月々の通話料や通信料で稼ぐ、ジレット型のビジネスモデルとなっている。ジレットでいう柄の部分が電話機で、替え刃が通話やパケット通信となる。

 ほかにも、家庭用の浄水器メーカーもこのモデルを採用している。浄水器が柄、カートリッジが替え刃というわけだ。

 また「ネスレ」も自宅で手軽でエスプレッソが楽しめるネスプレッソモデルで、新しい市場を広げた。独自技術を備えたエスプレッソマシンを家庭に低価格で提供し、収益源をエスプレッソの豆が入ったカプセルの提供としたのだ。エスプレッソマシンが柄で、カプセルが替え刃というわけである。

ジレットモデルの原型、日本の置き薬モデル

 実は日本においては、このジレットモデルをジレットよりも前に生み出している。それが江戸時代に生まれた富山の置き薬である。置き薬は、薬商人が各地の家庭に薬箱を置いて回り、その後定期的に訪れては使った分の代金をもらうというビジネスモデル。薬箱が髭剃りの柄であり、替え薬が替え刃だ。「用を先に利を後にせよ」という富山藩主の思想を反映した日本的なモデルでもある。

 またそのモデルにヒントを得たのが、お菓子で知られる「江崎グリコ」が生み出した「オフィスグリコ」だ。グリコがオフィスにグリコ製品の詰まった専用のお菓子箱を置き、週1回販売員が代金回収に訪れて、消費された商品を補給していくのだ。代金は基本的には一律100円(一部150円、200円もある)。利用者はボックス上部にあるカエルの貯金箱に入れる仕組みなので、”ずる”をしようと思えばできるわけだが、グリコによればほとんど”ずる”はないとのこと。

 1998年に誕生したオフィスグリコは、いまや年商58億円に達している。100円の菓子がこれだけの数字を叩き出すことがいかに難しいか、ビジネスにかかわる者なら理解できるはずだ。

 それにしても、インターネット全盛の時代にこうした古めかしい、しかも性善説に基づく仕組みは実に日本的であり、まだまだ新しいモデルの可能性があることを示しているとも言える。

既存ビジネスの引き算から生まれたQBハウス

 インターネットビジネス発想は時間や中間のコストの引き算にある。この発想は実はリアルなビジネスでも応用できる。

 現有の事業要素や商品の機能を引き算することで新たなビジネスモデルが生まれることがあるのだ。

 10分1000円(税別)のクイックヘアカットを生み出した「QBハウス」は、この引き算思考で成功したビジネスモデルの代表だ。

 先のデイ・バイ・デイはサービス提供者の視点でビジネスモデルを作り替えたが、QBハウスはユーザー視点からビジネスモデルを問い直した。

 QBハウスが生まれた頃は、カリスマ美容師が話題を呼び始めた時代。東京の銀座や青山の人気ヘアサロンには高い指名料を払ってもなお、数カ月待ちというカリスマ美容師も少なくなく、庶民からするとヘアサロンは「高嶺の花」のイメージがついていた。QBハウスの創業者、小西国義さんは、そこに疑問を持ったのだ。

 「どこでも出てくるのはカット、顔剃り、洗髪がセットになった”定食メニュー”。待ち時間を含め、なぜ、長時間拘束されなければならないのか、疑問を感じた」と言う。

 同社はシャンプーや顔剃りなどこれまで「当たり前」と思われていたサービスを引き算することで、1000円(税別)でも収益が生み出せるようなビジネスモデルを作り上げた。

 単に要素を引くだけでなく、シャンプーをしなくても、切った髪の毛を取り除ける器具を開発するなど、コストカットと時短のための技術開発も進めている。

 こうした引き算のビジネスモデルとしては、航空業界のLCCなどが挙げられます。LCCは機材の種類を統一化することでメンテナンスコストを下げ、さらに機内食など従来、「出て当たり前」のものを廃止もしくは有料化し、また使用料の高い空港を避けるなど、「引けるものを引いて」生み出されたモデルである。

パッケージ化で足し算するビジネスモデル

 引き算のモデルがあれば、足し算のモデルもある。

 身近なところでは、飲食店で出されるセットメニューや定食などがある。単品だけを売るより、材料の仕入れや管理がしやすくなり、顧客単価のアップが期待できる。

 前出した重機メーカーの消耗品やメンテナンスサービスの有償パッケージ化も足し算のビジネスモデルだ。こうしたパッケージ化、セット化のモデルは、いかに顧客側に「お得感」を持たせるかがカギを握ってくる。

 したがって単品で買うより総額が割り引かれるのが足し算ビジネスモデルのセオリー。ただお得感、値頃感は個人差があるので、利用頻度の高いパッケージモデルを高めに設定するのか、めったに出ないないものを取り込んだ場合に高めに設定するのかは、顧客の感覚をつかみ判断していく必要がある。

足し算ビジネスに有効なプラットフォームモデル

 またこの足し算のビジネスモデルが展開しやすいのは、プラットフォーム化が進んでいる業態だ。たとえば、コンビニではその誕生以来物販だけでなく、様々なサービスを足し算することで成長してきた。コピーやFAX、チケット販売、クリーニングや宅配便の受付、公共料金の支払い、ATMなど様々なサービス機能が付加されることで、コンビニに足を運ぶ機会が増え、「ついで買い」や「ついで利用」を誘発してきたのだ。

 自社の資産だけではビジネスモデルの展開に限界を感じたときには、こうした他社のプラットフォームをうまく利用するというのも、ポイントになる。競合しない範囲内での販売委託や代理店化、出店は大きな収益源となる可能性がある。

 もともとセブン-イレブンは全国の酒屋などをセブン-イレブンのプラットフォームに乗せることで、酒も売れるコンビニとして発展した経緯がある。全国展開しているチェーン店やチェーン化していないものの、各地にほぼ必ずある店や組織などは、プラットフォーム+商品・サービスのビジネスモデルが生まれやすい。

 言うまでもなくヤフーや楽天、アマゾンなどはこのプラットフォームビジネスをまさにネット上で展開しているビジネスモデルだ。ネットのプラットフォームに様々なサービスや商材を乗せることで、利用料や委託料などの収益源が生まれる。

 近年各プラットフォーム事業者が独自の電子決算を展開しているのは、その足し算サービスの一環だ。

 またこうしたプラットフォーム事業者は、さまざまなビジネスが加算されるため、ノウハウも貯まりやすく、新しいサービスや商品づくりのアドバイスやコンサルティングも可能となる。プラットフォーム上のビジネスを組み合わせた新しいモデルが生まれることもしばしばだ。

個人宅配のプラットフォームから新ビジネスを生みだすヤマト運輸

 全国に1つの運送業者が個人宅配するという新しいビジネスを生み出したヤマト運輸も、1つのプラットフォームビジネスだ。そのプラットフォーム(ネットワーク)は海外にも展開されている。成長のカギは、クール便やゴルフ便など顧客の声をきめ細やかに掬い上げて、新しいサービスにつなげていることだ。近年では「モノを運ぶ」というビジネスから、預かったパソコンを修理したり、顧客の住まいや事務所などのクリーニングサービスなど、物流の周辺で起こるものづくりの一端や運んでからのアフターマーケットビジネスも展開している。

 さらに膨大な車両を管理してきたノウハウを活かして、バス・トラックなどの運輸業者の車両点検や修理、メンテナンスを請け負う事業も行っている。

ビジネスを時間で捉え直す

 ビジネスモデルを考える時に、もう一つ重要となってくる視点が「時間」だ。前述のヤマト運輸の車両のメンテナンス請け負い事業は、ヤマト運輸が長年行ってきた車両管理・修理のノウハウの蓄積があったからこそ生まれた事業だと言える。

 長年市場で存在感を示してきた企業にはそれなりのノウハウがあるはずで、そのノウハウをどう分解し、どのように抽出するか、あるいは組み直しをするかによって、新たなビジネスモデルが生まれてくる。

 それは必ずしも、自社のコアビジネスだけでなく、コアビジネスの周辺で日常的に行っていることも含まれてくる。ヤマト運輸のメンテナンス事業やパソコン修理例はまさにその事例だ。

 時間はまた自社の時間だけでなく、顧客の時間を考えることでも新たなビジネスモデルが生まれてくる。よく言われるライフサイクルマネジメントは、顧客に引き渡した商品のその先の使われた方、処理した後を考えた時間軸のことであり、そこに思いを至らせることで新たなビジネスモデルが生まれてくる。

 先に登場した重機メーカーの例はこれにあたる。

コストを収益に変えたビジネスモデル

 ビジネスモデルを考えるときに重要なことは、最大のコストに目を向けることだ。いままでかけていたコストが、発想の転換で収益源となる可能性があるからだ。

 足裏マッサージなどを手がけるRAJA社は、リフレクソロジストと呼ばれる専門の足裏マッサージ師を自社養成し、各店舗に配置している。養成は自社のスクールに研修生が授業料を払って行われる。

 先の美容師の例では、美容室側が給料を払って一人前にしていたが、これとまったく逆の発想だ。つまり育成期間を学校の教育・研修とすることでコストから収益に変わったと言える。ただし、このビジネスモデルの場合、ある程度の事業規模が必要となる。卒業後の勤務先を確保する必要があるからだ。ただ仮に勤務先が確保できなかったとしても、一定の専門教育・研修を受けた証明となり、同業種への転職は有利に働く可能性があるので、卒業者にとってもメリットはあると言える。

 いかがだろうか。いまの資産を時間や顧客視点、ノウハウや協業などを通じて捉え直すことで、まだまだ新しいビジネスモデルの可能性があることが、おわかりいただけただろうか。

 ビジネスでは戦略、戦術ももちろん重要だが、「どこで儲けるか」というビジネスモデルの視点を、令和の時代にぜひ育てていってほしい。


POINT

■ 買い取り専門の業態に組み換え、成長した中古車のガリバー
■ クラウドとITが重機メーカーの収益構造を変える
■ 顧客は常に企業の想像を超えた代替性を求めている
■ ネットのビジネスはリアルに置き換えることでモデルの構造がわかる
■ プリンタも携帯電話も浄水器もみんな「ジレット」に学んだ
■ ジレットモデルの原型、日本の置き薬モデル
■ 個人宅配のプラットフォームから新ビジネスを生みだすヤマト運輸
■ 既存ビジネスの引き算から生まれたQBハウス
■ 顧客が欲しいのはドリルではない。穴だ―顧客の見えないニーズを探る
■ 顧客のライフステージでビジネスを捉える
■ コストを収益に変えたビジネスモデル


【newcomer&考察】 
令和は赤ちゃん返りの大人続出? 粉ミルクは大人仕様へ

 令和はもしかしたらとんでもない時代になるかも…。そう思わせてしまうのが、ある大人向けの飲み物市場の拡大だ。

 その飲み物とは「粉ミルク」だ。そう多くの世代が乳幼児時代にお世話になったあの「粉ミルク」である。字面だけ見ていくと怪しい遊びのように思えてしまうが、いま50代から70代にかけての中高年の粉ミルク購入者が増えているという。

 いうまでもなく粉ミルクは乳幼児のための飲料であり、母乳をあげられないお母さんたちの味方だった。考えてみれば、乳幼児が飲む粉ミルクなら、大人にとっても安全だし、優しいと思われる。

 ただ子供向けの粉ミルクは、乳幼児の発育に不可欠の栄養素がまんべんなく入ってるため、大人にとってはカロリー高めで、脂質が多い。摂りすぎると栄養過多になり、体重や脂質が増えてしまう。そこで各飲料・乳業メーカーが工夫し中高年が手軽に飲めるようにしていったのだ。

 この先駆けとなったのは、2014年に発売された、その名も「大人の粉ミルク」。発売したのは乳業飲料メーカーではなく、動悸などの市販薬で知られる「救心製薬」である。

 きっかけは高齢化によりカルシウム不足を補うために粉ミルクを飲んでいる人がいるが、お腹がゴロゴロするという問題解決のために開発したとのこと。

 牛乳に近いバランスながら骨や筋肉に必要な栄養素をバランス良く、骨粗しょう症予防になる”プロテタイト”を配合、コラーゲンや葉酸なども含み、味もヨーグルト味などがあり、お腹が弱く牛乳が苦手な人にも安心して飲めるのが特長。とくに骨重量が気になる人に受けている。

 この大人の粉ミルクは、飲みやすさもあってたちまち人気商品となり、品切れ状態が続いたこともあるほどで、現在は発売当初の4倍の売上を誇っている。

 もともと「門外」の製薬会社がつくった粉ミルクがこれほど大ヒットを飛ばしたら、本家の乳業メーカー、飲料メーカーも手を拱いているわけにはいかない。

 16年には、「森永乳業」が「ミルク生活」を発売した。

 こちらは感染症を防ぐラクトフェリンや老化の進行を抑える中鎖脂肪酸、免疫力を高めるシールド乳酸菌などをバランス良く配合している。通販限定としてスタートしたが、18年からはドラッグストアなどでも発売し、現在では当初売上の5倍とこちらも絶好調。

 17年には雪印系の「雪印ビーンスターク」が「プラチナミルク」シリーズを発表した。11種類のビタミンと8種類のミネラルなどほかDHA、たんぱく質をバランスよく配合している。

 さらに18年には健康食品販売ユニマットリケンから「大人の賢い粉ミルク」、伊藤忠食品が「おとなのミルク習慣プレミアム」、化粧品・健康関連商品を手掛けるエルベ・プランズが「まいにち粉ミルク」が発売され、今年に入ってからはアサヒグループ食品が「カラダ届くミルク」を発売した。大人の粉ミルク市場は一気に広がりをみせている。

 実は森永乳業や雪印ビーンスタークには、粉ミルクを飲んでいいのかという中高年からの問い合わせが近年増えてきたという。とくに60代の女性が多く、そのなかには乳児用粉ミルクを健康のために飲んでいる人も一定数いたという。

 お湯で溶かして飲むだけでなく、シチューなどの料理に混ぜて摂っている人も結構いたらしい。

 それもあってか、大人の粉ミルクの活用法として、ほかの料理やコーヒーや青汁などに混ぜて飲むことを提案しているメーカーも多い。

 同じ粉ミルクとは言え、その成分もさまざま。今後は年齢や性別や体質にあわせたさまざまな「大人の粉ミルク」が市場に登場しそうで楽しみでもある。どうやら令和は健康のために「粉ミルク」一杯が、大人の嗜みとなりそうだ。

TOP

JOIN US! 私たちの想いに共感し、一緒に働いてくれる仲間を募集しています!

CONTACT お問い合わせ

TOP